21話
二人は何を言っているの? といいたくなる。
とうぜん、陛下はこんな二人に国を任せられないと思う気持ちもわかった。
だって、彼らは自分達のことしか考えていない。
目の前でじゃれつきはじめた二人に呆れる、それはカエサル様も同じのようだ。
「その様子だと、次の国王を弟殿下に任せた方がいいのでは?」
ため息混じりでつぶやくと、すぐ噛み付くミサロ王太子殿下。
「おかしなことを言うな! 第一王子の、俺がならなくてどうする? 俺は信頼もあって頼りになる」
(どこが? と、ツッコミたくなるのを我慢した。私まで口に出すと、更に話が長くなりそう)
「殿下が頼りになるだと? 僕の妻に執務を頼もうとしているあなたが、どう頼りになるんだ!」
「ぐっ……だが俺には秘策がある。王都に作られた魔導具の灯りを見ただろう? あれは全て、この愛しい我が婚約者のリリアが発明したものだ!」
ミサロ王太子殿下の話に妹はニコリと笑い、一冊のノートを取り出しテーブルに置いた。私はそのノートに見覚えがあった。
(あれは、私のノート。どうして妹が持っているの? あ……本棚に一冊しまったままのものがあったかも。持ち出すのを忘れていたんだわ……)
「待ってください。そのノートは私のものです。私が書いたものです。返してください」
「嫌よ。私が自分の衣装部屋で見つけたんだから、これは私のものよ」
「あなたの衣装部屋?」
(ありえないわ)
「ええ、私の部屋よ。元はお姉様の部屋だったけど!」
妹はそう叫ぶと、私に奪われまいとするようにテーブルの上のノートを素早く取り上げ、胸元へぎゅっと抱きしめた。
するとミサロ殿下まで、ノートを奪われないようにするかのように、妹を庇うように前へ出た。
「なに、妻のノートだと?」
「まあまあ、どちらのノートでもいいじゃないか。カエサル卿、聞いてくれ。そのノートに描かれているのは、どれも見たことのない便利そうな魔道具ばかりだ。それらを作れば、人々の暮らしは豊かになる。そして何より、俺の株も上がる」
……そうでしょうね。そのノートには街灯と横断歩道、冷蔵庫、洗濯機、ドライヤーなど、この世界には存在しない電化製品が描かれている。
いつか作れたらいいなと思い、思いつくたびに書きためていたものだ。そんな私のノートを利用すれば、人々の生活を豊かにできる。彼にとっても、大きな功績になるのだろう。
しかし、カエサル様はその言葉を聞いて眉をひそめた。
「便利な魔道具か。……だが、魔導具を作るには魔石が必要だと、知っているのか?」
「ああ、知っている」
「……なら」
無理じゃないのか。そう言おうとした、カエサル様の言葉を、殿下は遮った。
「聞いてくれ。先月開催された舞踏会で、隣国チャハの王太子と知り合ったんだ。そのとき、このノートの話をして中身を見せたところ、彼が興味を持ってくれてな。魔導具の開発に協力してくれることになった」
彼は得意げに続ける。
「いまは王都で使う魔石街灯と、魔石式の横断歩道を共同で開発中だ」
「カエサル、そうなの。チャハの王太子は私たちの話を真剣に聞いてくださって、しかも無償で大量の魔石までくださったのよ」
カエサル様は「隣国チャハ」と聞いた瞬間、息をのんだ。そうチャハ国は大昔、黒魔術を使ってドラゴンを呼び出したといわれる国だ。
彼らが、黒魔術によって呼び寄せたドラゴンは空を飛び、炎を吐き、いくつもの周りの国を襲った。人々はドラゴンのあまりにも強大な力の前になすすべもなく、ただ空を見上げて祈ることしかできなかった。
その中にいた一人の少女の祈りが黒魔術を打ち破り、ドラゴンを消し去ったと、歴史書には記されている。
そして現在もなお、黒魔術が盛んなチャハ国は危険な国とされていた。どこの国も警戒し、まともな取引はしないとも言われている。
その国が、魔導具の開発に協力する?
しかも、無償で大量の魔石をくれた?




