死霊の手鎌
その悍ましい武器を腰につけたガキに黒い男ーーーバルザスは言う。
首に刺さった。
それも明らかに気道を塞いでいる木の枝について
そのガキは自らの首に刺さった枝を引き抜く。
枝には確かに血がついていると言うのに悍ましい。
不思議そうに血のついた枝を見つめる男は片手に武器を持ったままじっと見つめる。
気味の悪い。
内心で吐き捨てると、黒衣の男は逃げるように隣を抜け早急に足を待たせている村へと向かう。
武器、古の間抜けは手鎌と言った。
あれを手鎌と言うのだろうか。刃渡は人の二の腕を遥かに上回る。刃のついた内に向けて歪曲こそしているものの曲線は浅く。曲剣と呼ぶべき容貌をしている。
何よりも、それは所々剥がれた皮膚、それ以上に固められた物質でできている。
それが何か。側が骨で中が肉。
一人ではない。数十、もしや幾万の腕の立つ剣士の腕を断ち切り、利き腕だけを圧搾する事で作られた悪夢の遺物。
業の深いことに、魔王を倒した世代の後に起こった戦争にて虜とした剣士をねじ殺し圧搾し作り出したという。
悪因然るべくして呪われ、持ったものは狂気と破綻に堕ち廃人となって国に襲いかかってきたという。
しかし、その力の全貌はしようとするも多くが死に絶え錯綜したため全てをわかるわけではないが圧倒的と言われている。そう、たった一本のゴミが圧倒的だ。
伝説の武器と言われるものがある。
星を灼く巨砲、大地を穿つ槍、魔族を滅ぼす聖剣、意志を持ち人を誑かす斧
そして、我が国にもいくつか。最低にも依存し切っている。
その内の一つが死霊の手鎌であり、最低の一つである。
最高の人材を壊し、最高の戦果を持ち帰る剣。魔剣など言葉が勿体無い国を腐らせる邪剣だ。
宰相はそう思うと思わず鼻で笑った。まったくもって報告一つできないのだからイキってるカスは
魔王が堕ちたのち、人同士の数々の領土拡張において力となってきた。武器としては表沙汰にこそそれていないものの、手放せない強力な武器そのもの、それをもって伝説の武器の一つとまで言われている。
しかし、呪われた武器。使った騎士はその精神を使い抑え、敵に猛威を向ける。
代わりに廃人となるのだ。
そうして、次は己の番なのではないか恐怖し、そして狂う者を見て嫌悪を抱く。いつしかタブーとなった。
それでもかの武器を取ったものには
王は誉ありとして栄誉を与えた。
教育と教養を持つはずの愚かな者共は武器の狂気に委ねた。
本当に愚かな話だ。そして、バルザスにとって迷惑な話だった。
殉職騎士勲章。それは本来、死んだ高位の兵への慰労のために送られる勲章だった。
あの邪悪な魔剣を使った者は無条件で贈られる。信じがたい事に理性を保ったものもまた受け取ったそうだ。
「おお、英雄よ。貴公の戦い。貴公の忠誠。余は見届けたぞ。余の代理人より勲章に伴う褒賞を受け取る事を許そう」
その栄誉と戦功に報いるため王の代理人より賜ることを許す。
王は暗愚とは言えない。
バルザスにはなぜかはわからない。だが、その尊厳の守り手としてやけに人気を誇る。なんと腹がたつ事か。
理解もできぬし、王の代理人が自らであることも腹立たしい。
無駄にやることが増えるのだ。
言うまでもない事であるが、人とは利であり、須らくして物である。
道具無勢に特別措置などいるまい?そも、あの道具であったとしても騎士が嫌ならば罪人にでも持たせ、必要ならば増やせばいい。
他に何を求めようか?財があれば全てがある。
王もまたつまらぬ罪悪感の緩和のために経費を削っているのだ。許せるものか。
馬車の車輪を蹴り飛ばす。
驚いた馬が歩み、暫くすると振り返った。
痛む足を感じつつも黒衣に包んだバルザスは鼻で笑う。
何よりも、ようやくあの騎士がくたばったと思い楽できると思った矢先に、まさかあの呪われた武器を日常的に使い見せつけるアホウが息子であるなど誰が思うものか。
くだらん。いつ剣を出すかもわからぬ人間に、近付いて喜ぶのは間抜けな暗愚な王の娘くらいのものなのだ。
宰相バルザスは思うのだ。不要になったものは皆いらぬ。
いらぬと断ずれば、這いつくばり貢献と生存権を求めるのが人である。
できなければ奴等はただ朽ちる。
ただ受け取ればいい。共同体の名の下に全てを貯め奴らの功を立てる材料へと活かすべし、さするのち富はあり、終わりなく繰り返すものだ。それ以上の意味があろうか?
いいや、あるまい。だからこそ無駄な物は枝打ちしなくてはならない。




