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ルミナス魔法学園物語 ~『私はお姉さまとゆるゆる学園生活したいだけです!』~  作者: 月羽


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第39話 穏やかな休日-4

 

 なぜ、こんな状況に?

 アイボリーに染められたテーブルの木目を目で追いながら考える。

 でも、考えれば考えるほどにわからなくなってしまいます。

 これが足に任せた結果なのでしょうか?

 

 思い出せば、あの時『彼女』と出会う事になったのも

 足に任せ、シロノさんとクロノさんの魔法具店を見つけた結果でした。

 その時にはコロネとも遭遇したが、それはなんとなくわかる。

 セルティス先生曰く『縁の深い者同士は引き合うのです』…と。

 そうなると、私と『彼女』も縁が深いと言う事になってしまいます。

 でもそうなのかな?

 

 わからない……

 

 わかりません……

 

 わからないまま視線を上げれば、ランプの灯に照らされた彼女…ライラがいる。

 アイボリーの木目テーブルを挟んで、私の対面に彼女が座っている。

 つまり、私とライラはテーブルを共にしている。

 午前中はお姉さま、コロネ達とテーブルを共にしお茶会を楽しんだけど

 その時には、こんな状況になるなんて予想もしていませんでした。

 しかも、彼女とあんな遭遇の仕方をする事も……

 

 私とライラは衝突と言う、恥ずかしい形での遭遇をしてしまいました。

 お互いに前方不注意で歩いていた結果で、どちらにも非があると言えます。

 なのに、それぞれの性格が災いしたのか、噛み合ってしまったのか……

「私の方が……」

「わたくしの方こそが」

「でも私が……」

「いえ!わたくしが!」

 なぜかお互いに責任を奪い合う争いになってしまいました。

 しかもです、休日の午後。道行く子達が最も多くなる時間帯の道端で。

 思い出すだけで恥ずかしくなります。噂にならないといいなぁ……

 審判などいない状況で、戦いを制したのはライラでした。

 

「ああ!もう!行きますわよ!」

「え?でも私の方が…ひゃっ!?」

 僅かさの差でライラの強引さが勝ってしまいました。

 彼女は私の手を取ると、引っ張る様にしながらこの場所へ……

 

 私達が今居るのは南蛮茶《カフィ》を専門に扱う茶寮『小妖精《ピクシー》達の囁き』

 西北の茶が主流のこの町において、南蛮茶《カフィ》を専門に扱うと言うだけでも珍しいけれど

 この街の建物には珍しい焼き煉瓦剥き出しの店構えは印象に強く

 通りに面した店と言う事もあり、私も名前だけは知っていました。

 でも、初めての入店がこんな形になってしまうなんて……

 

 それでも店内へ入れば、外からでは分からなかった事が多くある事を知りました。

 年季の入ったテーブルと椅子は木目の入ったアイボリーで統一され

 店内を照らすのはランプの灯。故郷では使い慣れた灯だったけど

 ここ最近ずっと学園の魔法光の元に居たせいか、懐かしく安らぎます。

 窓際の席なら、読書をしながら南蛮茶《カフィ》を飲む事も出来そうです。

 

 そんな素敵な店だけど、実は私は南蛮茶《カフィ》の癖のある苦みが少し苦手。

 私は甘い飲み物の方が好み、だからお茶にも砂糖や蜜をたっぷりと入れる。

 そえゆえ、目の前のカップにも手を付けず置いたままの状態に。

 だけど、香りは好きかな?

 店に入った時、何かを焼き焦がした様な芳ばしい香りを感じたけれど

 どうやら南蛮茶《カフィ》の豆を炒る時の香りだった様です。

 

 横目で周囲を見れば他のテーブルでは少女達が仲睦まじく笑みを交わし

 談笑に華を咲かせている。はぁ、楽しそうだな……

 傍から見て私達はどんな風に見えているのでしょう?気になります。

 でも、どんな事を思われているにしろ、不正解ですよ。

 だって、私と彼女の関係は平行線状態なのだから。

 それもなんとかしないといけない案件の一つであると思い出せば

 心の中で溜め息が出てしまう。

 本当にどうすれば良いのかわからない……

 

 

 ライラに視線を戻せば、彼女は目を閉じ凛と正した姿勢でカップを口にしていた。

 時折静かに揺れる金の縦ロールは、ランプの灯でも輝きを失う事無く

 店の内装を背景にすると、なんだか一枚の絵画の様。

 私の前にも彼女と同じカップ、中身も一緒。でも気持ちは…わからない。

 

