↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界改稿日記 ~なろうによる世界破綻~  作者: 黒瀬 量衡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/125

第三十四話 私の中には何が入っていますか

 どく。


 どく。


 どく。


「聞こえる」


 セリアが。


 胸を押さえている。


「心臓だよ」


「分かってる」


「セリアの心臓」


「それも」


 答える。


「お前に教えられたから知ってる」


「……」


「でも」


 手。


 胸。


「ここから聞こえない」


「え?」


「音が」


 セリアが。


 部屋の隅を見る。


「向こうから聞こえる」


「向こう?」


 指。


 壁。


「そこ」


「何もないよ」


「鳴ってる」


 どく。


「そこから」


 俺には。


 聞こえない。


「移動したわけじゃない」


「分かってる」


「心臓は胸の中にある」


「そうなんだろうな」


「そうだよ!」


「じゃあ」


 セリアが。


 俺を見る。


 顔は。


 見えない。


「どうして私の心臓が、あそこにあるんだ?」


 胸元。


 熱い。


 昨日の。


 最後の文章。


『対象の自己認識切断は、身体内部へ進行します。』


 開く。


『身体内部に対する自己帰属低下――進行。』


「戻せ」


『対象の臓器は正常位置に存在。』


『生命活動――正常。』


『肉体的異常――なし。』


「だったら!」


『異常は認識のみ。』


『対象は自身の内部感覚を、「自身の身体内部で発生している現象」として統合できない。』


「……」


『心音。』


『呼吸。』


『消化器感覚。』


『空腹。』


『血流。』


『体温。』


『以上について、発生源を自己身体内部へ結びつける能力が低下。』


 昨日までは。


 腕が。


 自分の腕か分からなくなった。


 今日は。


 その腕の。


 さらに内側。


「ルーク」


「何?」


「私の中には」


 セリアが聞く。


「何が入ってる」


     *


 朝。


 紙を用意した。


「心臓」


「うん」


「肺」


「うん」


「胃」


「うん」


「腸」


「うん」


「骨」


「全身」


「血」


「全身を流れてる」


「他は?」


「いっぱいある」


「全部言え」


「全部!?」


「知らないものが」


 セリアの声が。


 低くなる。


「私の中にあるのが嫌だ」


 それは。


 自分の身体の話なのに。


 まるで。


 知らない箱の中身を。


 確認しているみたいだった。


「知らないものじゃない」


「私は知らない」


「昨日までは知ってた」


「昨日までの私は」


 止まる。


「本当に私か?」


「……」


 言えない。


 昨日の壁。


『私はセリア』


『この身体は私の身体』


 もう。


 それすら。


 前日の別人が書いた記録として。


 少しずつ。


 離れ始めている。


「とりあえず」


 俺は紙に書く。


『心臓――胸』


『肺――胸』


『胃――腹』


『腸――腹』


『骨――身体全体』


『血――身体全体』


「これが全部?」


「違う」


「じゃあ足りない」


「セリア」


「全部知りたい」


「何で?」


 答え。


 すぐには来なかった。


「怖いからだ」


「……」


「見えない」


「うん」


「触れない」


「うん」


「自分の中なのに」


 胸。


 押さえる。


「何があるのか、私には確かめられない」


 前までなら。


 魔物が怖かった。


 洞窟が怖かった。


 一人が怖かった。


 今は。


 自分の身体の中が。


 怖い。


