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ルミナス魔法学園物語 ~『私はお姉さまとゆるゆる学園生活したいだけです!』~  作者: 月羽


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第45話 貴女と私と-1

 

「誰もいない…?」

 

 声の無い無音の教室。私…シルファの声だけが木霊となって幾重にも重なり響く。

 私が黙し静寂が戻れば、扉の向こうからは小さなざわめきが聞こえる。

 それが尚更に、この状況の異様さを際立たせる。

 誰も居ない。

 今、この教室には。私以外に声を発する者は誰も居ないのです。

 

 なぜ?と首を傾げながら黒板前に立ち教室を見渡してみる。

 右を見れば朝の光が差し込む天井までの窓とカーテンが並んでいる

 左を見ればつい先程通り抜けた横開きの扉があり

 中へ戻し小さく視線を上れば、階段状に並んだ机と椅子が奥の壁まで続く……

 もはや見慣れ馴染んだ教室がいつも通りそこにある。

 でもいつも通りじゃない、誰も居ない。

 私以外。教室には誰も来ていない。

 

 ひょっとして私、怪奇な現象に巻き込まれた?

 なんて思ってしまうほど、おかしいと分かる状況です。

 思い返せば教室に入る前から、状況は始まっていたのかもしれない。

 

 朝の登校時間。

 今日の私はコロネ、そしてルキアクロワと一緒に学生寮を出ました。

 でも、ルキアとクロワは委員長の仕事があると昇降口で別れ

 コロネは階段を上る前に、「あ、蝶々だー」と走って行ってしまった。

 彼女達と必ず一緒に教室へ入ると言う訳ではないし

 セレーネお姉さまと二人で登校する日もある

 他のクラスメイト達と一緒に登校し、教室に入る事だってある。

 でも、今日のは思い返すと何か違和感を感じてしまう。

 

 そう言えば、寮を出てからそクラスメイト達の姿を見ていない様な?

 寮を出るまでは、日常となった当たり前の光景がありました。

 食堂や廊下、手洗い場。出会った子達とは笑みと挨拶を交わし

 寝ぐせを見つけ笑い合い、直してあげたりもしました

 

 なのに、教室に入った瞬間から日常が止まった様になってしまいました。

 本当にこれは一体何が起っているのでしょうか?

 もしかしたら、入ってきた扉を開くと別の世界があったりするのかも……

 …なんて事を扉を見ながら考えるけれど、それは流石に無いかな?

 

 魔雫マナの流れに変動は全く感じなかったし。

 予感や予兆、お姉さまが言うところの魔王アルカナロードの囁きも感じませんでした。

 となると他にはどんな可能性が?

 これまで生きてきた中で読み学び、得た知識を総動員し考えてみるけれど

 私が思い付くのは、どうしても空想物語の危機的な始まりばかり……

 突然の災害に巻き込まれる主人公、見た事も無い怪物に襲われる主人公……

 

 その想像が怖くて、だんだん寂しく心細くなってきました。

 いつも賑やかな教室に私一人。危機的状況になったとしても私一人きり。

 その事に気付くと、寂しさも心細さも増すばかりで。

 左手に持った革鞄を胸元に抱くと、ぎゅっと強く抱き締めてみる。

「…このまま…帰ろうかな……」

 弱気な言葉が口から出てしまったけれど

 こんな状況になったのなら、誰だって寂しくもなります。

「そうだ…お姉さまの教室に……」

 

 カタッ

「…ぴっ!?」

 扉が小さく揺れました、誰かが扉に手を触れた様です。

 予期せぬ音で思わず叫びそうになったけれど、堪えました。 

 でも、胸の鼓動はドラゴンの足踏みの如く激しく鳴っています。

 誰だろう?クラスメイトの誰かだったらいいな。

 

 緊張します。緊張するけれど期待もあります。

 この状況は私の考え過ぎで、偶然が引き起こした悪戯なのかもしれないから

 そうです、偶然の偶然が重なって、皆いつもより遅くなっただけかも?

 でも、そうじゃない可能性もあるし……

 

 あれとこれと考えている間に戸車の転がる音が聞こえ

 扉は右へと横滑りに開いていきます。

 そして、扉の向こうから姿を見せたのは……

 

「あ…?」

「あら?」

 扉を注視していた私と『彼女』の目が合いました

 勿論『彼女』は魔物や怪異の類ではありません、見覚えのある顔です。

 頭の左右で揺れる金の縦ロール、凛とした青緑石の瞳……

 そう…『彼女』は私の婚礼祭のパートナー…『ライラ』です。

 

「…お、おはようございます?シルファさん?」

「え?あ…おはようございます?ライラさん?」

 重なったままの視線から、強張った作り笑顔と笑顔。

 なんとも言えない調子の挨拶となってしまったけれど

 誰かの声を聞く事がこんなに嬉しいなんて、感極まって泣いてしまいそうです。

 でも、ライラの方は極めて冷静で。教室を見渡すと私に問い尋ねてきました。

 

「それで…なぜシルファさんしかいないのかしら…?」

「え?わかんない……」

 ライラの問いに、私は首を左右にぷるぷると振るう。

 私には答えようが無い。むしろ私の方が問いたいし答えを知りたい。

 そもそも、彼女が来た事に安心している様な状態だし。 

 

「そう…まぁ、よろしいですわ……」

 私がそれ以上の答えを持たないとわかったのか

 ライラは溜め息一つすると、自分の席へ向かい歩き始めました。

 これはもしかして、呆れられてしまったのでしょうか?

 確かに、今の私は頼りにならないかもしれないけど……

 全く、こう言う時の私は本当にダメダメです。

 

「…そうそう…」

 声で我に返れば、ライラが足を止めてこちらを見ていました。

 私、また変な顔をしていたのでしょうか?

