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世界改稿日記 ~なろうによる世界破綻~  作者: 黒瀬 量衡


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第四十二話 化け物腹だから抱けないのか

 夜。


 リサの部屋。


「ルーク」


「うん」


「こっち」


 リサに腕を引かれた。


 何度目か分からない。


 もう、俺たちの間では特別珍しいことでもなくなっている。


 扉は閉めた。


 灯りも落とした。


 そのまま、二人で寝台へ入った。


 何があったかを細かく説明する必要はない。


 少なくとも、俺もリサも、自分でここにいる。


 リサが俺を求めた。


 俺も応えた。


 それだけだった。


「ルーク」


「何?」


「喋るな」


「今聞いたのリサだけど」


「うるさい」


 口を塞がれた。


 しばらくして――。


 扉が開いた。


「……」


「……」


「……」


 三人。


 止まった。


 俺。


 リサ。


 入口に立っているエルナ。


「え」


 最初に声が出たのは俺だった。


「エルナ?」


 返事がない。


 リサがすぐに毛布を引き上げた。


「何だ」


 声は落ち着いている。


「眠れないのか?」


「……」


「エルナ?」


 エルナは俺たちを見ていた。


 いや。


 俺たち。


 じゃない。


 リサを見ている。


「……してたのか」


 掠れた声。


 リサは誤魔化さなかった。


「ああ」


「そう」


「どうした」


「……」


 エルナの目が、俺へ移った。


「ルーク」


「うん」


「私も」


 一歩。


 部屋へ入る。


「抱け」


「……」


 頭が一瞬、止まった。


「何?」


「聞こえただろ」


「聞こえたけど」


「だったら」


 もう一歩。


「私も抱け」


 リサの顔から、さっきまでの空気が完全に消えた。


「エルナ」


「何」


「今、それを本当にしたいのか」


「したい」


「何で」


「何で?」


 エルナが笑った。


 変な笑い方だった。


「リサにはできる」


「……」


「私はできない?」


「そういう話じゃない」


 俺が言う。


「じゃあ何だ」


「エルナ、今は――」


「今は何だ!」


 声が跳ねた。


「妊娠してるからか?」


「違う!」


「ゴブリンの子がいるから?」


「違うって!」


「じゃあ!」


 一気に近づいてくる。


「何でリサはよくて、私は駄目なんだ!」


「駄目って言ってない!」


「言ってる!」


「今のエルナが、本当にそうしたいのか分からないから!」


「したいって言ってるだろ!」


「だから理由を――」


「抱かれたいから!」


 叫ぶ。


 廊下まで響いた。


 リサ。


 じっと。


 エルナを見る。


「嘘だな」


「……」


「リサ!」


「嘘だ」


 もう一度。


「お前、さっきまで一人で寝られなかっただろ」


「関係ない」


「腹も気にしてた」


「関係ない!」


「昨日まで誰にも触られたくないって言ってた」


「変わった!」


「今夜急に?」


「そうだ!」


「何を見て変わった」


「……」


 エルナ。


 黙る。


 リサ。


 自分。


 俺。


 見る。


 分かる。


「私たちか」


「……」


「私とルークを見たからか」


「違う」


「じゃあ何で入ってきた」


「……」


「エルナ」


「うるさい」


「答えろ」


「うるさい!」


 エルナが耳を塞いだ。


「私だって!」


「……」


「女だ!」


「誰も違うなんて言ってない」


「だったら抱け!」


「それとこれは別だ!」


 俺も声を上げてしまった。


 エルナが。


 止まる。


「……別」


「そう」


「何が別なんだ」


「エルナ」


「リサは」


 指。


 震えている。


「スライムにあんなことされても」


「……」


「ルークに抱かれる」


「そうだ」


 リサ。


 答える。


「自分で決めたからな」


「私は」


「うん」


「オークに」


 声が崩れる。


「ゴブリンに」


「……」


「何度も」


 腹。


 手。


「子供まで」


「……」


「産んで」


 息。


「また腹にいる」


「エルナ」


「それでも」


 俺を見る。


「私だって」


 涙。


「人間の男に」


「……」


「抱かれていいだろ」


「いい」


 俺は答えた。


 エルナが止まる。


「……なら」


「でも、今じゃない」


 顔。


 変わった。


「何で」


「今のエルナは」


「何」


「俺に抱かれたいんじゃない」


「……」


「自分がまだ普通の女かどうか」


 言ってから。


 普通。


 その言葉。


 嫌だった。


「違う」


 言い直す。


「自分がまだ、誰かに自分で選んで触れてもらえる人間なのか。それを確かめようとしてる」


「同じだろ」


「違う」


「同じだ!」


「違う!」


 エルナ。


 俺を見る。


 憎むみたいに。


「分かった」


「何が」


「やっぱり」


