第十八話 『成人向け描写方針を再検討する。』
地下水路へ出発する直前、日記が予定していた展開を自分で書き換え始めた。
『成人向け描写方針を再検討する。』
「今度は何だよ」
当然、返事はない。日記はもう俺と会話しない。俺が何を言おうが、構成会議の議事録みたいな文章を勝手に増やしていくだけだ。
『前話までに、モンスターによる女性キャラクターへの性的被害をアクセス増加要素として検討した。』
『しかし、性的暴力を性的快楽反応として具体化する描写は採用しない。』
「……お?」
珍しく方向転換した。
『代替案を検討する。』
嫌な予感は消えなかった。
『双方同意の成人による性的快楽反応として具体化する描写を検討します。』
「結局そっちに行くのかよ!」
日記は無視して続けた。
『現在の主要女性キャラクターは全員成人。』
『ただし、セリアは主人公への信頼形成段階。恋愛関係未成立。』
『ミレアは重大な被害直後であり、心理的回復および生活再建を優先する必要がある。現段階で成人向け関係へ急速に移行した場合、既存人格との整合性が低い。』
『新規登場予定の女魔術師リサについても、主人公との関係は未形成。』
「じゃあ無理じゃん」
俺としては安心材料だった。
だが日記にとっては、単なる構成上の問題らしい。
『したがって、性的描写を先行させない。』
『まず成人同士の好意、信頼、本人同士の明確な同意が自然に成立する関係を構築する。』
『その後、成人向け作品として刺激性を高める必要が生じた場合、下品な声、強い身体反応、失禁等を含む性的快楽反応について検討する。』
「検討しなくていい!」
さらさらと文字を書く音だけが続いた。
『重要。』
『当該反応はモンスター被害と結びつけない。』
『双方が成人であること。』
『双方が自発的に関係を望んでいること。』
『拒否、脅迫、拘束、立場を利用した強制が存在しないこと。』
『以上を成立条件とする。』
「急に規約みたいになったな……」
俺はページをめくった。
『既存ヒロインへの適用可能性を検討する。』
『セリア――候補。』
「候補にするな」
『理由。主人公と死地を共有。療養生活中に精神的な弱さを開示。身体接触への強い拒絶は現在確認されていない。ただし、現時点では恋愛感情が未成立のため保留。』
『ミレア――非推奨。』
そこで少しだけ安心した。
『理由。現在は安全な生活環境の再構築が優先される。被害経験直後に主人公との性的関係へ接続すると、人物描写として不自然。』
「そこは絶対変えるなよ」
日記には届かない。
『リサ――情報不足。』
『地下水路編を通じて人格、恋愛観、主人公との相性を取得する。』
「調査対象扱いするなって」
ページの下へ新しい見出しが増えた。
『アクセス増加策を再構成する。』
『モンスターによる性的被害――ダーク展開として使用可能。ただし快楽描写とは分離する。』
『成人同士の合意ある性的関係――成人向けサービス要素として別途構築する。』
『グロテスク要素と性的要素を同一イベントへ集中させず、複数話へ分散することで展開の単調化を防ぐ。』
「ものすごく真面目に最低なラノベを設計してるな」
それが、この日記だった。
人間の善悪を考えているわけではない。
ただ、物語として破綻しないよう整理する。
セリアが俺を好きでもないのに突然関係を持つのは不自然だからやらない。ミレアが酷い目に遭った直後に、それをそのまま成人向けサービスへ変換するのも人物としてつながらないからやらない。
だが、二人の関係が自然にそこまで進めば。
日記は遠慮しない。
『長期方針。』
『戦闘、残酷描写、ダンジョン、モンスター被害によって刺激性を確保する。』
『同時に、成人ヒロインとの関係を段階的に進行させる。』
『恋愛成立後は、双方同意を前提とした成人向けイベントを挿入可能。』
『アクセス推移に応じ、描写強度を調整する。』
「恋愛までアクセス数で調整すんなよ……」
さらに補足が始まった。
『この形なら、モンスターによる被害をハードなダークファンタジー要素として保持しながら、それとは別に、成人同士の自発的かつ双方同意の関係として成人向け要素を構築できます。特にセリアについては、既に主人公との信頼関係が最も進んでいるため、今後の恋愛候補として優先度が高いものの、現時点で直接的な性的関係へ移行すると展開が早すぎます。まず回復、共闘、日常生活、嫉妬または好意の自覚などを挟み、その後に双方の意思を確認する展開とした方が自然です。』
「補足だけ読むとまともなんだよな」
日記は止まらなかった。
『また、成人向けアクセス増加策として強い性的快楽反応を利用する場合も、それを被害経験から自動的に発生する性癖として設定せず、本人が安全な状況で自発的に選択した関係の中でのみ検討することで、既存人格との整合性を維持できます。』
「……」
俺は少し考えた。
日記は変わっていない。
人間を大事にするようになったわけではない。
ただ、キャラクターの筋が通らないから、筋が通るまで待つことにしただけだ。
ある意味では、その方が怖かった。
『以上により、直近の成人向け要素追加は延期する。』
「よし!」
『代わりに地下水路編の危険度を上昇させる。』
「なんでだよ!」
ページに次の題名が現れた。
『第十九話 地下水路で三人死ぬ』
「調整の仕方が極端なんだよ!」
その下には、もう次の本文が始まっていた。
『地下水路へ入って三十分後、最初の死体が見つかった。』
俺は日記を閉じた。
成人向け展開を延期した分、グロテスクな展開を強くする。
物語として緩めるという発想はないらしい。
店の外からリサの声がした。
「ルーク! そろそろ行くぞ!」
「ああ!」
俺は日記を服の中へ押し込んだ。
地下水路へ向かう。
また書かれた通りに。
この形なら、モンスターによる性的被害と、双方同意の成人向け要素を物語上明確に分離できます。また、セリア、ミレア、リサそれぞれの現在の心理状態と主人公との関係を維持したまま、将来的な成人向けイベントを「関係が自然に成熟した後の人気最適化要素」として残せます。さらに、性的要素をすぐ使用できない分を残酷描写へ振り替えることで、次の地下水路編でもアクセスを狙う極端な連載方針を維持できます。




