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11.最初の綻び(オーウェン視点)

「これはこれは、ノーター国の使者殿!ようこそお越しくださいました」


またか。


調子のいい声音が背後から聞こえ内心うんざりしたオーウェンだったが、その声の主を見たラザナス卿の顔が急に強張った。

一瞬不思議に思いながら振り返ると、流石に驚き目を見張った。


いつもオーウェンが他国の要人と話していると割り込んでくる忌々しい弟であるジュリアンが、あろうことか手のひらをこちらに向けながら近付いてくる。

斜め後ろには青ざめたイザベラを伴って。


何を考えているんだと窘めかけ、ふとある考えが過ぎり静観することに決めた。


だが、それも数分と持たなかった。




ーーーラザナス卿を連れ、会場外にあるガゼボへ腰を落ち着かせる。


オーウェンとラザナス卿は元々面識があったが、ジュリアンと卿が改めて挨拶をするのは今日が初めてだった。

ジュリアンの声が聞こえた時は、外交用の好青年の顔でたらし込む気かと思ったのだが。


「(これはやはり…)」


とその時、ラザナス卿がため息をついた。

オーウェンはすぐに思考をやめ、ラザナス卿に向き直る。


「愚弟が大変失礼致しました」

「オーウェン様が謝ることではありません。しかし…弟君は随分、噂で聞いていた人物と違って驚きました」

「えぇ、私も驚きました」

「……と言いますと?」


思ってもない返しだったのかラザナス卿は少し意外そうに問うた。

あまり事は荒立てたくない。まだ、今は。


「弟は……兄の私が言うのもなんですが、とても聡明で穏やかな青年です。有難いことに弟と接した皆様が、好青年だと褒めてくださいます」

「えぇ、正にそのように聞いておりました」

「ですが先程の弟はまるで別人。ここから推測になりますが、恐らく誰かが悪意を持って弟に何か言い含めたのではないかと」

「何ですって?」

「それ以外に考えられない。お恥ずかしい話ですが、我が国はまだ王太子が決まっておりません。弟は優秀なので、彼を国王にと推す声があるのです」

「つまり、貴方の派閥と弟君の派閥がある」

「えぇ。弟に何かするとしたら、私の派閥の誰かが…。申し訳ありません、このような内輪の揉め事に巻き込んでしまって」


オーウェンは悩ましげな顔で深く頭を下げる。

名代とはいえ伯爵、他国の王子から頭を下げられ慌てふためきながら立ち上がった。


「おやめください!人目がないとはいえ、一国の王子が頭を下げるなど」

「弟の失態の理由が私にある。立場はどうあれ、無関係の名代様に無礼を働いたことはきちんとお詫びしなければ私の気が済みません」

「分かりました。流石に報告しないという訳には参りませんので、ジゼル王太子にはオーウェン様から心からの謝罪を頂いたと力説して必ずご納得して頂きます。なのでどうか、頭をお上げになってください」


ジゼル王太子。オーウェンも面識があるノーター国の次期国王。

彼は賢く強かな男だ。こんな事で大事にはしないだろう。ましてオーウェンという第一王子からの謝罪もある。


「(まぁ、こんな所か)」


これ以上はラザナス卿が不憫だと判断し、遺憾なる思いを滲ませた顔を作り頭をあげた。

ホッとした様子のラザナス卿に、内心で同情する。巻き込んで不快な思いをさせてしまったことには変わりない。




ーーーラザナス卿と別れ、オーウェンはそのまま王子宮へと戻った。


今日の外交夜会は、次代を担う若者を中心とした集まりであった為、親世代は不在。バルツァー国王夫妻も不参加だった。


だが話はすぐに伝わるだろう。いや、伝わった方がいい。

その方が恐らく話が早い。


「…アニス・ランバート。いや、今はヒューゲル嬢か」


ぽつりと呟きながら執務机の椅子に深く腰掛ける。


アニスが居なくなった初めての夜会で晒された、弟の醜態。



元々、ジュリアンの二面性に違和感を抱いていた。

傲慢で怠惰で、思ったことが全て顔に出る。

オーウェンがよく知るそんな一面を丸ごと消し去ったかのような好青年振り。ふとした息つく瞬間にさえ傲慢な顔が一瞬たりとも見えないのも不気味だった。


そしてその好青年なジュリアンは、『囁き令嬢』のあだ名を知った同時期に見られるようになった。


「(彼女の祖父母は、魔法の盛んなエーテライトで伯爵位を持っている…。あのジュリアンはアニスの何らかの力が作用していたと見て、まず間違いない)」


アニスの力が未知だった為にこれまでは接近するのを躊躇っていた。

だが婚約破棄と事実上の国外追放となった身の上を受け入れたのを考えると、アニス自身に魔法を使っていた自覚がなかったかもしれない。


そうなると話は変わってくる。


「(相手を別人のように変えてしまう魔法など、どんな魔導書にも記載がなかった。今、エーテライトに渡ったアニスなら力の存在もその使い方も手にするかもしれない)」


弟の元婚約者の動向を追う。さて自分の婚約者に何と説明したらよいやらと、オーウェンは苦笑する。


まずは国王に、この事実を知っているかどうか。それを確かめなければ。


オーウェンは謁見の申し入れを執事に行うよう命じた。









続

ここまで読んで頂きありがとうございます。

ザマァを書きたいばかりに早足で来ましたが(笑)次からアニスのお仕事編が始まります。よければ見守ってやってください!

面白いと思ってくださった方は、モチベーションに繋がりますので、ぜひ【ブックマーク】や【評価】で応援をよろしくお願いいたします!

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