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世界改稿日記 ~なろうによる世界破綻~  作者: 黒瀬 量衡


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24/125

第二十四話 『成人女性キャラクターへの性的被害を挿入する。』

 地下水路へ入る直前、日記がまた熱を持った。


『アクセス数の低下を確認。』


「またそれかよ」


 昨日は俺が荷物の底に隠れていた小型スライムを見つけた。日記が予定していた危機を先回りして潰した。少しは主人公らしいことをしたと思っていた。


 どうやら読者には足りなかったらしい。


『直近話では人数整理、作戦説明、主人公による危機回避が中心となり、刺激性が低下した。』


『改善を実施する。』


「しなくていい」


『悲惨な状況を追加する。』


「するな」


『成人女性キャラクターへの性的被害を挿入する。』


「もっとするな!」


 二十人の討伐隊が、俺を見る。


「何だ?」


「……独り言です」


 リサが隣でため息をついた。


「地下に入る前からうるさいな、お前」


「俺だって静かにしてたいんだよ」


 日記はもう会話してこない。


 俺の抗議とは無関係に、執筆方針だけが増えていく。


『ただし、従来の被害描写から方針を変更する。』


 俺の目が止まった。


『被害によって女性キャラクターの精神を完全に破壊する展開は採用しない。』


『本人の意思と無関係な身体反応が生じた場合も、それを同意、受容、嗜好の変化として扱わない。』


『身体の反応と本人の意思を明確に分離する。』


「……」


『女性キャラクターは心を折らない。』


『恐怖、屈辱、苦痛を受けても、敵へ立ち向かう意思を維持する。』


『最終的には本人の行動によって状況を逆転させる。』


 その下に、日記はわざわざ分類名まで書いた。


『カタルシスを目的とした被害展開。』


「そんなジャンル名みたいに書くなよ」


『構成。』


『一、圧倒的不利。』


『二、救出困難。』


『三、成人女性キャラクターへの重大な被害。』


『四、身体反応と本人の意思の乖離を提示。』


『五、精神的抵抗を継続。』


『六、敵の油断。』


『七、女性キャラクター自身による逆転。』


『八、主人公側との合流。』


『九、討伐。』


「九工程で人を酷い目に遭わせるな」


 ページの下に、さらに一行。


『対象候補を選定。』


「やめろ」


『セリア――地下水路不参加。』


『ミレア――地下水路不参加。既存被害との重複を避ける。』


『女将――地下水路不参加。』


『リサ――成人女性。魔術師。討伐隊参加中。』


 俺は隣を見る。


 リサは杖を肩に載せ、地下水路の入口を見ている。


 何も知らない。


『対象――リサ。』


「駄目だ!」


「今度は何だ?」


 本人が振り向いた。


「リサ、今日帰ろう」


「は?」


「今すぐ」


「討伐隊が出る五秒前なんだが」


「急用思い出したとか!」


「私の急用をなんでお前が思い出すんだよ」


「じゃあ腹痛!」


「元気だ」


「体調悪くなって!」


「最低だなお前!」


 駄目だ。


 俺の言動の方がおかしくなっている。


「全員、進入!」


 隊長の号令がかかった。


 日記にはもう続きを書かれていた。


『主人公が危機を予測して対象を撤退させようとする。』


「これも拾うのかよ!」


『しかし合理的理由が不足するため失敗。』


「くそっ!」


     *


 二十人で地下水路へ入った。


『進入時点、生存二十名。』


 日記が律儀に人数を書く。


