第54話 仕立て屋さんが来た!-2
「では……、脱いでください……」
給仕服に金の髪の女性は挨拶をするや、直ぐにこんな事を言いました
楚々とした人形の様な顔立ちからは想像の出来ない言葉
教室にあった全ての言葉が止まってしまった。
挨拶は大事。お互い知った顔をではあるれど
挨拶を交わす事で、その後の会話等が滞り無く進行する
…滞りました。
挨拶があっても、続く言葉次第で滞りはあるのだけど知りました。
だから私…シルファの口からはこんな声が出てしまう。
「は?」と。なぜ、挨拶の次の言葉が脱いでくださいですか?
理由はわかります。わかりますが……
だから、抗議混じりの瞳で彼女の事をじっと見詰め返すも
彼女は相変わらず人形様な読めない表情で佇んでいる。
「…あの、《《制服》》を《《この場》》で脱げと言う事ですの?」
私が混乱している間にライラが抗議の言葉を返してくれた。
怒りと拒絶の混じる声色。
凛とした瞳も、困惑が混じり私と同じに反応に困っているのがわかる。
だから、私も強い瞳を向けて抗議の意思を示す。
しかし、私達を困惑させた当人は当然の様に言うのです。
「…何か問題が…?」
…と、瞳と肩から力が抜ける。
私とライラは顔を見わせると大きく溜め息をした。
そうでした、『この人』はそう言う人でした……
私達を困惑させている彼女とは『シロノさん』。
『フロイライン魔法具店』の店主さん。
夕日に染まる川の様な金の髪、そして黒を基調とした給仕服
彼女を一目見れば、店に入った誰もが特別な一時を予感するはず。
そして、店で売っている衣装や装束も彼女のお手製な仕立て屋さんでもある
さらに言えば、私達の先輩で、セルティス先生の元教え子。
深く思い返せば、最初に出会った時も彼女はこんな風でした。
いえ、あの時は挨拶も無くいきなりでした。
彼女は私と言う素材を見つけ、何かの『火』が着いてしまった様でした。
職人気質。彼女は至って真面目、仕事に熱心で常に本気なだけ。
「まったくのシロノは仕方がないな。ま、そこが可愛いんだけど」
そこへ救い主の声が聞こえました。
苦笑交じりの声に振り向けば、もう一人の知った顔が苦笑を浮かべている。
クロノさんです。
フロイライン魔法具店のもう一人の店主にしてシロノさんの相方。
彼女は頭の左右で纏めた青味あるツインテールを揺らしながら、前へ出ると
背負っていた箪笥の様な木箱を降ろしました。
そして引き出しの一つを開けると、真っ黒な大きな布と金属製の棒束を取り出す。
その様子を見ていた生徒達に視線を向けると、何かを探す様な瞳で見渡し
一点に止めると言う。
「うーん、そこの大きい可愛い子と…左右の二人の可愛い子達手伝ってくれる?」
クロノさんに指名されたのはフォルテとその友人二人。
「…え?私…ですか…?」
クロノさんは頷くと、おいでとばかりに手を振り振り手招きする。
鬼人族の血を引き、教室で一番背が高い彼女
目立つのは当然だけど、呼ばれたのは何か理由もありそう。
鉱山の娘でもありその大きな身長で、力仕事は得意なフォルテ
でも心は純な乙女、指差しで指名されるとやはり悩んでしまう様です。
しかし、持つべきは良き友人!
一緒に呼ばれた二人はフォルテに巻き込まれた形の指名だけど
「大丈夫!」「一緒にやろ?」
気にするどころか、左右からフォルテの手を取りエスコートする様に前へ。
「うんうん、仲良き事は美しき哉。じゃ、ちょっと手伝って」
言ってクロノさんはフォルテに黒い布を二人に金属の棒を渡す。
「繋いで繋いで、そうそう」
クロノさんの指示で棒を繋げば大き目の箪笥程の骨組みが組み上がる。
「あ?この布をかけるんですね?」
「正解!」
完成した骨組みにフォルテが背の高さを生かし黒い布をかければ……
「どうよ!持ち運び式の更衣室降臨!」
クロノさんの声と同時に拍手が沸き起こった。私も釣られて拍手。
降臨と言うには大げさだけど。これで少なくとも、皆の前で脱ぐなんて恥ずかしい事はしなくてすみそうです。
その一方で口に拳を当て納得の行かない顔をしてるのがシロノさん。
「…まったく…イメージは熱いうちに形にすべきなのに……」
「はは、更衣室の中の方が集中しやすいでしょ?」
「…そうではあるのですが……」
ぽふぽふと頭を撫でながら、シロノさんを宥めるクロノさん。
学園卒業生である二人が、今も一緒に居る理由がなんとなくわかった気がします。
………
……
…
「…はぁ、結局脱ぐ事になるのですわね……」
「仕方ないよ…脱がないと採寸出来ないから」
ぶつぶつと言いながらも私とライラは制服を脱ぎ始めた。
制服の上着を脱ぎタイを解き……
ここはクロノさんとフォルテ達が組み立てた更衣室の中
中は見かけよりも広く、二人入ってもまだ余裕があります。
ううん、かなり広い。外から見た時の倍はある気がする。
多分だけど、この持ち運び式の更衣室には空間を弄る魔法が付与されている。
