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世界改稿日記 ~なろうによる世界破綻~  作者: 黒瀬 量衡


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第三十九話 エルナは一年間帰ってこなかった

 王都へ戻ったのは。


 夜だった。


 門番。


 担架。


 血。


 俺たち。


「負傷者?」


「救助者」


「身元は?」


「エルナ」


「姓は?」


 俺。


 止まる。


 知らない。


 本人。


 担架。


 目。


 開く。


「……エルナ・ヴェイス」


「出身」


「西部……ローデン」


「年齢」


「二十八」


「所属」


 止まる。


「……冒険者」


「ギルド証は?」


「ない」


「紛失?」


「一年」


「何?」


「行方不明だった」


 門番。


 俺を見る。


「一年?」


「死亡扱いになってるかもしれない」


「待て」


 帳簿。


 確認。


「エルナ・ヴェイス」


 指。


 止まる。


「……死亡者だぞ」


「生きてる!」


「見れば分かる」


 門番。


 エルナを見る。


「だが記録上は死んでる」


「だったら直して!」


「俺の権限じゃ無理だ」


「そんな」


「ギルドへ行け」


「まず神殿!」


「それも必要だ」


 生きて。


 帰ってきた。


 最初に。


 言われた言葉。


 おかえり。


 じゃない。


『死亡者だぞ』


 胸元。


 熱。


「……今?」


 日記帳。


 開く。


『エルナ救出後の展開を検討。』


「休ませろよ」


『オークに繰り返し孕まされて出産をし続けていた女性が社会に受け入れられるか検証します。』


「……」


『他作品も参考にし、出来る限りダークファンタジー、暗い展開になるよう調整します。』


「やめろ」


 エルナ。


 担架の上。


 目。


 閉じる。


『検証項目。』


『家族。』


『冒険者ギルド。』


『神殿。』


『旧知の人物。』


『一般市民。』


『法的身分。』


『経済状況。』


『身体的後遺症。』


『精神的後遺症。』


『出産歴に対する社会認識。』


「検証対象じゃない」


 人間。


『対象エルナを、単純に「助かってよかった」で社会復帰させた場合、今回設定した一年間の被害と社会的結果が軽くなる。』


「軽くていい」


『不採用。』


「……」


『暗い展開を優先。』


     *


 神殿。


 治療。


 最初。


 神官は。


 普通だった。


「担架をこちらへ」


「お願いします」


「何があった?」


「旧鉱山で」


「オーク?」


「はい」


 顔。


 変わる。


「拘束期間は?」


「一年くらい」


「……」


 神官。


 黙る。


 エルナ。


 目。


 閉じてる。


 聞こえてる。


「出産は?」


 俺。


 言えない。


 リサ。


「複数回」


「最後は?」


「今日」


「……隔離室へ」


「隔離?」


「感染症と呪術汚染の検査が必要だ」


「でも」


「長期間魔物の集落にいたんだろう」


「そうだけど」


「本人を責めているわけじゃない」


 神官。


 言う。


「だが、確認しないわけにはいかない」


 分かる。


 理屈。


 分かる。


 でも。


 エルナの指。


 震えた。


「……私」


「何?」


 声。


 小さい。


「汚れてる?」


「違う」


「隔離って」


「検査だから」


「私が」


 目。


 開く。


「何か持って帰ったかもしれないから?」


「……」


「そういうこと?」


 神官。


 答える。


「可能性を否定するためです」


「否定するため」


「はい」


「今は」


 少し。


 笑う。


「疑ってるんだ」


「医学的に」


「同じだよ」


 それ以上。


 何も。


 言わなかった。


     *


 隔離。


 三日。


『期間――三日。』


「早く出して」


『感染症――陰性。』


『呪術汚染――陰性。』


『魔力異常――軽度。』


『妊娠――なし。』


『身体的損傷――複数。』


『栄養状態――重度不良。』


『睡眠障害――あり。』


『突発的痙攣――あり。』


『出産関連反射――残存。』


「……」


『社会復帰可能判定――医学的には可。』


「なら」


『ただし社会的受容は別問題。』


「……」


 やめてほしい。


 その。


 言い方。


     *


 三日目。


 ギルド。


 エルナ。


 まだ。


 歩くの遅い。


 俺。


 リサ。


 一緒。


 受付。


 名前。