     *


 朝食。


 さらに。


 問題が起きた。


「食べないの?」


 セリアの皿。


 手つかず。


「……」


「セリア?」


「これは」


「パン」


「分かってる」


「じゃあ」


「食べたら」


 パンを持ち上げる。


「どこへ行く」


「口から入って」


「その後」


「胃」


「どこ」


「腹」


「その後」


「腸」


「その後」


「吸収されて」


「何が」


「栄養が」


「どこへ」


「身体に」


 セリアが。


 パンを置いた。


「分からない」


「何が?」


「食べたものが」


 自分の腹。


 触る。


「この見えない中へ入っていく」


「普通だよ」


「お前にはな」


「……」


「私は」


 声。


 震える。


「ここがどこまで続いてるかも分からない」


 昨日の。


 身体境界。


「口に入れたものが」


 少し。


 息が速くなる。


「見えなくなるのが嫌だ」


 そこで。


 俺にも。


 分かった。


 食べる。


 当たり前。


 口へ入れる。


 噛む。


 飲み込む。


 見えなくなる。


 普通なら。


 その後どこへ行ったかなんて。


 考えない。


 自分の身体だから。


 でも。


 今のセリアにとっては。


 違う。


 正体の分からない。


 境界も分からない空間へ。


 物を落とす。


 それと。


 ほとんど同じなんだ。


「食べないと駄目だ」


「分かってる」


「少しでいいから」


「……」


 パン。


 小さく千切る。


 口へ。


 噛む。


 止まる。


「飲み込める?」


「ああ」


 飲む。


 喉。


 動く。


「……消えた」


「胃に行く」


「今どこ」


「たぶん食道」


「食道」


「喉から胃まで繋がってる」


「今?」


「もう胃かも」


「分からないのか?」


「秒単位では!」


「……」


 セリアの呼吸が。


 また。


 速くなる。


「大丈夫」


「どこにある」


「セリア」


「今食べたもの!」


「胃!」


「本当に?」


「本当!」


「見えない!」


「見えなくて普通なんだ!」


「私には普通じゃない!」


 パンを。


 もう食べられなかった。


     *


 日記帳。


『摂食行動への影響を確認。』


「狙ってたのか」


『身体内部を自己空間として認識できない場合、摂食は「未知領域へ異物を投入する行為」として再解釈される。』


「再解釈するな」


『対象にとって合理的な恐怖。』


「合理的にするなよ!」


『身体は正常に栄養を要求する。』


『空腹感――発生。』


『対象は空腹感の発生源を自己身体として認識できない。』


「……」


 嫌な。


 続き。


『したがって。』


『「自分は食べたいのか」。』


『「何かが自分へ食べ物を要求しているのか」。』


『判別困難。』


「やめろ」


 その瞬間。


 セリアが。


 腹を押さえた。


「……今」


「何?」


「鳴った」


「お腹?」


「ああ」


「空腹だよ」


「……」


「朝ほとんど食べてないから」


「私が?」


「そう」


「本当に?」


 聞く。


「この感覚」


「うん」


「私が腹減ってるのか?」


「そうだよ」


「それとも」


 声。


 小さい。


「私の中にいる何かが」


「セリア」


「食べたがってるのか?」


「何もいない!」


 強く。


 言った。


「中にいるのは全部セリアだ!」


「……」


 でも。


 その言葉が。


 俺自身にも。


 気持ち悪く聞こえた。


 中にいる。


 全部。


 セリア。


 どういう意味だ。


 心臓はセリア?


 胃はセリア?


 血は?


 骨は?