 心の中で再度溜め息しながら、私の前にもあるカップを指で突いた

 店名にもある小妖精《ピクシー》の描かれたカップ

 テーブルと同じアイボリーの液体から、ゆらゆらと湯気が立ち上る

 

「シルファさんは…苦手だったかしら?」

「え?あ……」

 

 夢想から私を呼び戻す声、目を伏せたままライラが呟いた。

 問い尋ねと同時に惑いとも聞こえる声。怒りは感じない。

 そして、ライラの『苦手だったかしら?』と言う言葉に正直に答えるのなら。

 南蛮茶《カフィ》の苦みを苦手する私は『はい』となってしまう。

 

 だからと。このまま飲まないでいる選択肢は無い。

 私の好みを知らなかったとは言え、これは彼女からの好意。

 ならばなおさらに飲むしかない。

 それで『初めてのんだけど苦いねぇ、あはは』

 …と、おどけて見せれば場の空気も和むかもしれません。

 よし!私は覚悟を決めました。

 

「初めてのお店だったから…つい店内が気になって」

「そうでしたの…?」

 言葉で場を繋ぐとカップの持ち手を掴み

 その流れで、カップに満ちるアイボリーの液体を一気に口へ……

 …と言うのは、まだ熱いので無理です。

 なのでゆっくりと液体を啜り、口へ含んでいく。

 苦いぞ、苦いぞ……

 苦くても顔に出さないぞ……

 

 …あれ?

 

「甘い、それにまろやかで美味しい……」

 苦くありません!?甘くてミルクの風味が口に広がって

 飲んでいると気持ちがふんわりと穏やかになって行く

 これなら私でも飲めます、むしろ私の好みの味です。

 だけど、南蛮茶《カフィ》は苦いはずでは?

 疑問はあるけれど、もう一口。

「はふぅ……」

 ほっとりする味に、ゆるい吐息が出てしまう。

 

「よかった、シルファさんのお口にも合ったみたいですわね?」

 声を聞き顔を上げれば、彼女の瞳が見詰めていました

 穏やかな色を湛える青緑石の瞳、そこに私の姿が映っている。

 綺麗……

 いえ!私の事ではありませんよ?彼女の瞳の事です

 瞳に映った自分の姿が綺麗だなとか、そんな自画自賛は恥ずかしすぎます!

 だけど、彼女の瞳が綺麗とは真っすぐ本気で思えます。

 

 ライラの瞳は、他の同じ同じ色の瞳と比べ鮮やかで

 陽光が差し、目を細めるまでの一瞬に見える輝きは宝石の様

 屋外実習の最中それに気づいた時は、つい見惚れてしまいました。

 見返した彼女には変な子と思われてしまったみたいだけど

 当然と言えば当然の事です。

 そう言えば……

 瞳の青に緑や他の色のが混じる者は、純妖精や高位の精霊の血が混じっていると聞いたことがあります

 つまり彼女の先祖には、純妖精か高位の精霊が居たのかも? 

 

 

「…シルファさん?」

「あ、あ、南蛮茶《カフィ》って苦いと思っていたから…驚いてしまって」

 ついぼんやりして誤魔化したけれど、味への感想は本当の事。

 このカップの飲み物は、私の知識にある南蛮茶《カフィ》とはまったく別物。

「ああ、これはクリームカフィですわ」

「クリームカフィ…?」

 聞きなれぬ言葉に、私はきょとんと首を傾げしまう。

 私の反応にライラは小さく微笑むと説明をしてくれました。 

 

 クリームカフィは南蛮茶《カフィ》の数ある派生種の一つで

 ミルクと砂糖多めで作り、そこへたっぷりの甘いクリームを混ぜた物だそうです。

 聞くからに美味しそうと思える要素しかありません。

 

「これなら私でも飲める…あ……」

「ふふっ、よろしいですわ。貴女は甘い方が好みだと思っていましたから」

 もしかしてライラ、私に気を使ってくれたのでしょうか?