 言う。


「エルナ・ヴェイス」


「確認する」


 古い帳簿。


 出る。


『死亡推定』


 赤。


 印。


「これ」


 受付。


 見る。


「一年二ヶ月前」


「本人です」


「本人確認できるものは?」


「……ない」


 エルナ。


 言う。


「全部取られた」


「そうだよな」


 受付。


 悪気。


 ない。


「旧所属パーティー」


「五人」


「生存者は?」


「一人」


「名前」


「ダルク」


「……いる」


 受付。


 止まる。


「王都に?」


「ああ」


「呼べる?」


「連絡する」


     *


 一時間。


 男。


 来た。


 三十代。


 片足。


 少し。


 引きずってる。


「誰だ」


 入口。


 俺たち。


 見る。


 受付。


「ダルク」


「ああ」


「エルナ・ヴェイスの本人確認」


 男。


 止まる。


「何?」


 エルナ。


 顔。


 上げる。


「……ダルク」


「……」


「私」


 男。


 後ろ。


 一歩。


「違う」


 エルナ。


 止まる。


「ダルク」


「違う!」


 叫ぶ。


「エルナは死んだ!」


「生きて」


「俺が見た!」


「見てない」


「……」


「私が連れていかれた」


「違う」


「お前は逃げた」


「……」


 男。


 顔。


 真っ白。


「私」


 エルナ。


 続ける。


「お前に逃げろって言った」


「やめろ」


「三人死んで」


「やめろ」


「私が」


「やめろ!」


 男。


 耳。


 塞ぐ。


「エルナは死んだ!」


「……」


「俺が!」


 息。


「俺がそう報告した!」


「うん」


「俺は」


 震える。


「一年」


「……」


「お前を置いて逃げた奴じゃない」


 エルナ。


 何も。


 言わない。


「お前は死んだ」


「……」


「死んでくれたんだ」


「ダルク」


「違う!」


 受付。


「落ち着け!」


「俺は」


 男。


 泣く。


「お前が生きてたら」


「……」


「俺は一年間」


 顔。


 崩れる。


「何してたんだよ」


 誰も。


 答えられない。


     *


 本人確認は。


 できた。


 皮肉。


『旧パーティー生存者ダルクによる本人証言――成立。』


「……」


『法的死亡扱い撤回手続きへ移行。』


「よかったじゃん」


『所要期間――最短十四日。』


「十四日?」


『死亡取消には複数機関の修正が必要。』


『冒険者ギルド。』


『神殿。』


『住民記録。』


『税務記録。』


『相続処理。』


「相続?」


 嫌な。


 言葉。


     *


「所持金」


 受付。


「死亡時にどうなった?」


「残額は」


 帳簿。


「家族へ送金」


「装備」


「回収不能」


「預けてた荷物」


「家族へ」


「部屋」


「契約終了」


「冒険者資格」


「死亡処理で失効」


「復活できる?」


「死亡撤回後なら」


「いつ」


「早くても二週間」


「その間」


「依頼は受けられない」


 エルナ。


「つまり」


「何?」


「私は今」


 静か。


「無職?」


「……そうなる」


「家も?」


「ない」


「金も?」


 受付。


 答えにくそう。


「現在は」


「ない」


 一年間。


 生き延びた。


 帰ってきた。


 その結果。


 職。


 家。


 金。


 全部。


 死んだ女のものとして。


 処理済み。


「便利だな」


 エルナ。


 笑う。


「何が?」


「死んでた方が」


 受付。


「エルナ」


「金も家も」


 指。


 自分。


「片付いてる」


 全部。


     *


 パン屋。


 女将。


「住めばいい」


 一秒。


 だった。


「部屋なら」


「女将」


「何だい」


「でも」


 エルナ。


 見る。


「金」


「働けるようになってから払いな」


「……」


「嫌ならパンでも捏ねな」


「……」


「今は食べて寝ろ」


 エルナ。


 言葉。


 出ない。


 女将。


「それだけだ」


「……はい」


 ここだけ。


 普通。


 だった。


 でも。


 日記。


『社会受容例――肯定一件。』


「数えるな」


『生活拠点――確保。』


『暗度低下要因。』


「暗度って何だよ」


『他項目で調整。』


「調整するな」


     *


 四日目。


 噂。


 広がった。


 早い。


 ギルド。


 神殿。


 門。


 旧鉱山。


 一年前。