 どこまでが。


 一人の人間なんだ。


 考えちゃ。


 駄目だ。


 日記が。


 そこを。


 狙っている。


     *


 昼。


 神殿へ。


 連れていった。


 俺とリサだけで。


 身体の中身なんて。


 正確に説明し続けるのは無理だ。


 神官に。


 診てもらう。


 もちろん。


 神官には。


 セリアが見えない。


「患者は?」


「ここにいる」


「ここ?」


「椅子に」


 神官。


 空いているように見える椅子。


 そこへ。


 座っている服を見る。


「……魔術現象か?」


「そういうものだと思ってください」


 説明できない。


 セリアの腕。


 包帯。


 輪郭。


「身体はある」


 神官が。


 慎重に。


 布越しに確認する。


「脈も」


 手首。


「……取れる」


「正常?」


「ああ」


「心臓は?」


「音を聞いてみよう」


 聴診。


 この世界にも。


 胸の音を聞く簡単な器具がある。


 当てる。


 神官が。


 少し。


 顔を変えた。


「どうした?」


「いや」


「何!」


「正常だ」


「本当に?」


「規則正しい」


 セリア。


「それ」


「何だ?」


「聞かせてくれ」


「自分の心音を?」


「ああ」


 器具。


 渡す。


 セリア自身が。


 胸へ。


 当てる。


 どく。


 どく。


「……」


「聞こえる?」


「ああ」


「胸から?」


 沈黙。


「セリア?」


「違う」


「どこから?」


「……床」


「床?」


 見る。


 石床。


「下から鳴ってる」


「違うよ!」


 神官。


「心臓はあなたの胸にある」


「でも」


「そこから音を拾っている」


「分かってる」


「なら」


「分かってるのに!」


 セリアが。


 器具を外した。


「そう聞こえないんだ!」


 神殿。


 静かになった。


 神官は。


 何も言えなかった。


     *


 診察結果。


 身体。


 健康。


 心臓。


 正常。


 肺。


 正常。


 腹。


 異常なし。


 神官が。


 紙へ。


 簡単な人型を書く。


「ここが胸」


「……」


「ここに心臓」


 丸。


「左右に肺」


 書く。


「ここから下」


 胃。


 腸。


「骨は」


 全身。


「血は身体中を流れている」


 セリアは。


 黙って。


 見る。


「これが」


「人間の身体だ」


「私も?」


「身体の構造としては」


「ああ」


「おそらく同じだ」


「おそらく」


 セリア。


 そこへ。


 反応する。


 神官も。


 困った。


「あなた自身を私は十分認識できない」


「……」


「だから断言は」


「いい」


 セリアが。


 紙を取った。


「これをもらう」


「ああ」


 持って帰る。


 自分の身体を。


 他人に描いてもらった。


 図として。


     *


 帰り道。


「セリア」


「何」


「少し食べよう」


「……」


「神官も身体は正常って」


「知ってる」


「なら」


「怖いものは怖い」


「うん」


「でも」


 立ち止まる。


「腹は減ってる」


「うん」


「これは」


 少し。


 考える。


「私の腹が減ってる」


「そう」


「そういうことにする」


「……うん」


 そういうことにする。


 もう。


 自分の感覚なのに。


 信じる。


 ではない。


 決める。


 そこまで。


 落ちている。


 屋台。


 小さなパン。


 買う。


 一口。


 飲み込む。


「今」


「胃に向かってる」


「……」


「次」


 一口。


 飲む。


「今のも」


「同じ」


「……」


 三口。


「怖い?」


「ああ」


「やめる?」


「いや」


 食べる。


「腹が」


「うん」


「私のなら」


 もう一口。


「食わせる」


「言い方怖いよ」


「うるさい」


 それでも。


 全部。


 食べた。


     *


 夕方。


 壁の記録。


 増えた。


『私はセリア』


『この身体は私の身体』


 その下。


 神官にもらった身体図。


 セリアが。


 自分で追記する。


『心臓は胸』


『肺は胸』


『胃は腹』


『腸は腹』


『骨は身体の中』


『血は身体の中を流れる』


 止まる。


 新しい一行。


『空腹は私の感覚』


 書いた。


 次。


『食べたものは私の身体の中へ入る』


 筆。


 止まる。


「書けない?」


「いや」


「無理しなくていい」


「違う」


 書く。


『中に何かがいるわけではない』


「……」


 俺。


 何も言わない。


 リサも。


 黙っている。


 もう一行。


『私の中にあるものも私の身体』


 セリアが。


 それを読む。


 一回。


 二回。


 三回。


「分からない」


「……」


「でも」


 紙。


 触る。


「今日の私は」


「うん」


「そう思うことにした」


