四章 二十一話 外伝 トトの葛藤
※この外伝は、第95話「ミノリの怒り」で描かれた出来事を、
トト視点から描いたお話です。
同日投稿なので、注意して下さい。
―――トト視点
水路を作る為の位置を決め、線を引いていると、
メリイという女がワシの元へやってきた。
女が言うには、カカがワシに用があるという。
昨日の今日で何かあったのか気になったものの、
話を聞かんことには何も出来ん。
ワシは水路の線を引きながら、
村へ戻ったらカカの元へ行こうと思っとった。
村まで十数分くらいかの…
そう思っておるとミノリがこちらに向かって歩いてきていた。
メリイとかいう女も一緒に……
ミノリ「トトさん!」
「ミノリ。メリイから話は聞いた。
カカが話があるって?」
ミノリ「ええまあ…カカさんがと言うより、
ココちゃんがですけどね。」
「なに!?ココが話だと?
ココは普通に話せるようになったのか?」
ミノリ「落ち着いて下さい。
とりあえず歩きながら話をしましょう。」
ワシは線を引きながらミノリの話を聞く事にした。
ミノリ「ココちゃんは今、自分で立ち直ろうとしています。」
「どういう意味かの?」
(立ち直る?ココが?ミノリは何を言っておる?)
トトは意味が分からないながらもミノリの話を聞いた。
ミノリ「自分で自分の殻を壊そうと頑張っています。
その為にトトさんに先に言っておくことがあります。」
殻を破る…どういう事じゃ…
「ワシに言っておくこと?」
ミノリ「ええ。ココちゃんの言葉を、ちゃんと聞いて下さい。
今までの様に貴方が先に話すのではなく、
ココちゃんの言葉を待って、しっかり聞いてあげて下さい。」
ミノリの言葉はワシがココの話を、
聞いてないと言ってるように聞こえるのう……
トト「どういう意味じゃ?
ワシがココの話を聞いていなかったとでも、
言うつもりかのう?」
ミノリ「そう言っているつもりです。」
「お前……」
コイツ、ワシに向かって何を言っておる?
線を引いていた足が止まり、
つい魔力があふれた……
ミノリ「良いですか、トトさん。
私は頭にきているんです。
子供があんな状況になるまで気が付かず、
放置していた貴方には……」
コイツ言うに事欠いて…
ワシが何もしていなかったとでも言うつもりか。
「おぬし……」
抑え込もうとしていた魔力がさらに膨れ上がる。
ワシの魔力を受け、女も魔力を練り始めた。
しかし今のワシには関係ない……
ミノリの言葉を何とか理解しようと思案する。
ミノリ「それでは、お聞しきます。
ココちゃんが鍛冶以外をやりたいと言ったことはありますか?
遊びたいと言ったことは?
これを作ったとか、直したと言うのを聞いたことは?
今日はこういう事をして楽しかったと言ったことは?」
トト「そんなもん……」
ミノリの言葉を聞いて、ワシはどうだったのか、
思い出してみる……
しかしコイツの言う通りココが何かしたいとか、
何をして遊んだ話とか、何かを作りたいと言った話を、
鍛冶以外の話を聞いた記憶がない……
その事実を思い出し、溢れた魔力が引いていく。
ミノリ「ココちゃんが自分の殻に閉じこもったのは、
貴方たちがココちゃんとちゃんと向き合っていなかったからです。
自分の期待を押し付けて、子供の事を見ていなかったんですよ。」
「貴様!」
その一言でワシは理性を失い、
魔力を何とか抑えつつも手が出てしまった…
メリイ「させないよ。」
その直後、女がワシの腕をつかんでいた。
「おぬし、離さぬか!」
何とか振りほどこうとするも、
女の腕を振りほどけない……
メリイ「そうはいかない。
事実を突きつけられて癇癪を起すのは流石に黙認出来ない。」
「癇癪じゃと!?」
女の言葉を聞き、一度抑えた魔力がまた膨れ上がったのを感じる。
魔力によって力が増す中、ミノリが声を発していた。
ミノリ「メリイ。落ち着いて。
トトさんも本気じゃないよ。
そうじゃなきゃ私が普通にトトさんの圧に耐えられるわけない。」
メリイ「それはそうだが…」
ミノリ「大丈夫。ありがとう、メリイ。」
ミノリの言葉を聞き、掴んだワシの腕を放す。
ワシの魔力を受けつつも理性を保っているとはのう…
ミノリの落ち着きを見て、ワシも少し落ち着いたのか。
じゃがミノリの言葉は納得がいかん…
しかし言っていることは正しい気がして、
無言でにらみつけるしか出来なかった。
ミノリ「安心しました。
ココちゃんを本気で心配していたんですね。
だからこそ許せなかった。
トトさん。
今回のココちゃんの異変は、
親と子によくあるすれ違いだと思っています。」
トト「すれ違いじゃと?」
そんなもん、どこの家でもある。
それが何故、ココだけ心が無くなったような状態になるんじゃ。
ミノリ「そうです。ただのすれ違い。
それが原因でココちゃんは殻に閉じこもったんですよ。」
トト「そんなもんであんな風になるとでもいうのか?
