第三十七話 『キャラクター一覧を掲載します。』
朝。
「セリア」
「何だ」
「自分は?」
「セリア」
「身体は?」
「私の」
「俺は?」
「ルーク」
「リサは?」
「リサ」
「女将」
「女将」
「ミレア」
「ミレア」
「よし」
「毎朝それやるの、もうやめないか?」
「まだ駄目」
「昨日より分かってるぞ」
「だからって急にやめるの怖いでしょ」
「私よりお前の方が怖がってないか?」
「……否定できない」
セリアが。
少し笑った。
その笑顔も。
ちゃんと。
セリアのものだと。
今は分かる。
顔も。
身体も。
見えている。
女将も。
ミレアも。
普通にセリアを認識している。
数日前。
世界から消えかけていたなんて。
嘘みたいだ。
でも。
俺とセリアは。
覚えている。
リサも。
かなり。
覚えている。
だから。
なかったことには。
できない。
胸元。
熱。
「……今度は何だ」
開く。
『作品情報を整理します。』
「珍しく普通?」
次。
『キャラクター一覧を掲載します。』
「……は?」
俺は。
二度見した。
『読者向け補助情報として、現時点の主要キャラクターを整理します。』
「本編の途中で?」
『長期連載化に伴い、登場人物および被害履歴が増加。』
『新規読者、途中復帰読者の理解補助を目的とする。』
「被害履歴まで一覧にする気?」
嫌な予感。
『また、今後の展開候補を検討する際のキャラクター管理表として利用します。』
「やっぱりそっちが本命じゃん!」
「朝から何だ?」
セリア。
「何でもない!」
「またか」
それだけ。
誰も。
日記帳そのものには。
意識を向けない。
俺だけが。
読む。
*
『キャラクター一覧。』
『主人公。』
『ルーク。』
『成人男性。』
『農村出身。』
『本人は長期間、自身を十六歳程度と認識していたが、教会記録の照合により成人済みであることが判明。』
『前世――日本人男性。』
『前世では会社員。』
『小説投稿サイトの作品を読み、自身でもAIを利用した小説執筆経験あり。』
『現在――パン屋居候兼、新人冒険者。』
「居候って」
『特徴。』
『日記帳の記載内容を唯一認識可能。』
『日記帳による現実改変を事前察知できる場合がある。』
『ただし阻止成功率は低い。』
「最後いらない」
『戦闘能力――低。』
「低いって」
『物語理解能力――高。』
「そこは」
『惨劇巻き込まれ率――極めて高。』
「褒められてない!」
『女性キャラクターからの信頼――上昇中。』
「……」
そこ。
少し。
気まずい。
『役割。』
『日記帳と世界の間に立つ観測者。』
『同時に、日記帳が物語を成立させるため最も利用しやすい存在。』
「最悪だ」
*
『主要女性キャラクター一。』
『セリア。』
本人。
目の前で。
パンを食べてる。
『成人女性。』
『冒険者歴九年。』
『剣士。』
『過去、六人パーティーでダンジョンへ入り、五人死亡。』
『唯一の生存者。』
『その後、悪夢、孤独恐怖、生存者罪悪感を抱える。』
『主人公たちの生活拠点であるパン屋へ滞在。』
「……」
『直近。』
『社会的存在の段階的消失を経験。』
『氏名。』
『経歴。』
『他者からの認識。』
『身体所有感。』
『身体内部認識。』
『以上が順次切断された。』
セリア。
パン。
普通に。
食べてる。
でも。
日記の文字を見るだけで。
あの。
見えない身体が。
戻ってくる。
『アクセス低下により消失展開を取消。』
「そこ本人に聞かせられないな」
『現在。』
『社会的存在――復旧。』
『身体視認――復旧。』
『自己認識――回復途中。』
『主人公およびリサによる介護を経て、自身の身体、記憶、感情を再度「自分のもの」として認識中。』
『戦闘能力――高。』
『精神安定性――回復傾向。』
『主人公への信頼――高。』
『主人公との関係――未確定。』
「未確定」
『本人が「今の自分で決める」と宣言。』
「……」
そこは。
そのまま。
でいい。
『惨劇適性――非常に高。』
「最後に台無し!」
「何が?」
「何でもない!」
セリアが。
怪訝な顔。
*
『主要女性キャラクター二。』
『リサ。』
「来た」
本人。
水を飲んでる。
『成人女性。』
『魔術師。』
『赤髪。』
『黒ローブ。』
『攻撃魔術および凍結魔術を使用。』
『口調――強い。』
『戦闘判断能力――高。』
『地下水路における大型変異スライム事件生存者。』
『討伐隊二十名中、生存者十名。』
『本人も重度被害。』
『ただし精神的屈服なし。』
