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残党狩り

「お、おいお前。待て」

 エフィ、そう呼ばれる娘は組まれた陣に駆け込んだ。

引き止める声を振り切り入り込む。

騎士ではない。おそらく普段は市民か農民か。

 臨時雇いか?

ふっと、反応が広まり武器を持った人間が駆け寄ろうとする。

エフィは無視をするとそのまま馬に乗って陣地を駆ける。

無視をしたともいう。

一際熱気を放つ天幕の側に馬乗り捨て、転がり込んだ。

大丈夫、嵐の騎士に曰く。馬というのは高い知性を持つ正しい意味での友なのだ。

「まだ動かんのか。どういうつもりだ」

声が聞こえる。壮年ほど、指揮者は彼だろうか

 1番大きな天幕だ。

魔法も含めて乗り込む。手早く動かすには仕方がない。

足止めをやらせて手勢を送らないわけにはいかないし、そもそも妙に気になることもある。

幕を入りながら杖を引き抜き、地面に突き立てる。

魔法が押し倒そうとしてきた人間を容易く振り払う。

 剣を抜いた者が息を呑む。魔法にか?そして中でも見覚えすらあるであろう人間は即座にひざまづいた。

 ん、喉の調子を整える掠れないだろうか。緊張していないだろうか。

申し訳ないほどに時間をかけて調子を整える。浮き足だったほうが無惨な目に遭うのだ。

エフィは息を整え一息に言い切る。

「我が名はエルフレイデ。聞け、勇猛な兵達よ」

そして、誰がいるのか。あやふやながらも押し寄せてきた兵たちはざわめきながら続く。

「敵は山中の城。既に打撃で崩れている。貴公らはこれを早急に掃討せよ」

「なんと」

指揮官の男が一人立ち上がる。

「しかし、いまだに命令書には待機せよと」

身につけていた武器の一つ。本来は暗部の武器を見せる。

「これは暗部の」

「私は襲撃を受けた。その命令書はいかな者が持ち込んだ」

「お前、男爵を連れて参れ」

指揮官は従者に言う。

 従者は困ったように言う。

「かの男爵におきましては少し前から離席すると言ってからもどってきておりません」

「そのものの処遇はあとで。それよりもまだ戦っているものに救助がいります」

「既に戦っている。で、ございますか」

どこか言いたげに指揮官が聞き直す。

エフィはその言葉に含まれる内容を聞き流すと、状況と事実だけを告げる

「山賊どもは切り抜けたが、《隷兵》が現れました」

「隷兵、でございますか。異界の民の魔法から生まれたと言う眉唾の、怪物とか?」

「いかにも、隷兵の早急な制圧と山賊の残党狩りを命じます」

「砲を含む大型武器を動かすには少々時間が必要です。それと陣地を敷く必要がありましょう」

「今、民草が怯え後顧の憂えはなく。戦わぬ理由はないーーー」

 彼らはどこか不満そうだ。

身分的な優位を示しても突然現れた人間がいい高々に言っても仕方がない。

それに残党狩りだ手柄首が残ってたとしても死兵となった者たちに相対して最後の最後に死ぬなどと思っても仕方ない。もちろん騎士も連れていないエフィがここに来る方が早かったはずだ。

