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世界改稿日記 ~なろうによる世界破綻~  作者: 黒瀬 量衡


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第二十七話 もうスライムはいないのに

 スライムはいない。


 神官が診た。


 俺も何度も確認した。


 リサ自身だって、頭ではもう分かっている。


 それなのに。


「ルーク」


「はい」


「今夜も頼む」


「……もうスライムいないよね?」


「ああ」


「じゃあ何を確認するの?」


「それを私に言わせるのか?」


「だって!」


「察しろ」


「無茶言うなよ!」


 夕食後。


 パン屋の二階。


 廊下でそんな会話をしている。


 リサはいつもの黒いローブ姿だった。


 普通だ。


 昼間はギルドへ行った。


 魔術師として討伐記録を調べた。


 セリアとも普通に喋った。


 ミレアが焼いたパンを味見して、「ちょっと焦げてる」と普通に文句を言った。


 水溜まりを見ると今も一瞬止まるけど。


 透明な瓶は苦手だけど。


 それ以外は。


 本当に。


 一見すると以前のリサへ戻りつつある。


「それで」


 リサが俺を見る。


「入れてくれるのか?」


「言い方!」


「部屋にだ!」


「分かってる!」


「お前が変な受け取り方したんだろ!」


「最近の状況だと警戒するよ!」


「失礼な奴だな」


 リサが笑う。


 その瞬間。


 胸元の日記が熱くなった。


「……また始まった」


「何が?」


「何でもない」


「またそれか」


 リサには日記の文字は読めない。


 俺だけが開く。


『リサの行動原理を再評価。』


「……今度は何だよ」


『羞恥心――消失していない。』


『日中の社会性――維持。』


『対人関係――正常。』


『魔術師としての判断能力――維持。』


『ただし、主人公ルークとの関係においては、羞恥心の優先順位が著しく低下している。』


「優先順位?」


『現在のリサは、「女性として恥ずかしくない振る舞い」を維持することよりも、主人公から異性として求められることを優先している。』


「おい」


 嫌な予感。


『より端的に表現する。』


「しなくていい」


『リサは女としての羞恥心よりも、社会性を捨てた雌として主人公を求めている。』


「端的すぎるだろ!」


「何だよ!」


 リサが驚く。


「何でもない!」


「絶対何でもなくないだろ!」


「気にしないで!」


「毎回それ言うな」


 日記へ目を戻す。


『ただし、「社会性を捨てる」は恒常的人格変化ではない。』


『日中――社会性維持。』


『他者同席時――羞恥心維持。』


『主人公と二人きり――例外。』


「例外にするな」


『主人公との関係では、「みっともないと思われる恐怖」より、「自身が主人公を求めている事実を理解させたい欲求」が上回る。』


「……」


『リサは主人公が同意するよう誘惑する。』


『ただし、主人公が明確に拒否した場合は中止する。』


『誘惑と同意を同一視しない。』


「そこは大事」


『その上で。』


「その上で?」


『以前は強く忌避していた発声を、現在は誘惑のために積極的に使用する。』


「待て」


『羞恥による発声抑制――解除。』


『音量抑制――解除。』


「解除しなくていい!」


『発声パターン――意図的に変化。』


『単調な反復ではなく、長短、音程、息継ぎ等を変化させる。』


「そこ分析する必要ある!?」


『理由。』


『主人公ルークの反応を観察し、自身が異性として求めていることを最大限明確に伝達するため。』


「観察されるの俺なの!?」


 嫌な予感がして顔を上げる。


 リサがこっちを見ていた。


「何だよ」


「……いや」


「さっきから私の顔見すぎだろ」


「気のせい!」


「そうか?」


 日記。


『発声例。』


「例はいらない!」


『「お゛ほっ!」』


『「お゛っ、ほぉ……!」』


『「おほぉっ!」』


『「お゛ほ、ほぉっ!」』


『「お゛ほぉおっ!」』


「文字に起こすな!」


「何一人で赤くなってんだ?」


「原因そっちなんだよ!」


「は?」


「何でもありません!」


 日記はさらに続ける。


『過去。』


『同種の発声は、本人の意思とは無関係な身体反応として発生。』


