三章 二十二話 外伝
―メルカティス連合商業国にある
トルヴェール商会メルカティス支店
ガラム視点
?「おおう、ガラムさん。
今着いたのか?」
「ええ、今到着しました。
今年の防具の作成は順調にいきそうですか?」
?「俺の所は問題ないぜ。
ただなあ……」
「何かありましたかな?」
?「いやな…ドドの工房がな…」
「ドドさんに何かありましたか?」
?「いや、ドド本人は元気だ。
ただな、ドドの子が病気にかかった。」
「な!?
それで病状は?」
?「ああ心配はいらねぇ。
ルミナリアから来ていた治癒術師が
治してくれた。
ただまだ完治した感じじゃないんだ。」
「と言いますと?」
?「なんでも病気は治ったはずだが
子に元気が戻らないそうだ。
治癒術師も匙を投げたらしい。
病気はないしケガもない。
だが元気がない。」
「それは心配ですな…」
?「ドドは子が元気になるまで
鍛冶を休むそうだ。」
「それは仕方ありませんな。
では私の方でもその様に上へ伝えておきましょう。」
?「すまんが、宜しく頼む。」
(一度話を聞くべきか…
しかし外傷も病気も見受けられないか…
あの子と同じ状況か?
それなら…)
「すまんがドドの家まで行って、
ドドを呼んできてくれんかね?
私は積み卸の手配がまだ残っているのでね。」
商人「分かりました。」
―二時間後―
ドド「ワシを呼んだそうじゃな?
休業するという話かの?」
「ご足労おかけします、ドドさん。
その通りです。
その理由は、
お子さんの様子がおかしいということですな。
ドド「なんじゃ急に…
お前、いつから医者になったんじゃ?」
「実は以前、子供を保護しました。
そしてルミナリアの孤児院へ
連れて行こうと思っていました。」
ドド「何の話をしておる?」
「落ち着いて聞いて下さい……
良いですか?
その子供は口減らしにあい、
森を一人で彷徨っていました。
そこを護衛の冒険者が発見して保護しました。
酷いものでしたよ。
目に生気がなくまるで死んだ魚の様でした。
孤児院へ預けるつもりでしたが、
とある理由で途中の村へ
その子を預けることにしました。
子供を大切にしている人を見つけたからです。
そして次の交易時…
約四か月ほどですかね。
そのわずかな時間で
その子は笑顔で出歩いていたんです。」
ドド「おい!それは本当か!?」
「間違いないですよ。
保護をしてその村に届けたのは私の商隊です。
その子の顔を見ているので間違いないです。」
ドド「信じられん……
心はそう簡単に戻るものじゃなかったはずじゃ。」
「私も最初は驚きましたよ。
ですが真実です。
我が商会の名前に誓って。」
ドド「その村を教えろ!?」
「落ち着いて下さい。
その為にご足労頂きました。
その村では今、鍛冶師を探しております。
鉄を扱う技術を学びたいのだそうです。」
ドド「それをワシにという事じゃな?」
「その通りです。
ただ一人では大変でしょうし、
もう一人つけようと思っておりますが…」
ドド「それならワシの弟子を連れて行く。
そして本当に子が治る見込みがあるのか
この目で確かめる。
そのついでに鍛冶を教えてやるわい。
もちろん良いじゃろ?」
「それで構いません。
ただ工房自体を休まれては困りますので、
他の職人へ仕事をするように
手配だけはお願いします。」
それでは示しもつきませんので…」
ドド「わかった。
しっかり言っておくわい。
それでいつ出るんじゃ?」
「実はとある交渉の為に臨時便を出す事になっています。
三日後には発つつもりです。」
ドド「臨時便じゃと?
そこまでの村か?」
「ゼニスでは有名な童話です。
貴方も耳にしたことがおありでしょう?
寿命の長いあなた方ドワーフが知らないわけがない。
私はその村こそ、
神話の歌で歌われている村ではないかとさえ
今では思っております。」
ドド「な!?