 死んだはずの女。


 オーク。


 生きていた。


 それだけなら。


 まだ。


 奇跡。


 だった。


 問題は。


 その先。


「本当に?」


「一年も?」


「何で殺されなかった?」


「女だからだろ」


「じゃあ」


 そこで。


 声。


 小さくなる。


 俺。


 聞こえる。


 エルナも。


 聞こえる。


「何人産んだんだ?」


 足。


 止まる。


「行こう」


 俺。


「エルナ」


「聞こえた」


「うん」


「行こう」


「隠す必要ない」


「でも」


「事実だ」


 歩く。


 後ろ。


「オークの子を?」


「気持ち悪い」


「本人ももう」


「近づかない方が」


 リサ。


 振り向く。


「おい」


 声。


 低い。


 全員。


 黙る。


「行くぞ」


 リサ。


 エルナ。


 見る。


 エルナ。


 頷く。


     *


『一般市民反応を集計。』


「やめろ」


『同情――あり。』


『恐怖――あり。』


『嫌悪――あり。』


『好奇心――高。』


『根拠のない感染懸念――あり。』


『魔物との混血出産歴に対する忌避――あり。』


『被害者本人への責任帰属――一部発生。』


「何で」


 被害者。


 なのに。


『「長期間生存した理由」に対し、一部市民が対象本人の協力を疑う。』


「……」


 最悪。


『事実。』


『対象は拘束下にあり同意なし。』


『しかし、外部の人間が事実を正確に理解する保証はない。』


「だから」


『社会は物語の事実だけでは動かない。』


 日記。


 そう。


 書く。


『噂、偏見、恐怖、宗教観、魔物観によって反応する。』


『ダークファンタジーとして妥当。』


「妥当じゃない」


     *


 五日目。


 神殿。


 追加検査。


 待合室。


 母親。


 子供。


 座ってる。


 エルナ。


 少し。


 離れた場所。


 座る。


 子供。


 見る。


 じっと。


 エルナを見る。


「……」


 エルナ。


 視線。


 落とす。


 母親。


 子供。


 引く。


 自分の方へ。


「見るんじゃありません」


 小さい。


 でも。


 聞こえる。


 エルナ。


 立つ。


「外で待つ」


「セリア」


 違う。


「エルナ」


「大丈夫」


「……」


「分かってる」


 外。


 出る。


 俺も。


「ついてくるな」


「でも」


「一人で」


 止まる。


「……少しだけ」


「うん」


「一人でいたい」


「分かった」


 戻る。


 十分。


 二十分。


 三十分。


 来ない。


「……」


 外。


 探す。


 神殿。


 裏。


 壁。


 座ってる。


「エルナ」


「言っただろ」


「時間」


「ああ」


「戻ろう」


「……」


 顔。


 見ない。


「私」


「何?」


「子供」


 止まる。


「怖い」


「……」


「人間の」


「うん」


「普通の子供でも」


 手。


 震える。


「近くにいると」


「……」


「あれを」


 言わない。


 鉱山。


 最後。


 赤子。


「思い出す?」


「ああ」


「……」


「なのに」


 笑う。


「向こうも私を怖がる」


 誰も。


 悪くない。


 子供も。


 母親も。


 知らない。


 エルナも。


 怖い。


 それだけ。


「ちょうどいいな」


「何が」


「お互い様だ」


「……そんな」


「今は」


 エルナ。


 立つ。


「それでいい」


     *


 六日目。


 家族へ。


 手紙。


 書く。


「生きている」


 それだけ。


 最初。


 書いた。


 消す。


「一年」


 書く。


 消す。


「オークに」


 止まる。


「……」


「無理に全部書かなくていい」


 俺。


「でも」


「うん」


「帰ったら」


「うん」


「分かる」


「何が?」


「私が」


 身体。


 触る。


「前と違う」


「……」


「全部」


「見た目は」


「そういう意味じゃない」


「……」


「知らないふり」


「してもらう?」


「嫌だ」


「なら」


「でも」


 書けない。


 手。


 止まる。


「何て書けばいい」


 俺。


 答え。


 ない。


 日記。


 熱。


『家族受容を検証。』


「今はやめろ」


『対象家族構成。』


『父。』


『母。』


『兄。』


『兄嫁。』


『姪二名。』


「……」


『遠方西部ローデン在住。』


『死亡通知受領済み。』