 だとしたら、私の方が考えすぎだったのかな……

 今からでもこの状況を楽しむの事が正解なのかもしれない。

 彼女に聞きたい事は多くある。でも、まずは彼女の事を知りたい。

 そのためには私の事を知ってもらわないと……

 だけど、何から話そう?ライラと話をしたいとずっと考えていたのに 

 いざその機会となると言葉が思いつかない……

 

「ふぅ…お互い思うところはありますわよね……」

 

「…あ?…うん…そうだね……」

 

 私が切り出すよりも先にライラの言葉が来ました。

 ごくごく自然な言葉、だけどお互いに同じ事を考えている事を示す言葉。

 そうか……

 ライラも私に何を言えば良いのか迷っているんだ。

 ううん、彼女の気持ちの方がもっと複雑なのかもしれない

 だって今の関係となったのは、彼女の放った『あの言葉』なのだから。

 やっぱりこれは機会なんだ、私が彼女を知るための機会。

 聞くしかない。今を逃したら次は……

 ううん、次があるなんて考えない方がいい、勢いが大事。

 だから…… 

 

「えっと……」

「あの……」

 

「あ……」

「あ……」

 

 言葉がぶつかってしまいました。

 温度が下がる、お互いの気持ちがすっと引いていくのを感じます。

 正面衝突だけでなく、言葉までぶつかってしまうなんて……

 でもここは少し強引にでも会話を続けた方が良いかもしれない。

 テーブルを囲むのは私とライラの二人。

 他のテーブルがそうである様に、このテーブルは私とライラの世界。

 

 決意のままに意識を戻せば、ライラは虚ろ混じりの瞳でカップを見詰めていました

 彼女も私と同じに、この後に繋ぐべき言葉を考えているのでしょう。

 強引にとは思ったけれど、私も何か考えないと。

 一つでいいから、繋ぐ言葉か話題が欲しい。

 

 一つでいい。

 本当に一つでもあれば、そこから会話を膨らませる事が出来るかもしれないから。

 

 一つ…一つ…?

 

 そうです!一つです!

 天啓の如く閃きました、これはきっと女神様の御神託です。

 もしかして、これが魔王《アルカナロード》囁き…?

 とにかく!これなら行けるかも?多分行ける。

 早速ライラに持ち掛ける事にします。

 

「ライラ…提案があるの……、いいかな?」

「え?あ、はい…?」

 私の言葉でライラが顔を上げました。やっぱり綺麗な瞳です……

 …違います!今は見惚れている場合ではありません!

 思い付きを提案しないと。

 

「…お互いに一つだけ話をしてみないかな?

 相手に言いたい事でも、相手に聞きたい事もいいから…ね…?」

「一つ…ですの?」

 提案を聞き、きょとんした表情を浮かべるライラ。

 ね?で小さく首を傾げ、甘える様に言ってみたけれど……

 これはわざとらしかったかな?

 私の言葉の意図をはかりかねているのか。

 首を何度か傾げ、何事かを考えている様で表情が掴めません。

 

 これは失敗したかな?もっと別の提案が良かったかも?

 でも、私の心はまだ予感を感じている

 ここは無理にでも会話を繋ぐため、もう少し強くお願いしてみようかな? 

 

「なら…私から行きますわね?」

「え…ライラから…?」

 ライラからの返答が来ました。しかしこれは予想外の流れです。

 この場合って提案した私から行くのが普通だよね?

 私がライラに聞く事で会話の流れを作ろうと思っていたのだけど。

 でも、予想外でも流れを作る事は出来るはず。多分……

 

「何か問題でもありますの?」

「いえ、ありません!どうぞどうぞ」

 場を支配されました。これがお嬢様の風格と言う物なのでしょうか?

 もはや私は聞くしかありません。

 ライラも語る気になっている様ですし、ここは素直に聞く事にします。

 クリームカフィを一口飲むと、姿勢を正し言葉を待つ。

 私に聞く体勢が出来たとみると、ライラは静かに語り始めました……

 

「えー…では…貴女に言いたい事がありましたの、ずっとずっと……」

「私に…言いたい事…?」

 一瞬惑いの表情が見えたけれど、ライラの中に言葉がある事がわかる。

 いよいよライラの本音が聞けるんだ……

 私は音を立てない様に唾を飲み込む、緊張します。

 

「貴女は…悪くありませんの……、あの言葉は勝手な思い込みからの事……あう」

「思い込みって…ライラ…?」

 言った直後、ライラがぺたりとテーブルに突っ伏しました。

 金の縦ロールまで萎び伸びています、これは一体!?

