19話
私たちは側近とメイドに案内され、城の応接間へと通された。中には、シャツにスラックス姿で、以前より少し痩せたミサロ王太子殿下と宝石をいくつも身につけ、これでもかというほど豪華に着飾った妹がいた。
(会って話すだけなのに、まるで舞踏会にでも出るような装いね)
ミサロ王太子殿下は機嫌がいいのか、にこやかな笑みを浮かべると、私たちを向かい側の二人掛けのソファへと促した。
「カエサル、ローリス。よく城へ来てくれた」
その物言いはまるで、久しぶりに友人に会ったかのような気軽さだった。それを聞いたカエサル様はわずかに眉をひそめる。
「ミサロ王太子殿下。僕たちは学園では友人でしたが、今の僕はカエサル卿、もしくはバルキッサ卿とお呼びください。妻は辺境伯夫人でお願いします」
隣に座るローリスを「妻」と呼ぶと、殿下は驚いたように目を見開いた。
「なに? 二人は結婚したのか? そのような話は聞いていないぞ」
「そうでしたか。結婚したのは、なにぶん急なことでしたから。ですが、陛下と王妃には報告し、許可もいただいております」
(カエサルから、私との結婚を陛下に願い出たと聞いたわ。そこから王太子殿下にも話が伝わると思っていたのだけど……知らなかったなんて)
そういえば、王太子殿下から届いた私宛ての手紙は、実家の公爵家を経由して送られてきた。
私を嫌いで、縁を切った両親にとっては面倒だったらしいが「王太子殿下からの手紙だから、さすがに勝手に捨てるわけにもいかなかった」と、一緒に送られてきた手紙に書かれていた。
「二人の結婚の話、姉妹である私も聞いておりませんわ。カエサル様……ローリスお姉様と結婚だなんて。まさか、無理やり結婚させられたのではありませんよね? お可哀想に……」
私を貶めるような言葉を口にすると、妹はハンカチを取り出し、目元に当てて泣くふりを始めた。
この結婚は、カエサル様からの申し出なのだけれど。両親も、愛する妹と王太子殿下との婚約に浮かれて、私の結婚のことを話すのを忘れていたみたい。
「誤解しないでくれ。僕からローリスと結婚したいと陛下と公爵に願い出た。ローリスと結婚できて、僕はとても幸せだ」
「そんなわけないわ! 酷い……ローリスお姉様に言わされているのね!」
何を言っても、自分の都合のいいようにしか受け取らない。
昔から、妹はちっとも変わっていない。
その姿に思わず、小さくため息が漏れた。
そのとき隣に座るカエサル様の手が、二人から見えないようにそっと私の手を握った。この彼からの温もりだけで、張り詰めていた心がふっと軽くなる。
(ありがとう、カエサル)
「さて、僕たちの結婚の話はそれくらいにして……何度も手紙を送ってきた理由を教えていただけますか? 僕たちも暇ではないのでね」
カエサル様が手紙の件を切り出すと、ミサロ王太子殿下は待っていましたと言わんばかりに身を乗り出した。
「ロー……いや、辺境伯夫人。しばらく夫人を貸してくれないか?」
「なに? 僕の妻を貸す? ……理由を聞いたところで、できない相談だ」
どうせ、ミサロ王太子殿下のことだ。
溜まりに溜まった執務を、私にやらせたいのだろう。
彼の婚約者だった頃は、ほとんどの書類を私が片付けていた。殿下は最後に目を通して判をポンと押すだけ。
何度も「簡単に判を押さず、しっかり書類に目を通してください」とお願いしたのに、結局やらなかった。
(そのツケが、今になって回ってきただけでしょうに)
「カエサル卿、頼む。一ヶ月……いや、一週間だけでも!」
「無理だ」
「報酬は弾む! 頼む。……くっ、欲しいものなら何でも買ってやる!」
「無理な話だ」
ミサロ王太子殿下がどれだけ頼み込んでも、カエサル様は一歩も引かなかった。