『葬儀――実施済み。』


 エルナ。


 自分の。


 葬式。


 もう。


 終わってる。


『遺品受領済み。』


『家族は対象の死亡を一年以上かけて受容。』


「だから?」


『生存通知によって喜びのみが発生するとは限らない。』


「……」


『再喪失への恐怖。』


『被害内容への衝撃。』


『近隣社会への対応。』


『家族内の受容差。』


『以上を検証可能。』


「家族くらい」


 普通に。


 迎えさせろ。


『暗い展開を優先。』


「……」


     *


 手紙。


 出した。


『エルナ・ヴェイスです。』


『生きています。』


『王都にいます。』


『今すぐ帰ることはできません。』


『ごめんなさい。』


 四行。


 それだけ。


「ごめんなさい」


 俺。


「何で謝るの」


「知らない」


「悪くないだろ」


「分かってる」


「なら」


「でも」


 手紙。


「死んだと思って」


「うん」


「みんな」


「うん」


「終わらせた」


「……」


「私が帰ったら」


 笑う。


「また始まる」


     *


 七日目。


 ギルド。


 死亡取消。


 途中。


「復帰後」


 受付。


「冒険者続けるか?」


 エルナ。


 考える。


「分からない」


「急がなくていい」


「でも」


「何?」


「私」


 自分の手。


 見る。


「戦えると思う?」


 受付。


 答えない。


「身体の話?」


「ああ」


「身体だけなら」


「なら?」


「長く休んだ方がいい」


「一年休んだ」


「……そういう意味じゃない」


「分かってる」


 受付。


 少し。


 困る。


「エルナ」


「何」


「俺は」


 止まる。


「戻ってきてくれてよかったと思ってる」


「……」


「本当だ」


「そう」


「でも」


 また。


 その言葉。


「でも?」


「依頼を一緒に受ける冒険者が」


「嫌がる?」


「……いると思う」


「何で」


「噂」


「私が何する」


「そうじゃない」


「じゃあ」


「分からないから怖がる」


 受付。


 言う。


「オークの集落で一年生きてた人間が」


 止まる。


「普通なのか」


「普通?」


「言い方が悪い」


「今さら」


「……」


「普通じゃないよ」


 エルナ。


 言う。


「それは」


 俺。


 見る。


「私が一番分かってる」


     *


 その夜。


 日記。


『社会受容検証――中間結果。』


「……」


『制度。』


『生存確認後も死亡取消に時間を要する。』


『経済。』


『死亡後の財産処理により即時自立困難。』


『医療。』


『被害者保護と同時に、感染・呪術汚染確認のため隔離が発生。』


『職業。』


『資格復帰は可能だが、周囲の心理的忌避が障壁。』


『一般社会。』


『同情と嫌悪が同時に存在。』


『家族。』


『回答待ち。』


『本人。』


『社会へ戻りたい意思と、他者への恐怖が併存。』


「……」


『結論。』


 見る。


『受け入れられるか、という問い自体が単純すぎる。』


「……」


『社会は単一の意思を持たない。』


『受け入れる者。』


『拒絶する者。』


『同情する者。』


『利用する者。』


『恐れる者。』


『好奇の目を向ける者。』


『被害者本人に責任を求める者。』


『何も聞かず寝床を与える者。』


『以上が同時に存在する。』


 女将。


『従って。』


『エルナは「社会に受け入れられた」「社会に拒絶された」のどちらにもならない。』


『受け入れられる場所と、拒絶される場所を抱えたまま生きる。』


「……」


 それ。


 暗い。


 けど。


 たぶん。


 全部拒絶されるより。


 ずっと。


 現実っぽい。


『ただし。』


「何」


『ダークファンタジーとして暗度が不足。』


「不足してない!」


『次段階。』


「やめろ」


『家族からの返信を利用。』


「家族はやめろ!」


     *


 十日目。


 手紙。


 来た。


 女将。


「エルナ」


「……」


「お前宛てだよ」


 封。


 西部。


 ローデン。


 手。


 震える。


「開ける?」


「自分で」


 切る。


 読む。


 最初。


 何も。


 言わない。


「……」


「エルナ?」


 読む。


 もう一回。


「何て?」


「母さん」


「うん」


「生きてて」


 声。


 震える。


「よかったって」


「……」


「父さんも」


 涙。


「兄さんも」


「よかった」


「でも」


 来た。


 でも。


「……今は」


「何?」