「数えなくていいから全員そのままで帰せ」


 俺たちは旧沈殿槽へ向かった。


 途中、小型スライムが三度現れた。


 一匹目は斥候が見つけ、魔術師が焼いた。


 二匹目は天井から落ちたが、前衛が盾で防ぎ、そのまま凍結魔法で固めた。


 三匹目は水路から出てくる前にリサが発見した。


「右!」


 火球。


 透明な身体が蒸発する。


「どうだ」


 リサが得意げに見る。


「すごい」


「もっと褒めろ」


「もう帰ろう」


「結局それか」


 順調だった。


 だから怖かった。


 日記がアクセス数の低下を確認した。


 悲惨な状況を追加すると書いた。


 なら、このまま終わるはずがない。


「止まれ!」


 先頭の斥候が叫んだ。


 旧沈殿槽へつながる通路。


 床が濡れている。


「水漏れ?」


 管理担当が首を振った。


「違う。ここは乾水路だ」


 リサが光球を飛ばした。


 床一面が光を反射した。


 水じゃない。


 透明な粘液。


「下がれ!」


 遅かった。


 床が持ち上がった。


「うわっ!」


 巨大な透明の膜が通路を左右から塞いだ。


「分断された!」


 俺たちの間を、半透明の壁が横切った。


 前に九人。


 後ろに十人。


 そして。


「リサ!」


 彼女だけが透明な膜の向こう側へ引きずられた。


「くそ!」


 俺は剣を突き刺した。


 刺さる。


 意味がない。


 透明な身体が穴を埋める。


「燃やすぞ!」


「リサまで焼ける!」


 向こう側でリサが立ち上がった。


「私はいい! 撃て!」


「いいわけあるか!」


 日記が熱い。


 開く。


『討伐隊を三群へ分断。』


『第一群九名。』


『第二群十名。』


『孤立――リサ一名。』


『合計二十名。』


「人数の整合性だけ完璧に取るな!」


 リサが杖を振る。


 炎。


 だが粘体が厚すぎる。


 火が途中で消える。


「魔力を食われる!」


 向こう側から声が聞こえた。


 巨大スライムがリサへ迫る。


「リサ! 逃げろ!」


「逃げ道があるように見えるか!」


 ない。


 壁。


 粘体。


 地下水路。


 囲まれている。


 透明な塊が彼女を飲み込んだ。


「リサ!」


 俺は膜を殴った。


 何度も。


 手が痛くなる。


 向こう側で何が起きているのか、透明な粘体越しにはほとんど見えない。


 ただ。


 リサがまだ動いている。


 杖を離さない。


 日記に文章が増える。


『被害進行。』


「書くな!」


『対象の身体には本人の意思と無関係な生理反応が発生する可能性がある。』


『それを同意とは判定しない。』


『精神状態――恐怖。怒り。屈辱。』


『降伏意思――なし。』


 向こうから声がした。


「……殺す」


 小さい。


 でも、確かに聞こえた。


「リサ?」


「絶対……殺す……!」


 杖が光った。


 まだ戦う気だ。


 日記が続ける。


『精神的抵抗を維持。』


『逆転条件を検索。』


「検索じゃない! 俺たちが助けるんだ!」


 隊長が叫ぶ。


「魔術師! 一点集中! 壁を凍らせろ!」


 三人が同時に魔法を撃つ。


 透明な膜が白くなる。


「前衛!」


「おお!」


 盾。


 槌。


 剣の柄。


 全員で叩く。


 ひびが入る。


「もう一回!」


 砕けた。


「リサ!」


 俺たちが雪崩れ込む。


 巨大スライムがリサを包んだまま、こちらへ身体を向けた。


「燃やせない!」


 中に人間がいる。


 日記。


『敵の油断条件成立。』


「何?」


 次の瞬間。