『身体反応と本人意思を分離して認識。』
『拘束状態でも観察、指示、攻撃を継続。』
「そこは本当に強いよな」
『事件後。』
『透明液体への恐怖。』
『幻触。』
『身体記憶。』
『強迫的確認行動。』
『スライムへの過剰研究。』
『スライムへの過剰殲滅欲求。』
『以上が発生。』
『主人公ルークを現実確認および心理的安全対象として強く信頼。』
「……」
『その後。』
『主人公との親密関係が進展。』
『以前忌避していた発声についても、自身の意思で選択可能なものとして再定義。』
「そこまで一覧に入れるの!?」
『羞恥心――正常。』
『二人きりの場合のみ、羞恥より欲求表現を優先する傾向あり。』
「やめろ!」
「何だよ」
「何でもない!」
リサ。
眉。
寄せる。
『コメディ適性――高。』
「そこも入るの!?」
『ただし、本作品の作風再調整により、当面は過度なコメディ運用を抑制。』
「よし」
『スライム遭遇時の危険性――高。』
「そっちは残るんだ」
『主人公への信頼――極めて高。』
『主人公への依存――限定的。』
『戦闘・職業・日常判断の自立性――維持。』
『現在の役割。』
『戦闘要員。』
『主人公の協力者。』
『セリア介護補助。』
『将来的なスライム関連惨劇への接続要員。』
「最後消せ!」
*
『主要女性キャラクター三。』
『ミレア。』
厨房。
パン。
運んでる。
『成人女性。』
『冒険者。』
『過去、ゴブリンによる性的被害を受けた。』
『パーティー四名中二名死亡。』
『生存した婚約者との婚約解消。』
『治療費により所持金減少。』
『宿泊場所を失い、パン屋へ移動。』
『被害後。』
『悪夢。』
『自己否定。』
『「役に立たなければ居場所がない」という傾向。』
『現在。』
『生活再建中。』
『戦闘復帰について慎重に検討。』
『主人公との恋愛関係――なし。』
『性的嗜好――未設定。』
『過去の被害を嗜好として扱わない。』
「そこ明記するんだ」
『重要事項のため記載。』
「会話みたいに書くな」
『惨劇適性――中。』
「低くして」
『同種被害の反復は冗長。』
『今後は被害者役よりも、他者の惨劇に対して過去経験を持つ人物として使用する方が有効。』
「……それでいい」
少なくとも。
同じものを。
何度も。
受けさせるより。
*
『主要女性キャラクター四。』
『女将。』
「名前なしのままなんだ」
『成人女性。』
『王都のパン屋経営者。』
『主人公ルークを「うちの倅」と呼ぶ。』
『主人公の社会的養育者に近い位置。』
『セリア、ミレア、リサへ住居を提供。』
『戦闘職ではない。』
『魔物を鉄鍋で殴打した実績あり。』
「そこ絶対書くんだな」
『生活能力――高。』
『主人公への信頼――高。』
『物語上の生活基盤としての重要度――極めて高。』
『死亡非推奨。』
「理由は?」
『生活拠点再構築コストが高いため。』
「相変わらず最低!」
『パン屋完全破壊――非推奨。』
『半壊程度――再利用可能。』
「再利用するな!」
厨房。
女将。
「ルーク! 食べ終わったなら手伝いな!」
「はい!」
俺。
即答。
日記。
『主人公への支配力――高。』
「変な項目追加するな!」
*
パンを運ぶ。
戻る。
まだ。
続いてる。
『その他人物。』
『ゴードン――』
「違う作品!」
文字。
一瞬。
止まる。
『参照作品誤認。』
『削除。』
「お前も間違えるんだ!」
次。
『その他人物。』
『地下水路討伐隊生存者八名。』
『各自、重度または中等度の心理的後遺症あり。』
『現時点で即時戦線復帰可能者――ゼロ。』
「……」
『死亡者十名。』
『復活予定――なし。』
「そこは」
重い。
『ゴブリン事件救出女性複数。』
『個別主要キャラクター化――未実施。』
『薬師。』
『護衛冒険者。』
『ギルド受付。』
『神官。』
『門番。』
『各種モブ。』
『必要に応じて惨劇、説明、証言、死亡等へ利用。』
「モブへの扱い雑!」
*
『現時点の主要ヒロイン順位を整理。』
「順位まで出すの?」
『一位――リサ。』
「……」
『理由。』
『主人公との関係進展が最も進行。』
『戦闘能力、心理問題、恋愛、惨劇、コメディの複数領域へ接続可能。』
『二位――セリア。』
「今一話丸ごとセリア編なのに二位?」
『現在の注目度――高。』
『ただし恋愛関係は未確定。』
『自己決定の回復を優先。』
『三位――ミレア。』
『回復途上。』
『恋愛関係未形成。』
『四位――女将。』