 流石にこれは放っておけないと、椅子を引き立ち上がろうとしたところで

 動きがありました。

 

「大丈夫ですわ…緊張が限界を超えてしまっただけですの」

 ライラは顔を上げると赤く染めた顔で小さくそう言いました。

 なんだか可愛い、それになんだか共感を感じます。

 私と彼女ってもしかして……

 

「ふぅ、こほん!次はシルファさんの番ですわ」

「え?そうなの…?でも続きが……」

「一つでしたわよね?」

 私の提案を逆に利用されてしまいました。

 でもライラの顔はまだ真っ赤ですし。今これ以上聞くのは酷ですね。

 少なくとも、ライラが一番言いたい事は言ったのだと思います。

 ならば次は私が言わないと。

 でも、私が聞こうとした事は彼女が先に言ってしまいました。

 どうしよう?私が提案した以上、何か言わないと……

 

「シルファさん?このまま逃げるのは許しませんわよ?」

 ライラが睨んでいます。綺麗な瞳が睨むと眼力が凄いです。

 でも瞳綺麗、まつ毛も長いし……

 違います違います、だから今はそんな事考えている場合ではありません。

 他に聞きたい事、言いたい事、何か何か……

 私がライラに言いたい事、望む事……

 

「さぁ早……」

「はい!えっと…えっと…わ、私と友達になっれください!」

 噛みました。しかも何かとんでもない事を口走ってしまった気がします。

 顔が熱いを通り超し過熱します、きっと今の私の顔は真っ赤です。

 ああ、私の事よりもライラの反応です。でも、顔を上げられない……

 言葉は魔法の矢(マジックアロー)の如し、一度放ったら戻す事は出来ません。

 後に残るのは結果のみ。

 本日二度目の覚悟を決めると、そっと顔を上げてみました。

 

「………」

「…ライラ…?」

 ライラもまた私と同じに俯いていました。

 肩はぷるぷると震えているし、無作法な事言ってしまったかも……

 まずは友達からと言う言葉はあるけれど、もっと地盤を固めるべきでした。 

 でも、どうしよう……

 

 ガタッ

 

「ひ!?」

 椅子の音と共にライラは立ち上がると

 テーブルにじゃらりと銀と銅の貨幣《ルミナ》を置きました。

 そして、俯き加減のまま私を睨み言います。

 

「こ、こ、これはわたくしの…おごりと言うやつですわ」

「え?あのライ……」

 あ、顔が赤いです?もしかして……

 でも、睨むライラにそれ以上の言葉を言えず。

 彼女は私についっと背を向けると、そのまま店を出て行ってしまうのでした。

 

 その一連の動作の間、私はただ黙す事しか出来ませんでした。

 唯一出来た事と言えば、彼女の消えた扉に小さく手を振り見送る事のみ…… 

 後に残ったのは、唖然としたままの私と

 そして、テーブルに置かれた銀と銅の貨幣《ルミナ》。

 

 周囲からひそひそと声がするけれど、聞こえない聞こえません。

 痴話喧嘩とか痴情の縺れとか、そんな物は一切ございませんので。

 …明日、噂になってないといいなぁ……

 

 明日の悩みは一先ずあちらに置いて。

 この貨幣《ルミナ》をどうするべきか…です。

 彼女がおごりですと言うのなら、ここは素直に甘えるべきかな?

 もし、機会を得る事が出来るのなら、次は私がどこかに連れて行きたいし。

 そうと決まったのなら、残りのクリームカフィを一気に飲み

 私も店を後にすべく、店員のお姉さんにお会計をお願いしました。

 しかし、店員のお姉さんは困った顔を浮かべています。

 あれ?と改めて貨幣《ルミナ》の枚数を数え直すと

 

「あ、3ルミナ足りない……」

 クリームカフィ二杯分の値段に3ルミナ足りませんでした。

 それに気づくと、俯きながらも赤い顔のライラが思い浮かび

 自然と笑みが零れてしまう私なのでした。

 店員のお姉さんは不思議そうな顔をしていたけれど

 足りない分は、ライラの可愛い所を見る事の出来た分とします。

 

 予想外の遭遇ではあったけれど、これが足に任せた結果と言うのなら

 やはり運命の流れや導きと言う物はあるのかもしれない……

 だって私は気付く事が出来たから……

 

 私とライラは似ている…と……

 

 でも、また聞かないといけない事が増えてしまいました……

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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