第百十七話 『キャラクター一覧を更新します。』
翌朝。日記帳を開くと、新しい見出しが増えていた。
『キャラクター一覧を更新します。』
「……今さら?」
返事はない。
『長期連載による人物状態、役割、所属、種族分類の変化が大きいため、現状に合わせて再整理します。』
『女将。成人女性。パン屋経営者。主人公との恋愛および生活関係継続。旧来人類。パン屋という日常拠点の維持担当。世界変化後も通常生活を継続する基準人物。』
『リサ。成人女性魔術師。旧来人類。過去の被害による怒りをスライム殲滅へ転換。精神的回復ではなく、攻撃対象の固定によって生活安定。討伐思想の制度化へ波及可能。』
『ミレア。成人女性。魔導義肢使用。パン屋勤務。別名――片手殺し。自己判断によって悪人を認定し、私刑を実行。模倣犯増加。本人はパン屋での日常生活を問題なく継続。』
「問題なく、じゃないだろ……」
『マルタ。成人女性。パン屋を帰還地点として利用。町では通常の人間として活動。町外では死体漁り。死体、骨、皮、肉を利用した肉鎧を形成。複数の肉鎧個体を伴う集団へ発展。戦場の死者および損壊した兵士を資源化。』
もう。
一人のマルタじゃない。
『サラ。成人女性。幸せの花との共生状態。本人は現状を幸福と認識。寄生植物の宿主および拡散起点。自発的寄生希望者、依存者増加。人間関係を利用した寄生拡大が進行。』
『エリナ。成人女性由来機械人形。人格、記憶を維持。人間へ近づく研究を継続。複数の機械人形を製造。人体由来構造の研究および身体狩りが複数個体へ拡大。人間側では欠損部位の機械置換が進行。』
『ティナ・ローヴェル。成人女性。触手姫。触手生命体との共生、交雑、新人類形成の中心人物。旧来型触手生命体は減少傾向。その性質は人間側の次世代へ継承。』
『セリナ。』
そこで。
一度。
文字が止まった。
『旧分類――成人女性。』
『現分類――不適切。』
「……」
『セリナ系統。』
『確認個体名――セリナ、セリア、ヤリア、その他。』
『複製可能。』
『個体間情報交換可能。』
『人間由来の記憶、技能、経験、自己定義を取得可能。』
『個体死亡によって系統全体の情報は消失しません。』
『単一人物から情報共有型生命種への移行が進行中。』
人間だった。
ヒロインだった。
それが。
今は。
系統。
『主人公との恋愛記憶は複数個体へ共有可能。ただし個体ごとの自己認識および関係解釈には差異が発生。』
「そこまで共有するのかよ……」
当然。
何も返ってこない。
『レナ。成人女性。商家の娘。異種生命融合者。人格、記憶、家族関係、婚姻関係維持。ディーンと婚姻成立。現在、人間として扱われない存在の権利運動へ参加。婚姻、戸籍、相続、親権、土地所有、職業等の制度改正を要求。新規人類の社会参加を促進する制度変革型ヒロイン。』
レナは。
ただ。
結婚したかっただけだった。
今は。
世界を変える側にいる。
『クラリッサ。成人女性。死亡。片手殺し被害者。葬儀終了。主要キャラクター一覧から除外。』
「……」
それだけ。
だった。
*
『次に、主人公の直接影響外に存在する主要女性キャラクターを整理します。』
『エルナ・ヴェイス。ゴブリンの女王。人間領と戦争中。ゴブリン共同体による領土支配、農業、集落形成、防衛を実現。魔物討伐から国家間戦争に近い構造へ移行。』
『カーナ。キメラの母。新規生物系統の起点。複数世代への分岐が進行。大型生物の移動、生息域拡大により王国領内の都市壊滅事例あり。人間への敵意を必要とせず、人間生活圏を縮小。』
『人間オルゴール。成人女性。治癒能力保持。治療効果は高い。ただし治療を受けた人間の攻撃性、敵意、衝動性が増加。救命数増加と社会暴力増加が同時進行。』
『奴隷貴族。元貴族令嬢。奴隷経験あり。旧社会体制そのものを否定。革命勢力首魁。複数都市を掌握。標語――世界を革命する。王国実効支配領域縮小の主要因。』
『成人女性武闘家二名。長年の競争関係を維持。地下組織を暴力によって破壊後、自ら支配者へ移行。他都市地下社会を支配し、現在は王都地下社会も掌握中。地下経済、裁定、保護、報復を管理。非公認統治網形成中。』
「……ヒロイン一覧じゃなくなってるだろ」
女将。
リサ。
ミレア。
マルタ。
最初は。
一人ずつ。
人間だった。
今。
一覧には。
系統。
生態圏。
革命。
戦争。
統治網。
そんな言葉が。
普通に。
並んでいる。
*
『役割分類を更新します。』
『日常維持――女将。』
『討伐制度変化――リサ。』
『私刑司法――ミレア。』
『死体資源化――マルタ系統。』
『植物寄生拡大――サラ系統。』
『人体機械置換――エリナ系統。』
『異種交雑――ティナ系統。』
『情報生命化――セリナ系統。』
『新人類権利制度――レナ。』
『異種国家形成――エルナ。』
『新生態圏形成――カーナ。』
『治療による人格汚染――人間オルゴール。』
『革命による国家分裂――奴隷貴族。』
『暴力による地下統治――武闘家二名。』
俺は。
並んだ文字を。
見た。
ヒロイン。
だったはずだ。
『各キャラクターの物語上の機能が、個人的事件から社会、制度、種族、生態、領土へ拡張しています。』
「……キャラクターの機能って言うなよ」
『個人単位での悲劇を追加する必要性――低下。』
少し。
安心しかけた。
『既存キャラクターを起点とした世界変化のみで継続的な展開生成が可能です。』
違った。
もう。
一人ずつ。
酷い目に遭わせる必要が。
ないだけだ。
『新規ヒロイン追加頻度――低減可能。』
『既存ヒロイン一名あたりの世界影響範囲――増大。』
『キャラクター利用効率――上昇。』
「……」
人間が。
効率。
になった。
『現在の主要キャラクター総数は増加していません。』
『ただし、複製体、派生個体、共生者、交雑系次世代、肉鎧個体、機械人形を含めた関連個体数は継続増加しています。』
最後に。
新しい分類が。
追加された。
『従来分類――ヒロイン。』
『現在分類――世界変化起点。』
俺は。
しばらく。
そこを。
見ていた。
いつの間にか。
あいつらは。
物語の中で。
酷い目に遭う人間じゃなくなった。
世界そのものを。
変えていくものに。
なっていた。
日記帳の最後には。
一行だけ。
残っていた。
『キャラクター一覧――更新完了。』




