第43話 二人の関係
「…どーなつ美味しい……」
私、シルファはドーナツを齧り齧り憩いの一時を満喫中。
今は昼休み、そしてここは学生食堂。
生徒達が午前の疲れを癒し、にぎやかで素敵な時間を過ごす場所。
素敵な時間に美味しいドーナツが合わされば、最高の時間となります。
齧ったドーナツをゆっくり租借し、ホットミルクと一緒に飲み込む
やはりドーナツはミルクで食べるのが美味しい。だからもう一齧り。
私は今、食べる事に幸せを感じ実感しています。
永遠の謎、ドーナツの穴には何があるの?と聞かれたら
私は幸せがあると答えるのでしょう。
女の子が食べた甘い物は魔力になる、…なんて誰かが言っていたけど
私はその言葉に大いに賛同したいと思います。
だって、ドーナツを齧る度、甘い味と香りが舌と鼻を刺激する度
身体に活力が満ちて行くのを感じるから。
それに、この齧った時のサクっとした食感もたまりません。
ふわふわ食感のドーナツも好きだけど、この食感は癖になります。
ルミナス魔法学園のドーナツは油で揚げた、揚げドーナツ。
穀物の粉を練って作る甘い生地を輪っかの金型で抜き、油でサクっと揚げる。
砂糖やクリームを乗せずとも、ドーナツの味と香りだけで何個でも行ける。
それに質の良い油を使っているのか、さっぱりとした味わいが食を加速します。
揚げパンとドーナツ、どちらが好き?と聞かれると悩んでしまうけど
今はこの味をドーナツを堪能したいのです。
食べると同時、お皿に盛られたドーナツを手に取るのだけど
そんな私を見過ごさぬ声が聞こえました。
「シルファ、少し食べ過ぎじゃない?」
「今のシルファって、ドーナツを食べる魔獣みたいだよ~」
私の暴食正そうとする天からの啓示…では無く、ルキアの声です。
続けて横から聞こえたのは、その相方クロワの声。
ドーナツを食べる魔獣って何?と思いつつも
食べる口を止め、右斜め対面を見ればそこにはルキアの呆れ顔。
「シルファが揚げ菓子好きなのは知っているけれど、その数はちょっと…ね?」
言って、ルキアは呆れ顔から小さく首を傾げました。
呆れる程かな?と私は指折り食べた個数を数え始め。止めた。
人には思い出してはいけない真実もありました。
「…そうだよね、今日はここまでにしておく」
ここは素直にルキアの言葉を聞くべきかもしれません。
甘い物が魔雫になるかも?と言っても、限度はあります。
「もう、拗ねないの。代わりに私のフルーツをあげるから…ね?」
別に拗ねてはいないです。ドーナツが名残惜しくはあるけれど。
でも、委員長気質で世話焼きなルキアにはそう見えたのか
ルキアは自分の皿から、私の皿へとフルーツを移し始めました。
赤、橙、緑。私の皿が焦げた茶色から、色彩豊かな物へと変わっていきます。
香りも穀物と砂糖の香りから、酸味混じる甘さへと。
例えるなら南国の色彩と香り?…南国にはまだ行った事はないけれど。
でも、これはこれで食欲を刺激される。
ちなみにルミナス魔法学園の学生食堂は、自分で好きなメニューを選ぶ事の出来る立食形式。
…とは言っても食べる時にはテーブルに着くのだけど。
その疑問は置いて、これは生活習慣による主食の違いを配慮しての食堂形式
だから何を食べるのも自由。
ルキアの様に食のバランス良く皿に盛る子も居るし
私やコロネの様に偏りがちになる子もいたりする。
その結果なのか、この学園に来て食習慣の変わる子達も多いとか?
