第三十話 空をどう戦うか
奈々の味噌汁を食べた翌々日、啓介の短い帰郷休暇は終わった。
もう少しだけ故郷にいたかった。母の飯を食べ、父と畑を歩き、奈々と取り留めのない話をしているうちに、身体の方までようやく戦場から帰ってきたことを理解し始めていた。それでも軍人である以上、いつまでも村にいるわけにはいかない。
届いた命令書を眺めながら、啓介は小さく息を吐いた。
「……またこれか」
「何が?」
隣から奈々が覗き込む。
「兵学校を出る時も、こんな感じだったんだよ。何をするのか、ほとんど書いてなくてさ」
「それで満州行ったんやろ?」
「そう。気づけば一年半だ」
奈々は命令書へもう一度目を落とし、少し考えてから言った。
「ほんなら、今回も嫌な予感するね」
「奈々まで言うなよ」
「前例あるやん」
否定できず、啓介は笑った。
翌朝、駅まで見送りに来たトヨは、案の定、持ち切れないほど食べ物を持たせようとした。途中で食べればいい、余ったら誰かに分ければいいと言って聞かず、啓介が困っていると、少し離れて見ていた重吉が息子の肩へ手を置いた。
「身体、大事にせえ。無茶すんな」
以前なら「分からんことは聞け」と送り出した父から、不意にそんな言葉を掛けられ、啓介は一瞬だけ返事が遅れた。
「……ああ。分かった」
列車へ乗る直前、今度は奈々が呼んだ。
「啓ちゃん」
「ん?」
「いってらっしゃい」
以前なら、ただの挨拶だったかもしれない。
今は違って聞こえた。
また帰ってきて。
そう言われているような気がして、啓介は自然に笑った。
「ああ。行ってくる」
◇
休暇を終えたからといって、すぐ次の任務へ移ったわけではなかった。
九月末から十月にかけて、ノモンハンから持ち帰られた膨大な記録の整理が続いたのである。
何機を撃墜したか、誰が戦功を挙げたかだけではない。どの隊形で損害が増え、どの戦い方をした時に未帰還機が減ったのか。帰還した航空機のうち、翌日に何機を再び飛ばせたのか。無線はどの距離で通じなくなり、航空偵察で得た情報がどれほど早く地上部隊へ届いたのか。
海軍機が撮影した写真を陸軍参謀が読み、陸軍の砲兵観測記録を海軍航空関係者が調べる。戦場で必要に迫られて始まった情報交換が、停戦後には中央へも広がり始めていた。
啓介自身も何度となく呼び出され、四機でどう動いたのか、なぜ敵を深追いしなかったのか、なぜ撃墜数だけでなく帰還数や翌日の稼働機数まで記録したのかと、同じような質問を繰り返し受けた。
不思議だったのは、説明するたびに自分の答えも少しずつ変わっていったことだった。
最初は、ただ四人で帰りたかった。
そのために試した方法が他の隊へ渡り、そこで失敗し、直され、また別の部隊へ広がった。満州で一年半かけて続けてきたことは、いつの間にか自分たち四人だけの戦い方ではなくなっていた。
そんな十月下旬のある日、海軍航空本部への出頭命令が届いた。
今回も詳しい用件は書かれていない。
「……やっぱり、嫌な予感がするな」
啓介は一人で呟いた。
◇
指定された部屋の前で軍装を整え、戸を叩いた。
「越智啓介海軍大尉、出頭いたしました」
「入れ」
聞き覚えのある声だった。
「失礼します」
戸を開けると、大西瀧治郎が机の向こうに座っていた。
「おお、来たか。随分偉くなったじゃないか、大尉殿」
「その呼び方、本当にやめてください」
「何でじゃ。正式な階級だろう」
「自分でもまだ慣れてないんです」
「二十一歳だからな」
「それ、会う人全員に言われるんですよ」
大西は愉快そうに笑った。
「故郷ではどうだった」
「大変でしたよ。駅に村中集まってました」
「結構なことじゃないか」
「母には階級も何も関係なく抱きつかれるし、昔の先生には子供の頃の失敗を全部ばらされるし」
