第48話 貴女と私と-4
顔が熱いです。
私も言わなくては!と、勢いのままに言ってしまったけど
急に恥ずかしくなってきました!愛の告白でもした様な気分です。
いえいえ!私には愛おしいセレーネお姉さまが居ます。
だから、これは比喩です!例えです!でも……
貴女に投票しましたと言う事がこんなにも恥ずかしいなんて……
ううん、恥ずかしがっている場合ではありません。
ライラです!ライラは……
上を向いてる?
ライラは上を向いていました、そして今度は下を向きました?
下げた顔が上がり、青緑石の瞳が真正面を…私の顔を見る。
数度瞬きすると、右を向き、そして左を向く。
彼女が頭を動かす度、金の縦ロールが振り子の様にゆらゆらと揺れる。
何かの儀式?と思ってしまったけれど
だんだんとライラが何を考えているのかわかってきました。
考えてみたら納得の行動、私には良くわかります。
だって、私…シルファにも似た経験があるから。
これは突然の事に混乱しているのです。
頭が混乱して、どう反応すれば良いのかわからなくなっている状態。
大抵の場合、自分なりの心の整理が付けば戻って来る…はず……
はずなのですが……
「…あー…貴女が私に…?」
そう言ってライラは私を見ると、もう一度先程の動作を最初から繰り返し
最後に半回転。私に背を向け、右腕を枕にする様な姿勢で壁に額を突きました。
余った左腕と金の縦ロールがたるんっと力なく垂れる。
「え?えっと…ライラ…?」
これは一体どう言う状態なのでしょうか?初めて見る状態です。
もしかして私、ライラを怒らせてしまいました?
でも、怒らせたのとは違うかもしれない。
彼女が頭を突く前に見えた瞳は怒りとは違う色……
感情が複雑に入り混じった色でした。
複雑で言うのなら、私だってライラに対し複雑です。
茶寮『小妖精の囁き』で私と彼女は似ていると感じたけれど
多分、こう言う複雑な感情の部分で似ているのかもしれない。
だからこそ、余計にライラの事がわからない。
なんだか、私まで壁に頭を突きたくなってきました。
はぁ……、あ?
ライラの頭が上がりました。
髪が壁に擦れる小さな音が聞こえ、人形の様な動きで頭が上がった。
上がったけれど、私に背を向けたまま。
振り向くのを待つも、無言の時間が流れていきます。
音の無い廊下に私の息が妙に大きく聞こえる。
ううん、耳を澄ませばもう一つの息。
小刻みに上下する肩の向こうから小さな息。
もしかして、ライラ緊張している?
それとも、もっと別の何かで迷っている?
緊張するにしても迷うにしても、私に関する事なのは確かです。
ライラは今、私の何について迷い考えているのでしょうか?
これまでを振り返ると、悪い事ばかりが浮かんでくる。
だから、早く彼女の言葉を聞きたい……
だから、早く彼女の答えを知りたい……
心が焦ります、焦るから余計に緊張します。
深呼吸です!彼女に気付かれない様、静かに深呼吸。
「あ、あの、もう一度言ってもらってもよろしいかしら…?」
「…は…はいっ!?」
深呼吸し始めたところで、いきなり声を掛けられたら驚くのは当然の事
咽つつもライラを見れば、うな垂れて上目遣い気味に私を見る姿は幽霊の様
私が思う以上に、私の言葉は彼女にとって衝撃的だったみたいです。
だから多分、この表情と問い掛けは再確認の意味。
繰り返すのはもどかしいけれど、私の疑問を知るためにも答えないと。
それに多分、私が答え無いとライラの心の整理は終わらない。
「えっと、私がライラに票を入れたって事…だよね?
うん…そうだよ、私の投票用紙に浮かんだのは…貴女の名前だった……」
瞳は極力笑みの形に。
ライラの耳にしっかり届く様、一語一語ゆっくり言葉を紡ぎ答える。
しかし反応は無言。
ライラは変わらず項垂れた姿勢のままで、視線だけが下へ。
無言でこの反応されるのは怖いです!