この中で衣装の着付け作業等をする事があると考えれば
ある程度の広さはあって当然なのかもしない。
でも……
私達が動く度、囲む布がふわふわと揺れるのは気になる……
覗くような子はいないと思うけど。
「…脱ぎ…終わりましたか…?」
考え事をしていると外から声が聞こえました、シロノさんの声です。
「はい、大丈夫ですわ?貴女は…?」
「あ、私も大丈夫です!」
ライラが返事をし、問い尋ねに答える様に私も返事をする。
二人共少し前に脱ぎ終わっていたけれど、大丈夫?と確認し合ったのは
心の準備を問い尋ねる意味でだけど……
なんだろう?このさりげないやりとりが何か楽しい。
しかし、楽しい時間は直ぐに終わる。
「では……」
「え…?」
「は…?」
入口部分にあたる黒い布が開かれシロノさんが入って来た
そして私達に驚く余裕もくれず言葉を続ける。
「では…これを着てください……」
言ってシロノさんが押し付けて来たのは、真白な衣装。
以前購入した儀式用の衣装に似ている。
でも、これには飾りの類は一切無く、極めてシンプル。
ライラと顔を見合わせながらも、とりあえずシロノさんの指示に従い着る事にする
背中は開かないので下から被る様に頭を通し、上の穴から顔を出す
そして、袖に右左と順に腕を通す。
着るのは簡単だけど、一応とライラと相互に確認し合う。
これはこれで良い感じかもしれない。
サラサラとした布触りは肌に心地よく、このまま寝間着代わりにも使えそう。
でも、この衣装はそれが目的ではないはず。
それに身体を計るのなら、下着姿の上に着る必要も無い。
「あの…それでシロノさん、今日は採寸を…?」
「…勿論測りますよ…?測りながら作ります……」
シロノさんはしれっと凄い事を言う。測りながら作るって……
その言葉に驚いたのは私よりもライラの方。
「つまり、オーダーメイドの衣装と言う事ですわよね?お代の方は…?」
「…学園長から頂く事になっているので…問題ありませんよ……」
「はぁ、学園長の方からですの?」
この場でライラがこれ以上問う事は無かった。
後で聞いた話だと。オーダーメイドの衣装…特に今回の様な特別な衣装を仕立てるのはかなり《《お高い》》らしい。
お嬢様なライラが驚くのだから……。これ以上は考えない事にします。
「…作るとは言っても……、本番用衣装の原型と言った方が正しいかもしれませんね…?」
「原型…ですか?」
なんとなくだけど、シロノさんがしようとしている事が見えてきました。
「なので……、ここで…出来る限り完成に近いイメージにします……
中途半端なイメージでは…貴女達を深夜に呼びつける事になりますよ…?」
言ってシロノさんは「それは困るでしょ?」と私達の顔を見た。
確かにその通りではあるけれど……
「…さて、お二人共セルティス先生の生徒さんですから……
先生の生徒だとわかる意匠が欲しいですね…?」
いきなりの質問。でも「ですね?」と問われても困る。
困る中、シロノさんの質問は続く。
「…セルティス先生と言えば…?」
「え…?小さい…?」
「可愛いかしら?」
その質問で即座に思い付き、私達の口から順に出た言葉。
小さい、可愛い。後は歩く姿が可愛い?怒った時の声が可愛い?
とにかくセルティス先生は可愛いのでありまする。
でもと言うか当然と言うか、シロノさんは納得しなかった様です。
「……ふぅ、そうなりますよ…ね。では、皆さんにも意見を聞きましょう……」
大きく溜め息をするとクルリと反転。私達の方へ背を向けた。
そして、眩い光。周囲を覆う布が開かれたのです
「え?」「え?」
開かれた、それはつまり外から中が丸見えと言う事。
皆の声が聞こえてきた、驚きの声に喜びの声。
共通するのは、更衣室の中が見た事で好奇心が満たされたと言う事。
皆の視線が私達に集中し、顔がかぁっと熱くなる。
隣のライラも驚きに固まっているのか、呻きの様な声が聞こえる。
この状況。フロイライン魔法具店でコロネに見られた時の記憶が蘇る。
あの時の様に『晒した』状態では無いけど、恥ずかしい。
恥ずかしいがあの時の私と今の私は違う。
違うからこんな行動に出てしまった
「だだだ闇の霧!」
ぶわっと闇が溢れ出す。闇系魔法の基本、闇色の霧を発生させ視界を妨げる魔法。
使えて良かった闇系魔法。お姉さまありがとうございます。
これで一先ず、皆の視界から逃れる事は出来た。
出来たが……
「…何事ですの!?前が見えませんわー!?」
「けふっ!!」
「ああ?シルファさんごめんなさ…きゃん!?」
闇色の霧の中、ライラの肘が私の鳩尾を直撃。
さらに、何かに躓いたライラが倒れ込んできた。
さらにさらに、溢れる闇色の霧。
もうこれは、絵に描いたような大混乱。
この後……
風系魔法が得意な生徒達により霧が払われるまで
暫くの時間を必要としました……
はぁ、後で皆に謝らないと。
コロネは笑っていたけど……
ここまで読んでいただきありがとうございます。