「いい村だな」
「否定できないのが困るんです」
そこまで話したところで、大西が何でもないように言った。
「奈々という娘にも会えたんだろう」
啓介の動きが止まった。
「……何でそこまで知ってるんです?」
「さてな」
「大西大佐」
「安心しろ。私信を盗み読んだわけじゃない」
「当たり前です!」
完全に遊ばれていると悟り、啓介は諦めて椅子へ腰を下ろした。
「それで、今度は何をさせる気です?」
その問いで、大西の表情が少し変わった。
「ノモンハンの続きじゃ」
「また満州へ戻るんですか」
「違う」
机の上へ何冊もの資料が置かれた。
兵学校時代の論文。満州で残した研究記録。ノモンハンの戦闘詳報。そして、陸海軍双方がまとめた戦訓。
「戦場では、必要に迫られて色々やったな」
「はい」
「今度は、それを戦場から離れて考える」
「何をです?」
大西は啓介を見た。
「日本は、空をどう戦うのか」
問いが大きすぎて、すぐには返事が出なかった。
「……随分、大きいですね」
「大きい」
「俺、大尉になったばかりなんですけど」
「だから、お前一人に考えさせるわけじゃない」
「誰が来るんです?」
大西が時計を見る。
「英国から一時帰朝させた。もう着く頃じゃ」
啓介の表情が固まる。
「まさか……」
「源田実少佐じゃ」
「…………」
「どうした」
「名前は知っています。有名ですから」
知っているどころではない。
二〇〇五年の片瀬慶介として海軍航空史を読めば、避けて通れない人物だった。
「俺のせいで、ロンドンから呼び戻されたんですか」
「お前だけが理由ではない。欧州では戦争が始まっとる。向こうで見てきたものと、こちらで得た戦訓を一度突き合わせる必要がある」
「なら良かった」
「まあ、お前も理由の一つではあるがな」
「全然良くないじゃないですか!」
大西が笑ったところで、廊下から足音が近づいてきた。
◇
「失礼します」
戸を開けて入ってきたのは、細身で精悍な顔立ちの海軍士官だった。
「源田実海軍少佐、一時帰朝いたしました」
「ご苦労」
大西が応じると、源田は敬礼を解きながら少し不満そうに言った。
「英国では今まさに見るべきものが増えているところだったのですが」
「帰って早々それか」
「事実です。ドイツも英国も、これから航空をどう使うかで戦争そのものが変わるかもしれない」
「だからこそ戻したんじゃ。こちらにも見てほしいものがある」
大西が啓介を示した。
「越智啓介大尉」
源田の視線がこちらへ向く。
「……君か」
「はい?」
「四つの影」
予想もしなかった言葉に、啓介の顔が引きつった。
「英国までその名前が行ってるんですか」
「送られてきた資料に書いてあった」
「消してほしい……」
「なぜだ。嫌いなのか」
「別に嫌いじゃないですけど、敵につけられた呼び名を本人が喜んでるみたいで恥ずかしいでしょう」
源田の口元が僅かに上がった。
「源田実だ」
「越智啓介です」
二人は敬礼を交わした。
目の前の人物が、この先どれほど日本海軍航空へ影響を与えることになるのかを知っているだけに、啓介は少なからず緊張していた。
だが、源田が最初に口にしたのは、賞賛でも質問でもなかった。
「私は、君の戦い方には反対だ」
「……はい?」
横で大西が椅子へ深く腰を下ろした。
「早いな。まだ座ってもおらんぞ」
◇
源田はノモンハンの戦闘詳報を机へ置いた。
「深追いを避け、搭乗員を残し、任務を優先する。翌日の稼働率まで見る。理屈は分かるし、実際に損耗が減ったことも認める」
「なら、何が反対なんです?」
「それだけでは敵を潰せん」
源田は黒板の前へ立つと四機を描き、その周囲へさらに機影を増やしていった。
