第41話 選ばれた二人-2
「はーい、時間ですよー♪」
二度手を叩く音が響き、続き聞こえたのはセルティス先生の声。
あの小さな身体から出ているとは思えないほどに大きく、そして通る声。
手を叩くを音も、あの小さな手から出ていると思えない大きさ。
音を操る魔法でも使っているのでしょうか?
音なら風系?
そう言えばセルティス先生ってどの属性が得意なのでしょうか?
…ううん、今はその事を考えている時ではありません。
とにかく!先生の声をもって、投票の時間が終わりました。
最初は考えて決めて、用紙に名前を書けば終わりと思っていたのに。
こんなにも頭を悩ませ、苦悩困惑する時間になるだなんて……
まったく予想も出来ませんでした。
それが皆も同じなのは、教室のあちこちから聞こえる声でわかります。
「はぁ……」「ふひぃ」「はうぁぁぁ…」
溜め息、吐息、悲鳴…?
それぞれの感情が籠り混じった声。
皆がこの時間の間にどれほど精神を擦り減らしたか、頭を悩ませたか
伺い知る事が出来てしまいます
その声の中には、私ことシルファの声も混じりますよ。はふぃ。
そんな私達を、先生はにこにこと見渡し言うのです。
「ふふっ、皆さんおつかれさま♪では投票用紙を集めますよーそれ!」
椅子からぴょいっと飛び降り、指をくるりと一回転。
すると、教室に満ちる魔雫が小さく震え始めました。
これは何の魔法でしょう?何か大きな魔法を使おうとしている事はわかります
疑問の中、震えは揺らぎとなり。
揺らぎは水に描く波紋の様に広がって……
「…風…あ?」
「わ、くすぐったい~」
「くちゅん!」
波紋は風となり、私達の頬をそっと撫でました。
皆の驚きの声。くすぐったさにクロワは身を捩ってます。
後ろから聞こえた可愛いらしいくしゃみはコロネ。
通り抜ける風が撫でたのは、私達の頬だけではありません。
投票用紙が揺れたかと思うと、ふわりと浮き上がりました。
全ての投票用紙がふわりゆらりと舞い上がり、輪を描きを踊り始めました。
三十人分、三十枚の投票用紙が教室の空で舞い踊る
くるりくるくる、それは不思議な光景でした。
本当に不思議。空を舞うそれらが、つい先程まで私達を悩ませていた物だなんて
「そーれ、おいで♪」
光景に見惚れる中、先生が指をパチンっと弾くと。
投票用紙は、輪から一列となり。
先生の手の中に納まって紙束となりました。
「はい、これでどれが誰の投票用紙なのかわかりませんね♪」
紙束の縁を指で整えながら、先生がにこにこと笑顔で言いました。
いえいえ、セルティス先生。
記入者の名を書く欄は無いし、ここまで派手にする必要は無かった気もしますよ
「…セルティス先生、たいくつだったのかなー」
「あー……」
思う中、後ろから聞こえたコロネの声に納得。
思い返せば、私達が誰に投票するか頭を悩ませている間
先生は椅子に座って足をぶらぶらとさせたり、伸びをしていました。
きっと先生も投票したりしたかったんだろうな?とか思ってみたり。
「さてさてルキアさんクロワさん、開票をお願いしますね?」
「はい!」
「は~い」
先生に名を呼ばれ、ルキアとクロワが前へ出ました。
投票用紙を回収したのなら、今度は開票です。
「…二十八、二十九……うん、三十枚あります。クロワ集計お願い」
「あーい」
ルキアが投票用紙の枚数の確認を終え、クロワは白墨を持ち黒板の前へ。
準備は整いました、いよいよ『婚礼祭』の代表が決まるのです。
どうか、私ではありませんように……
「では皆さん、婚礼祭代表投票の開票を始めます」
ルキアが開票の開始を宣言すると、教室中から大きな拍手が沸き起こりました。
なんだかお祭り気分。婚礼祭も『祭』と付くから、祭と言えるのかも?