 スライムの内部が光った。


 赤。


 橙。


 白。


「全員伏せろおおお!」


 リサの声だった。


 俺は床へ飛び込んだ。


 爆発。


 地下水路が揺れた。


 透明な身体が内側から膨張する。


 巨大スライムが破裂した。


 熱い粘液が壁一面へ叩きつけられる。


「リサ!」


 煙の中。


 人影が立っていた。


 ローブはぼろぼろだった。


 膝も震えている。


 それでも杖だけは握っていた。


「……魔力を吸うなら」


 リサが息を切らしている。


「吸わせてから、中で火にすれば……逃げ場ないだろ」


「無茶苦茶だ!」


「勝ったからいい!」


 言った直後、膝から崩れた。


 俺が受け止める。


「大丈夫か!」


「大丈夫なわけ……あるか……」


「ですよね!」


「でも」


 リサが顔を上げる。


 泣いていた。


 怒っていた。


 震えていた。


「私が殺した」


「ああ」


「あいつは、私が殺した」


「ああ!」


 日記が熱を持つ。


 俺は開いた。


『逆転成立。』


『対象の精神的主体性を維持。』


『救助されるだけではなく、対象本人の判断および攻撃によって大型個体撃破。』


『カタルシス成立。』


「……お前に言われると台無しなんだよ」


 リサが俺の手から日記を覗こうとする。


「それ、何だ?」


「見なくていい」


「ずっとそれ見て叫んでるだろ」


「本当に見なくていいから」


『大型変異スライム撃破。』


『討伐隊二十名。』


『死亡――〇名。』


 俺は止まった。


「……ゼロ?」


『重傷――リサ一名。』


『軽傷――前衛三名。魔術師一名。』


『生存――二十名。』


 今度こそ。


 全員生きている。


「……勝った」


 俺は呟いた。


 リサが笑う。


「さっきから何と戦ってるんだ、お前」


「世界」


「頭打ったか?」


「そういうことにしといて」


 日記は補足を書き始めた。


『この形なら、アクセス数低下に対する刺激策として悲惨な状況と成人女性キャラクターへの重大な被害を挿入しつつ、本人の意思と無関係な身体反応を同意や嗜好へ転換せず、精神的主体性を最後まで維持できます。また、リサを単なる救出対象にせず、自身の魔術と判断で大型変異スライムを内部から撃破させることで、「被害を受けた女性が最後に自ら敵を倒す」という逆転のカタルシスへ接続できます。討伐隊二十名についても、九名、十名、リサ一名へ一時分断した後、最終的に死亡者〇名、生存二十名とすることで前話で確定した人数との整合性を維持できます。』


「そこまで全部計算してんのか」


『アクセス推移を継続観測する。』


「もう見るな」


『次話では被害後のリサを描写する。』


「……」


 俺は日記を閉じた。


 倒せば終わりじゃない。


 リサは生きている。


 勝った。


 でも今日あったことまで消えるわけじゃない。


 日記はそこまで物語にするつもりらしい。


 それでも。


 俺は横を見る。


 リサが神官に肩を借りながら歩いている。


 顔は酷い。


 身体も震えている。


 でも、途中で一度だけ振り返り、焼け焦げた巨大スライムへ中指を立てた。


「……やっぱ強いな、あの人」


 俺たちは二十人で地下水路を出た。


 二十人で。


 今度は、その数字が少しだけ嬉しかった。


 この作品の品質向上のため、ぜひ感想をお寄せください。今後の展開・キャラクター・構成・描写方針の参考として利用します。


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『性的被害について、記載可能範囲での身体反応を追加する改稿を実施します。』