「君は四機で戦った。だが戦争は四機では終わらない。敵が百機を集めてきたなら、こちらも必要な兵力を集めて叩かなければならん。航空兵力の強みは、陸上部隊より遥かに速く、必要な場所へ戦力を集中できることだ」
源田は描いた機影を大きな円で囲んだ。
「決定的な場所へ決定的な数を集め、敵航空兵力を叩いて制空を取る。その瞬間に攻撃隊を通す。潰せる時には潰さなければ、敵もまた次の日には飛んでくる」
「それは分かります」
「なら、なぜ敵を追わん」
「追わないんじゃありません。任務を捨ててまで追うな、と言ったんです」
「敵航空兵力の撃滅そのものが任務なら?」
「その時は追います」
源田の目が僅かに細くなった。
「ほう」
「俺は、戦わない方がいいと言ってるんじゃありません。一機落とせそうだから追う、一機見つけたから追うと、それぞれが勝手に敵を追い始めたら、せっかく集めた兵力がそこでばらばらになります」
「だが、制空を取るには敵を撃破しなければならん」
「必要な時には撃破します。少佐が今言った、決定的な場所で」
「そこでは損害を恐れず投入するのか」
「必要なら」
「なら、私と同じじゃないか」
「違います」
啓介は黒板へ目を向けた。
「その一回で、全部使い切るつもりはありません」
源田が黙る。
「こちらが決戦だと思って、持っている航空兵力を全部ぶつける。それで本当に戦争が決まればいい。でも、もし決まらなかったらどうします?」
「決まらなかったら?」
啓介は源田を見た。
「その決戦が、決戦じゃなかったら?」
部屋が静かになった。
大西も口を挟まない。
「こちらは全部を出した。でも、敵にはまだ次がある。そうなった時、その次を何で戦うんです?」
源田はしばらく啓介を見ていた。
「決定的な一度を作らず、いつまで戦争を続けるつもりだ」
「決定的な一度は作ります。でも、一度目で決まらなかった時に、二度目を作れる軍隊にもしておきたいんです」
啓介は黒板の機影を指した。
「集中しないんじゃない。集中する。でも、生き残って、もう一度集中できるようにもしたい」
源田は腕を組んだまま、その言葉を考えていた。
やがて、少しだけ笑う。
「……欲張りだな」
「海軍でしょう?」
「それを君が言うのか」
「大西大佐に鍛えられました」
「何でもわしのせいにするな」
後ろから声が飛び、源田が初めて笑った。
◇
「なら、四機から先へ進めよう」
源田は黒板へ向き直った。
「四十機を飛ばすとする。君ならどう動かす?」
「全部を一人で細かく動かすのは無理です。四機単位まで上が直接指示したら、無線が命令だけで埋まります」
「なら各隊長へ任せる。その隊長が落とされたら?」
「次席が引き継ぐよう、最初から決めておきます」
「無線が切れた時は?」
「その時の行動も合わせておく。ただ、計画を細かくしすぎたら、状況が変わった時に動けなくなります」
源田が振り返った。
「なら何を揃える」
「優先順位です。何のために飛んでいるのか、何を守るのか、どこまで追っていいのか。そこが分かっていれば、細かな状況は現場で判断できます」
「隊長によって判断が違うぞ」
「違っていいと思います」
「本当に?」
「違いが出たら、帰ってから比べます」
啓介は机に置かれた戦闘詳報へ目をやった。
「上手くいった隊と失敗した隊で、何が違ったのかを見る。無線なのか、隊形なのか、隊長の判断なのか。それとも最初に決めた基準そのものが悪かったのか。分かれば、次で直せます」
源田は黒板の四機へ視線を戻した。
「君は、四機編隊そのものを作りたかったわけではないんだな」
「最初は、四人で帰りたかっただけですよ」
「それが、こんな話になったのか」
「俺も途中から分からなくなってます」
源田が笑った。
その時、扉が叩かれた。
◇
「失礼します」