この場合の場合の『祭』は、儀式の方の意味合いが強い気も。
どちらでもにぎやかで楽しいのは良い事なのです。
「では……」
拍手が収まるのを待ち、ルキアが裏返した紙束の一枚目を捲りました。
最初は誰だろう、私じゃないといいなぁ。
緊張の視線がルキアへと集まる中、彼女はあくまで冷静に名前を読み上げます。
その名前は……
「メリッサさん!」
一票目はメリッサでした。
名前が読み上げられると同時、歓声と拍手が沸き起こりました。
拍手喝采、先程よりも大きな大きな拍手。
こんな大きな音を出して隣の教室に迷惑かも?と思いきや
廊下を通り、扉の向こうからも拍手と歓声が聞こえてきますよ?
当然と言えば当然です、婚礼祭に参加するのは私達だけではありません
だから、他のクラスも代表を選ぶのは当たり前の事。
ほら、セルティス先生も私達が騒ぐのを、にこにこ見ていますよ。
「うんうん、メリッサに一票だね~」
黒板前で待機していたクロワが、頷きながら黒板にメリッサの名を書き
その下に票数を示す、左下に降ろす斜めの線を引きました。
で、票が入ってしまったメリッサはと言うと……
「私に入っちゃった!いいの?いいの?」
声の方へ振り向けば、メリッサが巻き毛をふわふわ揺らし慌てていました。
普段からくるくると小兎の様に跳ね回る彼女だけど
驚きが大きいのか、いつもより動きが早いです。
「どうしよう!どうしよう!」
「まだ一票目だよ、ゆーらーさーなーいでー」
にぎやか大好きのメリッサだけど、いきなり票が入れば混乱し
隣に座る彼女の親友…サーシャの肩を掴み、ぶんぶんと振り回しています
サーシャは雪妖精の血を引く、もともと青白い顔をしているのだけど
振り回され過ぎて、酔ってしまったのかますます青白く……
こう言う時、親友って大変です。
気持ちはわかります。私だって票が入ったら冷静ではいられません!
でも、メリッサには票が入るだろうなと思っていました。
素直で可愛いし、婚礼衣装を着た愛らしい姿の彼女も見てみたい。
メリッサと一緒に代表になる子は、良い思い出となるでしょう。
「えー…皆さん、開票を続けてもいいですか?」
興奮と混乱が満ちる中、ルキアが皆に呼び掛けました。
彼女にはめずらしい大きな声です。
教室が騒がしいままでは、開票を進める事は困難だし当然の声。
なにより、開票はまだまだ始まったばかりの一票目。
未開票の票は後二十九枚も残っています。
てきぱきと開票を進めて行かないと、時間がいくらあっても足りません。
「…うん、では開票の続き行きます」
皆が静かになるのを待ってルキアが二枚目の投票用紙を捲りました。
次の票は誰に入るのかな……
「次は…ローゼさん!」
二枚目はプリムの双子の妹『ローゼ』でした。
プリムと同じ花色の髪と鏡合わせの容姿を持つ子です。
うん、プリムとローゼには票が入ると思っていました予想通り。
「あらあら?プリムどうしましょう?」
「うふふ、ローゼなら良いと思いますわ♪」
姉妹仲良く両手の平を合わせ驚いています。驚いているのかな?
クラスに仲の良いペアはいくつかあるけれど
やはり二人の仲良しさは群を抜いています、見ていてほっとりするし
二人が代表になったら、同じ姿の婚礼衣装を着てほしい……
姉妹同士の婚姻なんて背徳的すぎます!
いけないいけない、これはあくまで祭典での事。ついつい。
「あ…?」
そうこうしてる間にルキアが驚きの声を上げました
彼女の手の中には三枚目の投票用紙。一体誰の名前が?
まさか、私の名前?でも、ルキアなら私の方を見るだろうし。
皆の注目が集まる中、ルキアの声と共に答えは明らかに……
「あ、次は…プリムさん、プリムさんです!」
ローゼの双子の姉プリムです。まさかの姉妹続けてです。
これは、姉妹代表が現実味を帯びてきたかも?