『リサはそれを強い屈辱として忌避していた。』


『現在。』


『発声するか否かを本人自身が決定可能。』


『主人公が停止を求めた場合も中断可能。』


『したがって、同一または類似した声であっても意味は異なる。』


『過去――奪われた発声。』


『現在――本人が選択する発声。』


 そこは。


 分かる。


 第24話。


 リサは何度も言った。


 身体が勝手に反応してるだけだ。


 自分が望んでいることとは関係ない。


 それを。


 今度は自分から使う。


『さらに。』


「まだあるの?」


『リサ本人は、主人公が戸惑う可能性を認識している。』


『しかし戸惑いのみを理由として発声を抑制しない。』


「なんで!」


『主人公が引く。』


『リサが「求めていることが十分伝わっていない」と判断する。』


『さらに分かりやすく誘惑する。』


『主人公がさらに引く。』


『リサが発声の種類および頻度を増加させる。』


「最悪の循環だ!」


「さっきから何が最悪なんだよ!」


「何でもない!」


『主人公が明確に拒否しない限り、リサは大きな声による誘惑を継続する傾向を示す。』


「やめてくれ!」


「だから何を!?」


 リサが眉を寄せる。


「……言ったら本当にやりそうだから嫌だ」


「何の話だよ」


「何でもない」


「今日のお前、本当に変だぞ」


「最近ずっとです」


     *


 夜。


 俺の部屋。


「リサ」


「何」


「もう一回確認するけど」


「またか」


「今日は本当に、スライムの確認じゃないんだよね?」


「ああ」


「怖くなったから来たわけでも?」


「少しは怖い」


「じゃあ」


「でも、それだけじゃない」


 リサが俺を見る。


 いつもなら。


 ここで目を逸らす。


 今日は逸らさない。


「お前といたい」


「……」


「何か言え」


「びっくりしてる」


「何回びっくりするんだよ」


「だって前は『スライムいないか確認して』だったのに!」


「あれはあれだ」


「これは?」


「これはこれだ」


「説明になってない!」


「うるさい!」


 顔は赤い。


 やっぱり。


 羞恥心がなくなったわけじゃない。


 ある。


 ものすごくある。


 でも。


 帰らない。


「嫌なら言え」


 リサが言う。


「嫌じゃない」


「ならいい」


「即決!」


「何だよ」


「もうちょっとこう……」


「じれったいの嫌いなんだ」


「知ってる!」


 リサが近づく。


 その後。


 しばらくして。


「お゛ほっ!」


「…………」


 俺は止まった。


「何だよ」


「いや」


「何」


「本当に出すんだなって」


「出すって言っただろ」


「言ったけど!」


「じゃあいいだろ」


「いいんだけど!」


 再び。


「お゛っ……ほぉ……!」


「…………」


 もう一回。


「おほぉっ!」


「…………」


 さらに。


「お゛ほぉっ!」


「リサ」


「何だ!」


「ちょっと待って」


「何で?」


「思ってたより多い」


「何が」


「声」


「我慢しないって決めたからな」


「それにしたって!」


 リサが眉を寄せる。


「嫌か?」


「嫌とは言ってない」


「じゃあ続ける」


「判断が早い!」


 そして。


「お゛ほっ!」


「……」


「お゛っ、ほぉっ!」


「……」


「おほぉっ!」


「……」


「お゛ほ、ほぉっ!」


「…………」


「お゛ほぉおっ!」


「リサ!」


「今度は何だ!」


「多い!」


「だから何が!」


「種類!」


「知らん!」


「同じ人間からこんなに出ると思わないだろ!」


「細かく聞いてんじゃねえか!」


「勝手に耳に入ってくるんだよ!」


 枕が飛んできた。


「痛い!」


「失礼なんだよ!」


「ごめんなさい!」


 その直後。


「お゛ほっ!」


「再開早い!」


「何だ!」


「今さっき喧嘩してたよね!?」


「終わっただろ!」


「切り替えが速すぎる!」


 胸元の日記が熱い。


「……絶対ろくなこと書いてない」


 開く。


『発声継続。』


「知ってる」


『確認済みパターン――五種以上。』


「数えるな!」


『短時間での反復――多数。』


「だから数えるな!」


『主人公ルーク――困惑。』


「困惑してるよ!」


『リサ――主人公の困惑を認識。』


「まさか」


