藤
からん、ころん。からん、ころん。
軽く、弾む様な下駄の音が活気のある商店街を進んでいく。
音の主は、赤みがかった珍しい髪の色をしている長身の男で、何故か帯に赤と黄色の風車をさしていた。その男は丁度目が隠れるように前髪を伸ばし、眼鏡をかけている。おまけに無精髭が生えているので、少し怪しい雰囲気が出ていた。
男の名前は風見藤。これでもれっきとした画家なのだ。
「んん...腹が減ったな」頭をがしがしと掻きながらそう呟く。商店街を少し見渡し、駄菓子屋を目に止めた。
腹が減ったと言っても、小腹が空いた程度なので、そこで十分だった。
店の中で、藤は真剣な顔で悩んでいた。
「苺飴にすべきか...それとも、きびだんごにしようか。」
うーん、と唸りながら暫く悩んでいたが、彼の腹の虫が早くしろと言わんばかりに鳴くので、結局どちらも買うことにした。
「いらっしゃい、どっちも買うことにしたんだね。」会計をしていた女性にそう言われ、藤は「見られてましたか」と照れくさそうに頭を掻いた。
店を出ると、藤はすぐさま団子を口に放り込んだ。
「ん、うまい」
満足そうに微笑み歩きだそうとするが、直ぐそばで小さな子供が泣いているのに気がついた。
「うわぁぁん」
「やぁ、どうしたんだい少年。迷子かな?」子供好きな藤は、しゃがんでその子に目線を合わせて頭を撫でる。
「お、おっかぁと...は、は、はぐれたの」少年は嗚咽をもらしながら藤にそう告げた。
「そうかそうか、はぐれたか。」頭を撫でながらそう言うと、少年はこっくりと頷く。
「ほら、泣かないでくれ。僕も一緒に探してあげるよ」
藤は腰にさしていた風車を少年に差し出し、肩車をした。
「わぁ、ありがとうおじさん!」
「はは、おじさんか...。僕はまだ二十二だからできればお兄さんがいいなぁ」
「にいちゃん?」
「そうそう」
そんな会話をしながら二人は歩いていた。
すると、八百屋の近くを通ったときに少年は「おっかぁ!」と叫んだ。
藤が少年を地面に下ろすと、彼は一直線に女性の元に走って行く。
「明夫!」その子の母親らしき女性も我が子と気づき、駆け出す。
「もう、手を離しちゃ駄目だってあれほど言ったのに!!」
「ごめんなさい...。」明夫と呼ばれた少年は、しゅんとなったが、「あのにいちゃんが一緒に探してくれたんだ!」と藤を指さした。
「まぁ...、どうもありがとうございます」
「いやいや、大したことはしてませんよ。
見つけたのはその子ですしね。」頭を下げる明夫の母親にそう言って、明夫にも「今度ははぐれないようにするんだぞ」と笑う。
「じゃ、僕はこれで」
「本当にありがとうございました」
「ありがとうにいちゃん!」
親子に手を振って、彼はまた商店街を歩き出す。
にゃー。
「...ん?」
何かと顔を少し上げれば、藤の目の前に黒い猫がいた。
「やぁ、君 美人だね」ふざけ気味に猫にそう言って、手を伸ばす。驚いたことに、猫は逃げなかった。それどころか、自ら藤のほうへと寄っていったのだ。
「へぇ、人懐っこい奴だ」
藤は持っていた紙を広げ、猫に「少し動かないでくれよ」と言って素早く何かを書きだした。
「さぁ、できたぞ。似てるかい?」
5分ほどで書き上がったそれを、猫に見せる。
藤が書いていたもの、それはまさしくその黒猫だった。
まるで本物のような毛並みや目つき。
藤の書き方は他の画家のものとは違い、まるで異国の書き方だった。
「にゃー」
「あげるよ、記念だ」
最後に猫の首を一撫でして、藤は家へ帰っていった。
「...やはり、何かが違う」




