第46話 貴女と私と-2
「うふふふふふ……、このまま無限に作れそうな気がしてきたよ」
怪しい笑いと共に聞こえたのは森妖精の少女コロネの声
「…コロネ…わぁ!?」
「シルファ!花作りって楽しいねー♪」
何事なんです?と振り向けば、彼女は白い花の山に埋もれていました。
机の上だけで無く、溢れた花が私の席にまで零れ落ちている。
白い花弁の名も無き花の山、でも本物の花ではありません。
山を成しているのは香りの無い紙の花。
薄く丈夫な紙を折って畳んで広げて作る紙の花。
花の山が出来上がっているのはコロネの席だけではありません
教室の各所に幾つ物の山が出来上がっています。
プリムとローゼの席では二つの山が繋がって連峰に。
流石は花の妖精、花作りも楽しいみたいですね。
私達が何をしているのかと言うと『婚礼祭』に向けて準備の最中なのでした。
婚礼祭は選ばれたペアだけが参加するイベントではありません
今年入学した一年生達全員が主役となって参加するイベント。
代表ペアを祝福するための歌の練習や花飾りの準備
学園内を『祝福の力』で満たすための守護印を作る作業もあるし
やる事はてんこ盛り山盛り、全員でやらなければ開催日には間に合わない。
忙しさも山盛りで忙しいけれど、それだけに楽しいとも言えます。
忙しいけれど、する事はするし聞く事は聞く。
「…楽しいはいいけどさ……、さっきのあれはどういう事かな?かな?」
「え?えーっと…さっきのって何かなー?」
だから問い掛けてみたけれど、コロネは無心で花を作り続けている。
普段なら何?と上がる顔は上がらず、私の瞳を避けている様さえ見えます
これは怪しい、怪しすぎます。
「だから…私とライラ以外の全員が遅刻した理由」
続けてもう一度質問。
《《あの》》直後、セルティス先生が来た事でうやむやとなってしまったが
私としては聞かねば気持ちが収まりません。
だって、何をどう考えても、あの不可思議すぎる状況は
私とライラ以外のクラスメイト全員が絡んでいると思うしかありません
でも推測は想像で不確定、真実を知るには真相を聞くしかない
「いいよ…言いたくないなら…でも……」
「でも…?ごくり」
少し早いけれど切り札を出そうかと思います。
たまには私だって意地悪になるのです。
「今から一週間…私の髪に触るの禁止ね…?」
「ほわ?………ほわあああ!?」
花を作る手が一瞬停止した後、コロネの口から奈落の底から響く様な悲鳴が飛び出しました。
これは効果覿面だったようです、彼女は乙女にはあるまじき表情で固まりました
彼女が私の髪に触れたり眺めたりするの事が好きなのは知っていたけれど
ここまでだったとは……
私がこんな事をするのは、話してくれないコロネが悪いんですよ?
でも……
「うう、それだけは勘弁を…死んじゃう…死んじゃうよぉ……」
「え?えっと…?」
いきなり私に縋り付くとコロネは嘆きの声を上げ始めました。
葦の葉の耳はぺたんと垂れ、新緑の瞳から光が消えている。
しかも今にも泣きそうな顔だし、なんだか可哀そうになってきました
いえいえ!ここは心を鬼にします。
ちなみに鬼人族の血を引くフォルテは穏やかで乙女な子です。
今は無関係ですね。とにかく!ここは厳しく行くのです!
泣いてもダメです!私なんか泣き顔をライラに見られてしまったし
「…じゃあ、教えてくれるよね?」
笑みと共に改めて問い掛ければ、コロネは糸の切れた仕掛け人形の様にがくりと肩を落とし
唸りながら雨に濡れや子犬の様な表情を私へと向けました。
「あぅぅ…『小妖精の囁き』で二人を見たって聞いたから……」
「…私達…私とライラを?」
コクリと頷くコロネ。納得し理解しました。
『小妖精の囁き』での事を見られていたなんて、うかつ……
ううん、よくよく考えればうかつ以前の問題です。
賑わう通りに面した店、しかも休日となれば大勢の目があるのは当然の事。
その中にクラスメイトや私を知る子達が居たとして、何も不思議な事はありません
思い返せば、通りを歩いている時だってメリッサやプリムと遭遇しました。
あ、そうなるとライラと衝突して、下着を撒き散らした所も見られて?
