第38話 穏やかな休日-3
大きな街ってありがたいのです
何がありがたいかって?
店に並ぶ商品が充実している事がありがたいのです。
大きな街のお店にはなんだってあります。
日常品は種類が豊富だし、本も学術書から娯楽書までなんでもある。
子供の時に気になっていた絵本の三巻を見つけた時には、感動してしまいました。
食べ物だって多種多様にある。特にお菓子や総菜パンや菓子パンが素敵です。
故郷のお店には一つ二つの味しか無かったお菓子も
この街には味も種類も豊富にあります。
お茶会で楽しんだお菓子類も皆で街中を歩き買い集めた物。
特にルミナス魔法学園のある学園都市は、町では無く都市です。
響きからして、村や町より格上なのがわかります。
だから本当になんでもある。
私にとってさらにありがたいのは、この街が少女達の集う街と言う事。
それはつまり、少女達にとって必要な品々が充実している事を意味します。
普段入手困難な物だって、簡単に手に入ります!
「嬉しいなぁ…下着に悩まなくて済むって…♪」
私ことシルファは、うきうきとしながら服飾店の扉をくぐり抜けました。
抱えた腕の中にあるのは、美麗なデザイン文字と模様の入った紙袋。
中身は真新しい下着、しかも私の好みの色とデザイン。
故郷の街と違い、この街には私の好みに合う下着が普通に売っています。
しかもサイズが合わないからと諦める必要が無いのです!
多種多様な体格の種族の少女達の集う街ならではの事。
「んふふ…♪」
人通りの多い道だけど、思わず笑みが零れてしまいます。
でも、抱えた紙袋を見れば、皆私の気持ちはわかってくれるはず。
だって良い買い物が出来たのなら、誰だって笑顔になります。
新しくお気に入りに出来そうな下着を見つける事の出来た嬉しさ。
故郷の街ではあまり経験する事の出来なかった嬉しさ。
下着は普段は服の中に隠し、見せる事の少ない物だけど。
だからこそ素敵な物を身に着けたいし、お気に入りを身に着けたい。
それに少女ばかりが通う学園でも、着替えで脱ぐ事もあるから。
さて、午前中をお茶会と言う優雅な時間で過ごした私達
午後は街へ繰り出し、残りの休日を楽しむ事となりました
とは言っても、それぞれに予定があるので今回は別行動。
お姉さまは掘り出し物の魔法書を探したいと、古書店の並ぶ通りへ。
学生の集う学園都市だけあって、書籍を扱う店も多くあります。
私の見つけた懐かしい絵本も、その一軒で見つけた物。
コロネは新しい店を開拓したいと言いながら、ふらふらと何処かへ
この街は広く、まだまだ知らない店も多いから好奇心を刺激されるのは当然の事
もし、何か面白い店や美味しい物があったら教えてもらう事にします。
ルキアとクロワは特に何も言って無かったけれど……
仲の良い二人だし、二人一緒に街中を散策しているかもしれません。
仮に見かけてもそっとしておくのが、友人として正しい在り方。
で、私は新しい下着を買うべく、服飾店の並ぶ通りへ来たと言う訳です。
確かに皆で一緒に商品を見るのはきっと楽しいと思う。
でも、服や下着のサイズはあまり知られたくは無いのです
そんな複雑な乙女心がある一方で、皆がどんな下着を身に着けているのか
興味あったり、でもそれはまたいずれかの機会に。
「んっと…この後はどうしようかな…?」
目的の買い物を終えて、通りを歩きながらこれからの事を考える。
日はまだ西へ傾き始めたばかりで、門限までの時間は十分にあります。
それに、一人で寮へ戻るのもなんだか寂しい。
多分、お姉さまもコロネ達もまだ買い物をしていると思うし。
そうなると、他の店を見て回るのが賢明かな?お姉さまと合流してもいいし
途中でコロネや他のクラスメイトと出会うかもしれない
やはりここは足に任せよう。
せっかくの休日、楽しまないのは勿体ないのです。
方針が決まったのなら歩くのみ。通りを中央商店通りへと向かい歩いていく。
大きな街の通りは歩くだけでも楽しい。
通りは私と同じに、休日を楽しむ少女達の姿で溢れています
学生服と違う、楽しむ服が通りを鮮やかな色彩で染め上げている
見ているだけでも楽しいし、心も弾んできます。
中央商店通りはその名の通り、商業区画の中心を貫くこの街で一番賑わう通り。
日常雑貨や食料品、小物に装飾品。その他多くの店が軒を連ねています。
そこに行けば大抵の物は揃うし。
枝分かれする脇道に入れば、専門店の並ぶ通りが何本もあります。
私が今歩いている服飾店の並ぶ通りも、その一つです。
お姉さまが向かったのは古書店が多く並ぶ通り
この通りからだと中央商店通りを挟んで反対側になる
もし、お姉さまと合流するならば、もう少し歩かないと。
「とりあえず歩きながら考えよう…かな?」
言って、私は足を前に進める。
………
……
…
「…なぜこんな事に……」
あれから買い物をしていないのに、なぜか荷物が増えました。
ふらふらと歩く私の腕の中には小さな包みと大きな包みが三つ。
白銀の髪にはリボンがくるくる、花の髪飾りがきらきら、色彩過多な事に。
なぜこんな事になったのかと言うと、僅かな時を遡る事になります。
最初の出会い、それは発端とも言うべき出来事。
それは、ふわふわくるりん髪の少女メリッサとの遭遇でした……
「シルファだー!シルファはーっけん♪」
「はぅ!?」
いきなりの突撃を受けました。もはやお馴染みとなったメリッサの親愛表現。
息を整えながら話を聞けば、彼女も私と同じ。
新しい服と小物を求め、この通りへと遊びに来たそうです。
道すがら雑談をするついで、なぜか彼女は私の髪にリボンを飾り始めました
「うむむ、むむぅ…シルファの髪ってどんなリボンが似合うのかな?」
「え?えっと?黒とか?」
「だめだめ!無難すぎるよー」
いきなり駄目出しをされましたよ?黒は素敵な色なのに……
私の髪は学園内でも希少な色、お洒落さんな彼女的にも興味があったらしく
この出会いを好機と試さずには居られなかった様です。
…と、ここまでは良かったのです。
「そうだ!あそこの店のリボンの色ならシルファに似合うかも?」
「え?まって荷物!荷物!…いっちゃった……」
メリッサは走り出したまま、通りの彼方へと消え去りました。
後に残されたのは彼女が抱えていた大きな紙袋。
ここに置き捨てる訳にはいかないですよね?