ありえんじゃろう!
すれ違いなんぞ、どこの家でもありえるじゃろうが!
それがなぜ、ココにだけ起こった?」
ミノリ「ココちゃんだけじゃないですよ。
私の居た世界ではよくある事だったんです。
子供が親の期待に応えようとして、心に傷を負うのは…
酷いとその傷が、取り返しのつかない事になった事例もあります。」
トト「なんじゃと?」
どういう事じゃ?最悪の事態?
意味が分からん…どこの家でもあるであろう事で、
最悪な結果とは信じられん……
ミノリ「原因が分からないものを説明できないのは、
どこの世界でも同じだと思います。
ただ私が居た世界が人の多さと事例の多さ、
そして長い時間の流れの中で、
その研究が進んで理解を深めていった。
ただそれだけです。
貴方が知らないのは仕方がないと思います。
でも…それでも、貴方がしっかりと、ココちゃんを見て、
話を聞いていれば、防げたかもしれない事だったんです。」
その言葉を聞き、立ち尽くすばかりじゃった……
ワシは反論したかった…が、出来なんだ……
ミノリの言葉に嘘があるように見えん。
コイツは飛人…
ワシの知らんことも知っておる。
恐らく、その世界の知識を元に言っておるんじゃろう。
では、何じゃ?
ワシがココを見ていなかったのが原因…
ワシはココを愛しておるのにか?
ミノリ「ココちゃんは貴方が言う様に本当に優秀だったんでしょう。
だからこそ、そのすれ違いは大きくなったんです。
親の期待が大きいほど、その期待に応えられない時や、
自分では望んでいないことを期待され、
やりたくない事を続けるのは、
子供にとって大きな負担になるんです。」
「ココが望んでいない事じゃと?
ワシがそれを望んだというのか?」
ワシはココが優秀な鍛冶技術を持っていることも、
鍛冶スキルを持っていることも知っておる。
ココのスキルを延ばすため技術も教えていた。
それをココが望んでいなかったとでもいうつもりか…
「その通りです。
この事は私が説明するのは違うと思うので、
貴方がココちゃんから直接聞いて下さい。
ただし、しっかり向き合って下さい。
貴方の聞き方次第では、私は本気で貴方の敵になります。」
ミノリはココの為に真剣に考えておるのか…
ココの為に家を出るとまで言っていた…
そして今、ココの為にワシを敵に回すとまで言いおった。
ミノリはココを理解し、ココの為に動こうとしている。
それなのにワシは‥‥‥
じゃが今の話のやりとりで、はっきりわかった。
コイツの思考は子を優先して動こうとしておる。
それなら、ワシがやるべき事は……
「……分かった…‥
お前の言うとおりにしよう…。
手を挙げてすまなんだ。
お前はココの事を思って言うてくれてたのに。」
ワシの魔力を受け、手を振り上げた…
それなのに笑顔で何ともないとでも言わんばかりの態度…
ワシはこの男を信じると思うとったが、
どこかで疑っておったのかもしれん……
「構いませんよ。
むしろ安心しました。
怒るほどココちゃんを思っていたのでしょう?
まだ納得できない所はあるとは思いますけど、
ココちゃんと話をすれば、きっとわかると思います。
ココちゃんが何を思っていたのか……」
「わかった…では急いで戻ろうかの…」
ワシはミノリの言葉を信じて行動する事にした。
ミノリの思考は子を第一に考えているように思う。
それに飛人を敵に回すのも割に合わん…
ミノリが近くに来てくれた事は、
ワシにとって幸運だったのかもしれんのう…
これも古龍様と精霊様のお陰なんじゃろうか……
外伝をお読みいただきありがとうございます。
※先に本編を読んでいただくと、より楽しんでいただけると思います。
トトの口調がお前であったり、おぬしであったり、
不安定ですが、そういう言葉が浮かんだのでそのままにしています。




