再び空へ
「うわっ、何っ!?」
美桜たちとプールに行った日の夜、早めに寝たら、予想通りにこっちに来ていた。
なんで騒いでいるのかというと、なんと! シルベイシアの背中にシオーとサートが乗っていたのだ。
「シオーは元々土の民でしょう? だから家畜の扱いにはなれているし、サートは火の民だから動物が恐がる部分があるの。それで試しにシルベイシアに『二人を乗せて』、って頼んでみたら乗せてくれたってわけ」
ルナが説明してくれた。うっ、見たかったなーー、そのやり取り。
「……凄い、絵になるね」
『でしょう。シルベイシアもなんだか嬉しそうだよね』
私の言葉に今度はセレナが答えた。
土の民であるシオーは栗色の髪に、柔らかな茶色の瞳をしている。少し日焼けした顔立ちは、目がくりっとして、口元はキュッとしまっている。全体的に優しげな顔立ちに、正義感を秘めている感じ。
サートは赤茶色の癖毛を腰の辺りまで伸ばしていて、少しつり上がった目が印象的な、エキゾッチックな美少女なのだ。
この二人が、毛なみ艶やかなライオンもどきに跨がっている姿は、外国の有名な絵画のようだ。絵を描くのが好きな美桜や美咲ねーちゃんが見たら、大騒ぎをしそうだと思った。
……しかし! フラグが折れて良かったーーっ!! あの想像の通りになっていたら、今頃篭の中でシルベイシアと私が二人きりになるところだったよ! 妙な勘が外れて心底ホッとした。
「二人とも出発するわよ、篭に乗って。取り合えず川の向こうへ行きましょう」
そう話すルナの顔に翳りがあった。何故だろう?
それから私たちは、ルナの住む崖の家を出発したときと同じように、鳥達に繋がれた篭に乗り、空へ飛び立った。
もちろんまたも心で叫んだよ、『うぎゃあああ』って。これはセレナだけには聞こえたようで、後から文句を言われた。普段は勝手に人の心を読まないように意識の中にシェルターを作ってるらしいんだけど、私の心の叫び声がセレナ曰く、『ぶち破ってきた』らしい。ごめんよ、セレナ。
空の上から眺める川は、……まあ普通の川だった。とてもあれが水の壁とは思えない。川幅はけっこうあったので、越える間、川の中で起きたことを思い出しながらその光景を眺めた。
川を越えると大草原が広がっていた。鳥達の中の1羽が振り向いて、「グエエッ」と一声鳴いた。それを聞いたルナが私に通訳してくれた。
「ここでユリーナを見つけたんだ、って言ってるわ」
あっ! そっか、見覚えあると思ったんだよね。見渡す限りの青空と黄緑色の草地! 本当だったら、ここが旅の出発点だったんだよなー。それなのに、鳥に拐われたことで随分遠回りしちゃったもんだ。
……でも鳥に拐われなかったら、今頃どうしてたんだろう? ルナとセレナに出逢えて、この世界のことを教わって、……鳥に拐われて結果オーライってことか?
『ユリーナ。眉間にシワを寄せてないで、せっかくだから景色を見たら?』
それもそうだと思い、勇気を出して篭を掴んで立ち上がってみた。そしたら、風が耳元でビュンビュンと吹いた。
巨大な鳥達に運ばれていると、景色が流れるのが早い! あのときは何処までも草地が広がっているのを見て、どのくらい歩かなくちゃいけないんだろう、と思っていたのに。ぐんぐん風を追い越していく感じがする。後ろを振り向いたら、あっという間に川から遠ざかっていた。
斜め後方ではシルベイシアが真っ白な羽を雄々しく広げ、優雅に空を飛んでいた。そこに乗るシオーとサートの顔にも不安は無い。シルベイシアが丁寧な飛び方をしていて、意外といいヤツじゃん、と見直した。
空を仰げば、地球と変わらぬ太陽が私達を見守ってくれているかのような気がした。けれど傍らには三つの月があって、あんな話を聞いちゃったからか月を恐ろしく感じて、私は慌てて目をそらしたのだった。
日射しが少し和らいできた頃、やっと景色も変わってきた。ポツポツと家が建ち、その間には道ができている。村、ってことでいいのかな。
目線を先の方へ向けると、建物の数がそのまま増えていくみたい。だからあっちが、中心街ってことなんだろうな。
そのままそちらへ向かうのかと思ったら、ルナが鳥笛を吹いたので、鳥達は左へ急旋回した。
「ここまで真っ直ぐ飛んできたってことは、あっちへ行きたいんじゃないの?」
「あちらは明日行くことにするわ。今日は偵察を兼ねて、教会に泊まることにする」
そう説明したルナの顔が少し険しく見える。
『あのね、ユリーナ。今夜の月はサートが話していた、踊り子の皆が消えてしまったときの逆向きバージョンなんだよ』
…………何ですとっ!? それを早くお言いなさいよ!! 一難去って、また一難って、こおいうことおおおおっ!! 今夜、一体どうなっちゃうの!?