「……は?」


 足が止まった。


 もう外だ。


 空がある。


 全員いる。


 終わったはずだ。


『前稿を再評価。』


『大型変異スライムを単一個体として処理した結果、既出設定である群体型との接続が不十分。』


『大型個体主塊――撃破済み。』


『分離核――生存。』


「……待て」


 べちゃり。


 リサの破れたローブから、透明な雫が落ちた。


「リサ!」


「何――」


 膨れた。


 人間より。


 馬車より。


 さらに大きく。


「散れえええ!」


 透明な肉の壁が炸裂した。


 一人。


 二人。


 三人。


 逃げる暇すらない。


 粘体が人間を飲み、壁へ叩きつけ、床へ押し潰していく。


『生存二十名。』


 黒線。


『十九名。』


『十八名。』


『十七名。』


「やめろ!」


『十六名。』


『十五名。』


「数えるな!」


 隊長が最後まで前に残った。


「走れ!」


「隊長!」


 巨大な塊が横から襲った。


 人影が消える。


『十四名。』


『十三名。』


『十二名。』


『十一名。』


『十名。』


 止まった。


『討伐隊二十名。』


『死亡十名。』


『生存十名。』


「……半分」


『悲惨な状況――成立。』


「成立って書くな!」


「ルーク!」


 リサ。


 足元へ透明な液体が這っている。


「逃げろ!」


「リサ!」


 足を取られた。


 倒れる。


 火球を撃つ。


 表面だけが吹き飛び、さらに内側から粘体が溢れた。


「嘘だろ!」


「来るな!」


 リサの身体が壁際へ押しつけられる。


 腕。


 脚。


 胴。


 粘体に固定される。


 足元にはスライム自身が吐き出した大量の透明な粘液が溜まり、石床一面に浅い池を作っていた。


「離せ!」


 リサが暴れる。


 だが動けない。


 日記が熱くなる。


『身体状態と精神状態を分離して記録する。』


『身体反応。』


『変異スライムによる神経系への強制刺激。』


『筋収縮。』


『断続的痙攣。』


『呼吸および発声制御の乱れ。』


『本人の意志による停止は困難。』


 書かれた。


 直後だった。


「ぐっ……!」


 リサの背が大きく反った。


 後頭部が壁へ当たりそうになるほど身体が弓なりになる。


「リサ!」


「来る……な……!」


 戻る。


 直後、また痙攣。


「あ゛……っ!」


 肩が跳ねる。


 脚が震える。


 指が勝手に握り込まれる。


 そしてもう一度。


「ぐ……ぁあっ!」


 全身が反った。


 声も本人の意図した形にならない。


「リサ!」


「見るな……!」


「そんな場合じゃない!」


「分かってる!」


 叫び返した直後。


 また身体が震えた。


「ぁ゛……っ!」


 でも。


 日記のもう一つの項目は変わらない。


『精神状態。』


『恐怖――あり。』


『屈辱――あり。』


『嫌悪――あり。』


『怒り――強。』


『判断能力――維持。』


『敵対意思――維持。』


『脱出意思――維持。』


『味方への信頼――維持。』


『精神的屈服――なし。』


「……クソ」


 リサが息を荒らしながら吐き捨てた。


「リサ?」


「身体が……勝手に反応してる……だけだ」


 息を吸う。


 身体がまたびくりと跳ねた。


「っ……!」


 それでも続ける。


「私が……こいつを殺したいって思ってるのとは……関係ない」


「ああ!」


「だから……変な顔すんな!」


「どんな顔してる俺!」


「泣きそうな顔!」


「だって!」


「泣くのは……あとにしろ!」


 もう一度。


 リサの背中が大きく反った。


「ぐっ……ぁあっ!」


 戻る。


 肩で息をする。


 また痙攣。


 それでも視線は止まらない。


 右。


 左。


 床。


 壁。


 スライムの動き。


「右……」


「何?」


「右下……見ろ!」


 俺は見る。


 透明な壁の根元だけが薄い。


「そこ?」


「そこ……凍らせろ!」


「魔術師!」


 生き残った魔術師が杖を向ける。


 冷気。


 壁が白くなる。


「前衛!」


「おお!」


 槌が落ちた。


 ばきっ。


 亀裂。


