第百十三話 『王都および領土内の現状を整理します。』
レナの結婚式から数日後。日記帳を開くと、王都と王国全体の状況が並べられていた。
『王都および領土内の現状を整理します。』
『王都――行政、商業、生活機能を維持。』
『レナ――人間と判定されない存在の権利運動を開始。婚姻から、戸籍、相続、親権、土地所有、職業、公職へ要求範囲拡大。機械身体者、植物共生者、触手系新人類、情報生命体等が参加。』
『王都地下――二名の女性武闘家による支配区域拡大。既存地下組織は消滅、服従、吸収。公的司法を介さない暴力統治が定着。』
『人間オルゴール――治療者増加。身体回復率は高いが、攻撃性上昇。暴行、集団喧嘩、暴動増加。治療停止時は死者増加。』
『片手殺し――活動継続。模倣犯増加。殺人と私刑の区別困難。「殺された者にも理由がある」という認識が拡大。』
「……酷いな」
日記は止まらない。
『身体狩り――被害者増加。欠損部位を機械部品へ置換する者も増加。人間は機械へ、機械人形は人体研究によって人間へ接近。』
『情報生命体――セリナ、セリア、ヤリア等へ分岐。複製、吸収、情報交換を継続。一個体が得た技能、記憶、経験を他個体へ共有。専門職の一部で旧来人類との置換開始。』
『王都地下――触手生命体繁殖。人間との共生、交雑が進行。各地でも触手姫系統との交雑例増加。従来人類とも触手生命体とも異なる次世代が出生。』
『幸せの花――寄生者増加。幸福感への依存者増加。除去拒否、自発的寄生希望者増加。寄生者自身が家族、友人、恋人へ寄生を勧める事例増加。』
病気なら治せる。
魔物なら倒せる。
でも。
本人が幸せだと言ったら。
何を治せばいい。
『ゴブリン戦争――継続。人間側複数戦線で敗北。砦、農村、街道喪失。ゴブリン側は占領地で耕作、集落建設、防衛を開始。実態は魔物討伐ではなく領土戦争。』
『戦地――マルタ系肉鎧集団増加。戦死者の肉、皮、骨を利用。負傷兵、生存兵の肉鎧化事例あり。人間側死者増加が肉鎧側資源増加へ直結。』
『キメラの母由来生態圏――拡大。大型生物の移動、繁殖、水源利用によって領土内三都市が壊滅。攻撃目的ではない。都市が生息域と重なっただけ。』
『地方都市――王国制度への抵抗活発化。奴隷制度廃止、身分制撤廃、税拒否、自治要求、新人類の権利要求。平和運動、暴動、武装蜂起が同時進行。』
王都だけじゃない。
国そのものが。
違うものになっている。
『相互作用。』
『戦争――負傷兵増加――人間オルゴール利用増加――凶暴化者増加――暴動増加。』
『戦争――死者増加――肉鎧集団増加。』
『避難民増加――地下居住増加――触手生命体との接触増加――交雑系人口増加。』
『身体狩り――機械身体者増加――権利運動参加者増加。』
『社会不安――幸せの花依存者増加。』
『情報生命体――旧来人類の職業置換進行。』
俺はページを見つめた。
一つを止めれば終わる話じゃない。
全部が。
別の何かを。
増やしている。
『人口――大幅減少なし。』
「……?」
『新人類、共生者、複製体、肉鎧個体を含めた総人口――増加傾向。』
『婚姻――継続。』
『出生――継続。』
『商業――継続。』
『幸福度――一部集団で上昇。』
『旧来人類比率――低下。』
『旧来人類可住領域――低下。』
『王国中央政府実効支配地域――低下。』
世界は。
滅びていない。
人も。
生きている。
むしろ。
増えている。
『総合評価。』
『世界崩壊は順調です。』
「……」
『王都を直接破壊する必要はありません。』
それが。
一番。
怖かった。
『既存現象のみで旧来人類、旧来社会、旧来制度、旧来領土は継続的に縮小します。』
『次話。パン屋の日常。』
俺は日記帳を閉じた。
外では町が消え。
戦争が続き。
人間そのものが変わっている。
それでも。
明日も女将はパンを焼く。
俺も店を開ける。
客も来る。
世界が滅びるなら。
まだ分かりやすかった。
でも。
これは。
世界が滅びる話じゃない。
俺の知っている世界が。
普通の日常のまま。
別の世界へ。
置き換わっていく話だった。