それは無いと思いたい。でも、クラスメイト以外の私を知る誰かが……
とにかく、あの出来事がこんな所にまで影響してくるのは全くの予想外です
まったく本当に、人生何がどこに関わってくるのか想像も出来ません。
「うん、だから…シルファとライラを二人きりにしたら……」
「もうそれ以上言わなくてもいいよ、はぁ……」
コロネは言葉を続けるけれど、後の流れはもう容易に想像が出来ます。
私自身でも思い返せば、ライラと話をしたのは二人きりの状況ばかりです
魔法具店フロイラインの時も、訓練場の時も
そして『小妖精の囁き』……
雰囲気ある場所で私達が二人で話をしている姿を目撃したのなら
驚くのは当然だし、場合によっては妄想を膨らませてしまう事だって……
「シルファ…もういい?」
「うん、わかったらからもういいよ…?」
これ以上コロネに聞くのは酷でしょう、本当にもう泣きそうだし
だから、縋り付くコロネの頭をぽふぽふ撫で
私の白銀の髪の一房を指で摘まむとコロネの指に触れさせる
「ほわ?やっぱりシルファの髪は至高だよー女神の髪だよー」
「まったく……」
コロネはあっと言う間に元気になりました。
もうコロネは可愛いなぁ、でも、少し興奮しすぎです
だけど、自慢の髪を好きと思ってくれるのは気持ち良いし
嬉しいからコロネの頭を撫でまくってやるのです。
「ねぇシルファ、コロネだけを怒らないであげて?」
「ルキア…?」
コロネとじゃれあう私の耳にルキアの声
顔を上げれば、彼女もまた先ほどのコロネと同じ様な顔をしていた
「クラス委員長として、強く止めるべきだったと反省しているから」
「あ~なら私もだね~」
言うと、ルキアとその相方のクロワが大きく頭を垂れました
二人はこのクラスの委員長と副委員長だけど
皆の暴走を止める事が難しかったのは容易に想像できます。
「ううん、いいよ…ルキアとクロワが委員として頑張っているのは知ってるから…ね?」
「シルファありがとう、クロワもね?」
私がもう怒っていないとわかったのか
ルキアはほっと小さく吐息し、クロワはふわりとした笑みを浮かべました。
彼女達にはなんだかんでお世話になっているし、今回だって……
それに、ルキア達の後ろではルメア達が女神の印を切りながら頭を垂れている
女神像の前で育った身としては、これ以上怒る事は出来ません。
さて、これで一段落と言いたいけど……
私が良いと思ってもライラがなんと思うかだよね?
なんとなくだけど、ライラは自分の中に『芯』の様な物を持っている気がする。
今回の一件は、彼女の『芯』にどう触れるのか……
で、そのライラはどうしているのかと、離れた机で作業していた彼女の方を見れば
向こうは向こうで、親友である海妖精のネオンと何やら話をしている最中でした。
ネオンも先までのコロネと同じに肩を落としているし。
あちらもまた、私とコロネの様なやりとりをしている様ですね
ライラはどんな答えを出すのか。少なくとも悪い答えは出さないとは思います。
ぼんやり考える私の耳に小鳥の様な声が聞こえてきました。
「でもさでもさ!二人は私達の代表なんだし、最高のペアになってほしいよ」
「え?」
私の視界に首撥ね兎の様に飛び込んできたのは、ふわふわくるりん髪のメリッサです。
「あ?先にごめんだよね?シルファごめんね!」
「うん、もういいよ。みんなも反省してるってわかったから」
言ってにっこりと笑みを向ければ、彼女も笑みを返してくれる。
お互いに嘘や偽りのない笑み。
「シルファは優しいな、だから好きー♪」
いきなり抱き付いてくるメリッサ。
一瞬いつもの突撃かと思い、身構えてしまいまいした。
「あ、あ!私の方がシルファ好きだよー!」
髪を弄り続けていたコロネも手を止め抱き付いてきました。
私本体よりも、私の髪の方を優先する彼女には珍しい行動です。
珍しいのは良いけど、私はコロネとメリッサに挟まれサンドイッチ状態に。
なんだかくすぐったいです。身体がと言う意味では無くて心がくすぐったいです
意地悪された様で拗ねてしまっていたけれど、そうでは無いとわかるから。
それに、こんな言葉を聞いてしまったら……
「やっぱりさ、みんなシルファとライラの事を全力で応援したいんだよ♪」
「うんうん、応援したいのは本当の本当!」
「今回はやりすぎちゃったけどね?」
上目遣いのメリッサがにこにこしながら言うと、皆も大きく頷き口々に言います。
メリッサ達の言いたい事はわかるし、皆の気持ちもわかります。
私だってそうだったと思うから。
仮に別の誰が代表になっていたとしても、全力で応援したいと思うはずだし
儀式ではあるけれど『婚礼』と名が付く以上、選ばれた二人を最高のペアとして送り出したい。
昨晩お姉さまが言ったように、代表を楽しむ方が素敵で正解なのかもしれない
「皆がそこまで言うのなら、私も頑張って……」
私が覚悟を決めようとしたその時です
「当然の事ですわ!」
「ふぇ!?」
ライラが私の左手を取ると自分の右手と共に高く掲げ上げたのです。
「選ばれたのならばやりとげる!それだけですわ!」
そしてライラが威風堂々と宣言すれば
割れんばかりの拍手喝采が教室を揺らしました。
これまでに聞いた事の無い大きな大きな拍手と喝采
突然の出来事は私から現実感を奪い
だから、それを浴びているのが自分達と気付くのに数秒かかってしまった
「…ら、ライラ……」
やっと我に返り、呆けたまま隣に立つライラの顔を見るのだけど
私はそれ以上何も言えなくなってしまう
だって、ライラの瞳の中に太陽の様に強く輝く炎を見てしまったから……
ここまで読んでいただきありがとうございます。