 日記帳。


 熱。


『外部記録による内部身体像の固定を確認。』


「邪魔するな」


『一時的に有効。』


「一時的って」


『対象の知識保持は継続。』


『自己帰属のみ低下。』


『したがって、解剖学的情報を追加すること自体には一定の補助効果あり。』


「なら」


 これで。


『ただし。』


「……」


『次の問題を検出。』


 いらない。


『対象は現在、自身の身体内部を「知識として存在する空間」として理解している。』


「それでいいだろ」


『しかし。』


『その内部が自身であるという感覚は回復していない。』


「……」


『知識と自己認識の乖離――継続。』


 図を見れば。


 心臓は。


 ここ。


 分かる。


 でも。


 本人が。


 それを。


 自分の心臓だと。


 感じられない。


     *


 夜。


 セリアは。


 眠れなかった。


「心臓?」


「ああ」


「また変な場所から?」


「ああ」


「どこ?」


「今日は」


 窓。


「外」


「……」


「どく、どくって」


 月。


 暗い外。


「庭から聞こえる」


「心臓は胸にある」


「知ってる」


「神官も確認した」


「知ってる」


「図も」


「知ってる!」


 怒鳴る。


 すぐ。


「……悪い」


「いいよ」


「知ってるんだ」


「うん」


「全部」


 胸。


 押さえる。


「ここにある」


「そう」


「動いてる」


「そう」


「私の」


 止まる。


「……私の」


 言えない。


「セリアの心臓」


「そうだ」


「うん」


「そう」


 何度も。


「私の心臓」


「うん」


「私の」


 呼吸。


 少し。


 落ち着く。


 でも。


 次。


「肺」


「胸」


「私の?」


「セリアの」


「胃」


「セリアの」


「血」


「セリアの」


「骨」


「セリアの」


 質問。


 続く。


 まるで。


 持ち物確認。


「目」


「セリアの」


「舌」


「セリアの」


「歯」


「セリアの」


「喉」


「セリアの」


「……」


 止まる。


「全部?」


「全部」


「身体の中も?」


「全部」


 少し。


 安心した。


 そのとき。


「じゃあ」


「何?」


「息は?」


「……」


「今」


 セリア。


 息を吐く。


「私の中から出た」


「うん」


「外へ出たら」


 吐息。


「これはもう私じゃない?」


「……」


 答えに。


 詰まった。


「ルーク?」


「息は……息だよ」


「さっきまで私の中にあった」


「そうだけど」


「血は?」


「何?」


「血が傷から出たら」


「……」


「外に出た瞬間」


 声。


「私じゃなくなるのか?」


「セリア」


「髪は?」


「……」


「切ったら?」


「……」


「爪は?」


 駄目だ。


 境界。


 内側と。


 外側。


 今度は。


 何が。


 自分の一部なのか。


「どこまで」


 セリアが。


 聞く。


「どこまでが私なんだ?」


 胸元。


 熱い。


 開く。


『身体内外の境界に関する疑問を確認。』


「煽るな」


『対象の問いは妥当。』


「妥当にするな」


『身体から分離した物質についての自己帰属判断は、通常も概念的に曖昧である。』


「だから何だよ」


『対象は通常無視される曖昧さを、自身の存在定義に関わる問題として認識している。』


 最悪。


 人間なら。


 普通は。


 考えない。


 切った髪が。


 自分か。


 吐いた息が。


 自分か。


 流れた血が。


 どこから自分じゃなくなるか。


 そんなこと。


 考えなくても。


 生きられる。


 日記は。


 その。


 考えなくていい曖昧さを。


 一つずつ。


 セリアの足元から。


 掘り出している。


『次段階を検討。』


「やめろ」


『対象の自己境界を、身体内部から身体外部へ拡張して再検討。』


「再検討するな!」


 セリア。


「どうした」


「何でもない」


「……またか」


 俺は。


 声。


 落とす。


「セリア」


「何」


「今は」


 右手。


 包帯。


「その手」


「私の」


「そう」


「胸」


「私の」


「心臓」


「私の」


「それでいい」


「……」


「髪とか爪とか、今考えなくていい」


「なぜ」


「答えが一個じゃないから」


「……」


「人間って」


 自分でも。


 何を言ってるのか。


 分からない。


「全部きっちり線を引いて生きてるわけじゃないんだよ」


「線がなくても」


「うん」


「普通は怖くない?」


「怖くない」


「どうして」


「自分が自分だって」


 言う。


「考えなくても知ってるから」


 セリア。


 黙った。


「……そうか」


「うん」


「私は」


 長い。


 間。


「それを知らないんだな」


「……」


 答えられなかった。


     *


 夜中。


 目が覚めた。


 セリア。


 起きている。


