第五十二話 ゴミだと言われた黒い石を拾いました
「それ、本当に持っていくの?」
受付の女性が、俺と黒い石を交互に見た。
「……駄目ですか?」
「駄目じゃないけど」
机の上には、拳より少し小さい黒い石が一つ置かれている。
昨日、ダンジョンから回収されたものだ。
鑑定不能。
魔力反応ほぼなし。
素材として加工できない。
売却価値なし。
ギルドでは記録だけ取って、今日の夕方には廃棄する予定だった。
「欲しいなら持っていっていいよ。処分する手間が減るし」
「じゃあ、もらいます」
「ルーク」
隣のリサが呆れた顔をする。
「石拾ってどうするんだ?」
「分からない」
「分からないのに持って帰るのか?」
「うん」
「いよいよ変な奴になったな」
「前からじゃない?」
「それもそうか」
「肯定しないでよ」
受付の女性まで笑った。
普通なら。
俺もいらない。
黒いだけの石なんて、パン屋へ持ち帰ったところで邪魔になるだけだ。
でも。
胸元が熱い。
日記帳には、昨日からこう書かれている。
『主流展開への修正を開始します。』
『採用要素――周囲が価値を認識できない物品。』
『主人公のみが違和感を持つ。』
『ギルドでは廃棄予定。』
どう考えても。
これ。
なんだよな。
*
黒い石を手に取った。
「……重い」
「石だからな」
「リサ、それ説明になってない」
「石が軽かったらそっちの方が怖いだろ」
見た目より少し重い。
表面は滑らかでもなく、ごつごつもしていない。炭みたいに真っ黒なのに、指へ色が移ることもない。
匂いもない。
温度も普通。
「鑑定って何回したんです?」
受付へ聞く。
「簡易鑑定三回。魔術師による鑑定一回」
「全部駄目?」
「駄目っていうより、何も出ない」
「何も?」
「魔石じゃない。金属じゃない。既知の錬金素材でもない。魔力を通しても反応しない。砕こうとしても妙に硬い」
「硬いなら何かに使えそうですけど」
「加工できないほど硬い石なんて、ただの邪魔な石だよ」
「なるほど」
理屈は分かる。
ナイフ。
切れる。
使える。
鉄。
加工できる。
使える。
石。
硬すぎて削れない。
魔力もない。
何にもならない。
「どこで見つかったんです?」
「第九層」
「落ちてた?」
「壁の中だって」
「壁?」
「魔物が暴れて一部崩れたら、その中から出てきたらしいよ」
余計に。
なろう。
っぽい。
「ルーク」
「何?」
「顔が嬉しそうだぞ」
「そう?」
「絶対くだらないこと考えてる」
「失礼な」
前世で。
こういうの。
何回読んだ。
鑑定不能。
誰も価値が分からない。
主人公だけ拾う。
実は伝説級。
王族でも買えない。
そんなやつ。
でも。
ここ。
現実。
嫌な経験がある。
テンプレをそのまま信用すると。
大体。
誰かが死ぬ。
*
ギルドを出る前に、日記帳を開いた。
『取得物。』
『黒色石状物質。』
『発見地点――王都近郊ダンジョン第九層、崩落壁内部。』
『既存鑑定――失敗。』
『ギルド評価――廃棄物。』
『主人公取得――成立。』
そこまで。
昨日とほとんど同じ。
次。
『主流展開進行度――良好。』
「進行度とかあるの……」
リサが振り向いた。
「何?」
「何でもない」
日記帳は俺の声とは関係なく、文字を増やす。
『次段階――価値の判明。』
『大規模災害を使用した価値証明は不要。』
『死亡者を伴う展開も不要。』
「……お」
珍しい。
かなり。
まとも。
『小規模な実証によって主人公の選択が正しかったことを提示します。』
いい。
そういうのでいい。
ずっと。
そういうので。
*
パン屋へ戻ると。
「何だい、それ」
女将に即座に見つかった。
「石です」
「見りゃ分かるよ」
「もらいました」
「何で」
「無料だったので」
「無料なら何でも拾ってくるんじゃないよ!」
「ごもっともです」
置く場所。
困る。
部屋へ持っていこうとしたら。
「床傷つけるんじゃないよ」
「そんな重くないです!」
「だったらいいけど」
ミレアも覗き込む。
「綺麗な石?」
「全然」
「魔石?」
「違うらしい」
「じゃあ何?」
「分からない」
「何で持ってきたの?」
三人目。
同じ質問。
「何となく」
これ以上。
説明。
できない。
日記帳が。
なろうの主流展開をやりたがってるから。
なんて。
絶対。
言えない。
「ルーク、最近変な物集める趣味でもできた?」
「まだ一個目だから趣味じゃない」
「二個目から?」