入ってきたのは、陸軍の軍服を着た若い将校だった。
「陸軍騎兵大尉、堀栄三です」
大西と源田へ敬礼したあと、啓介へ向き直る。
「越智大尉。初めまして」
「初めまして」
二人が敬礼を交わすと、堀は鞄から一冊の資料を取り出した。
「越智大尉の戦闘詳報は読ませてもらいました。随分、変わったところまで記録しておられますね」
「撃墜数以外のところですか」
「ええ。そこを見たくて来ました」
大西が二人へ席を勧めた。
「堀大尉には、ノモンハンの地上戦訓を情報や教育へどう戻すか見てもらっとる。騎兵出身でもあるから、今回の機械化戦についても話を聞け」
「自分でよろしいのか、まだ疑問ですが」
堀が苦笑した。
「その台詞なら俺も何度も言いましたよ」
「越智大尉もですか」
「俺なんか二十一ですよ」
「それを聞いて少し安心しました」
「安心するところです?」
「少なくとも、自分一人だけ場違いではなさそうです」
源田が呆れたように二人を見る。
「大尉同士で何を慰め合っとる」
小さな笑いが起きたところで、堀が黒板へ目を向けた。
「それにしても、随分と大きな航空戦をしておられますね」
「四十機程度を一つの目的へ集中させる場合を考えていたところです」
源田が答えると、堀は黒板を見たまま首を傾げた。
「その四十機、どこへ飛ばすんです?」
源田の言葉が止まった。
「どこへ?」
「敵がどこにいるのか、誰が見つけるんでしょう」
啓介も黒板を見る。
「四十機を集めることには意味があると思います。ただ、敵のいないところへ飛ばしたら、四十機分の燃料を使って帰ってくるだけです」
啓介は思わず笑った。
「痛いところ来ますね」
「航空戦術は専門外ですから、分からないところから聞いているだけです」
「いや」
源田も笑った。
「その通りだ」
◇
堀は鞄から何枚かの航空写真を取り出した。
啓介には見覚えがある。ノモンハンで撮影された、敵車列や集積地の写真だった。
「私が今回、一番興味を持ったのは、写真そのものではありません」
その横へ、地上斥候や砲兵から上がった報告書を並べる。
「航空隊が見つけて帰る。地上から上がった報告と合わせる。そこで初めて、敵が何をしようとしているのか見えてきた。問題は、その間にも敵は動いていることです」
堀は時計を指した。
「午前八時にここにいた車列が、正午にも同じ場所にいる保証はない。情報には寿命があります」
源田の表情が変わった。
「海上なら、なおさらだな。敵艦隊は動き続ける」
「ええ。航空機が一時間で届く場所へ、情報が三時間掛けて届いていたら意味がありません」
啓介は机の上の写真を見た。
ノモンハンでは、とにかく見つけて帰ることを考えていた。
だが、帰った情報が使われなければ、それで終わる。
「飛行機だけ速くしても駄目なんですね」
「そういうことです」
堀が答える。
「見つけるところから、攻撃隊が飛ぶところまでを速くしなければならない」
源田が黒板へ一本の線を加えた。
「まず敵を見つける。間に合ううちに位置を知る。そこへ戦力を集める」
「集めた戦力を、ばらばらにしないで使う」
啓介が続けた。
三人の視線が同じ黒板へ集まった。
◇
それまでほとんど口を挟まずに聞いていた大西が、煙草を灰皿へ置いた。
「見事なくらい、見とるところが違うな」
三人が振り返る。
「源田は、必要なところへ大きな力を集める。越智は、集めた力を一度で潰さずに使う。堀は、そもそもどこへ集めればいいのかを考える」
大西は黒板の前へ立ち、それぞれが描いた線を眺めた。
「なら、三つ繋げろ」
啓介が苦笑した。
「簡単に言いますね」
「簡単ではない。だから集めた」
それ以上、大西は説明しなかった。
源田が描いた航空兵力の手前へ堀が情報の線を伸ばし、その中を啓介が四機ずつに分けていく。