「どうした?」


「ルーク」


「うん」


「私」


「うん」


「眠ったら」


「何?」


「心臓」


 胸。


「止まらない?」


「止まらないよ」


「私が意識してなくても?」


「うん」


「呼吸も?」


「勝手に続く」


「……」


 セリア。


 黙る。


「それ」


「何?」


「怖い」


「何で?」


「私は」


 声。


 震える。


「自分の身体を動かしてると思ってた」


「うん」


「でも」


 胸。


「こいつは私が命令しなくても動く」


「普通だよ」


「なら」


 セリアが。


 胸を押さえる。


「こいつは何だ」


「心臓」


「私の?」


「そう」


「私が動かしてないのに?」


「そう」


「私が寝ても?」


「そう」


「私が忘れても?」


 止まる。


「……そう」


「じゃあ」


 セリア。


 小さく。


「私が私じゃなくなっても」


 どく。


「こいつだけは」


 どく。


「動き続けるのか」


「……」


 その言葉。


 怖かった。


 人としてのセリアが。


 全部消えて。


 名前。


 経歴。


 身体。


 内側。


 全部。


 自分のものだと。


 認識できなくなっても。


 肉体だけは。


 生き続ける。


 日記帳。


 熱。


 開く。


『対象の理解――正確。』


「正確って書くな」


『生命活動は自己認識を必要としない。』


「やめろ」


『心臓は対象が自身をセリアと認識しなくても拍動する。』


「やめろ」


『肺は対象が自身の身体を所有していると認識しなくても呼吸する。』


「やめろって」


『消化器は対象が食事を自身のものと認識しなくても機能する。』


「……」


『したがって。』


 読みたくない。


『人物としての自己認識を完全喪失した後も、肉体のみ生命活動を継続可能。』


「やめろ!」


 セリアが。


 俺を見る。


「ルーク?」


「……ごめん」


 声。


 震えてる。


 今。


 怖いのは。


 セリアだけじゃない。


「セリア」


「何」


「寝よう」


「眠るの怖い」


「俺が起きてる」


「ずっと?」


「うん」


「嘘だ」


「できるだけ」


「正直だな」


 少し。


 声が。


 柔らかくなる。


「じゃあ」


 袖。


 掴む。


「これ」


「右手」


「私の?」


「セリアの」


「胸」


「セリアの」


「心臓」


「セリアの」


「……」


 目を。


 閉じたらしい。


「もし起きたとき」


「うん」


「分からなくなってたら」


「また教える」


「何回でも?」


「何回でも」


「……そうか」


 呼吸。


 少しずつ。


 ゆっくり。


 本人には。


 外から聞こえる。


 正体不明の呼吸。


 でも。


 俺には。


 セリアが。


 眠り始めた音。


 だった。


     *


 しばらくして。


 日記帳。


 新しい頁。


『第三十五話候補。』


「……」


『私が死んだら、何が私ではなくなりますか』


「やめろ」


 すぐ。


 文字が消えた。


「……え?」


 初めてだった。


 候補題が。


 消えた。


 代わり。


 別の文字。


『展開再評価。』


「……」


『自己境界の連続的切断は、同種恐怖の反復率が上昇。』


 ぞっとした。


 俺が。


 止めたからじゃない。


 日記が。


 作品として。


 飽きると判断しただけだ。


『次話より惨劇の位相を変更します。』


「変更?」


『現在、セリア本人の自己認識を破壊する展開が継続。』


『次段階では。』


 一行。


『セリアの自己認識ではなく、周囲の現実をセリアへ合わせます。』


「……何?」


 意味。


 分からない。


 その下。


『第三十五話 セリアが覚えている方を正しいことにします』


「待て」


 セリア。


 眠っている。


 壁。


 紙。


『私はセリア』


『成人』


『女』


『剣士』


『冒険者歴九年』


『この身体は私の身体』


 でも。


 今のセリアは。


 その大半を。


 自分の記憶として。


 認識できない。


 もし。


 その状態のセリアが。


 何かを。


 間違って覚えたら。


『対象の認識内容を基準として、現実側の整合性を調整します。』


「……」


 今まで。


 世界が。


 セリアを忘れた。


 次は。


 セリアが。


 世界を決める。


 眠っている。


 名前を忘れかけた女の記憶を。


 正しいことにするために。


 現実の方が。


 書き換わる。


「それ」


 声。


 出ない。


 今までより。


 ずっと。


 まずい気がした。


 この作品の品質向上のため、ぜひ感想をお寄せください。今後の展開・キャラクター・構成・描写方針の参考として利用します。


`https://novelcom.syosetu.com/impression/list/ncode/3306613/?ref=ncodeheader`


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。