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世界改稿日記 ~なろうによる世界破綻~  作者: 黒瀬 量衡


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第七十二話 『キャラクター一覧を再編します。』

『キャラクター一覧を再編します。』


 朝、日記帳を開くと、前回とは少し違う形式で文字が並び始めた。


『今回は、氏名および経歴によって個体識別可能な「人物」と、物語上の呼称のみが確認されている「匿名存在」を分離して記載します。両一覧間の対応関係――未確定。同一人物が双方へ記載されている可能性、すべて別人物である可能性、いずれも排除しません。』


「……余計分からなくなる一覧だな」


『人物一覧。』


『ルーク。成人男性。農村出身、農家の三男。前世は日本人会社員。小説投稿サイトおよびAIを利用した執筆経験あり。現世では教会記録によって成人済みと確認。現在はパン屋を生活拠点とする新人冒険者。日記帳の記載を物語上の情報として意味を伴って認識できる唯一の人物。戦闘能力――低。物語構造理解――高。世界改変への対処成功率――低。現在、主人公生活圏内の複数の成人女性と親密関係を形成しており、人間関係は大幅に複雑化。』


『女将。成人女性。王都でパン屋を経営。長期間、ルークを「うちの倅」と呼び、社会的養育者に近い位置にいた。血縁関係――なし。生活能力、経営能力ともに高。鉄鍋による魔物撃退実績あり。現在、ルークとの恋人関係が成立。疑似親子的な関係も消失しておらず、両者が併存する。』


 そこから先が長かった。


『主人公への感情――極めて強い。長期間、年長者、養育者、店主という社会的役割によって異性的欲求を抑制していたため、関係成立後の反動が大きい。主人公への世話焼きは以前と同様に継続する一方、異性として意識させる行動および誘惑――著しく増加。身体的距離への遠慮――大幅に低下。日常的に腰、胸元、背中等へ触れ、主人公へ自身の身体を意識させる接触を行う。衣服の下に下着を着けていないことなどを耳元で意図的に告げ、主人公の反応を楽しむ傾向あり。主人公への独占的感情は強いが、現段階で他の成人女性との関係を全面的に排除する行動は取っていない。抑制期間が長かったため、現在の恋愛感情および身体的親密さの表出は、他女性と比較して特に強い。』


 パン屋の奥では、当の女将がいつも通り働いている。俺を見つけると肩へ手を置き、すれ違いざまにわざとゆっくり腰へ触れてから何食わぬ顔で厨房へ戻った。


 日記の方が正しかった。


『リサ。成人女性。魔術師。赤髪、黒ローブ。大型変異スライム事件の生存者。スライムに関連する恐怖、幻触、過剰攻撃傾向は残存するが、戦闘、仕事、社会生活における自立性は維持。主人公への信頼――極めて高。主人公との親密関係――継続。』


『ただし、主人公の周囲に親密な成人女性が増加したことで、以前と比較して主人公と二人きりで過ごす時間は減少。リサ本人もそれを認識している。関係を解消する意思はないが、主人公へ常時同行する必要性も感じなくなり、ギルドへの訪問、魔術関連調査、物資購入、情報収集、単独依頼等、一人で行動する時間が増加している。単独行動の増加が単純な自立の進行か、主人公との距離変化に対する別の適応であるか――現段階では未確定。』


 最近、リサが朝からいない日が増えたのは確かだった。帰ってくれば今までと変わらない。それでも、俺の知らない時間は以前より明らかに増えている。


『セリア。成人女性。二十代半ば。冒険者歴九年、剣士。六人パーティーで本人以外の五名を失い、生存者罪悪感、悪夢、孤独への恐怖を経験。その後、社会的存在および自己認識の消失事象を経験し、現在は日常生活および戦闘へ復帰。主人公との親密関係は本人の選択によって成立。』