不安が巨獣の群れの如く押し寄せてきました。
ライラは私が投票した事をどう思い、どう捉えたのでしょうか?
どう捉えて?あれ?あれれ?
待って。ライラが私に票を入れたと聞いた時には
驚き、そして悔やむ彼女の姿の方が先に来てしまったけれど……
ライラが私に票を入れたって事は……
あれ?あれれ?
もしかして、私は重要な事を見落としていたのでは?
「はぁ…わたくしの聞き間違いではないのね……
わたくし…てっきり貴女に嫌われている物とばかり…はぁ……」
「…ふぇ?」
間の抜けた声が出てしまったけれど、もしも私と同じ状況になったのなら
誰だってこんな声が出てしまうはずです!
だって、ずっと思い込んでいた事が、違うかも?とわかったのですから。
「待って?待って?嫌っていたら、お友達になって…なんて事は言わないよ!?」
危なく、重要な事を見落とすところでした。
だから今度は私が驚く番。ライラの言った言葉を素直に捉えても良いのなら
私が思っていた以上に、彼女との距離は近かった事になるから。
そもそも、私の方こそライラに嫌われているのかと思っていました。
日頃の微妙な距離感、そしてなにより……
この街にやって来たあの日に見た『あの瞳』……
あの日の『あの瞳』は、今でも私の中に消える事なく残っている。
強く私を睨みつける『あの瞳』
私は、ずっと『あの瞳』の理由を知りたかった……
彼女との距離と関係をなんとかしたいと思っていた。
それが今、なんとかなりそうになりつつある気がします。
ううん、心の中で首を左右に振る。
気がするでは無く、これはきっと確信です。
だから、私はライラに手を伸ばそうとするけど……
「ですわよね…わたくしったら……」
「…ライラ?」
手が届く前に、ライラは仕掛け人形の様に頭をカクンと落とし
カクカクと半回転すると、壁に頭を突いてしまいました
先程とは異なり、今度は両腕がたるんっと垂れ、なんだか彷徨う屍の様な状態に。
私が戸惑う中、ライラは背中で私への言葉を続ける。
「あの言葉…嬉しかったけれど、わたくしは信じ切れていなかったの……
嬉しかったはずなのに…自分が嫌になりますわ……、…勝手に思い込んで拗ねて……」
「え、嬉し…?」
これは一体!?ライラの口から『嬉しい』と言う言葉が。
衝撃的な事実です。
どうしよう…顔がまた熱くなってきました。
告白は言うのも恥ずかしいけれど、聞くのも恥ずかしい物なのです。
それと、言葉の最後の方が気になります。
茶寮『小妖精の囁き』の時にも、ライラは同じ事を言っていました。
あの時は結局、言葉を濁されそれ以上は聞く事が出来なかった。
だけど、この機会なら聞く事が出来るかも?
でも、やっぱり今は無理かな?
聞きたいけど、ライラは壁に頭を突いたままです。
背中越しに聞こえるのは、呪文の詠唱の様に何かぶつぶつと言う声。
何を聞くとしても、待たないと駄目かもしれません。
それにお互いに混乱気味、私も少し頭を整理した方がいいかもしれない。
まずは何から考える?
ライラは私を嫌っていない(かも)と言う事はわかりました。
そうなると、どうやって距離をもっと縮めるかだよね?
やはり茶寮の時の様に……
「よろしいですわ!婚礼祭が終わったら、全て正直に話しますわ!!」
なんの予兆も予告も無く、ライラが振り向きました。
先程の彷徨う屍の様な動きでは無く、踊る様にくるんっと。
振り向いた反動で、金の縦ロールが行って戻ってライラの頬を叩く。
そして、ライラは髪が乱れるのを気にせず、青緑石の瞳で私をじっと見詰め
自分の胸の前で右手をぐっと握り締める。
ライラは私達にとって重要な事を言っているのに、私からは驚きの声すら出ず。
出来たのは、口を開けたままぽかんとする事だけ。
我に返ったのは、ライラが右手を握り締めたあたり。
ライラが青緑石の瞳で私をじっと強く見詰めている。
私、何か期待されていますか?