お前、正気か?」
「いたって正気ですよ。」
ドド「神話かどうかはどうでもいいわい。
ワシは子が少しでも早く治ってくれれば
何も言わん」
「少なくとも私は私の直感を信じますよ。
子供が一人確実に治った事実があるのですから。」
ドド「お前さんを信じようかの。
では三日後までに、
ワシの工房の者には通達を出しておく。
で、何をすればいいんじゃ?」
「先ほどお話しした通りです。
鉄の打ち方を教えてほしい。
農具の作り方や
家庭用品の作り方。
その為の施設の作り方や
鉄の加工方法を。」
ドド「時間がかかるのう…」
「問題ありません。
とりあえず今回は特殊な事例になります。
もし次の行商前までに村に子供を預けても良いと思われたなら
伝書バトを預けておくので、その鳩を飛ばしてください。
責任をもってお子さんを村までお届けします。
もし信用できないとなってもです。
責任をもってあなたをお迎えにあがります。」
ドド「わかった…
宜しく頼む……」
「ええあの村で農具を作れるようになれば、
交易品ももっと良くなるでしょう。
此方も鉄製品を多めに運ぶ手間も省けるので。
(何よりあの村の子供達には笑顔で暮らしてほしい。
願わくは……これは流石に夢のまた夢か……)
― 三日後 ドド視点
ガラム「お待ちしておりました。
ドドさん、シシさん。」
「おう、待たせたかの。
ワシ等の工具は積み込んだ。
あとは現地で何が必要か直に見て決める。」
シシ「親方…本当に行くんですかい?
あっしはあまり乗り気になれんのですが…」
「違う土地で鉄を叩くことも勉強じゃ。
過去に土地をかえてスキルが上位になった実例がある。
ワシがそうじゃ。」
シシ「それは何度も聞いて知ってるんですがね…」
「冬の間の四か月じゃ。
ワシらはそれしか叩かん。
この好機を逃してどうするんじゃ?
どうしても気に入らんのなら
途中で鳩でも飛ばして迎えを呼べ。
そのころにはワシも決心がつくじゃろ。」
シシ「親方の子を本気で村に預けるおつもりで?」
「わからんわい。
それを確かめる為でもある」
シシ「親方の子を治せる手がかりでもありゃいいんですが…」
「そうじゃの……」
臨時便という割には本格的な行商の規模じゃった。
馬車を三台も引き連れておる。
しかもガラム本人が…
今向かっている村に、
ガラムは期待するようになりおった。
つい最近じゃ。
その村に期待して色々準備を始めおったのは。
そうじゃ木吊り台を持ってきたときからじゃ。
そのシエとかいう村に期待して、
色々準備するようになっとった。
あれは良いものじゃ。
今まで重くて積み上げるのも苦労をしたもんが
今では楽に積み上げられる。
今回も何やら新しい物を手に入れたと言って
支店で売り出す準備を始めておった。
子を預ける決心がつく何かがあればいいんじゃが……
ココ、待っておれ…
ワシが確かめてくるからの。
旅は順調に進み四週間ほどで目的のシエの村に到着。
寄り道なく進んだ事で想定より早く着いたようじゃ。
魔物の襲撃がなかったのも大きいじゃろう。
ここが件の村か…
のどかで良い所じゃ。
それに何故じゃろう…
ここ数十年は感じたことがない、
じゃがなにやら懐かしい感じがするのう…
シシ「親方…
あっしにはこの村は合わんかもしれん。
何や変な感じが…」
その言葉に違和感を覚えた。
ワシとは全く逆とは…
「なんじゃ?
空気が合わんのか?」
シシ「よくわからねえ。
ただあっしには嫌な感じがする。」
「…無理は禁物じゃ。
最悪ガラムと一緒に戻っても良いぞ。
ワシは予定通り残って村の様子を見ながら決める。」
シシ「見た目はのどかで良さそうな村なんですがね…
何でしょうかね、この感じ…」
「感は意外に馬鹿に出来んぞ。
数日は滞在する事になっとる。
それで判断するんじゃな。」
シシ「わかりました。」
ガラムは誰かと取引があるらしい。
ワシ等はしばらくは好きにしていいとの事じゃった。
ワシは村を見て回ることにした。
(昔を思い出すのう……)
ファブリカを出た頃、
最初に住んだ村がこんな感じじゃったか…
のどかで良いのう。
ここは広場か?