 リサはその間にも痙攣している。


「あ゛……っ、く……!」


 でも目は壁を見ている。


「もう一回……!」


「おお!」


 二撃目。


『身体反応。』


『強制的筋収縮――反復。』


『発声制御――不安定。』


『精神状態。』


『状況観察――継続。』


『味方への指示――継続。』


『自身による脱出試行――継続。』


「身体と頭で完全に別行動じゃねえか……」


「そう……だよ!」


 リサが睨む。


「だから……身体の方だけ見て判断すんな!」


 また背を反らす。


「ぐぅ……っ!」


 息が止まる。


 戻る。


「私は……まだ考えてる!」


「分かってる!」


「左は行くな!」


「左?」


「床!」


 粘液の池を見る。


 左側だけ波打っていた。


「小型がいる!」


「そう!」


 中から見えている。


 リサ自身が一番敵に近い。


 最悪の位置にいる。


 だからこそ。


 一番多くの情報を持っている。


「リサ!」


「何!」


「俺たちが出す!」


「知ってる!」


 一瞬だった。


 答えに迷いがない。


「助けに来るの……信じてる!」


「じゃあ待ってろ!」


「嫌だ!」


「なんで!」


「私も出る!」


 身体がまた跳ねた。


「あ゛っ……!」


 でも右腕は別方向へ動いている。


 少し。


 ほんの少し。


 粘体の拘束が緩む瞬間を狙っている。


「自分でも抜こうとしてるの?」


「当たり前……だろ!」


 リサが歯を食いしばった。


「助けられるだけで……終わるか!」


 指。


 手首。


 少しずつ外へ。


『精神状態。』


『自己救出行動――継続。』


『味方による救出への信頼と、自身による脱出意思は両立している。』


「そこ分析する必要ある?」


 リサの右腕が抜けた。


「抜けた!」


「杖!」


 見る。


 地面。


 粘液の池の向こうに落ちている。


「取る!」


 走る。


 小型スライム。


 前衛が割り込む。


「行け!」


「ありがとう!」


 拾う。


「リサ!」


 投げる。


 届かない。


 粘体に弾かれた。


「もう一回!」


 リサ自身が叫んだ。


 また身体が反る。


「ぐっ……ぁあっ!」


 それでも。


「もう一回だ!」


「分かった!」


 拾う。


 高く投げる。


 右腕。


 掴んだ。


「取った!」


「やった!」


 スライムが腕を締める。


 杖を落とそうとする。


 リサの手が震える。


 全身も震える。


 でも。


 離さない。


「身体がどうなろうが……!」


 歯を食いしばる。


「この手だけは……離さねえ!」


 杖が青白く光った。


「何する気?」


「こいつ……魔力吸うだろ」


「ああ」


「さっき火を……吸わせた」


「うん」


「同じ手……警戒してる」


 リサが笑った。


「だから今度は違う」


「何を?」


「凍らせる」


 俺は目を見開いた。


 スライム自身に魔力を吸わせる。


 その内部で。


 凍結させる。


『逆転策を確認。』


「説明するな!」


 リサがまた背を反らした。


「あ゛……っ!」


 戻る。


 呼吸を整える。


「全員……下がれ!」


「リサは!」


「私なら……ここだ!」


「そこが一番危ないんだよ!」


「知ってる!」


「威張るな!」


「いいから行け!」


 俺たちは下がる。


 十人。


 残った全員。


 粘体の内部に青白い光が溜まっていく。


『身体反応。』


『強制刺激――継続。』


『痙攣――継続。』


『発声制御――困難。』


『精神状態。』


『魔術制御――維持。』


『敵個体撃破意思――維持。』


『味方退避を確認。』


 リサの身体が最後に大きく弓なりになった。


「ぐっ……あ゛あっ!」


 戻った。


 目を開く。


 スライムを真正面から睨んだ。


「聞け……クソ粘液」


 青白い光が強くなる。


「私の身体が勝手にどう反応しようが」


 杖を握る。


「怖かろうが」


 息を吸う。


「悔しかろうが」


 スライムの内部へ霜が走った。


「お前を殺すって決めるのは――」


 リサが叫んだ。


「私だ!」


 凍結。


 巨大スライムの内部から一気に白くなる。