 それならまだ良かったかもしれない。それはそれで恥ずかしいけれど

 彼女の指摘を聞けば、私はもっと恥ずかしい状態だったと気付かされてしまった

 

「目、拭いた方がいいと思いますわよ?」

「…目?…あ、あれ!?」

 ライラの言葉に首を傾げながら指で目に触れると。

 濡れていました。さらに目の縁から頬へと続いています。

 堪えているつもりだったのに……

 よりによってライラに半泣きの顔を見られてしまいました!

 これは情けないどころではありません。

 何より恥ずかしすぎます!

 だから、私は左右それぞれ二本の指で拭き取ろうとするのだけど。

 

「ダメですわ!」

 ライラの怒声。耳を抜け教室に響くほどに大きな声。

 何が?と言うよりも先にライラは私へと近付き、私の腕を強引に降ろしました

 そして、指の代わりに白い物が瞼へと触れました。

 白くてふわふわで、そして陽光の花の香りのするそれは……

 手布ハンカチです。

 しかも、綿雪が触れているかの様にふわふわで柔らかくて

 私が普段使っている物とは大違いです。

 でも、この状況は一体!?

 

 私が混乱する中、ライラは触れた手布ハンカチで私の目の周囲を丁寧に、そして撫でる様に拭い始めました。

 目が瞼がくすぐったい。でも、気持ち良くて心地よくて落ち着く。

 先までの不安で寂しい気持ちが溶けて消えて行く様な……

 なんでしょうか?

 セレーネお姉さまに触れられるのとは違う、この不思議な感覚は。 

 だけど、その感覚は不意に終わった。

 私の顔から白い手布ハンカチが離れていく。

 

「これでよろしいですわ。まったく…指で擦ったりなんかしたらお肌が赤くなってしまいますのよ?」

 白い手布ハンカチの代わりに見えたのはライラの得心の笑み。

 凛と輝く青緑石の瞳が私の顔の直ぐ間近にある。

 これは近いです近すぎます、なのに目を離す事ができない。

小妖精ピクシー達の囁き』でも思ったけれど、ライラの瞳は本当に綺麗。

 長いまつ毛の下に輝く青緑石の光……

 それがすぐ目の前の間近にあるのだから、見惚れてしまうのも仕方のない事です。

 

「せっかくの愛らしいお顔なのに、貴女はもっと気を使った方がよろしいですよ?」

 

 え?

 

 ぼんやりする私の耳にライラの声。今、愛らしいって?

 急に褒められて、抑えようとした熱が一気に顔に出てしまう。

 しかも、愛らしいなんて言葉をセレーネお姉さま以外から言われるなんて……

 

 もしかして目の前のライラは幻で、この教室は影

 私はこの教室に入った時から、怪異の幻影に囚われているのかも?

 そう思ってしまうのも当然の出来事。

 

「それに前から思っていたのだけど…貴女はもう少し自分に自信を持った方がよろしいと思いますわ?」

「自信…?」

 ああ、やっぱり現実だったみたいです。

 褒められたと思ったら、今度は鋭すぎる指摘が飛んできました。

 青緑石の瞳も先程とは違う輝きで私を見ています。

 いえ、むしろ睨んでいると言った方が合っているかもしれません。

 《《あの時》》の射貫く冷たさは無いけれど、綺麗な瞳で睨まれると身が竦んでしまう。

 瞳が綺麗だと眼力が籠った時の圧も強いです。

 

「ええ、せっかく良い物を持っているのに勿体ないですわ!」

「うう……」

 返す言葉もありません。

 ライラの言葉は私自身でも思っている事だから。

 何かあると考え込んでしまう。勝手に落ち込んで、勝手に暗くなる……

 ほら、今もまた……

 

 でも……

 こんな風にライラに言われる日が来るなんて。

 彼女の言葉は私を思っての事で、そこに憎しみや恨みは微塵も感じない

 魔法実習場の時だってそう、彼女は私を思って行動していました。

 もしかして、思う以上にライラと私の距離は近かったのかもしれない…… 

 

「あ、あの…もしかして落ち込みましたの…?」

「わ、わぁ?ううん、そうじゃなくて……」

 気付けばライラの顔が再び目の前にありました。

 正しくはやや下から覗き込む様な姿勢。

 どうやら彼女には私が落ち込んでしまった様に見えた様です。

 

「い、いえ…別に怒るつもりはありませんのよ?ただ…ただ貴女を見ていると……」

「…見ていると?」

「いえ、なんでもありませんわ」

 気になります!気になり過ぎます!

 そこまで言ったのなら最後まで言ってください。

 今度は私の番です。せっかくの機会、聞ける事は聞かないと!

 もっとライラと話したい、今なら彼女と話せる気がします

 なのに……

 

 リーンゴーン

 

 予鈴の鐘が鳴り、同時に教室の前と後ろ扉が勢いよく開きました。

 そして……

 

「わー遅刻だ遅刻だー」

「いやー途中で犬に追いかけられちゃってー」

「シルファおはよー」

「ライラさんおはようございますー」

 

 ぞろぞろと列を成しながら入ってくる馴染みの顔

 コロネにルキアにクロワにネオンにメリッサに……

 とにかく全員です!

 私とライラ以外のクラスメイト達が、一斉に教室に入って来ました。

 

「これは…?」

「はぁ…そう言う事でしたのね…まったく……」

 唖然とする私の横で、ライラは何事かを察したのか

 腕組みの体勢から額に指を当て、大きく溜め息をしました。

 

 そして私も、にこにこと微笑んでいるコロネを見る事で

 今更に、あの不可解な状況の理由を察したのでした……

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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