18.謹慎の王子(イザベラ視点)
前回の外交夜会でのジュリアンの振る舞いはノーター国から何も言及がなかった為、僅かに残っていた悪意ある噂もすっかりなくなった。
しかし、やってしまった事までなくなる訳ではない。
「ジュリアン、お前は謹慎だ。しばらく公務は行わせない」
夜会から三日後、呼び出された王宮の執務室にて、国王からそう言い渡されたジュリアンは一瞬呆然とし、直ぐわなわなと肩を震わせる。
ジュリアンのプライドは強烈に傷付けられただろうが、イザベラは謹慎だけで済んでよかったと内心で安堵した。
「……何故ですか」
「ほう、何故と聞くか。自分の失態を忘れた訳ではあるまいに」
「……ッそれは、このイザベラが、余計な情報を私に吹き込んで」
「そもそもノーター国の情報を何故、婚約者に調べさせる?いや、調べるまでもなく知っていて当然なのだ。かの国は我が国と友好条約を結んでいるのだから。お前自身が知らないことがおかしい。私からも聞こう、ジュリアン。何故お前は知らないのだ?」
「………」
言葉に詰まるジュリアンを見て、それは確かにそうだとイザベラは思う。
侯爵令嬢として、イザベラは普段から情報収集は行っている。世界情勢や外交問題は勿論、婦女子に人気のお菓子やジュエリー等の情報も必須。
王族ともなれば、一貴族令嬢も知らない国家機密に抵触するような情報にだって手が伸びるはず。
それなのに、ノーター国のごく当たり前の文化すら知らないというのは一体どういう事なのか。
初めて婚約者として公式の場に出るということでイザベラも随分舞い上がって、ジュリアンから色々調べてこいと言われても特に疑問に思わなかった。自分の力が役に立つのだと意気込んでいた。
だが夜会が終わってみれば、底知れないジュリアンへの嫌悪と捻挫した足だけが残った。
足が痛くて動けないせいで、五日ほど自室で静養していたのだが、その間ジュリアンは一度も見舞いに来なかったし、次に会った時も気遣う素振りは一切なかった。
「……謹慎の件は受け入れます。ですが、明日のオズボーン公爵家の襲爵晩餐会には出席させてください!その後は大人しくしています」
「駄目だ。謹慎は謹慎だ」
「父上もご存知でしょう?オズボーン公爵は私を王太子にと推している!ここで欠席などしたら…」
「ならば先日の夜会で失態を犯さなければよかったのだ」
「……に、人間なのですから、失敗のひとつやふたつあるでしょう!」
「少なくとも私はない。ないから今ここに座っている」
ゾッとするくらい冷たい瞳でジュリアンを見つめる国王に、イザベラは身震いする思いだった。
失敗するような奴は王にはなれない、と言外の言葉。しかしジュリアンはそれに気付いていないようで、尚もゴチャゴチャと追い縋っている。
しばらく黙ってジュリアンを見つめていた国王だったが、ふとイザベラに視線を向けてきた。
冷たい瞳に射抜かれ、イザベラは飛び上がりそうになる。
「お前の謹慎は変わらん。……だが、ブルグント嬢の出席は許そう」
「えっ?」
「はっ?」
思いも寄らない言葉にジュリアンとイザベラは同時に素っ頓狂な声をあげる。
「なに、一人で行けと言っているのではない。我が弟、エスターハイト公爵のパートナーとしてだ。あれは独身を貫いているからな」
レイノルド・エスターハイト公爵。現国王の弟で、今回の襲爵晩餐会にて爵位を譲る先代オズボーン公爵とは、若き日の好敵手であり良き親友だ。
ジュリアンとはあまり交流もなくイザベラは直接の面識もない。
「……分かりました。王弟殿下と出席致します」
「い、イザベラ?本気か?」
意を決したイザベラにジュリアンはたじろぐ。大丈夫よ、と小さく安心させるように囁きながら、腹の内では好機だと目を光らせていた。
「(レイノルド・エスターハイト公爵!現国王陛下が誰よりも信頼する王弟殿下…彼の信任を得られれば、ジュリアンが王位を継ぐ道がより明確になるわ)」
イザベラは思わず上がる口角をカーテシーで隠した。
続




