14.求人広告②
「おいジーク、女の子には優しくしてやんな」
ギルド内でたむろしていた冒険者たちの一人が野次を飛ばしてきた。
そう呼ばれ振り返るギルド長、もといジークは余計な口出しすんなとばかりにシッシッと手を払っている。
ジークが言いたいこともわかる。
少し前のアニスのように働く民たちを目にして感動したり、または物珍しさから沸いた好奇心だけで、貴族子女が市井での生活を体験しようとするのはよくあることだった。
特にアニスくらいの十代後半、成人した貴族としての重責がすぐそこに迫っている状況で「民の生活を知ってこそ貴族」と尤もらしい理由を取ってつけ現実逃避のひとつとして、そんな行動を取る者がいる。
色眼鏡で見られても仕方がないとは思うが一緒にされては困る。
アニスはジークを精一杯睨む。
「決して遊びではなく、私は私自身の足で立つ為に」
「わかったわかった、それは是非とも頑張ってくれ。うち以外で」
ジークはそう言いながら、アニスの肩をぽんと叩いた。
真面目に聞いて、とアニスが叫ぼうと口を開いた次の瞬間、目の前に広がる景色が変わっていた。
「えっ…?」
何が起こったのかアニスには理解出来ない。
ほんの一瞬のうちに、ギルドの中から外へーーそれも、ギルドから程遠い市場の入口に居た。
ジークに触れられた右肩を無意識に触る。
微かに温かい。その温かさは、この三ヶ月の特訓によって感じることが出来るようになった魔力痕、つまり魔法を使われた痕跡だ。
「(魔法で私をここまで飛ばしたのね……人ひとりを別の場所に移動させるなんて、膨大な魔力を使うはずなのに)」
とはいえ、ここまで拒絶されてしまっては戻ったところで門前払いだろう。アニスは短くため息をつく。
「(せめて日を改めないとね。面接をされた上で落とされるならまだしも、話すら聞かないなんて納得できないわ)」
まだ、自分から新しい世界へ足を踏み入れようとした初日だ。むしろ自分が簡単に諦められないと思わせてくれる態度を取ってくれたと感謝すべきだろうーーそうアニスは自分に言い聞かせた。
ーボゴッッッ!!!ー
「イッッッテェ!!!」
「人の話は最後まで聞いてください」
アニスを瞬間転移で飛ばした直後、ジークの後頭部に手のひらサイズの鉛製の文鎮が直撃した。
痛みに蹲るジークを冷静な目で見下ろすのは、文鎮を放った張本人であるレナ。周囲はあまりの容赦のなさに無言で震え上がる。
「レナちゃんだけは怒らせちゃ駄目だよなぁ…」
「何で学習しねぇのかなジークの奴は」
「ずっと戦ってばっかで脳みそまで筋肉になっちまってんだろ」
「ッ…聞こえてんぞてめぇら…」
キッと睨むジークに「こえ〜(笑)」と冒険者たちに笑いが起こる。
床に落ちた文鎮を拾い上げると、しっかり床がへこんでいる。経費で直せるのかこれ…と後頭部を擦りながらため息をつく。
「レナ、物使うのはやめてくれ。こんなもん他の奴に当たったら死ぬぞ」
ジークは常に、ごく微量の魔力でオーラのように全身を薄く覆っている。人の目には見えない鎧のような状態だ。
簡単な魔法の攻撃なら何もせずとも跳ね返すことが可能で、物理攻撃でも衝撃を半分以上なくすことができる。
「ご心配なく。私、結構コントロール力あるので」
「ハァ……で、何だよ話は最後まで聞けって。何か言いかけたか?お前」
「言いかけましたよ。『こちらの方は、ヒューゲル伯爵のご養女様です』と」
「………は?」
ぽかんとするジークに、再び冒険者たちに笑いが起こる。
「おいおいジーク!お前マジかよ!」
「さすが二十六の若さでギルドマスターやってる男は違うなぁって思ったのによ!」
「まさか気付いてなかっただけかよ!」
サーと顔が青くなるジーク。レナはさっさと受付に戻ってしまうし、さっきまで素知らぬ顔で掃除をしていたレイクに視線を向ければ呆れたように笑っている。
「俺も分かってましたよ。てか、顔は知らなかったとしても貴族の紋章見たでしょ?フツー気付くじゃんそれで」
「貴族の紋章なんてどれもごちゃごちゃしてて、いちいちどこの家だとか覚えてらんねぇよ」
「だとしても自分の街の領主サマですよ?流石にフォロー出来ないっすわ」
レイクにも匙を投げられたような言い方をされ、シンプルにジークは傷付いた。
だが、こうしてはいられない。そうと分かれば直ぐに謝罪に行かなければ。
ジークは慌てて、ギルドを後にした。
続