朝には別々だったものが、黒板の上で少しずつ一つの形になり始めていた。
◇
午後に入る頃には、議論は指揮の仕方へ移っていた。
四十機を一つの目的へ向けるなら、四機の時と同じように全員へ細かな指示を出すことはできない。無線にも限界があり、上がすべてを決めようとすれば、判断が遅れる。
「結局、隊長に任せる部分が大きくなる」
源田が言った。
「だから、命令の内容より、何を優先するのかを合わせておく方がいいと思います」
「それができる隊長を何人も育てる必要があるな」
その言葉で、啓介は満州で一緒に飛んだ者たちを思い出した。
「実戦経験のある人間を、ずっと前線だけで使うのは勿体ないかもしれません」
「強い奴を後ろへ下げるのか?」
「全員ではありません。一定期間戦った者の一部を教官へ戻して、新人へ教えてもらうんです。前線で覚えたことも一緒に持ち帰れる」
源田は少し考えた。
「前線は嫌がるぞ」
「分かっています。でも、一人の名人が戦果を増やし続けるより、その人が何人もの操縦者を育てた方が、長く見れば強くなります」
堀が頷いた。
「教育へ戦訓を戻せるのも大きいな。昔のやり方を、そのまま教え続けずに済む」
「はい」
そこで大西が時計を見た。
「その辺りは、また詰めよう。今日だけで全部決める話でもない」
啓介は黒板を振り返った。
朝は四機しかなかった。
今は、大きな航空兵力、その行き先を決める情報、現場で判断する隊長、さらにその隊長を育てるところまで話が広がっている。
「これ、本当に航空戦の話ですか」
思わずそう言うと、源田が呆れたように笑った。
「戦闘機の旋回半径だけ話して戦争に勝てるなら、こんな会議はいらん」
「それはそうですけど」
「明日は、もっと航空機そのものの話になる」
大西が言った。
「明日もあるんですか?」
「ある。それに人数も増える」
「誰を呼ぶんです?」
「作る側じゃ」
啓介は嫌な予感がした。
「技術者ですか」
「お前たちは今日一日、何機集める、どこへ飛ばす、どう戦わせると好き勝手言った。なら今度は聞いてみろ」
大西は黒板を見た。
「そんな航空機を、本当に作れるのかとな」
啓介は少しだけ顔をしかめた。
「……怒られそうですね」
「今さらじゃ」
◇
会議を終え、資料をまとめていると、源田が声を掛けた。
「越智」
「はい」
「最初に、君の戦い方には反対だと言ったな」
「言いましたね」
「半分は取り消す」
啓介は手を止めた。
「半分?」
「君のやり方だけでは、大きな航空戦には勝てん。だが、私のやり方だけでも足りんらしい」
源田は黒板へ目を向けた。
「なら」
「何だ」
「四機を四十機にします?」
「する」
即答だった。
「じゃあ、一つお願いがあります」
「言ってみろ」
「四十機を連れていっても、戦闘が始まったら四機に戻せるようにしてください」
源田は少し考え、それから黒板の大きな円と、その中に並ぶ四機を見比べた。
「大きく集めて、小さく戦う」
「はい」
「面白い。やってみる価値はある」
すると、帰り支度をしていた堀が横から口を挟んだ。
「その前に一つだけ」
二人が振り返る。
「その四十機をどこへ飛ばせばいいのか、ちゃんと教えてください」
一瞬の沈黙のあと、源田が笑った。
啓介もつられて笑う。
大西は煙草を灰皿へ押しつけながら、三人を呆れたように見回した。
「……面倒な連中を集めたな」
「大佐が集めたんでしょう」
「そうだったな」
啓介は、もう一度黒板を振り返った。
朝、最初に描かれたのは四機だった。
満州の空を一緒に飛んだ河野と真鍋、相馬、そして自分。その四機の周囲へ源田が何十機もの機影を増やし、堀がその先へ情報の線を伸ばした。
四つだった影は、いつの間にか黒板いっぱいに広がっていた。




