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世界改稿日記 ~なろうによる世界破綻~  作者: 黒瀬 量衡


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第百十五話 王都の裏社会が乗っ取られました

 昼過ぎ。いつもの冒険者がパンを買いに来た。王都を拠点にしている中堅で、討伐でも護衛でも何でも受ける男だ。女将とも顔馴染みで、依頼帰りにはよくこの店へ寄る。


「今日は多いね」


「しばらく外へ出る」


「護衛?」


「ああ。それと」


 男がパンを袋へ入れながら、少し声を落とした。


「お前らも、しばらく夜は気をつけた方がいい」


「何かあった?」


「王都の裏が大きく変わる」


 俺は手を止めた。


「裏社会?」


「そう。南の方で地下組織を潰して回ってた女武闘家が二人いるだろ」


「ああ」


「王都まで来た」


 女将が顔をしかめた。


「そんな連中がこの辺まで来るのかい?」


「表で暴れる気はなさそうだ。ただ、裏の連中が動けば巻き込まれることはある。夜道と、人通りの少ない場所は避けた方がいい」


「何が起きてる?」


 俺が聞くと、冒険者は肩をすくめた。


「乗っ取りだよ」


     *


 話によれば、二人は三日前に王都へ入った。


 隠れて入ったわけでもない。普通に門を通ったらしい。


 最初に向かったのは東区の地下組織。


 古くから賭場、密輸、盗品売買を仕切っていた大きな組織だった。


「喧嘩になったの?」


「なった」


「それで?」


「次の日には終わってた」


「……組織が?」


「ああ」


 殺された者もいる。


 逃げた者もいる。


 降伏した者もいる。


 残った連中は、そのまま二人の下へ入った。


 次の日には別の組織。


 さらにその次。


「王都側も組んで対抗したらしいんだけどな」


「勝てなかった?」


「全然」


 二人は元々、別の都市の裏社会を支配していた。


 そのやり方を。


 そのまま。


 王都へ持ち込んだ。


「ただ潰してるだけじゃない」


「どういうこと?」


「使える連中は残してる」


 情報屋。


 運び屋。


 賭場。


 密輸。


 裏の商売そのものは消していない。


 その代わり。


『子供に薬を売るな。』


『勝手に人を攫うな。』


『一般人を縄張り争いに巻き込むな。』


『決めた場所で勝手な殺しをするな。』


『揉めたら持ってこい。』


 そんな決まりを作っているらしい。


「法律?」


「違う」


 冒険者が即答した。


「二人が決めただけ」


「破ったら?」


「潰される」


「……」


「だから守る」


 単純だった。


     *


「変な話だけどな」


 冒険者はパンを一つ取り出して、その場で齧った。


「場所によっては前より静かになってる」


「裏社会なのに?」


「裏社会だからだよ。盗人同士の縄張り争いも、勝手な報復も減った。二人に見つかった方が怖いから」


「衛兵より?」


「そう思ってる連中もいる」


 それが。


 一番。


 嫌だった。


「だから気をつけろ」


「俺たちが?」


「店は関係ないと思う。ただ、しばらく裏の連中が移動する。逃げる奴もいるし、王都から出る奴もいる。逆に二人へ取り入ろうとして入ってくる奴もいる」


「なるほど」


「夜に変なの見ても近づくな。衛兵呼んで終わりにしろ」


「分かった」


「女将さんも」


「夜に出歩くほど若くないよ!」


「そういう意味じゃ」


「誰が年寄りだって?」


「言ってない!」


 いつもの調子で。


 男は逃げるように店を出ていった。


     *


 それから数日。


 パン屋には。


 何も起きなかった。


 犯罪者も来ない。


 二人の武闘家も来ない。


 普通に客が来て。


 普通にパンを買っていく。


 でも。


 冒険者たちの話は。


 少しずつ。


 変わった。


「東区はもう完全に二人の配下らしい」


「西も昨日落ちた」


「地下の古株が南へ逃げた」


「いや、南も片方が押さえたぞ」


「どっち?」


「知らん」


「二人で王都を分けてるらしい」


 討伐帰り。


 護衛帰り。


 酒場へ行く前。


 冒険者たちが。


 パンを買いながら。


 話す。


「しかも競争してるらしいぞ」


「何を?」


「どっちの縄張りの方が治安がいいか」


「……裏社会で?」


「裏社会で」


 女将が鼻で笑った。


「馬鹿馬鹿しいねえ」


 俺も。


 そう思った。


 でも。


 笑えなかった。


     *


 夜。


 日記帳を開いた。


『王都地下社会――統治主体変更。』


「……」


『他都市地下社会を支配していた二名の成人女性武闘家が王都へ進出。』


『旧地下組織群――服従、吸収、逃亡。』


『地下経済――継続。』


『裏社会の世代交代――進行。』


『暴力支配区域――拡大。』


 また。


 淡々と。


 書いてある。


『二名は犯罪活動そのものを廃止していません。』


『無秩序な犯罪を制限しています。』


『結果。』


『一部区域――治安改善。』


『地下住民による支持――発生。』


「……支持されるのかよ」


 答えはない。


『王国行政の管理外に、独自の裁定、保護、報復、縄張り管理を行う統治主体が成立。』


『地上――王国。』


『地下――二名。』


 王都の中に。


 別の支配者が。


 できている。


『他都市で成立した暴力統治モデルの王都移植――成功。』


『今後、他都市の地下社会との接続が可能。』


『代理人配置。』


『共通規則。』


『都市間情報共有。』


『共同報復。』


『地下経済圏統合。』


「……」


 王国の地下だけ。


 全部。


 つなぐ。


『犯罪組織から、非公認統治網への移行が可能です。』


 最後に。


 一行。


『王国領土内に、王国法へ従わない第二の社会基盤が形成されつつあります。』


 王都は。


 まだ。


 王様の町だ。


 役所も。


 衛兵も。


 裁判所も。


 ある。


 でも。


 その下では。


 別の二人が。


 勝手に。


 秩序を作っている。


 しかも。


 場所によっては。


 前より。


 治安がいい。


 俺は。


 それが。


 一番。


 まずいと思った。


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