自分の荷物とメリッサの荷物を抱えたまま歩き続け
次に出会ったのは、花妖精の血を引く少女プリムでした。
「あらあら?シルファさんの髪に素敵なおリボンが……」
彼女もまた同じ教室で学ぶクラスメイトの一人。
ちなみにプリムは双子姉妹で、ローゼと言う鏡合わせにそっくりな妹がいます。
彼女達もまた私と同じに『花の色』と言う珍しい髪色の持ち主。
しかも二人共髪は長くさらさらのきらきらで、良い香りまですると言う。
ある意味、少女の髪としては最高峰に位置します。
だからなのか、髪に対しては拘りがある様で……
「うん、さっきメリッサが…あの?あの?」
「やはり綺麗な髪には素敵な飾りですわよね、うふふ♪」
…こうして私の髪に花の髪飾りが増えたのでした。
こんな風にクラスメイト達と遭遇し続けて
通りの出口付近へ至る頃には、私の髪は装飾過多な状態に。
ついでにお菓子等のお裾分け等も貰ったりで、荷物も増える事に。
歩くうち誰かと出会うかも?とは思っていたけれど
こんな事になるのは予想外でした。
「やっぱり一回寮に戻ろうかな…?」
お姉さまやコロネ達と出会う可能性を考えると、身軽でいたいし
メリッサが忘れて行った荷物もどうにかしないと
寮に戻った時に渡せばいいと思っていた結果がこれですし
それに、手提げの無い袋を三つも抱え歩くのは前が見辛いです!
少し疲れてきたかも……
「…いったんどこかで休憩しようかな…?」
呟きつつ、紙袋の間の細い視界を頼りに通りを歩いていく。
通りを行く少女達の姿も増え、慎重に歩かないと衝突事故を起こしてしまいそう。
店頭に並ぶ素敵な服や小物に目を惹かれている子や、私と同じに荷物を多数抱えている子達もいますし。
ほらほら言ってるそばから、ぶつかってしまった子達が。
大丈夫かな?と思っていたら、なんだかいい感じになっていますよ?
これもまた一つの出会いなのかな……
だからと私も誰かとぶつかりたいかと言うと、別問題です。
この大荷物を持った状態でぶつかったら大変な事になってしまいます!
「怪我する可能性もあるもんね……、あ!?」
狭い視界の中、いきなり現れたのは陽光の煌めき。
一瞬目が眩んでしまったけれど、風に揺れる金糸にそれが髪の毛であると理解。
しかし理解したからと、この後に起こる出来事を止める事は出来なくて……
「ひゃぅ!?」
「きゃっ!?」
二つの驚き声が蒼天に重なって木霊しました
そのまま私と彼女は衝突の反動で後ろへ態勢を崩し尻餅。
痛い。お尻は痛いけれど、それ以上に恥ずかしい。ここは休日の大通り。
平日以上に人目は多く、しかもそのほとんどが同じ学園に通う子達。
そんな場所で尻餅するだけも恥ずかしいのに、ここで終わらなかった。
色彩豊かな何かが、ひらひらと舞いながら降ってくる。
これはもしかして……
その中の一枚を見て直ぐに理解しました、紙袋の中に詰まっていた衣類です
私のだけならともかく、メリッサ達の物も混じっています。
もしかしたら、衝突した彼女の物も混じっているかも?
とにかく!それらを祭の仕掛け玉の如く、盛大に撒き散らかしてしまいました。
直ぐに拾い集めたいけれど、でもそれよりも先にするべき事があります。
これは衝突事故、もし相手が怪我をしていたらと声を掛けたら……
「あのぉ…大丈夫ですか…あ…?」
「貴女こそ大丈夫かしら?…あら?」
お互いの姿を確認した直後、二度目の驚きの声が出ました。
そこにあったのはお互いに良く知った顔。
金色の縦ロールの髪に青緑石の瞳、凛とした顔立ち
最早忘れ様が無い、記憶に焼き付いてさえいます
そう、ぶつかってしまったのは、お嬢様ことライラでした。
彼女もきっと、私に対し同じ事を考えているのでしょう
ええ、その表情を見ればわかります。
…こんな状況、前にもあった様な?確実にありました。
本当に何か運命でも作用しているのでしょうか?
お互いに驚くしかなくて、座り込んだまま見詰め合う中
ひらりひらりと舞う物が……
「あ……」
それは私の撒き散らした物
淡い色の布切れはそのままライラの頭へと降り落ちました。
これが運命と言うのなら
私の運命を司る女神様はきっと、楽しんでおられる事でしょう……
ここまで読んでいただきありがとうございますです。




