第57話 祭りの前-1
色々ありつつも婚礼祭へ向け、忙しい時間が流れて行きます。
忙しいのは私だけではありません、学園中の皆が忙しく動いています。
だって、婚礼祭は皆で作る祭りなのですから。
日々、学園内外を飾るの装飾は増えて、学園内を散策するだけでも楽しい。
だけどここ数日は、婚礼祭とは無関係の《《謎の》》装飾まで見る様になってきました。
楽しい事がエスカレートすれば、やがて混沌化するそんな現象です。
例えば。隣の教室の扉を飾っているこれは、降臨祭の飾りでしょうか?
なにやら赤や青や緑、魔法の灯が派手に明滅しているし。
女神の人形まで飾ってあります。
降臨祭は創世の女神の降臨を祝う祭。
そして、婚礼祭は女神に巡礼する祭。
…間違っては…いないのかも…?
あれ?気付けば、私の学ぶ教室前にもクルクルと回る飾りが並んでいます。
これは一体なんでしょうか?わからない、わかりません……
わからないけど、じっと見ていたら目が回ってきました。
中心にぐるぐる渦巻きが描いてあります。いったん目を離しましょう。
でも、これは本当に何の飾りなのでしょうか?
後で聞いたら、穀物畑の鳥避けらしいです。なぜ鳥避け?
とにかく!学園中がこんな様子、祭り前の空気に満ちています。
だけど婚礼祭は古の伝統を伝える祭り、流石に浮かれムードを出し過ぎたのか
学園生徒会の人達はその取り締まりに忙しそうです。
その一方で……
「はは!素晴らしいな!少女達の熱気に私も酔いそうだよ!」
廊下に高らかな笑い声が響きました、続けて響く少女達の歓声。
喧騒の中心に立つのはルミナス魔法学園生徒会会長のフィールさんです。
相変わらず楽しそうですね。
どうやらフィールさんもまた学園内の視察に回っていた様です。
様なのですが……
「シルファ君!君もそう思わないか?」
言って右手で金の髪をファサッと払うフィールさん、そして……
「あの?えっと?なぜ私に聞くのですか…?」…と、困惑する私。
なぜかフィールさんに掴まった私が居るのでした。
事の始まりは休み時間手洗い場からの帰り道。
教室に戻る廊下の先、なにやら賑やかですね?と、見れば生徒達に囲まれたフィールさんの姿。
頭に眉に皺を寄せるセレーネお姉さまのお顔が浮かび、慌ててクルリと反転するも
「やぁシルファ君!奇遇だね!」
回り込まれてしまいました。なぜ?しかもあの距離からここまで一瞬で。
確かに奇遇ではあるけど、その先は奇遇では無いと思います。
こうなる事が嫌で反転したのに、返って仇になってしまいました。
しかもここは廊下。さらに加えるなら今は休み時間
さらにしかも、フィールさんは生徒達からの人気がかなり高い。
学園の偶像的存在と言っても良いくらいにです
ほら、歓声を上げた生徒達がフィールさんだけで無く私まで見ています。
わかります、視線に混じる良くない感情。それが刺さる様で、よくわかります。
ほら、睨んでる子も居ますし
「がるるぅ……」
特にあの赤毛の狐耳の子の目が怖いです。何か恨みの籠った目で見ています。
タスケテお姉さま……
「ああ!生徒会長!こんなところで遊んでる場合ではありませんよぉ!」
私の背後から声がしました。お姉さまが助けに?
心が通じたのでしょうか?
…残念だけど違いました、この声はお姉さまではありませから。
でも、聞き覚えるのある声。
「や、やぁ、マロン君!き、奇遇だね!」
「『奇遇だね!』じゃありませんよぉ!」
私の横を通過しフィールさんの肩をがしりっと掴んだのは、ふわふわ髪の眼鏡さんこと生徒会書記のマロンさんです。
お茶会の時にフィールさんと一緒に居た方で、私の入学書類を受け付けてくれた人でもあります。
「シルファさん、ごめんなさいねぇ?」
「えっと、いえ……」
マロンさんは振り向き言うと、微笑みながら私に頭を下げました。
私は悪くないのに、なんだか私の方が申し訳なくなってきましたよ。
で、マロンさんは頭を上げクルリと反転するとフィールさんの首元を鷲掴み。
「おっ?おおっ?マロン君、何をするのかな?」
ガシッと、聞こえない音が聞こえる程の力強い鷲掴み。
周りに居た生徒達も迫力に一歩退いています。
「皆様、お騒がせしました。引き続き婚礼祭の準備に励んでくださいねぇ?」
「シルファ君!そして少女達よ今はさようならを言おう、これは再会の約そくぅぉぉぉ…!?」
「はいはい、先に生徒会のお仕事をする約束を果たしましょうねぇ?」
フィールさんはそのまま、マロンさんにずるずると引っ張られながら廊下の向こうへと消えて行きました。
姿が見えなくなるまで手を振り続けていたのは、生徒会長としての足掻きだったのでしょうか?ううん、フィールと言う存在としての足掻き?
「ま、どっちでもいいよね……」
何はともあれ、私は平穏が戻った事をマロンさんと女神様に感謝する事にします
でも、目立ってしまった空気はまだ場に残っているので
私も急ぎここから去る事にします。そう思いながら足を踏み出した直後です
「にゃうぅぅぅ!」
「ひっ!?」
私の横を赤い影が走り抜けて行きました。先程の赤毛の狐耳の子です。
「な、なに?」
訳が分からないまま、赤毛の狐耳の子はフィールさん達を追う様に廊下の角へ走り去って行きました。
「あの子…凄い目で私を見てた……」
本当に訳がわからないことばかりです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