私を見詰めるライラの瞳がキラキラと輝き、何かを待っている様にも見えます。
「あの……」
「ええ!そうですとも!わたくし達は覚悟を決める時なのです!!」
…話はまだ続いていた様です。しかも『わたくし』では無く『わたくし達』
もしかしてライラ、話し出すと突っ走るタイプなのでしょうか?
彼女の言う『思い込んで』ってこう言う事?
だとしたら…ライラが《《転ぶ前》》に私からも何か言わないと……
「そうだね…えっと、あ!そのためにも最高のペアにならないと…だよね…?」
「ええ!その通りで……、…ああ…それに関しては……」
ライラが落ち着きました。やはり、こう言う時は過去を引っ張り出すのが効果的。
そもそも、これが発端だし。この場所へ連れて来られた理由でもあります。
最初に戻ったとも言えるけれど……
でもなんとなく、ライラを落ち着かせる《《コツ》》がわかった様な気がします。
ライラは一瞬だけ俯くと、直ぐに顔を上げ凛とした瞳を見せ、言う。
「…よろしいですの?」
「うん、お互いそろそろなんとかしないと…だから、ね?」
言って頷くと小さく微笑んで見せる。作るのでは無い素直な笑み。
今の私は戸惑いを抜きに微笑む事が出来る。むしろ飛び跳ねたい気分。
「ふぅ…貴女と言う方は……」
私の笑みから間を開け、ライラの瞳も笑みの形になりました。
凛とした瞳も素敵だけど、この瞳はもっと素敵…好きかもしれない。
この瞳を見ていたら、婚礼祭を頑張れそうな気がしてきました。
ともあれ、ライラの約束と共に『婚礼祭』に対する覚悟が決まりました。
彼女の本当を知るためにも、本当に最高のペアになり『婚礼祭』挑まないと
お互いに票を入れたと言う告白と告白
驚きと懺悔から、こんな方向に進むなんて……
もしかして、あの投票形式にはこんあ意図もあったりするのかも?
それは流石に考えすぎでしょうか?
「さて、お互いに覚悟も決まりましたし、戻りますわよ?……あ、あら?」
「そうだね、…?ライラどうしたの…?」
歩き出そうとしたライラの足がぴたりと止まりました。
まだ何かあるのでしょうか?それにしては驚いている様にも見えます
これは一体?と私は首を傾げ、直ぐに一つの可能性が思い浮かびました。
「ライラ…もしかして…?」
「…聞かないでくださいまし……」
彼女は私の問に振り向かずに答えました。でもその声は微妙に震えていて
その声で私は可能性に確信を得ました、ライラは……
「…うかつですわ…校舎内で迷子になるなんて……」
言ってライラはまたカクンっとうな垂れてしまいました。
校舎内で…と言うけれど、あの道を迷宮の様な道順を覚えるのは難しい。
私だってもう半分くらい忘れています。でも私には《《手段》》がある。
「そうですわ!窓から出れば!」
「待って待って!もっと簡単な方法があるから!」
窓に手を掛けるライラを止めると、制服の内から生徒手帳を取り出し開く。
すると、宙にドールハウスの様な学園校舎の姿が浮かび上がりました。
以前、ルキアに教えてもらった生徒手帳の地図機能です。
あの時は平面図だったけれど、今回は立体図!
これならば、途中に階段があっても大丈夫です。
「こっちだよ!」
「は、はいですわ?」
ライラの手を取ると地図を片手に走り出しました。
本当は廊下を走る事はいけないのだけど……
急がないとお昼の時間が無くなってしまうからね?
それに今は急ぎたい気分だから。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