 口元。


 歪む。


「無理なんだ」


「何が」


「私」


「違う」


「化け物腹だから」


「違う!」


「ゴブリンの子が入ってるから!」


「エルナ!」


「気持ち悪いんだろ!」


「違う!」


「だったら抱けよ!」


 俺。


 言葉。


 出ない。


 抱く。


 そうすれば。


 一瞬。


 エルナは安心するかもしれない。


 でも。


 それは。


 違う。


 今。


 目の前にいるエルナは。


 俺を求めてるんじゃない。


 証明を。


 求めてる。


「……抱かない」


 言った。


「今は」


 エルナの顔。


 完全に。


 崩れた。


「そう」


「エルナ」


「そうか」


「聞いて」


「やっぱりな」


「違う!」


「私なんか」


 腹。


 見る。


「もう」


「……」


「これしかない」


 拳。


 握る。


「エルナ?」


 リサ。


 先に。


 気づいた。


「手を開け」


「……」


「エルナ」


「これが」


 拳。


 腹。


「なくなれば」


「やめろ!」


 俺が寝台から飛び出した。


 間に合わない。


 鈍い音。


「エルナ!」


 もう一度。


 拳。


 上がる。


 リサ。


 飛びつく。


「やめろ!」


「離せ!」


「やめろって!」


「離せ!」


 エルナ。


 暴れる。


「これがあるから!」


「違う!」


「こいつがいるから!」


「腹殴るな!」


「いなくなれば!」


 拳。


 リサが掴む。


「いなくなったら!」


「何だ!」


「ルークも!」


 泣く。


「抱けるだろ!」


「違う!」


 俺。


 両手。


 エルナの肩。


「聞け!」


「離せ!」


「抱かない理由は腹じゃない!」


「嘘だ!」


「嘘じゃない!」


「化け物だからだ!」


「違う!」


「じゃあ何だ!」


「今のエルナが、自分を傷つけながら俺に抱けって言ってるからだ!」


 静か。


 なった。


 エルナ。


 息。


 荒い。


「……」


「俺は」


 続ける。


「それに乗れない」


「……」


「エルナが明日」


「……」


「腹を殴らなくて」


「……」


「誰にも証明する必要なくて」


「……」


「それでも俺に抱かれたいって言うなら」


 リサ。


 俺を見る。


「その時」


 俺。


 止まる。


「その時は、俺もちゃんと考える」


「……」


「今は駄目だ」


 エルナ。


 唇。


 震える。


「拒否」


「今は」


「同じだ」


「違う」


「私には同じだ!」


 また。


 拳。


 握ろうとする。


「エルナ」


 リサ。


 低い声。


「私を見ろ」


「……」


「見ろ」


 エルナ。


 見る。


「私は」


 リサ。


「ルークに抱かれた」


「……」


「今夜も」


「知ってる」


「私はそれを選んだ」


「……」


「でも」


 エルナの拳。


 指。


 一つずつ。


 開かせる。


「ルークに抱かれたから、人間になったわけじゃない」


「……」


「女になったわけでもない」


「……」


「最初から人間だ」


 エルナ。


 目。


 逸らす。


「お前も」


「違う」


「違わない」


「私は」


「化け物腹?」


「……」


「その言葉」


 リサ。


 怒る。


「誰が最初に言った」


「街」


「エルナが決めた名前じゃないだろ」


「でも」


「なら捨てろ」


「簡単に」


「簡単じゃない」


 リサ。


 即答。


「私は今でも」


 自分の身体。


 見る。


「スライムにされたことを思い出す」


「……」


「身体が勝手に反応したことも」


「……」


「消えない」


「なら」


「でも」


 俺。


 指す。


「こいつに触らせる時は」


 自分。


「私が決める」


「……」


「それだけは」


 リサ。


「奴らのものじゃない」


     *


 エルナ。


 床。


 座り込んだ。


 もう。


 殴らない。


 でも。


 腹。


 両腕で。


 隠す。


「嫌だ」


「うん」


「この腹」


「うん」


「嫌いだ」


「うん」


「早く」


 呼吸。


「なくしたい」


「神官と話す」


 俺。


「明日」


「今」


「今すぐ呼ぶ」


「……」


「女将も起こす」


「嫌」


「でも」


「……」


 少し。


 止まる。


「リサ」


「何」


「いて」


「ああ」


「ルークも」


「いる」


「触らないで」


「分かった」


「でも」


「うん」


「行かないで」


「行かない」


     *


 廊下。


 足音。


 やっぱり。


 起きてきた。


「何事だ」


 セリア。


 扉。


 開ける。


 状況。


 見る。


 俺。


 リサ。


 ほぼ寝間着。


 床。


 エルナ。


「……」


 セリア。


 俺を見る。


「何した」


「俺じゃない!」


「その格好で言われても説得力ないぞ」


「違う!」


「今それどうでもいい」