『本人は「今の私が決める」と明確に自己決定を表明し、外見上は自己認識、身体所有感、意思決定能力ともに安定しているように見える。ただし、それをもって人格的回復および自己確立が完全に終了したとは断定しません。現在の安定が長期的に維持されるか、別の状況下で再び変化するか――未確定。』


「そこは断定しないのか」


 以前なら『回復成功』と書きそうなところだった。今のセリアは確かに強い。だからこそ、本当にそれで終わったのかは、俺にも分からない。


『ミレア。成人女性。元冒険者。過去に重大な被害、仲間の死亡、婚約解消等を経験。その後の事件により両下肢および左上肢を喪失。右上肢のみ生来の身体として残存。現在は三肢の魔導義肢を使用し、歩行、接客、細作業が可能。パン屋勤務へ復帰。幸福感――高。対人関係――良好。笑顔――かわいい。主人公との親密関係――本人の意思により成立。』


 それだけだった。


 王都で続いている片手だけを残す殺人事件について、日記は一文字も続けなかった。


『マルタ。成人女性、二十代後半。護衛職。西方式剣術を使用。セリアとの友好関係――良好。主人公との親密関係――本人の意思により成立。』


『エリナ。成人女性、二十代半ば。魔導具設計補助。魔導義肢への知識あり。ミレアとの友好関係――良好。主人公との親密関係――本人の意思により成立。』


『サラ。成人女性、三十歳前後。薬師兼採集屋。薬草および野外採集知識――高。リサとの友好関係――良好。主人公との親密関係――本人の意思により成立。』


『クラリッサ。成人女性、二十代後半。元商会勤務。帳簿管理、料理、掃除等に習熟。現在はパン屋運営を補助。女将との相性――極めて良好。主人公との親密関係――本人の意思により成立。』


 ここまでが、今の俺の生活圏だった。


『以下、遠隔地または並行ストーリー上の人物。』


『エルナ・ヴェイス。成人女性、二十八歳。元冒険者。オークによる長期拘束から救出された後、人間社会への復帰を試みたが、最終的に自身の意思で人間の生活圏を離脱。最後に直接確認された段階ではゴブリン集団内で生活し、集団運営に大きな影響を与えていた。現在位置および現在状態――更新対象外。』


『カーナ。成人女性、約三十歳。元魔術師、研究関連職。魔道具事故により魔力生成能力を大幅に喪失。黒色未知素材を利用した魔力移送実験へ本人の意思で参加し、複数種由来の魔力的性質が定着。異種形質を次世代へ継承可能な状態が成立し、研究上「キメラ母体」と分類された。後に所在不明。現在位置および現在状態――更新対象外。』


『ティナ・ローヴェル。成人女性、二十六歳。王都南地区の水路管理業務に八年間従事。水音の違いから閉塞、漏水、逆流等を発見できる。地下水路における異常な脈動音を確認。当該ストーリー――並行維持。』


『家族。父――故人。母――存命。弟――二十二歳、存命。家族との関係――良好。本人は家族の生活を守ることを重視。恋人――成人男性、家具職人。関係――継続。ティナが重要視するものは、家族、恋人、自身の仕事、身体的自立、および自分の仕事によって他人の普通の生活を守ること。』


 ティナはまだ、普通の生活の中にいるらしい。


『以上――固有人物一覧。』


 頁の中央へ線が引かれた。


『以下の存在は、上記人物と統合しません。』


『匿名存在一覧。』


『ゴブリンの女王。成人女性とされる。固有名――不明。人間社会を離れ、ゴブリンを中心とする共同体で女王に近い立場を持つ。集団内の有力個体とつがい関係を形成し、人間社会由来の知識を利用して食料保存、衛生、防衛、警戒、子育て、集団組織等を改善。共同体内には複数の成人女性および、人間とゴブリン双方の特徴を持つ次世代個体が存在するとされる。本人は現在の共同体へ適応し、元の人間社会へ戻ることを必ずしも望んでいない。固有人物一覧との対応関係――未確定。』


