忘れられない夏祭りの夜
夕方になって涼しくなった頃
各々が湯浴みを済ませ、アルベルトとラウルとレティとクラウドは街に向かっていた。
アルベルトの護衛騎士達とマーサとカイルも同行した。
街へは歩いて10分ぐらい。
アルベルトは公務へ行くときは皇子様衣装を着ているが
普段は夏だと言う事もあり
ワイシャツにズボンと言うラフな格好だ。
この日は、青のワイシャツに黒のズボン。
青のワイシャツには金糸の刺繍が施され、当然の事ながら
かなり高級品の様だ。
お洒落番長のレティとしてはチェックせずにはいられない。
ラウルは白シャツで紺のズボン
やはり高級素材を使っている服装なのは流石に貴族のお坊っちゃまだ。
レティは若草色の涼し気なワンピースで
腰にはリボンがあって、リボンから下からは大きめのひだで、動くと爽やかに揺れると言う可愛らしいワンピースだ。
実はこのワンピースはレティがデザインをした物だった。
レティは偽名を使ってデザイン画を洋裁店に提供をしていて、こっそり収入も得ているのである。
彼女はかなり人気のあるデザイナーらしい。
これは、レティがまだ成人になっていないので内緒の話である。
レティは、1度目の人生でのお洒落番長としての知識と経験を燻り続けたくは無かった。
それで、侍女のマーサを通じてデザイン画を1度めの人生で世話になった洋裁店に売り込んだのである。
1度目の人生の様に、何れは自分のブランドを立ち上げて、自分の店を持つつもりだ。
今日は夕方から夏祭りだ。
アルベルトの護衛騎士達は
何時もの様に気配を消して、遠巻きに護衛をしていたが
アルベルトとラウルとクラウドはかなり目立つ。
ラウルもレティの兄だけにかなりの美形だが
クラウドも目鼻立ちの整ったかなりのハンサムだ。
結婚前はかなりモテたらしい。
アルベルトは言うまでもなくの美丈夫で、その上、放つオーラからして格が違う。
直ぐに3人は女性達に囲まれた。
ラウルはこの領地の次期当主と言う事もあり、領民から慕われていた。
館の家人達も突然ではあったが、ラウルの到着に大層喜んだ。
勿論、アルベルトの事も知る人は知るで、あちこちで歓声があがっていた。
人々が殿下に近付き過ぎると
いつの間にか護衛騎士が現れて人々を統率していた。
元、騎士だったレティは
その見事な警備ぶりを少し離れた位置からマーサとカイルと並んで眺めていた。
「 見事な統率力だわ 」
「 それよりあの騎士服は暑くないのですかね? 」
マーサが言う。
「 暑くても任務中は暑くないのよ、それが訓練による訓練の賜物なのよ 」
「 憧れます、それよりお嬢様はよくご存知なのですね? 」
カイルがレティを見ながら目を細めた。
「 まあね 」
………死んじゃったけどね。
女性達に囲まれながらも
アルベルトは、
少し遠くの場所にいるレティを気にして、見ていた。
頬を赤く染めた男性達が、レティに話しかけていた。
困った様に笑う彼女は
夕暮れの光を浴びて美しく輝いている。
ちっ! 不埒なオス共め!
アルベルトは「失礼」と言いながら、囲む女性達の間をすり抜け、レティの元へ掛けよりレティの肩を抱いた。
「 彼女は私の恋人だ、離れてくれないか!」
「 ………っ?!」
おい、私が何時あんたの恋人になったんだよ?
男性達が離れて行った。
「 殿下、助けて頂き有り難うございます 」
殿下………何故、名前で呼んでくれないのか?
アルベルトは、何時までも距離を縮めようとしてくれないレティに、少し苛立った。
「 レティ、アルベルト!アルと呼んでよ 」
呼ばない
絶対に呼ばない
これは私の矜持。
「 ………殿下は殿下です 」
随分親しくなったと思ったのに
まだ駄目か…………
アルベルトが目を伏せる。
黙ってアルベルトがレティの手を取り、手を繋いだ。
そのまま2人で歩きだした。
ドキドキ…………ドキドキ
「 あの………お嬢様、カイルとお土産を買って来ますわね 」
気を利かせたのか
マーサは、ほら、カイル早く来なさいとカイルを引っ張って行った。
クラウドはアルベルトと付かず離れずの距離を取りながら
家で待っている家族へのお土産を見てる様だ。
ラウルは飲みに行ってくると言って
領民達に引っ張られて行った。
そう言えば
昔、お兄様とはぐれて迷子になりかけて
お兄様がお父様からこっぴどく叱られていたっけ………
ドキドキを誤魔化す様に別の事を考えた。
ドキドキが止まらない………
広場に差し掛かると
パァ~っと頭上にあるボンボリに一斉に灯りが灯った。
辺りはオレンジの灯りに揺れた。
「 わ~綺麗 」
「 綺麗だね 」
夜空を見上げる。
視線を感じて
顔をあげて殿下を見ると殿下は私を見ていた。
目が合うと
アイスブルーの綺麗な瞳が熱を持って揺らぐ。
ドキドキドキドキ………
心臓が張り裂けそうだ。
慌てて顔を反らす…………
殿下はそっと私に近付き、そっと私の頭に唇を落とした。
ドキドキ………ドキドキ………
私は気付かない振りをした。
「 あっ!あの唐揚げ屋さんがある 」
「……………………」
「 うわ~ここにもあるんだ~ 」
嬉しくなって
殿下に買って貰った。
広場の端の柵にもたれながら
今、買って貰ったばかりの唐揚げを食べる。
「 あっ、毒味しましょうね 」
………と先に一口食べようとすると
「 レティ、また食べさせてよ 」
殿下がニヤリと笑った。
毒味はいいのかと思いながらも
私は殿下の口に唐揚げを運んだ。
「 美味しいね 」
殿下が目を細めて笑った。
すると………
私の口元に唐揚げを持ってきて
「 じゃあ、昼間の続き、あ~んして 」
と言って眉を上げおどけた様な顔をした。
恋人同士でも無いのに………
こんな甘い事をするなんて……
じゃあ、恋人同士になったら何をするの?
心臓が飛び出す程にバクバクしている。
殿下は絶対に私で遊んでいるわ。
私には恋愛免疫が無いのだから止めて欲しい。
ただただ真っ赤になってるしかない。
それに…………
これって皇子様的にどうなのよ?
噂になったら困るんじゃないの?
変装もしてないのに………
殿下に言っても
大丈夫だよと言いながら
殿下は私の手を繋ぐ事を止めないで、色んなお店や屋台を廻って楽しんだ。
暗くなった館までの道もずっと手を繋いて歩いた。
忘れられない1日になった。




