要塞化
「報告なさい」
ともすれば鉄のように冷たく耳に響く抑えた硬い声が響く。
御意に、騎士はそういうとボロボロとなった何かしらの書を広げる。
「こちらに御座いますのは賊どもの所持していたどこぞからの密書に御座います。どうも下級の貴族の手によると記載されております」
「大方、尻尾きりですね」
騎士は姿勢も崩さぬほどに生真面目に言う。
「はっ、我が身には判断しかねます。いずれにせよ。貴族の関わる賊行為、ましては南方の捕虜のシャムシール使い十人長、隻眼イェクチャシムを確認したました。おそらく逃がしたものと考えられます」
どこかで聞いたことがある言葉だったのだろうかエフィは少し首を傾げる。
「あら?、盗賊でしたか」
「おそらく工作員、すなわち軍人と考えられる人物であります」
騎士は続ける。すなわち護衛としての決定をだった。
「つきましては姫様におかれましては援軍の合流する地点までの急行を願います。討伐軍と合流するてはずとなっております」
姫様と呼ばれた女は遮った。
「なりません」「姫様」
「この地は王の庇護下。大した理由もなく放棄する事は考えていません」
「何者かの策謀が御座いましょう」
「だからこそです。私に用があるならばもっと迅速に、そして防衛が揺らいだところに介入を招く。そうでなくても、策謀というのであれば形を整えるためにこの村を襲うでしょう」
確かに、なにか理由があって山賊という駒をおいたならば山賊行為というのは行わなければ、疑問ができる。ならば、何を企んでいるかはさておいても何かしらの攻撃行為は起こるだろう。
騎士もまた理解しているかのようにうなづく。
意図をというより性格をなのだろうか
「承知しました。ではこの村に布陣を敷きます。おい。そこの役人。井戸と、どこから引いているか答えよ」
「存じません!」
村長が必要と見て答える。…たしか村長だったはず
「近くの川は枯れておりまして、地下水道より引いております」
慌ただしく。動き出したなかエフィは呟く。
「とはいえ、このままというわけにもいきませんね。井戸水と、それから平地からの積水ポンプ。毒が仕込まれれば一次的に落ちることも考えられる。ましては砂漠の兵ならば水を攻めるのはすぐに考えるでしょう。とは言え、援軍のあてを考えるなら長期戦は望まない。勿論、食料は焼かれる前で、井戸水も主流ではないにしろ存在している。水道施設は援軍から向かうでしょうし、手紙の内容からして城、廃城を整備している。か」
ひっそりと聞いていたリエントにとっても、村に布陣をしくということは自らの住処は及ばない。踏み込まれ荒らされれば後々厄介なことになるだろう。或いはそっちの方が楽か?
「そもそも、廃城にはもう水は引かれていなかったはずです」
「古くに作られた水道が整備されておりました。窮地の際に使われるようにとのことでして、近場に沢がございますが崖下となっていますので使うのは厳しいかと」
さっと天秤にかける。
横目でエフィを伺うと村の簡易的な要塞化の話を続けている。
リエントの住処に使われるのはポンプによる水道だ。井戸はない。
あの墓の木に水をやったりなどはしてないが、飲み水が始末されるのは困る。
とはいえ、危険を考えるとわざわざ出向くというのも
「あれ」
思わず声が漏れた。
ぱっと、エフィが顔を上げる。
その先にリエントはいない。というより既に消えているのだが聞こえたらしい。
「姫様、いかがなさいましたか?」
「いえ、空耳かしら」
大したことがあったわけじゃない。
ただ、もしかして長くなる?
籠城期間についてだ。
と、なると物資面も半ば外様のリエントが直ぐに切り離されない保証があるだろうか。
答えはすぐに出た。
つまり簡単な方法は
ーーーよし、殺そう。
面倒ごとに巻き込まれるより始末してしまおう。多分そっちの方が楽だし
全滅させるのは難しいだろう。だが、頭を刎ねれば有る程度楽になる。
障害は生き残りの山賊くらいか。とは言っても特殊な武器は聞く限りなく。例外を除いて魔法は高価な記録用の宝石からの株分けがなされない限りは使えないはずだ。
加えて、異世界人は警戒されるチートを扱うならば何処かで漏れるはず
そもそも、妙な武器を持っている以上にリエントのチートは単独戦闘向けだった。むしろ味方がいると足を引っ張る。リエントが、足を引っ張る。
詰まる所、踏み込んでヤッてしまったほうが話が早い。
やはり殺さない理由がない。
動向を知らせておいた方が良いだろう。エフィに関しては知らない中ではないし
にしてもだ。
…苦手だな。
あの手の変容、部下を前にしたエフィのペルソナということか。ああいうのも含んでのパーソナリティ、でも苦手だ。いつもみたいにフワフワイカれてないし
あのエフィはなんというか“鉄臭い”のだ。
やっぱり、知らせるのはやめた。何だか、面倒そうだもの
ふっと、背後の壁にもたれかかりリエントは次の瞬間には消えた。