 顔を上げる。


 リサ。


 笑っている。


「……もしかして」


「何」


「俺が引いてるの見て、わざと増やしてない?」


「さあな」


「その顔!」


「気のせいじゃないか?」


「絶対違う!」


 そして。


「お゛ほぉおっ!」


「長くなった!」


「細かいな!」


「絶対わざとだろ!」


「知らん!」


 リサが笑う。


 完全に遊んでいる。


「ちょっと待って」


「また?」


「確認」


「何を」


「本当に嫌なら言え、ってリサ言ったよね」


「ああ」


「俺が嫌って言ったら?」


「やめる」


 即答。


「……そこはちゃんとしてるんだ」


「当たり前だろ」


「じゃあ」


「何だ」


「嫌ではない」


「なら問題ない」


「でも引いてはいる」


「知らん」


「両立するんだよ!」


「勝手にしろ」


「ひどい!」


「私は続ける」


「そこだけ強い!」


     *


 どれくらい経ったのか。


 途中から。


 俺は数えるのをやめた。


 日記はやめなかった。


『発声回数――増加中。』


「もういい!」


『主人公は途中で回数把握を放棄。』


「俺の敗北みたいに書くな!」


『リサ本人――抑制意思なし。』


「でしょうね!」


『発声の変化――継続。』


「まだ増えるの!?」


『主人公の反応を楽しんでいる可能性――高。』


「やっぱり!」


「何が?」


「何でもない!」


 リサがにやっと笑った。


「ルーク」


「何」


「顔」


「何?」


「引いてるな」


「ちょっとね!」


「ふーん」


 嫌な顔。


「何その顔」


「別に」


「やめて」


「何もしてない」


「絶対次ろくでもない!」


「何の話だ?」


 そして。


「お゛ほっ!」


「ほら!」


「お゛っ、ほぉっ!」


「連続!」


「おほぉっ!」


「三つ!」


「お゛ほ、ほぉっ!」


「四つ!」


「お゛ほぉおっ!」


「五つ!」


 静寂。


 俺は息を吐いた。


「終わった?」


「まだ」


「まだあるの!?」


 リサが吹き出した。


「お前面白いな」


「こっちは必死なんだよ!」


「何にだよ!」


「処理に!」


「声くらいで処理落ちするな!」


「大量なんだよ!」


「失礼だな!」


「量の話だよ!」


「もっと出してやろうか」


「それ脅しに使うものじゃない!」


 枕。


 今日何発目だろう。


     *


 そのとき。


 俺は。


 ふと壁を見た。


「……リサ」


「何」


「この宿」


「ああ」


「壁薄いよね」


 止まった。


「……」


「女将」


「……」


「セリア」


「……」


「ミレア」


「……」


 二人で黙る。


 今までで一番長い静寂。


「聞こえてるかな」


 俺が言う。


「……聞こえてない」


「根拠は?」


「聞こえてない」


「願望じゃん!」


「聞こえてないったら聞こえてない!」


「さっき音量制限完全解除してたよね!」


「日記みたいな言い方するな!」


「リサには読めないだろ!」


「何の話だ!」


「何でもない!」


 リサが布団を掴む。


「今からこれ被る」


「布団にどれだけ防音性能期待してるの!?」


「ないよりましだ!」


「たぶん気休め!」


「うるさい!」


「一番うるさかった人に言われた!」


「殺すぞ!」


「社会性戻ってきた!」


     *


 翌朝。


 食卓。


 女将。


 セリア。


 ミレア。


 リサ。


 俺。


「……」


 静かだ。


 異様に。


 女将がパンを置く。


「ほら」


「ありがとうございます」


 俺は食べる。


 リサも食べる。


 セリアがリサを見る。


 目を逸らす。


 ミレアもリサを見る。


 目を逸らす。


 リサが止まった。


「何だよ」


「いや」


 セリアが答える。


「何でもない」


「何でもなくない顔してるだろ」


「気のせいだ」


 ミレアがパンで口を隠している。


 肩が震えている。


「お前」


「な、何でも……」


「笑ってるだろ!」


「笑ってません……!」


「じゃあ顔上げろ!」


「無理です!」


 リサの顔が。


 徐々に赤くなる。


 俺は。


 そっと椅子を引いた。


「ごちそうさまでした」


「ルーク」


