↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界改稿日記 ~なろうによる世界破綻~  作者: 黒瀬 量衡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/125

第二十三話 『討伐隊の人数と内訳を整合させます。』

 大型変異スライムの討伐隊を組む前に、日記が突然、前の話へ戻った。


『討伐隊の人数と内訳を整合させます。』


「そこ気になったの?」


 地下水路から戻った翌朝だった。俺としては、二人死んだことの方がよほど気になっている。ところが日記は、これまで「隊長」「前衛の男」「四人で戻した」程度にしか書いていなかった部分が気に入らないらしい。


『前回の地下水路再調査隊は十一名。』


『内訳を確定する。』


『ルーク――一名。』


『魔術師リサ――一名。』


『前衛――六名。隊長一名を含む。』


『神官――二名。』


『王都市役所地下水路管理担当――一名。』


『合計十一名。』


「合ってるじゃん」


 無視された。


『第一行方不明者救出後、変異スライムの襲撃により前衛一名が死亡。十一名から十名となる。』


『救出した清掃員一名および死亡した前衛一名を地上へ搬送するため、神官二名、王都市役所職員一名、前衛一名の計四名が離脱。』


『地下水路奥部へ進行した人数は六名。』


 俺は指で数えた。


「俺とリサと隊長と……」


『ルーク一名。リサ一名。隊長を含む前衛四名。合計六名。』


「なるほど」


『貯水槽における第二行方不明者救出時、前衛一名が大型変異スライムに捕食され死亡。』


『帰還者――ルーク、リサ、隊長、前衛二名。計五名。』


『救出した清掃員一名を加え、地上へ戻った人数は六名。』


「……数字にすると嫌だな」


 六人で奥へ行った。


 一人死んだ。


 五人になった。


 そこへ助けた一人を連れて戻ったから六人。


 文章の中では走って、叫んで、助けて、逃げるだけだった。こうやって人数を並べられると、一人減った場所だけがやけに目立つ。


『前話までに予告された「地下水路で三人死ぬ」についても整合する。』


『死亡者一――最初に発見された清掃員。再調査隊突入以前に死亡。』


『死亡者二――再調査隊前衛一名。』


『死亡者三――貯水槽にて死亡した前衛一名。』


『合計三名。』


「……はいはい。完璧だよ」


 俺は嫌になって日記を閉じた。


 それでも表紙の向こうから、さらさらと文字を書く音がする。


 少しして開く。


『以上により、既存ストーリーの人数上の曖昧さを解消した。死亡者数、離脱者数、生還者数に矛盾なし。』


「人が死んだ話を帳尻が合ったみたいに書くなよ」


『次の討伐隊についても、同様の混乱を防ぐため事前に人数を確定する。』


「次もやるの?」


 やるらしい。


『大型変異スライム討伐隊。二十名。』


 嫌な数字だった。


『指揮官――一名。』


『前衛――六名。』


『魔術師――四名。リサを含む。』


『神官――三名。』


『斥候――二名。』


『地下水路管理担当――一名。』


『資材運搬担当――二名。』


『ルーク――一名。』


『合計二十名。』


「俺だけ職業じゃなくて名前なのやめない?」


 返事はない。


『ルークは戦闘職としての専門性が不足する一方、現場への突入経験二回、大型個体との遭遇経験一回、地下水路内部構造の実地経験を有するため同行理由は成立する。』


「成立させなくていいんだよ」


 俺はまだ新人だ。


 剣の使い方もろくに知らない。昨日だってほとんど逃げていただけだ。それなのに日記の中では、「二回生きて帰った」というだけで大型変異スライム討伐の経験者になっている。