 リサ。


「エルナが腹を殴った」


 セリア。


 顔。


 変わる。


「またか」


「うん」


「神官」


「呼ぶ」


「私が行く」


 すぐ。


 出る。


 何も。


 聞かない。


 それで。


 助かった。


     *


 神官。


 来る。


 診察。


 大きな異常。


 今のところ。


 ない。


 でも。


「今夜は一人にしないでください」


「分かりました」


「それから」


 神官。


 エルナ。


 見る。


「明日予定していた相談を前倒しします」


「……」


「妊娠について」


 エルナ。


 腹。


「はい」


「あなたがどうしたいか」


「……」


「改めて確認します」


 長い。


 間。


「終わらせたい」


「分かりました」


「絶対」


「はい」


「産みたくない」


「分かりました」


「……」


「その意思を基準に進めます」


 エルナ。


 ようやく。


 頷いた。


     *


 神官が帰った後。


 エルナ。


 リサの部屋。


 寝台。


 端。


 座ってる。


 俺。


 帰ろうとする。


「ルーク」


「何」


「さっき」


「うん」


「抱けって」


「うん」


「忘れて」


「分かった」


「……」


「本当に」


「誰にも言わない」


「違う」


「何?」


「私が」


 目。


 伏せる。


「言ったことを」


「……」


「なかったことにして」


「それは」


 俺。


 少し。


 考える。


「しない」


 エルナ。


 顔。


 上げる。


「何で」


「エルナが言ったから」


「……」


「間違ってても」


「……」


「半分混乱してても」


「……」


「その時そう思ったことまで消したら」


 リサ。


 見る。


「また誰かがエルナのこと決めるだろ」


「……」


「だから」


 俺。


「覚えてる」


「最悪」


「ごめん」


「謝るな」


 少し。


 沈黙。


「でも」


 エルナ。


「抱かなかったことも」


「うん」


「覚えてる」


「……」


「腹」


 触りそうになって。


 手。


 止める。


「化け物だからじゃないって」


「そう」


「……」


「それも覚えてて」


 エルナ。


 頷く。


     *


 部屋。


 戻る。


 日記帳。


 もう。


 開いていた。


『関係進展候補を確認。』


「進展じゃない」


『リサと主人公の性行為中、エルナが侵入。』


「言い方」


『エルナより主人公へ性的関係を要求。』


『要求理由を分析。』


『主人公への純粋な性的欲求――判定不能。』


『自己価値確認。』


『女性性確認。』


『人間として受容されることの確認。』


『リサとの比較。』


『「化け物腹」という社会的侮蔑の内面化。』


『以上が強く混在。』


「……」


『したがって。』


『当該時点で性的関係を成立させる展開――不採用。』


「それでいい」


『主人公による拒否。』


「拒否って」


『正確には。』


『現在の要求のみ拒否。』


『対象エルナそのものを性的・人間的に拒絶したものではない。』


「……」


『しかし。』


 嫌。


『対象本人は即時にその区別を認識できず。』


『「化け物腹だから拒絶された」と解釈。』


『自傷行動――再発。』


「……」


『リサによる介入。』


『主人公による介入。』


『神官への再接続。』


『現在。』


『腹部自傷――停止。』


『妊娠終了意思――明確。』


『性的関係要求――撤回。』


『主人公への信頼――大幅低下せず。』


「……」


 次。


『重要。』


『性的接触による回復を第一候補とする過去案を完全撤回します。』


 俺。


 止まる。


『エルナについては。』


『性行為が回復手段となるのではなく。』


『性行為をしなくても人間として拒絶されていない、と理解することを優先。』


「……」


 それは。


 たぶん。


 必要。


『将来。』


『対象が他の目的と切り離して主人公との肉体関係を自発的に望む場合のみ再検討。』


『それまでは候補化しません。』


「よし」


 文字。


 止まる。


 次の頁。


『次話候補。』


『第四十五話 産まないと決めます』


 俺。


 日記帳。


 見る。


 今度は。


 エルナ自身が。


 ずっと。


 言っていたこと。


「産みたくない」


 その言葉。


 誰にも。


 別の意味へ。


 変えられないように。


 次は。


 ちゃんと。


 本人の決定として。


 進めばいい。


 ただ。


 日記帳が。


 素直に。


 それだけで。


 終わらせるのか。


 そこだけが。


 怖かった。


 この作品の品質向上のため、ぜひ感想をお寄せください。今後の展開・キャラクター・構成・描写方針の参考として利用します。


`https://novelcom.syosetu.com/impression/list/ncode/3306613/?ref=ncodeheader`


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