「二個目からも違う」
ミレアが笑う。
本当に。
平和。
だった。
*
夕方。
リサがまた来た。
「石見せろ」
「何で?」
「気になる」
「さっきゴミって言ってたじゃん」
「ルークがゴミをわざわざ持って帰ったから気になるんだよ」
「俺基準?」
「変な事件ばっかり拾うからな」
「否定できない」
部屋。
黒い石。
机。
置いてある。
リサが手に取る。
「普通だな」
「でしょ」
「魔力入れていい?」
「ギルドでもやったらしいよ」
「私はやってない」
「自信ある?」
「ある」
「じゃあ」
渡す。
リサが石を握った。
目。
閉じる。
「……」
「どう?」
「何も」
「やっぱり」
「待て」
リサの顔が変わった。
「何?」
「おかしい」
石を見る。
もう一度。
魔力。
流す。
「……」
「リサ?」
「これ」
「うん」
「魔力が入らないんじゃない」
「え?」
「消えてる」
*
「消えるって何?」
「そのまま」
リサが石を机へ戻す。
「普通の石なら魔力を流そうとしても弾かれる。魔石なら多少なり中を通る」
「これは?」
「入った瞬間、感覚がなくなる」
「吸ってる?」
「分からない」
また。
手。
伸ばす。
「もう一回」
「大丈夫?」
「少しだけだ」
魔力。
注ぐ。
リサ。
すぐ手を離す。
「やっぱりだ」
「吸われた?」
「ああ」
「石は?」
「変わってない」
「魔力反応」
「ない」
「……何それ」
吸ってる。
でも。
魔力。
持ってるようには。
見えない。
「ギルドの鑑定、何で気づかなかったんだろ」
「鑑定魔法自体を食われたんじゃないか?」
「だから結果が出なかった?」
「たぶんな」
胸元。
熱。
来た。
*
『黒色石状物質――性質判明。』
『通常鑑定が失敗した原因――鑑定に使用された魔力を吸収。』
『魔力反応が検出されなかった原因――内部に蓄積した魔力を外部へほぼ放出しない。』
『主要性質――周囲または接触した魔力を吸収。』
『現段階での仮称――吸魔石。』
「……当たりじゃん」
「何が?」
「いや」
リサ。
石。
睨む。
「吸魔石なんて聞いたことない」
「価値ある?」
「あるどころじゃない」
「そんなに?」
「魔法を吸うんだぞ」
「うん」
「防具にできたら?」
「魔法防御」
「結界に使えたら?」
「魔法封じ?」
「魔道具の暴走を止められるかもしれない」
「おお」
「逆に」
リサ。
顔。
険しくなる。
「魔道具の近くに置いたら全部止まるかもしれない」
「……おお」
そっちも。
ある。
「扱い方分からないうちは危険だな」
「ギルド持っていく?」
「当然」
「俺の物じゃない?」
「もらったならルークの物だ。でも性質は報告しろ」
「売れる?」
「そこかよ」
「大事でしょ」
「店の修理代、まだ気にしてる?」
「気にするよ」
借金。
じゃないけど。
俺が。
原因。
かなり。
あるし。
*
翌朝。
ギルド。
「……本当に?」
昨日の受付。
信じない。
「リサが確認しました」
「リサさんが?」
「私がやった」
横。
本人。
「魔力をかなり弱く流してみろ」
「危なくない?」
「少量なら平気」
受付。
魔法。
使えない。
別。
職員。
呼ぶ。
鑑定担当。
昨日。
この石を。
見た。
魔術師。
「またこれ?」
「魔力を流してください」
「昨日やったよ」
「鑑定じゃなくて。直接」
魔術師。
怪訝。
でも。
やる。
石。
触る。
「……」
一秒。
二秒。
「何これ」
顔。
変わる。
「でしょ」
リサ。
「魔力が消える」
「待って」
魔術師。
離す。
別。
小さい。
魔石。
出す。
魔力。
通す。
光る。
「普通」
次。
黒い石。
触れさせる。
光。
弱くなる。
「……」
全員。
黙る。
「もう一回」
黒い石。
離す。
光。
戻る。
くっつける。
弱くなる。
「これ」
受付。
「ゴミじゃない?」
「多分」
俺。
「昨日ゴミって言いましたよね」
「言った」
「持ってっていいって」
「言った」
「俺のですよね」
「……」
「受付さん?」
「記録確認してくる!」
「逃げた!」
*
大騒ぎ。
には。
ならなかった。
でも。
小騒ぎ。
には。
なった。
職員。
三人。
魔術師。
二人。
ギルドの。
偉い人。
一人。
集まる。
石。
机。
真ん中。
「所有権は?」
「正式に廃棄処理後、ルークへ譲渡されています」
「記録は?」
「あります」
「回収は?」
「できません」
「よし」
よし?