 前世のなろうなら、初心者が異常な速度で高難度依頼へ巻き込まれる展開なんて珍しくなかった。


 現実でやられると、ただの人手不足と生存者バイアスだった。


     *


「二十人?」


 ギルドへ行くと、本当に二十人だった。


 広間の奥に参加者が集められ、机の上には地下水路の地図が広げられている。リサもいる。


「お前も来たか」


「来たくなかった」


「私は来てほしかったぞ」


「なんで?」


「前回一緒に逃げた奴が一人くらいいた方が安心する」


「理由が後ろ向きすぎるだろ」


 隊長は前回とは別の男だった。四十代くらいの大柄な冒険者で、ガレスと名乗った。


「今回の目的は大型変異スライムの討伐だ。救出対象はもういない。だから無理に奥へ突っ込む必要もない。誘導して、場所を選んで焼く」


 魔術師四人が主力。


 前衛六人は粘体を倒すためではなく、魔術師を守る。


 神官三人は負傷者対応。


 斥候二人は通路確認。


 地下水路管理担当は水門操作。


 運搬役二人は油、薬品、予備の魔石、ロープなどを持つ。


 俺は――。


「ルークは?」


 聞いた。


「お前はリサについてろ」


「役割は?」


「道を知ってる」


「市役所の人も知ってるじゃん」


「魔物が出た場所を実際に見た」


「リサも見た」


「ならリサが倒れたら説明しろ」


「縁起でもない!」


 リサが笑った。


「つまり予備だな」


「それ、俺が一番いらない奴じゃない?」


「人数には入ってる」


「日記と同じこと言うなよ……」


 今回だけは、ちゃんとした作戦に見えた。


 前みたいに生存者の声を聞いて予定変更する必要もない。


 敵がいる場所も分かっている。


 人数も二十人。


 内訳まで決まっている。


 しかも、巨大なスライムへ剣で突っ込むような馬鹿な作戦でもない。


「これなら、いけるか?」


 思わず口にした。


 リサが俺を見る。


「何が?」


「いや。今回は誰も死なずに帰れるかなって」


「それを目指すのが普通だろ」


「普通って、本当にいい言葉だな」


     *


 出発直前。


 日記を確認した。


『討伐隊二十名。』


『人数および役割の事前設定完了。』


『以後、戦闘中に新規隊員を追加しない。』


「そこまで決めるの?」


『死亡、負傷、離脱が発生した場合、その都度残存人数を本文上で更新する。』


「死亡前提みたいに書くなよ」


 返事はない。


 さらに文字が続く。


『大型変異スライム戦における主要な問題を整理する。』


『通常の物理攻撃は効果が低い。』


『火炎は有効。ただし地下水路内部で大規模火炎を使用した場合、酸欠、煙、有毒蒸気、設備損傷等の二次被害が発生する可能性がある。』


「……あ」


 そこまで考えていなかった。


 地下だから、燃やせば終わりというわけじゃない。


『水門を操作し、対象を旧沈殿槽へ誘導した後、限定範囲で焼却する。』


 俺は地図を見た。


 ギルドで聞いた作戦と同じだった。


「もうそこまで反映されてるのか」


『ストーリー上の作戦として合理的。』


 会話はしない。


 ただ文章を書くだけ。


『しかし、合理的な作戦が予定通り成功した場合、前話までと比較して緊張度が低下する。』


「……」


 俺は嫌な顔をした。


 来た。


『アクセス数維持のため、作戦中に想定外の事象を一件挿入する。』


「挿入しなくていい!」


 日記は続きを書いた。


『ただし、既存世界との整合性を維持する。大型変異スライムに未提示の能力を理由なく追加することは避ける。』


 少し安心した。


『既に提示された情報を再利用する。』


「既に提示された?」


『群体型。』


 俺の手が止まった。


 前に書かれていた。


 変異スライムは一体ではない。


 小型の個体が複数いる。


『大型個体を誘導する作戦へ注意が集中している間、小型個体についての警戒が低下する展開は自然。』


「自然じゃなくしてくれよ……」


 もう遅い。


 日記の次の文章は、構成案ではなかった。


 本文だった。


『討伐隊二十名が地下水路へ進入した後、地上側では入口の封鎖を開始する。』


『その時点では、誰も一匹の小型スライムが荷物の底に付着していることに気づいていなかった。』


「待て」


 俺は自分たちの荷物を見る。


 油。


 薬品。


 ロープ。


 魔石。


 運搬担当が二人で準備している。


「全部調べろ!」


 突然叫んだ俺を、全員が見た。


「何だ?」


「荷物! 底! スライムがついてないか確認して!」


「確認したぞ」


「もう一回!」


 ガレスが眉を寄せたが、前回の生存者が必死に言っているからか、止めなかった。


「確認しろ」


 運搬役が荷物を一つずつ持ち上げる。


 一個目。


 何もない。


 二個目。


 ない。


 三個目。


 ない。


「ほら、いないだろ」


「全部!」


 最後の木箱を持ち上げた。


 底に、透明な膜が張り付いていた。


「……いた」


 リサの顔が変わった。


「離れろ!」


 火が走った。


 小さな粘体が焼け、床の上で縮んだ。


 全員が黙った。


 俺も黙った。


 日記を開く。


 さっきの本文が変わっていた。


『その時点では、ルークが荷物に付着した小型スライムを発見した。』


「……書き直した」


 その下。


『予定していた想定外事象が主人公の介入によって事前に解消された。』


 俺は笑った。


「勝った」


 初めてだった。


 書かれる前に分かった。


 現実になる前に潰した。


「ざまあみろ!」


 日記は返事をしない。


 ただ、新しい文章を書いた。


『主人公が未来の展開を予測し、危機を回避する展開は成長描写として有効。』


「……」


 嫌な予感がした。


『主人公の能動的活躍が成立したため、本話の評価向上が見込まれる。』


「おい」


『当初予定していた危機イベントは不要となった。』


 俺は息を吐いた。


『代替イベントを挿入する必要もない。』


「……よし」


 勝った。


 今度こそ。


『この形なら、前話まで曖昧だった十一名の再調査隊について、ルーク一名、リサ一名、前衛六名、神官二名、市役所職員一名と明示し、死亡一名後に四名が離脱、六名で奥へ進み、一名死亡後に五名が生還した流れを人数上矛盾なく整理できます。また、新たな討伐隊を二十名として事前に役割まで固定することで、今後の戦闘で「突然人数が増減したように見える」問題を防げます。さらに、日記が予定した小型スライムによる危機をルーク自身が事前に見抜いて阻止することで、主人公が日記へ一方的に振り回されるだけではなく、連載構造そのものを逆利用し始める成長展開へ接続できます。日記にとっても、その抵抗は物語を面白くする要素として利用可能なため、ストーリー上の整合性を壊さず主人公と自動執筆の対立を一段進められます。』


「……俺が抵抗することまで人気要素にするのかよ」


 さらさらと文字が続く。


『次話――大型変異スライム討伐。』


 その下に一行。


『討伐隊、二十名。』


『地下水路進入時点、生存二十名。』


「そうそう。それをちゃんと最後まで数えろよ」


 今回は、少しだけ俺の方が上だった。


 たぶん。


 この作品の品質向上のため、ぜひ感想をお寄せください。今後の展開・キャラクター・構成・描写方針の参考として利用します。


https://novelcom.syosetu.com/impression/list/ncode/3306613/?ref=ncodeheader

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。