正面に座り、無心で揚げドーナツを齧っているコロネが良い(?)例。
彼女も入学して間もない頃は森妖精の食習慣に従い
果実や野菜をメインとしていました。
しかしここ最近は、今の様にドーナツを食べる姿ばかりを見ます。
でもそれは仕方のない事、だってドーナツは美味しいから。
ドーナツを齧る彼女の顔を見れば、私と同じに食べる幸せを満喫している事がわかります。うんうん。
「でさ、ライラと上手くやっていけそう?」
「けふ!?」
「わ?シルファ大丈夫?」
そのコロネを見た直後にいきなり問われ、盛大に咽てしまいました。
ライラとはタイミングが妙に重なる事があったけれど
コロネとはまた別の意味でタイミングがぶつかる事がある気がします。
「だ、大丈夫…水……」
「水ね?どうぞ」
ルキアが差し出した水をゴクゴクと二口飲み深呼吸を三度して、やっと回復。
落ち着いたところで「いきなり何を言い出すの?」とコロネを見れば
彼女は葦の耳を揺らし、ころころと笑っておりました。
「だってさ、だってさ、シルファとライラってさぁ……」
「私とライラが?何?何かな?」
「ほら、ねぇ?」
ねぇ?と言われても困る。困るのだけど、皆なぜか一様に頷いています。
ルキアにクロワ。ううん、二人だけではありません。
近くの席に座っていたクラスメイト達まで、背中で頷いていますよ?
これは一体どういう事なのでしょう?
「気付いて無いのは当人達ばかりね……」
首を傾げるばかりの私、説明してくれたのはルキアでした。
「今更かもしれないけれど、貴女とライラの仲はクラスの皆が知っている事よ?」
「え?え?」
衝撃の真実とはまさにこの事を言うのでしょうか?
別に皆に隠していたつもりは無かったけど。
それでも、私のライラの事を皆が知っていたのは驚くしかありません。
「そこまで驚く事だった?でも、二人の様子を見れば誰でも分かるわよ?」
「うんうん、同じクラスになって一ヶ月も経つからねぇ、それに……」
そんなにと思いつつも、ルキアに続くコロネの言葉を聞けば
これは当然の事と納得するしかありませんでした。
それは忘れもしない、私がこの学園都市ルミナスにやって来たあの日の出来事……
私とセレーネお姉さまの再会から始まる、ライラと私の気まずい関係。
新入生達の出入り多い昇降口前での出来事、見ていた子は大勢いたはずです。
「私とクロワは委員会の会合で、先輩達にも聞かれたし……」
「そうそう、それにシルファみたいに上級生な先輩方と同室の子もいるからね~」
ルキアとクロワの言葉に、もう何も言い返せません。背中からも知ってる声で「たまにお互い見てるもんね」や「普通の空気じゃないよね」なんて証言まで。
恥ずかしい。もう部屋に戻りたい、手洗い場でも良いから暫く一人になりたい。
盛られた果実を無心で食べる、果実の甘さだけが今の私を癒してくれる……
「そう言えば、そのライラはどこに?」
「ん、お昼休みの鐘と同時にどこかに行っちゃった……」
言って私はドーナツで自分の口を塞いだ。もうドーナツ食べる。
急な席移動に驚いてしまったけれど、ライラを避けるつもりはありません。
これでも、私の方から声を掛ける事はしてみました。
ノートのお礼をしたかったし、なにより彼女が何を思っているのかを知りたいから
なのに、ライラは私を一瞥だけすると、無言のまま教室から出て行ってしまった。
食堂に居るかも?とも思った。でも、この食堂に彼女の姿は無く。
だから、今の私に彼女の居場所も行先もわからない。
こう改めて考えると、私は本当にライラの事を知らない事に気付く。
彼女と話す中で見えてきた物はある。
それだって、私が勝手に思い込んでるだけかもしれない。
「なおさらだね!私はシルファとライラにとって良い機会だと思う」
「良い機会?」
もぐもぐしながら首を傾げれば、コロネは賛同を求める様に皆を見渡した。
これは私だけがわかっていない流れでしょうか?
いえ、本当はなんとなくだけどコロネの言いたい事はわかっています
でも皆の反応も気になります。
「私達も協力するから、この機会にライラとの仲を深めましょう?」
「そうそう!せっかくの婚姻祭だもんねー」
ルキアまで言い出し始めましたよ。仲を深めるって……
「え?え?待って……」
でも、何かおかしい気がします。
皆の認識が私の思うところと、何か微妙にずれている様に見えます。
確かに私はライラとの仲を深めたいとは思っていますし
彼女に「友達になって」とも言いました。
でも、皆は何か勘違いをしている様な気がしてなりません。
そもそも、私にはお姉さまと言う存在がいます!
皆だって知っているはず、もしかして楽しんでいますか?
そんな事を思うも、皆は自分達の思う方向に盛り上がっていて
事態は加速度的に進行するのでした……
ここまで読んでいただきありがとうございます。




