22話
二人は目の前で能天気に笑っている。
けれど、「ただほど安いものはない」という言葉があるように、この魔導具の開発には、何か裏がありそうだ。
(チャハ国はいったい何が目的なのかしら?)
「カエサル卿、話に聞いたところ、魔石というものは魔物から採れるそうではないか。……実はな、チャハ国の王太子からもらった魔石を使い切ってしまった」
「魔石を使い切った? それで?」
(ああ、もう……嫌な予感しかしないわ)
ミサロ王太子殿下は、カエサル様に向かって満面の笑みを浮かべた。
「辺境伯領には魔物が出る。そこで採れる魔石を、少しばかり俺にも譲ってくれないか? それと、ローリス嬢も貸してくれ」
「ねぇ、お願いカエサル。魔石を頂戴。それから、私の騎士になって側にいなさい」
妹はミサロ王太子殿下だけでは物足りないのか、カエサル様を「カエサル卿」と呼ぶことすらやめていた。
まるで、カエサル様が自分のものだと言わんばかりに、彼へ向かって手を差し出している。
「無理です。僕はローリスのものだ! いい加減にしてくれ!」
その瞬間。ピシッと音がしたように、ミサロ王太子殿下とルルアの動きが止まった。どうやら、カエサル様が停止魔法を使ったらしい。
よほど二人の物言いに腹を立てたのか、カエサル様は乱暴に前髪をかき上げた。
「こいつらは、そんなくだらない理由で僕たちを呼んだのか! 何が『ローリスを貸してくれ』だ! 何が『私の騎士になれ』だ! 自分たちの仕事もろくにやっていないくせに、口だけは達者だな!」
カエサル様が怒りのままに声を荒らげる横で、私は妹が頑なに手放さなかったノートを取り戻した。
(これは私の大切な思い出だから。返してもらうわね)
けれど、そんな私の横では、まだカエサル様の怒りが収まらない。
「許さない……」
「カエサル、少し落ち着いて」
私は彼を宥めながら、ふとミサロ王太子殿下の言葉を思い出した。
「それにしても、チャハ国の王太子殿下からもらったという魔石。気にならない?」
「気にはなっている」
カエサル様は腕を組み、険しい表情を浮かべる。
「もしかすると、魔素を浄化していない魔石の可能性が高い。……ローリスには伝えていなかったが、最近、王都周辺で魔物が増えているという報告を受けている」
「それ、本当なの?」
私が尋ねると、カエサル様は静かに頷いた。
「こちらから派遣した魔女と騎士が、今は魔物を討伐している。だが、僕が一声かければ、辺境伯領に戻ってきてもらうこともできる」
もしカエサル様が討伐隊を辺境伯領へ戻したら。王都はたちまち魔物に襲われる可能性がある。
(その魔物を、キャロルと私の魔石爆弾――グレネードで討伐する? それはそれで楽しそうだわ)
「……その顔。ローリス、ダメだからね」
「え?」
カエサル様の真剣な瞳が、私を射抜いた。
どうやら、私の考えていることが読まれてしまったらしい。
辺境伯領では「危ないから」という理由で、私は討伐に連れて行ってもらえることが少ない。
(前に駄々をこねて、一度だけカエサル様と本気で勝負したけれど。見事に負けたのよね)
カエサル様は私よりも魔力量が多い。
しかも、その膨大な魔力を器用に使いこなしている。魔力の量なら私だって負けていないけれど、今の私ではまだ彼には勝てない。
「僕に内緒で動いたら、僕の部屋に監禁するからね」
カエサル様の目は、本気だった。
「だ、大丈夫。勝手に行かないから。それより、そろそろ二人の魔法を解い。きゃっ!?」
突然、大地が大きく揺れた。
王都全体を揺さぶるような、激しい揺れだった。




