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ある少女の墓参り

だーれだ

「エフィ」

「ええ、ふふ。そうです。ただのエフィです。そういうあなたはリエント卿ですね」

 卿って…

 嫌な事を思い出す。母の言葉だ。

あなたは戦士です。いずれこの木に相応しい英雄と…

 そこで頭を振った。

「オレはリエントだよ。ただのリエント」

 エフィは一つ木を眺めている。聞いちゃいないし

なにかほつれた糸でも探しているかのように視線が彷徨う。

「丁度この木でしたね。あなたが私にそう言ってただのエフィであることを赦してくれたのは」

 なんの話だ。

よくわからないことを言い出した少女が見ている木は心なしか整然と並んだ並木の一つであり、ついでに恐らく少女とはあまり関わりのない人の所有物だ。

そのまま、エフィは手を合わせて祈り出す。

木の根元には石碑が残っている。古言語で確か、ーーー覚えてないや。

 いずれにせよ。それが誰かというと、死者という事になるのだろうか。

墓、弔いの形式は樹木葬。

王国では一般的な形式の弔いだ。

 いかにも墓地というだけにどこか冷気と寒気を纏った場所だ。それでも並木道、前世と同じように墓石が並んでいたら確かに滅入っただろうが、まだマシだ。

「そうだ。お土産があるんです。王都で手に入れたお菓子の一つで多分クッキーなんですけど」


この辺でいいですよねと、墓地から歩き出し綺麗な布を広げようとするエフィ。

招待されるがままに、膝で布に乗っかる。

件のクッキーだろう布の包みを出し、また少女の視点は籠に戻って行った。

籠から出されたティーポットだ。どちらかと言うと屋内で用いられるそれであろう。少し呆れてしまった。よく持ってきたものだなと。

案外陶器じゃないのかもしれない。なにせ異世界だ。

 手元の武器もよくわからない素材だし

なんにせよ甘いものは良い。気分が良くなる。

 物心ついた頃からか。オレはこの場所の手入れをしている。というのも母がやってみせたので真似しているだけだが


カップを並べている少女を尻目に布を開ける。

クッキー?なのだろうか。白い塊のようだけど、並べられた白い焼き菓子だろうか?をつまむ。

 ちらりと伺うと、ティーポットから注ぎ込まれる液体が湯気を出し始めている。

紅茶?鼻歌も聞こえているということは機嫌は良さそうで、精神に支障がある訳でもないのだろう。

 なぜ、手伝わないのかって?前に手伝おうとして嫌がられたのだ。だからろくでなしという訳ではないのである。なんでも饗してるのだからとか

 複雑な匂いだ。山の中には見合わない甘くまったりとした異国の甘菓子、樹液の濃厚さにやけに香ばしい。ナッツが入っているのかな?

「変わった匂いがするね。珍しい」

「ふふ。ならよかった」

本当に、前世を通しても良く覚えのない味だ。

「お母様がおっしゃっていたんです。勇士には報いよと」

父はむしろ距離を取ると言われるようになったので不満なのかもしれませんね。

エフィは微笑む。

ところで勇士と言われるようなことはやっていないが

「どこのお菓子?」

「ここから南の方、砂漠の国で贈られたものです」

 あむ。と少女が噛みつく。真似して噛んでみるが硬い。

この世界というか古い菓子類にままあるタイプだろう。なんというのかまでは知らないが

そのまましばらくふやけさせる。甘い。蜂蜜かな。

伺えばエフィもまた似た姿勢だった。

二人してふやかせる。

 歯を沈み込ませれば軽い植物の種のような物をコリコリと噛み砕く。

顔を上げると、中には植物の種のようなものがふんだんに混じっていた。

ああ、そういえば昔こんなチョコが多くあったな。確かあれは

「アーモンド?」

「ピスタチオだそうですよ。なんでも異界の民が富の象徴として伝えた物だそうで、なんでも専用の厨房まであるとか。ちょっと見てみたいですね」

「専用の厨房か。そりゃまた凄い」

ふと、古木の先に認められる城を眺める。

 力、あるんだろうな。

環境自体が過酷である以上はそりゃ地位が高い方が様々な恩恵を保持できるという事なのだろうけど、それはそれで大変そうだ。

妙な女と菓子を囲んでるくらいの方が気楽で、なにより平穏でいい。

 にしても、交通技術が発達していないこの世界でどうやって手に入れたのか。

「あら?どうかしました」

「どこで手に入れたのか経緯が気になった」

「ふふ、申し上げたとおり交易の品です。富を見せつける狙いがあったのでしょうね。みるからに高価なお菓子ですから」

 ああ、なるほど

庶民でも手に入る機会があったのだろう。庶民は言い過ぎか。この娘がある程度の身分を持っているのはわかりきっている。

でも、この娘の最大の興味は

「どうも乾燥した地域のようで昔、豊かなオシアスを求めて大規模な遠征が行われたそうです。魔王の戦いの後年における奇襲だったようですが、最後には聖槍のトライアによりパラダイスが作られた事で我々とは和解しました。とはいえ、王の変わらないエルフの帝国とは仲が悪ままなので関係の強化もありそうですね」

 少女の笑みを見て、話を合わせる事を決める。

リエントが何度か話しているうちに分かったのは英雄を好んでいるという事だ。

でも、武器庫まである家のリエントが気にする事と言えば

「聖槍のトライア?その槍って特別な武器なの?」

「いえ、一説によると泉湧きの三叉槍と呼ばれる槍を持っていたそうですけど、そんな事はないとか。史書に曰く…」

すうっと目を閉じてエフィはそらんじた。

「『聖槍のトライアよ。慈悲深きものよ。枯渇した蛮人どものために一体何を嘆こうか』『王よ。人もまた端緒は獣にございます。引いてはその命が脅かされれば我等人間はかつての化生まがいに回帰するほかありますまい』、との事でどちらかと言うと交渉で水源の提供と協力による碑石が三又の槍だった事に由来するようです」

「三又の槍?なんか聞いたことあるような」

どこだっけ多分、前世か。

うん。そんなのあってもおかしくはない。

 分類的には異界の民である事を知らないエフィはパッと手を合わせて

「あら、ご存知でしたか。砂漠の戦いでトライアはカウス家を起こし家紋を三又の槍に定めたとか、なんでも旅の異界の民が水を象徴するとか伝えたと言うことであやかったそうです」

 へえー。本当に異世界由来か。

「機会があれば行ってみたいものですね」

「過酷そうだけどね」

暗に勘弁してーと言うが娘は気付いていない。

微笑むと言った。

「でも見てみたいではありませんか。存在しないと言われていても泉湧きの三叉槍があったら面白いですし、それに古き英雄の戦いは私達に誇りを教えてくれます。ただ、依拠するではなく次を紡ぐ為だとしても英雄は尊いんです」

 祈るように指を組むエフィを見て、紙に書かれたのなら嘘が書かれてるかもしれないと言おうと思ったけれど、やめておいた。

 そりゃそうだ。

彼女の平穏が己の平穏である事はない。

その逆も然り


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