17.あんたの声が必要だ
レギオンからアニスの魔法と、その実績(バルツァー国第二王子へ与えた影響)について説明されたジークは、はぁ〜…と深いため息をつくとアニスに向き直り頭を下げた。
「本当にすまなかった。話も聞かずに追い払っちまって」
「やっと謝罪してくださいましたね」
悪戯っ子のような笑みでアニスが言うと、ジークはバツが悪そうに頭をかき、もう一度「すまなかった」と小さく口にした。
「…勿論、能力も申し分ねぇが」
咳払いをひとつし、ジークは両膝に手を置き真っ直ぐアニスを見据える。
琥珀色の瞳がアニスを捕らえて離さない。
光の加減で金色にも見える美しい瞳に思わずハッと息を呑んだ。
「あんたと僅かだが時間を共にして、ビジョンが見えた」
「…ビジョン?」
「一緒に働くビジョンだ」
「!それって」
「俺には、あんたの声が必要だ。是非うちのダンジョンの天の声になってくれ」
まるで告白でも受けたかのように、アニスの鼓動が高まる。
なんて真摯な目で言うのだろう。いや、きっとそれが彼の人柄なのだ。
「勿論です。これからよろしくお願い致します」
アニスはそう言って頭を下げた。
頬が紅潮しているのが分かる。
これからの自分はただの貴族令嬢ではなく、ギルドで働く”天の声”。
「(こんなにワクワクするのは、どれくらい振りかしら)」
逸る気持ちを落ち着かせるように胸に手を当てる。
「……そうと決まれば、名前を決めなければね」
それまで見守っていたレギオンが言った。
貴族子女の好奇心や現実逃避での職業体験ーーそれ以外でも、貴族が市井で働くことはある。
単純に領地経営だけで食べて行けずやむなくということもあれば、跡取りの子息令嬢に自領の仕事を身を以て体験させる為など様々だが、どんな場合でも勤労となれば偽名を使うことが多い。他の労働者との考え得る限りのトラブル防止の為だ。その際、雇い主にだけ身分を明かし、名付けも雇い主が行うことが多い。
「ニーナ」
ぽつ、とジークが呟いた。
「え?」
「ニーナ。これからうちで働く、天の声の名前だ」
即答され思わず目を丸くするアニスに、ジークは少し照れたように笑う。
「俺の故郷の言葉で”始まり”って意味なんだよ。新しいダンジョンの始まり、アニス…あんたの新しい人生の始まり」
「…うん、いい名だ。ニーナ」
レギオンが頷く。ニーナ、とアニスは口の中で呟いた。
これから自分の新しい人生が始まる。ジークのギルドで、新しいダンジョンで。
「素敵な名前。気に入りました」
アニスが笑顔で返すと、ジークはほっとしたように微笑んだ。
「じゃあ早速明日から、アナウンスのテストをしたい。ダンジョンコアは今、俺の魔力しか干渉できないようになってる。天の声としてミューズ・ボイスを使うなら、コアにニーナの魔力も同期しとかねぇと」
事も無げに言うジークに、アニスの時が止まる。
コアに魔力干渉?同期?
黙ったアニスを見て意味がわかってないと思ったのか、ジークは説明を始める。
「ダンジョン内で魔法含む攻撃を行えば敵と見做される。ミューズ・ボイスだって例外じゃないから、ダンジョンに自分は味方だと設定しなきゃーー」
「ちょ、ちょっと待ってください。ジークさんはつまり、ダンジョンコアを掌握されているということですか?」
「?そうしないと人の手でダンジョンを管理するなんて無理だろ。ダンジョンは生きた迷宮なんだから」
アニスは絶句した。確かにジークの言う通りなのかもしれないが、言うが易し行うが難しだろう。
「……貴方しか干渉出来ないということは、お一人で?」
「あぁ、他に仲間を募ったんだけどなぁ。なかなか俺の考えに賛同してくれる奴が見付からなくて、そんな時に噂を聞いた伯爵様が声を掛けてくださったんだ」
不意に話が向いたレギオンに驚く。
アニスの言わんとしていることがわかったのか、レギオンは困ったように笑いながら頬をかいた。
「夢を語る若者には幾人も会ってきたがね。ジークは、夢ではなく必ず実現する目標として話をしてくれたんだ。しかも、誰も仲間が居ないからひとりでやるなんて言い出して」
「それは……」
「心配だろう?まだ二十もそこそこの若者が。しかもただ夢に酔いしれているならいい勉強になるだろうと送り出せるが、彼には覚悟があった。手足の一本二本なくしてもこの子は気にしないだろうなと感じる程の」
それは、目に浮かぶようだ。
当のジークは「いやぁ俺も若かったなぁ」と若き日の言動に照れているようだが、これはそんな簡単な話ではない。
「…まぁ、そこで伯爵様が俺に新しいギルドを任せてくださったんだ。攻略しようとしてるダンジョンをギルド直轄にし、必要な資金をギルド運営で賄いながら”セーフティーラビリンス”を実現すればいいってな。とはいえ伯爵様にはかなり出資して頂いたんだが」
「冒険者としてかなり手練の彼だけど、経営はズブの素人だったからねぇ。そこは私の惚れた弱みというやつだ」
昔を思い出したのか懐かしそうに笑い合う二人を遠く感じる。
寂しいという感情ではなく、これは性差に近いような気がした。
ダンジョンコアに関して過去にあった事件として、コアを掌握しようと魔力干渉したところ生存本能でダンジョン自体が暴走してしまい、道が消滅し消息を絶った者や、夥しい数の魔獣が出現し撃破叶わず絶命した者がいた話を聞いたことがある。
それだけ難しいことなのだ。しかしジークは、それを自分がやりたいことの通過点だったように語る。
「(やっていけるのかしら、私)」
不安を抱えながら、アニスは胸元で両手を握り締めた。
続
ここまで呼んで頂きありがとうございます!
次からお仕事編ですと書いときながら、なんか全然仕事しねぇなと書きながら思ってました(笑)
そして、誠に遺憾!毎日投稿したかったのに昨日出来ず!
なるべく毎日投稿がんばります…時間設定とかした方がいいのでしょうが、書いたらすぐ出したい派です。すぐ読んで派です。
なので文脈的におかしいところがありましたらご報告ください。
これからアニスの仕事ぶりちゃんと見てやんよという方はモチベーションに繋がりますので是非【ブックマーク】【評価(いいね?)】ボタンをぽちして頂けますと幸いです。