 エルナとは書かれない。


『キメラの母。成人女性に由来する可能性のある大型知性存在。固有名――不明。通常の人間から大幅に変化した身体を持ち、複数種由来の特徴を同時に保持。森林地帯を移動し、人間、亜人、ゴブリン、知性を持つ魔物等、異なる種族間の意思疎通を仲介できるとされる。複数の異種的生殖構造を持ち、異なる父系由来の次世代を同時期に保持可能。出生した個体には既存種へ分類できない新種も存在する。固有人物一覧との対応関係――未確定。』


 カーナとも書かれない。


『片手だけを残す殺人鬼。王都周辺で発生する連続猟奇殺人事件の実行者とされる匿名存在。氏名、年齢、性別――不明。被害者は四肢のうち片手のみが残された状態で発見され、その手を利用して死亡まで這った痕跡を残す。対象選択には独自の善悪基準が存在する可能性が高い。初期には明確な加害歴や悪評を持つ者が多かったが、その後は社会的・法的な悪人とは認識されていない人物も対象となっている。犯人へ直接結びつく証拠――なし。固有人物一覧との対応関係――未確定。』


 ミレアとも。


 当然。


 書かれない。


 さらに一項。


『人間オルゴール。』


「……増えた」


『成人女性とされる。固有名――不明。歌声に特殊な作用を持つ女性が、本人の意思に反して継続的に歌唱させられる状態へ置かれたとする遠隔地ストーリー上の呼称。逃走や通常生活への復帰を困難にする不可逆的な身体変化を受ける一方、歌唱能力そのものは意図的に保持される。生命、人格、記憶および歌う能力が残されることで、本人が単なる死者ではなく、継続利用可能な「人間オルゴール」として扱われる構造。』


 嫌な言葉だった。


『歌声の用途――治癒または回復に関係する可能性あり。現在位置、拘束主体、本人の生死および現在の意思――未確定。』


 以前聞いた。


 遠方の。


 怪我の治りを早める歌。


 当然。


 頭には浮かぶ。


『既知の歌姫、遠方で噂された女性、その他固有人物との対応関係――未確定。』


「やっぱり確定しない」


『以上、匿名存在四種。』


『ゴブリンの女王。』


『キメラの母。』


『片手だけを残す殺人鬼。』


『人間オルゴール。』


 そして、その下。


『匿名存在と固有人物の照合表――作成しません。』


 俺は店の中を見た。女将は俺へ飯を食わせながら、最近では平然と別の意味まで混ぜてくる。リサは以前より一人で出歩く。セリアは自分の意思で立っているように見える。ミレアは魔導義肢でパンを運び、よく笑う。マルタ、エリナ、サラ、クラリッサも、もうこの場所へ馴染んでいる。


 名前がある。


 顔がある。


 俺が知っている人たちだ。


 それとは別に、日記の中には名前のない四つの存在が並んでいる。


『固有人物一覧と匿名存在一覧は独立して管理します。同一人物である可能性について、現段階では肯定も否定もしません。複数の匿名存在が一名の固有人物に対応する可能性、単一の匿名存在が複数人物による物語上の呼称である可能性についても未確定。』


「そこまで分からないのか……」


 日記は答えない。


『照合には、物語上十分な情報が必要です。』


 最後に一覧だけが残った。


『人物。ルーク。女将。リサ。セリア。ミレア。マルタ。エリナ。サラ。クラリッサ。エルナ・ヴェイス。カーナ。ティナ・ローヴェル。』


『匿名存在。ゴブリンの女王。キメラの母。片手だけを残す殺人鬼。人間オルゴール。』


『両者の対応関係――不明。』


 整理したはずなのに。


 前より。


 誰を知っているのか。


 分からなくなった。


この作品の品質向上のため、ぜひ感想をお寄せください。今後の展開・キャラクター・構成・描写方針の参考として利用します。


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