「ですが戦果に関しては私が直に検めましょう。たしか、イェクチャシムという南方風の男は随分な首級でしたね」

 暗に、首級を示す。

バケモノになってるけど

 指揮官は我が意を得たとばかいに兵を煽り出した。

戦場での戦果を荒らされるのが嫌で、尚且つ陰惨な掃討を首級もなしに対応するのが嫌だったのだろう。

「おお、そうですか。隻眼のイェク。昨年末に捕縛された盗賊でしたな。なにより姫殿下自らとなれば恩賞は確かといえましょう。ハズレは多そうですがな。あはっはっはは」

 正確にはあの男は隷兵になっているが、離れたのちに使ったとすれば仕方がない。

あの道具は膨れ上がるだけで顔の形は残るはずだ。

持ってきたものに褒賞が払われることだろう。


一度、目を瞑る。

護衛が野営陣地まで降りてくる。

 その後、野営陣地に大型武器の設営が始まり、斥候が放たれる。

陣地の設営は直ぐに終わった。完了したのではない中止だ。

 一人山中で死体となっている巨塊が発見された。

間違いない。

異界の何処かに源流を持つという南ローマ王国の隷兵だ。

どうやら、足止めだけではなく撃破までを行ったらしい。

それはいいんだけど

「しかし、伝承でしか聞かない。あの異界の民の時代を終わらせた一つとされる南ローマ王国の遺物にしては随分とお粗末ですな」

「そう。ですかね。聞くところによると末期の怪物のようですが」

報告に来た指揮官は朗らかに笑った。

ストレスはかからない方がいいのだろう。

そして、汚泥を覗かせるように指揮官は口角を歪めた。

「いやはや、姫殿下におかれましては大仰なことを言いなさる」

エフィは微笑みを浮かべる。

「被害がなかったのはいいでしょう。それに何かあってからでは遅いではありませんか」

 わざわざ嫌味を言うこともないだろうに、それはそうとエフィは心配をしていた。

報告を受けていないし、あるいは疲弊しているのかもしれないが、護衛のものからはリエント卿は住処に戻ったと聞いたと聞いて以来動きはない。

 そう。彼が戦っているのは初めて見たが思ったよりも頼りになるらしい。ちょっと剣の襷は軽そうだけど

いずれにせよ。非常に気の重い残党狩りが終わったわけではない。

手負の獣を殺すのは困難をはらみそして終わりぎわに不意に怪我をするという事から残党狩りというのは嫌がられる傾向にある。

 なんなら、エルフレイデという人間がこの国のトップに位置付けられることはないであろうから、むしろ良かったかもしれない。

 それはそうと一度都に帰って事の次第を奏上する事になるだろう。あの言葉があった以上はまた戻って来る事は確定的である。

 次に心配するのはその移動面、そして凶賊の調査はエフィの手を離れていく事だろう。

 できるのは守りを固めるくらいで…それとも適当な蜥蜴の尻尾が跳ねられるだけ、などと言うこともあるのだろうか?

 護衛の一人は困ったように言ったのだった。

「それよりも、あのような強引な手が迫ることがわかりました。処断できるかさえもわからない。これからは単独で動き回るなど勘弁してくださいますよう。この国のエルフレイデ姫なのですから」

「どうかな。この国は貴族になるのは簡単よ」

護衛はまた苦言を呈した。

「一代貴族になるのはでございましょう。それも怪しげな異界の民せいで余計な慣習…」

エフィは少し目くじらを立てる。

杖を撫でる。矢を払う魔法はある異世界人の残した魔法と言われているのだ。

「我らはかの騎士に恩があります。賛美しろとは言いません。でも、功罪は認めなさい」

「御意。して、功労者の顔を見ておりませんが」

「功労者?」

「隻眼の乱を鎮圧したとなれば第一戦功かと」

「ああ」

 隻眼の乱、のちに戦いはそう呼ばれるようになったらしい。

それよりリエントだ。

 彼は結局現場では見つからず、そして野営地に現れず、エフィの護衛が現れた後もやっぱり現れなかった。

思ったよりも頼りになる友人だが、酷く気まぐれというか

まさかとは思うが、一応戦功の表彰について確認しなくてはならない。

 エフィはとりあえず、腰を上げる

「なにかいい物見つけらないかな」

護衛が顔を顰める。

「姫様、まさかあの村にまた遊興へ出かけられるのではありませんね」

「今回は慰撫とそれから、そうね。お見舞い?」

 目が吊り上がるのが見える。

この騎士は生真面目というか融通の効かないのが傷だ。

他人に厄介な事を求めながら自己に持たないより自分も持っている奴のほうがよっぽどマシか。

しかし、手土産。といっても何処かに行ったわけではないが


「姫様、城に新しく隠し部屋が見つかったそうです」

 隠し通路のあった廃城を調べさせていた者がそう言った。

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