↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界改稿日記 ~なろうによる世界破綻~  作者: 黒瀬 量衡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/125

第四話 『明日、道で銅貨一枚を拾う。』

 パン屋の倅になって三日ほど経ったころ、俺はもう一度日記を開いた。


 村が滅びた原因が本当に日記だったのか、それはいまだに分からない。ただ、あれ以来、大きなことを書く気にはなれなかった。だから今度は、どう考えても誰も死なず、何も壊れそうにないことを試す。


『明日、道で銅貨一枚を拾う。』


 これなら大丈夫だろう。


 銅貨一枚ならパン一つにもならない程度の小銭だ。誰かが落として、それを俺が拾う。それだけで条件を満たせる。村一つ滅ぼす必要なんて、どう考えてもない。


 文字が淡く光り、その下に『改稿を開始します』と浮かんだ。


「……頼むぞ。本当に普通でいいからな」


 日記に言っても仕方がないが、念のため言っておいた。


 翌朝、女将に頼まれて小麦粉を取りに行った帰りだった。大通りを歩いていると、前を行く男が腰の革袋から金を取り出し、露店で果物を買った。袋を戻すとき、銅貨が一枚こぼれた。


 ちゃりん。


 俺の足元まで転がってきた。


「……え?」


 あまりにも普通だった。


 俺は周囲を見回した。魔物も出ない。馬車も暴走しない。建物も倒れない。ただ男が銅貨を一枚落としただけだ。


 しゃがんで拾う。


「本当に、これだけ?」


 少し拍子抜けした。


 だが、これでいい。これが正常なのだ。銅貨一枚を拾うために必要な世界の変化なんて、せいぜい誰かの指先が少し滑るくらいでいい。


 俺は手の中の銅貨を眺めた。


「……じゃあ、これは俺のものか?」


 その瞬間、前を歩いていた男が腰の袋を触り、足を止めた。


「あれ? 一枚落としたか?」


「あ」


 俺はすぐに追いかけた。


「これ、落としましたよ」


「おお、悪いな」


 男は銅貨を受け取り、そのまま歩いていった。


 俺の手には何も残らなかった。


「…………」


 パン屋へ戻って日記を開く。


『明日、道で銅貨一枚を拾う。』


 その下には、きっちりと書かれていた。


『完了』


「いや、そうだけどさ」


 確かに拾った。


 俺は「銅貨一枚を手に入れる」とは書いていない。「拾う」としか書かなかった。


「……前世のAIでもあったな、こういうの」


 条件は満たしている。


 でも、こっちが期待していたものとは少し違う。


 ただ今回は、むしろ安心した。


 銅貨一枚を拾う程度なら、世界も銅貨一枚分しか動かなかった。男が一枚落とし、俺が拾った。それだけだ。


 問題なのは日記そのものではない。


 何を書くか。


 どれだけ無茶を書くか。


 そして、どう書くか。


 俺は新しいページを開いた。


「だったら次は……もう少しだけ、条件をちゃんと書いてみるか」


 世界を壊さずに、欲しい結果だけを得る。


 どうやらこの日記は、願い事を書く道具というより、文章を書く道具らしかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。