『疑似親子関係が強く、現時点では恋愛展開非推奨。』
「そこはずっと変わらないな」
『ただし。』
「何」
『ヒロイン順位は固定ではない。』
『アクセス。』
『読者反応。』
『今後の惨劇。』
『主人公との関係変化。』
『以上により随時更新。』
「人間関係をランキングにするなよ」
*
昼。
セリア。
剣の手入れ。
リサ。
魔術書。
ミレア。
パン屋。
女将。
厨房。
俺。
手伝い。
日記。
『キャラクター配置を確認。』
「まだやってる」
『ルーク――中心。』
『セリア――自己認識回復編。』
『リサ――直近主役期間終了、補助配置。』
『ミレア――待機。』
『女将――生活基盤維持。』
「待機って」
次。
『今後の展開偏重を防ぐため、各キャラクターを一定間隔で再利用します。』
「嫌な言い方」
『特に。』
『惨劇対象の固定化を避ける。』
「……」
嫌。
その言葉。
『同一人物のみを繰り返し被害対象とすると、読者の慣れが発生。』
『よって。』
『今後は惨劇、回復、日常、関係進展を各キャラクターへ分散。』
「分散しなくていい!」
「何がだ?」
リサ。
「何でもない!」
『一人が回復している間に、別人物へ危機を発生させる構造も利用可能。』
「やめろ」
セリア。
今。
戻り始めた。
だから。
次。
別の誰か。
そういう。
考え方。
*
『キャラクター一覧掲載の目的を整理。』
「まだ目的あったの?」
『読者理解補助。』
『長期連載時の設定確認。』
『作者による設定矛盾防止。』
『惨劇対象選定の効率化。』
「最後!」
『恋愛関係進展管理。』
『死亡・負傷・後遺症履歴管理。』
『アクセス低下時の再利用候補抽出。』
「完全に管理表だ!」
俺は。
食卓を見る。
リサ。
セリア。
ミレア。
女将。
普通に。
いる。
でも。
日記の中では。
『主要女性キャラクター一。』
『主要女性キャラクター二。』
『主要女性キャラクター三。』
『主要女性キャラクター四。』
それだけ。
並べられている。
誰が。
次に。
使われるか。
選ぶために。
*
夜。
日記帳。
最後の欄。
『人物別・現在の未解決要素。』
「……」
『ルーク。』
『日記帳停止方法――未発見。』
『世界改変からの脱出方法――未発見。』
『前世記憶と現世人格の関係――未整理。』
「俺も結構残ってるな」
『セリア。』
『自己認識――完全回復していない。』
『主人公との関係――本人が今後決定。』
『過去の仲間喪失――継続。』
『リサ。』
『スライム恐怖――残存。』
『スライム殲滅欲求――残存。』
『主人公との関係――進行中。』
『ミレア。』
『戦闘復帰――未完了。』
『自己価値認識――回復途中。』
『過去の婚約関係――終了済み。』
『女将。』
『パン屋経営――継続。』
『主人公への疑似親子関係――継続。』
『鉄鍋――健在。』
「最後の情報いる!?」
*
次の頁。
『キャラクター一覧掲載――完了。』
「……」
『今後、設定追加、死亡、関係変化、後遺症発生等に応じて更新します。』
「死亡まで更新項目にするな」
『次話候補を生成。』
嫌な予感。
出る。
『第三十八話 一覧から一人選びます』
「やめろ!」
立ち上がった。
「何だ!?」
セリア。
「どうした!」
リサ。
「何でもない!」
「何でもない奴の声じゃないぞ!」
そうだ。
何でもなくない。
日記帳。
一覧。
五人。
俺。
セリア。
リサ。
ミレア。
女将。
そして。
次。
『一覧から一人選びます』
文字。
その下。
『選定基準。』
「読むな」
『直近の中心人物を除外。』
「読むなって」
『未使用期間。』
『惨劇適性。』
『主人公への影響。』
『アクセス期待値。』
「やめろ」
さらに。
文字が。
出る。
『候補を算出中。』
「やめろ!」
そこで。
止まった。
名前は。
まだ。
出ない。
「……」
それが。
余計に。
怖い。
誰なのか。
まだ。
分からない。
今日。
日記帳は。
キャラクター一覧を作った。
読者のため。
設定整理のため。
そう。
書いた。
でも。
本当は。
たぶん。
次に。
誰を壊すか。
選びやすくするため。
その一覧だった。
『候補を算出中。』
その文字だけが。
夜になっても。
消えなかった。
この作品の品質向上のため、ぜひ感想をお寄せください。今後の展開・キャラクター・構成・描写方針の参考として利用します。
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