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姫椿  作者: 秋風聡明
3/7

からん、ころん。からん、ころん。

軽く、弾む様な下駄の音が活気のある商店街を進んでいく。

音の主は、赤みがかった珍しい髪の色をしている長身の男で、何故か帯に赤と黄色の風車をさしていた。その男は丁度目が隠れるように前髪を伸ばし、眼鏡をかけている。おまけに無精髭が生えているので、少し怪しい雰囲気が出ていた。

男の名前は風見藤(かざみふじ)。これでもれっきとした画家なのだ。

「んん...腹が減ったな」頭をがしがしと掻きながらそう呟く。商店街を少し見渡し、駄菓子屋を目に止めた。

腹が減ったと言っても、小腹が空いた程度なので、そこで十分だった。

店の中で、藤は真剣な顔で悩んでいた。

「苺飴にすべきか...それとも、きびだんごにしようか。」

うーん、と唸りながら暫く悩んでいたが、彼の腹の虫が早くしろと言わんばかりに鳴くので、結局どちらも買うことにした。

「いらっしゃい、どっちも買うことにしたんだね。」会計をしていた女性にそう言われ、藤は「見られてましたか」と照れくさそうに頭を掻いた。

店を出ると、藤はすぐさま団子を口に放り込んだ。

「ん、うまい」

満足そうに微笑み歩きだそうとするが、直ぐそばで小さな子供が泣いているのに気がついた。

「うわぁぁん」

「やぁ、どうしたんだい少年。迷子かな?」子供好きな藤は、しゃがんでその子に目線を合わせて頭を撫でる。

「お、おっかぁと...は、は、はぐれたの」少年は嗚咽をもらしながら藤にそう告げた。

「そうかそうか、はぐれたか。」頭を撫でながらそう言うと、少年はこっくりと頷く。

「ほら、泣かないでくれ。僕も一緒に探してあげるよ」

藤は腰にさしていた風車を少年に差し出し、肩車をした。

「わぁ、ありがとうおじさん!」

「はは、おじさんか...。僕はまだ二十二だからできればお兄さんがいいなぁ」

「にいちゃん?」

「そうそう」

そんな会話をしながら二人は歩いていた。

すると、八百屋の近くを通ったときに少年は「おっかぁ!」と叫んだ。

藤が少年を地面に下ろすと、彼は一直線に女性の元に走って行く。

「明夫!」その子の母親らしき女性も我が子と気づき、駆け出す。

「もう、手を離しちゃ駄目だってあれほど言ったのに!!」

「ごめんなさい...。」明夫と呼ばれた少年は、しゅんとなったが、「あのにいちゃんが一緒に探してくれたんだ!」と藤を指さした。

「まぁ...、どうもありがとうございます」

「いやいや、大したことはしてませんよ。

見つけたのはその子ですしね。」頭を下げる明夫の母親にそう言って、明夫にも「今度ははぐれないようにするんだぞ」と笑う。

「じゃ、僕はこれで」

「本当にありがとうございました」

「ありがとうにいちゃん!」

親子に手を振って、彼はまた商店街を歩き出す。


にゃー。

「...ん?」

何かと顔を少し上げれば、藤の目の前に黒い猫がいた。

「やぁ、君 美人だね」ふざけ気味に猫にそう言って、手を伸ばす。驚いたことに、猫は逃げなかった。それどころか、自ら藤のほうへと寄っていったのだ。

「へぇ、人懐っこい奴だ」

藤は持っていた紙を広げ、猫に「少し動かないでくれよ」と言って素早く何かを書きだした。


「さぁ、できたぞ。似てるかい?」

5分ほどで書き上がったそれを、猫に見せる。

藤が書いていたもの、それはまさしくその黒猫だった。

まるで本物のような毛並みや目つき。

藤の書き方は他の画家のものとは違い、まるで異国の書き方だった。

「にゃー」

「あげるよ、記念だ」

最後に猫の首を一撫でして、藤は家へ帰っていった。


「...やはり、何かが違う」

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