「はい」


「座れ」


「なんで!?」


「一人だけ逃げるな」


「俺まで公開処刑される必要ある!?」


「ある!」


「ない!」


 そこで。


 女将。


「まあ」


「……」


「元気なのはいいことだよ」


 リサの顔が真っ赤になった。


「女将」


「ただね」


「……はい」


「壁が薄い」


「…………はい」


「隣だけじゃなく、一階まで結構響くからね」


「…………」


 リサ。


 停止。


 俺も。


 停止。


「一階まで?」


 俺が聞く。


「綺麗にね」


「綺麗に!?」


「ルーク!」


「俺じゃない!」


「お前もいただろ!」


「いたけど声の主体は!」


「黙れ!」


 リサが俺の口を塞ぐ。


「むぐっ!」


 セリア。


 耐えられなくなった。


 吹き出した。


「悪い!」


「笑うな!」


「無理だ!」


 ミレアも笑う。


「ご、ごめんなさい……でも……」


「お前まで!」


「だって……あまりにも……」


「言うな!」


 女将だけが落ち着いている。


「若いのはいいけど、夜はもうちょっと静かにね」


「……努力します」


 リサが。


 地下水路でも見なかったくらい小さくなった。


 俺は。


 つい。


「我慢しないって決めたんじゃなかった?」


「ルーク」


「はい」


「表出ろ」


「殺される!」


     *


 逃げながら。


 胸元の日記が熱くなった。


「今だけは見たくない!」


 でも。


 見ない方が怖い。


 開く。


『経過評価。』


『リサ――羞恥心正常。』


「知ってる!」


『主人公との二人きりの状況に限り、羞恥心より欲求表現を優先。』


『他者への露見時――強い羞恥反応。』


「ものすごく正常じゃん!」


『過去に忌避していた発声への心理的抵抗――大幅低下。』


『本人自身の意思による発声――定着。』


『主人公への誘惑手段としても利用。』


『主人公の反応を楽しむ行動――追加。』


「余計な人格特性を増やすな!」


 日記。


『トラウマ克服――部分的進行。』


『社会性――維持。』


『騒音問題――発生。』


「最後だけ急に庶民的!」


「ルーク!」


「はい!」


 後ろからリサ。


 怖い。


「誰が騒音だ!」


「読めないはずなのに何でそこだけ当てるの!?」


「顔に書いてある!」


「理不尽!」


     *


 少しして。


 なんとか殺されずに済んだ。


 リサはパン屋の裏で壁にもたれている。


「……最悪だ」


「何が?」


「聞かれてた」


「うん」


「全部」


「一階まで」


「繰り返すな!」


「ごめん!」


 リサが両手で顔を覆う。


「死にたい」


「昨日はあんなに堂々としてたのに」


「お前しかいないと思ってたからだ!」


「……」


 その言葉に。


 少し。


 胸が詰まった。


「俺しかいないなら?」


「平気」


「何で?」


「言わせるな」


「日記には書いてあるけど」


「何?」


「何でもない!」


 読めない。


 俺しか知らない。


『羞恥すること以上に、「この相手には自分から求めてもよい」という信頼が上回った状態。』


 昨日まで。


 リサは声を嫌っていた。


 地下水路で。


 身体に勝手に出させられた声。


 その後も一人になると同じ声が漏れて。


 そのたび。


「まだスライムがいる」


 そう思った。


 怖がった。


 今は。


 自分から出す。


 それどころか。


 俺が引けば。


 面白がって種類まで増やす。


 正直。


 方向が正しいのかは分からない。


 でも。


「リサ」


「何」


「昨日、怖かった?」


 考える。


「少し」


「声出したとき?」


「ああ」


「それでも続けた?」


「ああ」


「なんで」


「私が出したかったから」


 即答。


「……そっか」


「何だよ」


「いや」


 リサが少しだけ笑った。


「前は」


 喉に触れる。


「あの声が出たら、あいつがまだ私の中にいる気がした」


「うん」


「昨日は違った」


「どう違った?」


「お前を困らせるために出した」


「理由ひどい!」


「途中からな」


「途中から!?」


「最初は普通に出た」


「そうなんだ」


「でもお前が面白いくらい引くから」


「やっぱり途中からわざとだった!」


