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世界改稿日記 ~なろうによる世界破綻~  作者: 黒瀬 量衡


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第百十六話 王国の領土が減っています

 王都の裏社会が二人の武闘家に支配され始めてから、数日。パン屋へ来る冒険者たちの話題が、今度は王都の外へ移っていた。


「西のベルガの町、王国旗を降ろしたらしいぞ」


 常連の冒険者がパンを齧りながら言った。


「反乱?」


「本人たちは革命って言ってる」


 隣にいた別の冒険者が鼻で笑う。


「ベルガだけじゃない。南西の二つも王国の役人を追い出したって話だ」


「三つ?」


「確認されてるだけでな」


 女将が焼き上がったパンを棚へ並べながら顔をしかめた。


「最近そんな話ばっかりじゃないかい」


「仕方ないさ。今、街道護衛やってると嫌でも耳に入る」


 彼らの話では、王国の制度そのものに反対する集団が各地で勢力を増しているらしい。


 奴隷制度。


 貴族制度。


 税。


 土地所有。


 王国法。


 全部まとめて。


「古い社会を壊す、って言ってる」


「全部?」


「ああ」


「壊した後は?」


「知らん」


 冒険者は肩をすくめた。


「ただ、完全な無秩序ってわけでもないらしい。取った町には自分たちで役人を置いてる。警備もしてるし、市場も開いてる」


「じゃあ国みたいなもの?」


「本人たちは国とも言ってない」


「何て?」


「革命領」


「……そのままだな」


     *


 一番大きな噂は。


 その首魁についてだった。


「元貴族令嬢らしい」


「貴族?」


「ああ。ただし」


 冒険者が声を落とす。


「一度、奴隷に落とされた女だって話だ」


 俺は手を止めた。


「奴隷になった貴族令嬢?」


「そう」


 貴族として生まれ。


 社会の上にいた。


 それが。


 奴隷まで。


 落ちた。


「だから両方知ってるんだと」


「両方?」


「支配する側と、される側」


 もう一人の冒険者が続けた。


「貴族も奴隷商も役人も、全部同じ仕組みの中にいるだけだって言ってるらしい」


「それで全部壊す?」


「らしいな」


「名前は?」


「知らん。昔の名を捨てたとか、名乗ってるとか、噂がバラバラだ」


 でも。


 呼び名だけは。


 もう広まっている。


「奴隷貴族」


 その言葉を。


 俺は。


 前にも。


 日記で。


 見たことがある。


     *


 数日後。


 別の冒険者が新しい話を持ってきた。


「さらに一つ落ちた」


「町?」


「ああ」


「戦ったの?」


「少しだけ」


「少し?」


「領主が逃げた」


 王国軍が来る前に。


 町の住民の一部が。


 門を。


 開けたらしい。


「住民が?」


「税も身分も嫌だった連中がな。あと奴隷上がり」


「王国側につかなかったの?」


「だから揉めてる」


 外から。


 攻め込まれたわけじゃない。


 町の中から。


 王国を。


 拒否した。


「最近、王国の地図が当てにならない」


 冒険者が言った。


「地図では王国領でも、実際に行くと王国旗がない町が増えてる」


 ゴブリンに。


 取られた土地。


 キメラの生息域になった土地。


 巨大な生き物が通るため。


 人間が住めなくなった土地。


 そして今度は。


 人間自身が。


 王国を。


 捨てた土地。


「王国って……今どれくらい残ってるんだ?」


 俺が聞くと。


 冒険者は。


 笑わなかった。


「分からん」


 それが。


 一番。


 怖かった。


     *


 その夜。


 日記帳を開いた。


『王国実効支配領域――縮小継続。』


「……」


『要因を整理します。』


『ゴブリン共同体による占領。』


『キメラ系新生物による人間統治不能地域化。』


『幸せの花および新規生態系による旧来土地利用変化。』


『地方都市の自治要求。』


『現行社会体制への抵抗運動。』


『革命勢力による都市掌握。』


『複数要因が同時進行中。』


 王国は。


 一つの敵に。


 負けているんじゃない。


 あちこちから。


 別々の理由で。


 減っている。


『革命勢力。』


『中心人物――奴隷経験を持つ元貴族令嬢。』


『旧身分制度および奴隷制度双方を否定。』


『王国法による改革ではなく、既存制度そのものの破壊を選択。』


『標語――世界を革命する。』


「……世界?」


 国じゃない。


 社会でも。


 ない。


 世界。


『掌握都市――増加。』


『王国行政機関――排除。』


『旧貴族支配――停止。』


『奴隷契約――無効化。』


『独自統治――開始。』


『市場、警備、徴税に代わる資源徴収制度――稼働。』


 つまり。


 もう。


 反乱軍じゃない。


『旧王国から離脱した都市が、別社会として機能し始めています。』


 王国側から見れば。


 奪われた。


 でも。


 そこに住んでいる人間から見れば。


 王国を。


 やめただけ。


『王国領土――地図上と実効支配上で乖離拡大。』


『地図更新頻度では現実変化へ追従困難。』


 俺は。


 ページを。


 見つめた。


『王国中央政府の問題。』


『ゴブリン戦争への軍投入。』


『難民対応。』


『王都治安悪化。』


『新人類権利問題。』


『地方抵抗運動。』


『革命都市奪還。』


『全問題への同時対応――困難。』


 軍を。


 一つ。


 送れば。


 別の場所が。


 空く。


『革命勢力への大規模討伐を実施した場合、ゴブリン戦線の防衛力低下。』


『ゴブリン戦線を優先した場合、革命勢力支配都市増加。』


『王都治安を優先した場合、地方実効支配低下。』


「……詰んでないか?」


 返事はない。


『王国が全領土を維持する前提――現状との適合性低下。』


 その一文が。


 妙に。


 冷たかった。


『新しい長期構造として、王国を一国家として維持する必要性を再検討します。』


「待て」


『王国分裂。』


『ゴブリン領。』


『革命都市圏。』


『犯罪都市圏。』


『新人類共生地域。』


『植物共生地域。』


『人間統治不能生態圏。』


『王都および残存王国領。』


「……」


 一つの。


 国だった場所が。


 全部。


 別のものに。


 分かれていく。


『領土喪失を国家滅亡として処理する必要はありません。』


『縮小国家として王都を継続利用可能。』


 また。


 それだ。


 滅ぼさない。


 残す。


 小さくして。


 使い続ける。


『王都――存続可能。』


『王国――存続可能。』


『ただし、世界の中心である必要はありません。』


 俺は。


 日記帳を。


 閉じた。


 王国は。


 まだ。


 ある。


 王様も。


 いる。


 旗も。


 ある。


 でも。


 昨日まで。


 王国だった町が。


 今日は。


 違う旗を。


 掲げる。


 明日は。


 また。


 一つ。


 減るかもしれない。


 世界が。


 壊れているんじゃない。


 世界の中で。


 王国の方が。


 小さくなっている。


 そんな。


 気がした。


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