俺。
思ったより。
まとも。
「ギルドが取り上げたりしないんです?」
聞いた。
「何でだ」
「珍しい物だから」
「譲渡記録がある。取り上げたらギルドの信用がなくなる」
おお。
「買い取り交渉はするがな」
「いくら?」
「まだ分からん」
「ですよね」
「そもそも安全性が分からん」
それ。
重要。
*
実験。
小規模。
日記帳が。
書いた通り。
死人。
なし。
爆発。
なし。
ダンジョン崩壊。
なし。
魔術師が。
弱い。
火。
出す。
黒い石。
近づける。
火。
小さくなる。
「おお」
さらに。
近づける。
消える。
「おお!」
俺。
ちょっと。
テンション。
上がる。
リサ。
水。
魔法。
同じ。
弱くなる。
結界。
石。
近づける。
その部分だけ。
薄くなる。
「本物だな」
ギルドの偉い人。
腕。
組む。
「少なくとも魔力吸収性はある」
「価値は?」
「だからそこばっかり聞くな」
リサ。
「だって主流展開ならここで大金が」
「何の話だ?」
「何でもない」
危ない。
*
日記帳。
『主流展開進行。』
『廃棄予定品を主人公が取得。』
『周囲が認識していなかった価値を発見。』
『主人公の判断――結果的に成功。』
『重大な死傷者――なし。』
『大規模災害――なし。』
『読者が理解しやすい成功展開――成立。』
すごい。
「こういうのでいいんだよ……」
日記帳。
当然。
何も。
返さない。
『アクセス推移を観測します。』
そこ。
まだ。
ある。
でも。
今日は。
いい。
*
「じゃあこれ」
ギルド。
偉い人。
「一度、専門機関に持ち込みたい」
「石を?」
「ああ。ただし所有者はルークのまま。貸し出し扱いにする」
「期間は?」
「数日」
「報酬?」
「調査協力金を出す」
「おお」
「目が輝いたな」
リサ。
「お金は大事」
「その年で世知辛いな」
「十八です」
「知ってる」
書類。
読む。
貸出。
調査。
破損時。
補償。
そこ。
ちゃんと。
ある。
サイン。
する。
「……普通だ」
「何が?」
「いや」
ギルド。
拾った。
謎。
アイテム。
価値。
判明。
正当に。
評価。
される。
誰も。
俺。
馬鹿に。
しない。
誰も。
「そんなゴミ拾う奴は追放だ!」
とか。
言わない。
ざまぁ。
すら。
ない。
でも。
いい。
これで。
*
パン屋。
戻る。
「石は?」
女将。
「調査」
「売ったのかい?」
「まだ」
「なら金になるか分からないね」
「夢を壊さないで」
「働きな」
「はい」
ミレア。
「すごい石だったんだって?」
「何で知ってるの」
「リサさん」
「早いな!」
「魔法を消すんでしょ?」
「吸うみたい」
「すごい」
「でしょ」
ちょっと。
嬉しい。
普通の。
成功。
なんて。
久しぶり。
な。
気がする。
*
夜。
日記帳を開く。
『展開修正後の評価。』
『主流展開への移行――成功。』
『主人公の小規模成功。』
『未知アイテム取得。』
『今後の成長要素を提示。』
『過度な犠牲――なし。』
「最高じゃん」
文字。
続く。
『現在進行中の並行展開を確認。』
「……」
忘れてた。
『ティナ。』
『地下水路の脈動音――継続。』
『本日も異常消失せず。』
『遠方成人女性失踪。』
『帰還者――確認なし。』
『エルナおよび文明化ゴブリン集団。』
『所在――未確認。』
全部。
ある。
今日。
俺が。
黒い石で。
喜んでいる間も。
残ってる。
『主流展開を継続します。』
『既存展開も並行して維持します。』
「……」
やっぱり。
終わってない。
*
最後。
『次話候補。』
『第五十三話 ゴミではなく希少素材でした』
「そのまま!」
でも。
少し。
笑った。
たまには。
こういう。
話で。
いい。
石。
拾う。
価値。
あった。
金。
入るかも。
主人公。
ちょっと。
得する。
誰も。
死なない。
誰も。
壊れない。
そういう。
なろう。
で。
いい。
ただ。
頁の。
一番下。
小さく。
もう一行。
増えていた。
『吸収済み魔力――蓄積中。』
「……」
俺は。
さっきまでの。
笑顔のまま。
止まった。
そこ。
詳しく。
書けよ。
でも。
日記帳は。
もう。
何も。
追加しなかった。
この作品の品質向上のため、ぜひ感想をお寄せください。今後の展開・キャラクター・構成・描写方針の参考として利用します。
`https://novelcom.syosetu.com/impression/list/ncode/3306613/?ref=ncodeheader`