「帰ってくるなって」


「……」


 俺。


 止まる。


 リサ。


 顔。


 硬くなる。


「何で」


「村」


 手紙。


「小さいから」


「だから?」


「みんな」


「……」


「私がどうなってたか」


 もう。


「噂」


 届いてる。


「姪がいる」


「うん」


「兄嫁が」


 読む。


 声。


 出なくなる。


「エルナ」


「……」


 手紙。


 渡さない。


 自分で。


 持つ。


「今は」


 言う。


「帰ってくるな」


「……」


「でも」


 次。


「帰ってくるなじゃない」


「何?」


「待ってくれって」


「……」


「父さんが」


 涙。


「村と話すから」


「うん」


「母さんも」


「うん」


「会いたいって」


「……」


「兄さんも」


「うん」


「でも」


 笑う。


 泣きながら。


「今すぐ帰ったら」


「……」


「家族ごと」


 目。


 閉じる。


「村にいられなくなるかもしれない」


 完全な。


 拒絶じゃない。


 だから。


 余計に。


 苦しい。


 家族は。


 会いたい。


 でも。


 社会が。


 間にある。


     *


 胸元。


 熱。


『家族受容検証。』


「黙れ」


『家族本人――受容意向あり。』


『地域共同体――不確定。』


『家族は対象と共同体の双方を失わない方法を模索。』


『結果。』


『即時帰郷――保留。』


「……」


『ダークファンタジー的社会摩擦――成立。』


「成立って書くな」


 エルナ。


 手紙。


 胸。


 抱える。


「ルーク」


「何?」


「私」


「うん」


「帰っていいって」


「うん」


「言われると思ってた」


「……」


「馬鹿だな」


「馬鹿じゃない」


「一年」


 笑う。


「死んでたのに」


「生きてた」


「帰ったら」


「うん」


「前の場所が」


 あると思ってた。


 それ。


 当たり前。


 だと思う。


「でも」


 エルナ。


 パン屋。


 見る。


 女将。


 厨房。


 ミレア。


 奥。


 セリア。


 階段。


 リサ。


 隣。


「ここ」


「うん」


「今は」


 少し。


 息。


「ここにいていい?」


 女将。


 厨房から。


「何日でもいな!」


「……」


「働けるようになったら働け!」


「はい」


「食べた分はそのうち返しな!」


「……はい」


 泣く。


 声。


 出ない。


     *


 日記。


『検証結果を更新。』


『対象エルナ。』


『社会復帰――未完了。』


『家族再会――延期。』


『冒険者資格――復旧待ち。』


『経済的自立――未達。』


『地域社会受容――不確定。』


『生活拠点――確保。』


『人的支援――あり。』


『偏見――あり。』


『恐怖――残存。』


『帰属先――再構築中。』


「……」


『総合。』


『完全な救済は実施しない。』


「また」


『完全な破滅も実施しない。』


「……」


『暗い世界の中で、局所的な善意のみ残します。』


 そこ。


 俺。


 止まる。


 全部。


 悪い世界なら。


 簡単。


 全部。


 優しい世界でも。


 簡単。


 でも。


 違う。


 女将みたいな。


 人もいる。


 家族みたいに。


 愛していても。


 すぐには。


 迎えられない人もいる。


 受付みたいに。


 助けたいけど。


 制度に。


 縛られる人もいる。


 知らない奴みたいに。


 勝手なことを言う奴もいる。


 それを。


 全部。


 エルナは。


 生きながら。


 受ける。


『次話候補。』


 文字。


『第四十話 死んだ女に家はありません』


「……」


 エルナ。


 手紙。


 まだ。


 持ってる。


 生きている。


 でも。


 一年前に。


 一度。


 社会の中では。


 死んだ。


 今日。


 帰ってきたから。


 元の人生まで。


 一緒に。


 帰ってくるわけじゃない。


 それを。


 これから。


 一つずつ。


 取り戻す。


 取り戻せないものも。


 たぶん。


 ある。


 日記帳は。


 それを。


『暗い展開』


 と。


 呼ぶ。


 エルナにとっては。


 ただ。


 明日も。


 生きる。


 というだけなのに。


 この作品の品質向上のため、ぜひ感想をお寄せください。今後の展開・キャラクター・構成・描写方針の参考として利用します。


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