「ははっ」


「笑うな!」


 リサが本当に楽しそうに笑う。


「だから」


「何」


「今は、あの声も私のだ」


「……うん」


「あいつのじゃない」


 その一言だけは。


 冗談じゃなかった。


「私が出すか決める」


「うん」


「止めるかも私が決める」


「うん」


「お前が嫌なら止める」


「うん」


「でも」


「何?」


 にやっ。


 嫌な笑顔。


「引くだけなら止めない」


「そこだけ基準厳しくない!?」


「嫌ならちゃんと言え」


「嫌じゃないんだよ!」


「じゃあ問題ない」


「またその理屈!」


 胸元の日記。


『回復要素――定着。』


「……」


 そこだけ。


 俺は文句を言わなかった。


『過去の被害経験は消失しない。』


『恐怖記憶も完全消失していない。』


『しかし、過去に本人の意思を無視して発生した発声を、現在は本人自身が選択して使用できる。』


『同じ身体。』


『同じ声。』


『異なる意思。』


『意味の所有権を本人へ戻す。』


「所有権って言い方は変だけど」


「何?」


「何でもない」


「またか」


 そして。


 余計な一文。


『ただし、発声頻度は適正値を大幅に超過。』


「やっぱり余計だ!」


「何が!」


     *


 夜。


「ルーク」


「……はい」


「今日も行くぞ」


「どこへ?」


「お前の部屋」


「昨日あれだけ恥ずかしがってたのに!?」


「だから対策した」


「対策?」


 リサが抱えているものを見る。


 毛布。


 毛布。


 さらに毛布。


「何それ」


「防音」


「物理!」


「三枚あればかなり違うだろ」


「本気だ!」


「女将にも厚い布借りた」


「女将公認なの!?」


「『静かになるなら持ってけ』って」


「理解がありすぎる!」


 リサが階段を上がる。


「早く来い」


「いや、その」


「何」


「昨日より声抑えるという選択肢は?」


「却下」


「即答!」


「昨日決めただろ」


「何を!」


「社会性は防音で守る」


「そこだけ妙に合理的!」


「二人きりなら我慢しない」


「……」


 日記が熱い。


 見なくても。


 分かる。


 どうせ。


『社会性と欲求の両立方法――獲得。』


 とかだ。


 開く。


『社会性と欲求の両立方法――獲得。』


「そのまんまかよ!」


「早く来い!」


「はい!」


 次の頁。


『次話候補。』


『第二十八話 防音対策をしてまで続けます』


「タイトルが酷い!」


「何が?」


「何でもない!」


 結局。


 俺は階段を上がった。


 リサはもう。


 スライムがいるから夜に来るわけじゃない。


 確認してほしいからだけでもない。


 俺の前だから。


 来る。


 俺の前だから。


 羞恥より欲求を優先する。


 俺の前だから。


 かつて死ぬほど嫌っていた声まで。


 自分から使う。


 それが正常なのか。


 狂気なのか。


 回復なのか。


 俺には。


 まだ分からない。


 ただ。


 リサ自身は。


 昨日より少しだけ。


 自分の身体を自分のものだと思えている。


 なら。


 少なくとも。


 スライムに奪われたままよりは。


 ずっといい。


『この形なら、リサは日常生活における羞恥心と社会性を維持したまま、主人公ルークと二人きりの場面のみ「恥ずかしくない自分でいたい」という欲求より、「自分がルークを求めていることを隠したくない」という欲求を優先できます。また、かつて本人の意思とは無関係に出ていた発声を、自身の意思による誘惑や冗談にまで転用することで、「同じ声でも意味を決めるのは現在の自分」という回復要素へ接続できます。ルークが発声量とバリエーションの多さに引き、リサがその反応を面白がってさらに増やすことで、重い被害後展開から日常コメディへの落差も形成できます。一方、明確な拒否があれば停止することを双方が確認し、誘惑と同意を区別します。』


 この作品の品質向上のため、ぜひ感想をお寄せください。今後の展開・キャラクター・構成・描写方針の参考として利用します。


`https://novelcom.syosetu.com/impression/list/ncode/3306613/?ref=ncodeheader`


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