広い空き地で子が何やら飛ばしておる。
何じゃあれは…
一人が何やら飛ばし、
他の子らが追いかけておる。
見たことのない玩具。
それも空を飛ぶものとはの…
奥へと進むと小さい門があった。
ワシはその門をくぐり外の様子を見てみる。
数十メートル先に森が見えた。
森に入ると心地の良い気持ちになる。
「ここの森は良いのう…
村もそうじゃがワシに合っとる…
これで我が子の回復が見込める何かがあるのなら
呼ぶのもありじゃな……
そうなると場所が重要になりそうじゃ。」
そうつぶやきながら森を出ると父母と子が森に入るつもりなのか
森へと歩いていた。
子が気になりワシは声をかけることにした
「おおい、そこの親子、
子を連れて森は危険だぞ。」
―――
森へ歩いていた子連れは親子ではなかった。
その者たちを親元に送り届けたあと、
馬車のある場所へ戻る事にした。
ワシが馬車の元に戻ると、
ガラムと女二人が何やら相談をしていた。
「すまんな、ガラム。
待たせたかの?」
ガラム「ドドさん。いえ問題ないです。
私もまだ積み荷の引き渡しの最中です。」
「そうか。
それよりワシの積み荷は、
しばらくそのままにしておいてくれ。」
ガラム「え!?どうされました?
何か気に入らない所でもありましたか?」
その言葉を聞いたセリアとアニスは
不安そうな顔を浮かべお互いの顔を見合わせた。
「逆じゃな…
ワシはこの村が気に入った。
とくにルカという子は良い。
ココを連れて来たら、
是非とも友になって欲しいのう…
それにこの村は静かで良い村じゃ。
お前がいる間ワシはもう少し村を見る。
良い場所が見つかるまで、
ワシの工具はそのままで良いぞ。」
ドドの言葉を聞いてほっとするセリアとアニス。
ガラム「…わかりました。
ですが石工への技術提供はお願いしますよ?
石工もやる気になっているそうなので。」
「任せておけ。
石工なら炉を作るのも知識さえ教えれば
つぐに作れるじゃろ…
ワシがおるしの。」
ガラム「そこは信用しておりますよ。
だから貴方にお任せしているのです。」
「でそこの女二人は?」
佇まいを整え挨拶をする二人。
セリア「初めまして。
シエ村の村長の補佐をしております、
セリアと言います。」
アニス「私は村の食料や交換品などの
管理を行っております、アニスと言います。」
「ワシはトルヴェール商会、
鍛冶技術部門を任されておる、
トトという。宜しく頼む。」
ガラム「ドドさん。
貴方は工房主でもあるんです。
ちゃんとドドと名乗ったほうが、
良いのではないですか?」
「ふん……
鍛冶をしない子や女に、
ワシらの仕来りを問うても意味がなかろうに。」
ガラム「セリアさん、アニスさん。
申し訳ないです。
ドワーフ族は女性や子供という言葉を
使わない者が多いのです。」
セリア「そうなのですね。
大丈夫ですよ。
どんな言葉を使っていても
悪意が無いのは分かりますから。」
アニス「そうね。
それにルカ君を気に入ったのなら
良い人に決まっているわ。」
「お前ら…変わっておるの。
都会の者はすぐ怒鳴るもんも多いんじゃが…」
セリア「どんな風に言われても、
私共は変わりませんので。」
アニスも無言でうなずいている。
(面白いのう…村の雰囲気に森の雰囲気。
そして人までこれとはの…
ガラムがおる間に早めに決めねばならんかの?)
「そういえばシシはどうした?」
ガラム「それが数時間、村を見て回ったそうなんですが、
どうにも合わないらしく、
今は集会所の部屋に籠っておりますよ。」
「なるほどのう……
これはシシは無理かもしれんのう。」
ガラム「私もそう思います。
恐らく三日後私が戻るときに
一緒に戻るかと…」
「仕方がないのう…
どうしても合う合わんはあるもんじゃ。
そうなると後は石工次第か…
ワシは明日、鉄を叩く予定の者と
会おうかの?
セリア、アニス。
その段取りは取れるかの?
出来るだけ早くが良い。
石工がものになりそうなら
ワシの助手は要らんようになる。
そうじゃないなら別の者を呼ばねば…」
セリア「分かりました。
私の方から石工へ話は通しておきます。」
「済まんが宜しく頼む。」
さて……
シシはこの村では使い物にならん。
腕はいいんじゃが残念じゃのう…
ワシのスキルが上がった時に酷似しとるんじゃが…
精霊に嫌われたかのう……
外伝をお読みいただき、ありがとうございます。
今回の外伝では、ドワーフ文化のほんの一部だけを描きました。
この先に続く設定はまだたくさんあるのですが、
本編の雰囲気を守るために、
今回はここで区切っています。
ドワーフの深い設定についても、
いつか何かの形で公開できればと思っています。
私の活動報告には、世界設定なども載せています。
そちらもほんの一部ではありますが、
もしご興味がありましたら、ぜひ読んでみてください。
ゆっくり楽しみにしていただければ嬉しいです。