「素敵!これでローゼと一緒ですわ♪」
「素敵!姉さまと一緒ですわ♪」
プリムとローゼは二人で両手を打ち合わせはしゃいでいます。
仲いいなぁ。見ていて、心がほっとり和みます。
このまま二人が代表になったとして、文句を言う子は誰もいないはず。
ほら、私だけ無く他の子達もはしゃぐ二人に和んでいます。
「はーいはいはい、では次の票へ行きますよ?」
どうやらルキアは皆を静かにする事を諦めた様ですね。
残り二十七票、同じ事を繰り返していては疲労が溜まるばかりです。
ここはさくさくと進めるのがルキアの心と身のため……
………
……
…
十三票まで開票が進み、黒板には六人の名前と獲得した票数が並んでいます。
開票される一票一票がお祭り状態。
三十枚全ての開票が終わるのに、どれほどの時間がかかるのやら。
だけど、厳かに淡々と進むよりはずっと楽しいかし。思い出にもなります。
これはやはり、儀式よりお祭りの方に近い気がしてきました。
さて、ここまでの票の獲得数だけど……
メリッサが四票で現在最有力候補。
彼女の親友であるサーシャにも一票入りました。
プリムとローゼは二人一緒の三票づつ。
なんと!ルキアとクロワにもそれぞれ一票づつ入りました。
この流れのままなら、メリッサとプリムかローゼだけど……
残り十七票次第で流れが変わる可能性もあります。
さて、ルキアが十四票目の名を読み上げるみたいですね。
「ふぅ、えーっと…次は…ライラさん!」
「!」ライラです。十四票目はライラです。
ライラには票が入ると思っていました。思っていました、うん。
私の中に多くの候補者のイメージがあったけれど……
思い出すのは儀式用装束を纏ったライラの姿。
赤の装束は情熱的で華麗で、赤は彼女に最も似合う色だと思います。
でも、彼女なら白の婚礼衣装も似合うはず。これは確信。
あ、だけど…婚礼祭で身に着ける衣装が白とは限りませんよね?
お祭りだし、一般的な婚礼衣装よりも手の込んだ、より華やかで豪奢な物を身に着ける可能性もありえます。
だけど、彼女ならばどんな衣装でも似合う事でしょう。
…?
ふっと視線を感じました。この方向は……
ライラの席です。
今は周囲の席の子達と語り。こちらを見てはいないけれど。
感じたのは間違いなくライラの視線です。
気になります。彼女がどんな視線を私に向けていたのか。
昨日、茶寮で彼女と別れて以降、視線を感じつつも避けられている気がして。
やはり『友達になってください!』はいきなりすぎたかな……
「シルファさん!」
「え?」
「シルファ!すごいよシルファ!」
いきなり名を呼ばれ後ろから肩を掴まれました。
状況を理解できないままに我に返れば、拍手に囲まれていました。
皆の視線と注目が私へと集まっています。
これは何事?一体何が起こっているのでしょう?
「ぼんやりしてる時じゃないよ!シルファに票が入ったよ!」
「あうあう…え?え!?」
肩を掴んだのはコロネです、彼女が私の肩を掴み揺さぶっています。
メリッサの時と逆の状況だけど、これはそうであると理解するしかありません。
だから、恐る恐るに黒板の方を見ました。
そこにある物を確認すべく。
「シルふ……」
クロワが白墨の白い文字で、私の名の綴りを書いてる途中でした。
私の名を書き終えると、その下に票数を示す『斜めの線』を左下へ降ろす様に引きました。
とうとう、私に票が入ってしまいました……
でも一票くらいならば大丈夫大丈夫!票はまだ十五票も残っています。
メリッサやプリムとローゼ、彼女達の方が選ばれる可能性は高いし……
大丈夫、きっと大丈夫!
………
……
…
「あれ?」
私は目を三度擦ってから瞬きを二回すると、黒板に書かれた『星』をもう一度見ました。やはり結果は変わりません。
私の名前の下には『五』を意味する一筆書きの『星型』と『一』を意味する『斜めの線』が一本。つまり私が獲得してしまった票数は『六』
そして、私と同じ数の票を獲得した子がもう一人。
私の「あれ?」は、むしろこちらへの驚きの方が大きい。
『彼女』の名前の下にも『五』を意味する一筆書きの『星型』と『一』を意味する『斜めの線』が一本。
私と『彼女』が六票づつ獲得し、クラスの代表となってしまいました。
まさか、こんな結果になるなんて……
混乱してても、困惑してても時は動きます。
「シルファ…シルファさん」
私の名が呼ばれました。呼んだのは委員長であるルキア。
そのままもう一人の名も。その名は……
「そしてライラさん。二人は前に出てください」
ライラです。そう、婚礼祭の代表として選ばれたペアは
私ことシルファと、ライラの二人なのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