「今!」


「砕けえええ!」


 残った前衛が突っ込んだ。


 槌。


 盾。


 剣。


 俺も叩いた。


 ひび。


 さらにひび。


 巨大な氷塊が砕けた。


 床へ散る。


 透明な液体には戻らない。


「リサ!」


 落ちてくる。


 受け止めた。


「おい!」


「……うるさい」


「生きてる!」


「勝手に殺すな……」


「倒した?」


「それ……私が聞きたい……」


 日記を見る。


『分離核――凍結破砕。』


『核構造崩壊。』


『再生不能。』


「ああ」


「本当に?」


「今度こそ」


 リサが目を閉じた。


「……ざまあみろ」


『身体状態。』


『重度疲労。』


『神経刺激の影響残存。』


『筋痙攣その他の生理的反応が即時停止しない可能性あり。』


 抱えている身体が、まだ時々小さく震える。


 でも。


『精神状態。』


『恐怖――残存。』


『屈辱――残存。』


『怒り――残存。』


『判断能力――維持。』


『自己認識――維持。』


『味方への信頼――維持。』


『精神的屈服――なし。』


『敵個体を本人および生存者との共同攻撃によって撃破。』


 リサが薄く目を開いた。


「何読んでる?」


「何でもない」


「何でも……なくないだろ……」


「あとで話す」


「絶対だぞ」


「うん」


 日記の最後。


『討伐隊二十名。』


『死亡十名。』


『生存十名。』


 その数字だけは戻らない。


 勝った。


 でも。


 十人死んでいる。


『改稿結果を評価。』


『身体反応と本人の意思を明確に分離。』


『対象は身体制御を複数回失いながらも、状況観察、味方への指示、自力脱出、武器再取得、逆転策立案を継続。』


『味方への信頼を失わず、同時に自身の主体性も維持。』


『カタルシス成立。』


「勝手に満足するなよ」


 俺はリサを背負った。


 足元では、スライムが残した大量の透明な粘液が石床を覆っている。


 その向こうには、もう立ち上がらない十人がいる。


 リサは生きた。


 心も折れなかった。


 でも、だから全部めでたしにはならない。


「ルーク」


「何?」


「さっきの」


「うん」


「身体が勝手に反応してたこと」


「……うん」


「忘れなくていい」


「え?」


 背中でリサが息を吐いた。


「起きたことだから」


「……」


「でも、それで私が何を思ってたかまで勝手に決めるな」


「ああ」


「私は嫌だった」


「ああ」


「怖かった」


「うん」


「それでも逃げたかったし、お前らが来るって信じてたし」


 少し間が空いた。


「何より、あいつを殺したかった」


「それはすごく分かった」


「ならいい」


 身体が何をしたか。


 何をされたか。


 どう反応したか。


 それと。


 本人が何を望んだかは。


 同じじゃない。


 リサ自身が、それを一番はっきり分けていた。


『本話終端を更新。』


『身体反応は意思ではない。』


『恐怖は屈服ではない。』


『救助を信じることは主体性の放棄ではない。』


『次話――第二十五話 十人で帰る』


 来たときは二十人。


 一度は二十人全員で地下水路を出た。


 そして。


 改稿によって十人になった。


 俺はリサを背負い、生き残った仲間たちと歩き始めた。


 後ろには。


 日記が「刺激性」の一言で作った、十人分の帰れない理由が残っていた。


『この形なら、リサについて身体側と精神側を意図的に並列して描写することで、本人の意思によらない痙攣、背を反らす反応、発声制御の乱れが何度発生しても、それ自体を本人の受容や意思として扱わない構造を明確化できます。また、リサ本人にも「身体が勝手に反応してるだけだ」「それで私が何を思っていたかまで決めるな」と言わせることで、この区別を日記の分析だけではなくキャラクター自身の言葉として示せます。足元に大量の液体が溜まる視覚的な異様さは、変異スライム自身の粘液によって表現し、地下水路出口での惨状も維持できます。』


この作品の品質向上のため、ぜひ感想をお寄せください。今後の展開・キャラクター・構成・描写方針の参考として利用します。


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