二度目の交易市当日(前編)
交易市本番の日
早朝の家族会議が終わろうとしていた。
サウロ「ミノリ。今回うちの交易品は、
お前の交渉が終わった後、
作業場へ直接受け取りに来る手はずになっている。
交易品の交渉が終わったら作業場に戻って
交易品の搬入を見てくれればいい。
それまでは、ルカとソエルと一緒に
交易市を見て回ってくれ。
ソエルは初めてだから、
ルカと一緒に案内しながら楽しんで来い。
メリイ、子供たちの事、宜しく頼む。」
メリイ「任せろ。」
ミノリ「え?私は手伝わなくても良いのですか?」
サウロ「手伝わないという事は無いだろ?
日が昇り切った頃に
集会所で交渉がある。
そこからがお前の本番だ。
お前の思うままに頑張ってこい!
何があっても俺たちがついてるから、
契約しっかりな。」
「わかりました。
ありがとうございます。」
マローネ「私たちはいつも通りだから、
ほんと気にせずにルカとソエルと一緒に
楽しんでね。
もちろんメリイもね。」
メリイ「ありがとう。」
朝食を食べ終え
サウロさんとマローネさんは
出かけて行った。
「さて私たちはどうしようか?
ルカ、最初はどこがお勧めかな?」
ルカ「今からだと集会所の周りかな?
おかあさんが集会所に着いたら
野菜とかの交換が始まると思うから。
その後は広場かな。
日が高くなると広場が一番人が多くなると思う。」
「それじゃあ最初はマローネさん達の所に
挨拶に行ってそのあと広場かな?」
ルカ「うん、僕が案内するならその順番かなー。」
「それじゃあ、そうしようか。
ソエルとメリイもそれでいいかな?」
ソエル「うん、いいよー。」
メリイ「私は構わない。」
作業場を覗いて
木吊り台や家具、小物を確認して
集会所に向かう事にした。
集会所へ向かう途中で他の子供たちとすれ違う。
みんな笑顔で広場へ向かっているようだった。
その後ろから親たちが台車を引いて
各々の交易品を運んでいた。
昨日は静かだった村の雰囲気が
今日は賑わいを見せ始めていた。
集会所の前には三台の馬車がまだ停まっていた。
そして軒先前ではマローネさんとアニスさんが
商隊の人と会話している。
ソエル「わー、お野菜がいっぱーい。」
ルカ「今日の交易が終われば僕たちの家の畑で
種を植えられるよ。」
ソエル「種を植えるの?
私もやりたい!」
ルカ「うん。
ガラムさんから種を貰えるはずだから、
何を貰えるのか楽しみなんだー。
種を貰ったら一緒に植えようよ。」
ソエル「うん。
ミノリにいとメリイねえも一緒ね!」
「もちろんだよ、ソエル。
メリイももちろん良いよね?」
メリイ「ソエルの誘いを断るわけない。」
ソエル「すごく楽しみー!」
「ルカとソエルは何が植えたいとかあるのかな?」
ルカ「ボクは、ニンジンかなー。
あまいニンジンが大好き。」
ソエル「あー!私もニンジン。
この間マローネねえが作ってくれたスープのニンジン。
すっごくおいしかった!」
メリイ「あれはおいしかった。
私も好きだよ。」
商隊の人と話をしていたマローネさんとアニスさんが、
ルカとソエルの話を聞いて笑顔で此方を見つめていた。
アニスさんがマローネさんの背中を叩きながら
嬉しそうに此方を見ている。
マローネさんもすごく嬉しそうだ。
私は二人に会釈して、子供たちに話しかけた。
「そうか、三人ともニンジンが好きなら、
ニンジンの種は手に入れておきたいね。」
「「うん!」」
息ぴったりで元気に答えてくれる。
二人の頭をなでてあげて、
ニンジンの種が手に入ったら
家庭菜園を広くする?
等と会話を続けた。
野菜の話を楽しんだ後は広場へと向かった。
広場は子供と大人で、
普段の静けさから市場のような賑わいへと変わっていた。
木吊り台や絵文字板は商隊の方が
直接受け取りに行くことになっているので、
今回は木工場の人たちは広場には来ていなかった。
石工の交易品である砥石と食器などが置かれている。
砥石か……。前の世界でもよく見かけたな。
ルカ「ミノリおにいちゃん、どうしたの?」
「ん?国の事を思い出していたんだ。
あの石分かる?」
ルカ「斧とか擦ると綺麗になる石。」
「そうだね。あれは砥石と言ってね
斧や鍬や鎌、ナイフなどを研いで
切れ味を戻すための道具だよ。」
サウロ「おとうさんが、よく使ってる。
丸太とか薪とか、あと食器なんかも一杯渡して
交換してもらってるよ。」
「そうだね。あの石は結構貴重なんだと思うよ。」
ソエル「へー、そうなんだ。
あれがないとマローネねえとサウロおじさん困るね。」
「そうだね。
生活に必要な物を直してくれる
大事な物だよ。」
過去の事を思い出して
つい話しすぎたかなと思いつつ、
広場を一通り見て回った。
その途中で馬車が一台広場に到着した。
前回見かけた番頭さんが下りてきたので、
挨拶をした。
太陽の位置を確認するため
空を見上げると太陽が真上になりつつあった。
そのまま目を閉じていつものように祈る。
それを見ていたルカが真似をしている。
最初は分かっていなかったソエルも
私とルカの真似をして同じように空を見上げて
目を閉じていた。
メリイはその様子を黙ってみていた。
目を開けてルカとソエルを見ると
私と同じように空を仰いで目をつぶっていた。
私は優しく声をかける。
「ルカ…ソエル…そろそろ時間だと思う。
集会所へ向かおうか。」
その声を聴いてすぐに目を開けて
「「うん!」」
と元気に答えてくれた。
集会所に到着した私たちは、
マローネさん達に声をかける。
「お疲れ様です。マローネさん、アニスさん。
これから交渉に行こうと思うのですが、
アニスさんが大丈夫ですか?」
二人が挨拶を返して、
アニスさんが答えてくれる。
アニス「ええ。此方は円滑に終わって
店に運び入れて貰ったら終わりよ。
これから交渉よね?
私も一緒に行くから!」
「はい。そのつもりで声をかけました。」
アニス「今度は仲間外れはしないのね。」
まだ根に持っていたのかそう言ってくる。
すぐにルカとソエルが何か言いそうな様子を察して
すぐに言葉を続ける。
アニス「冗談よ。
さあ、中に入りましょうか!
ルカくん、ソエルちゃんも一緒に行きましょう。」
そういい手を差し出すと
ルカもソエルもその手を取り一緒に中に入って行った。
アニスと手を繋いで入っていくソエルを見て、
村の人との距離が縮まっていることに安心した。
マローネさんに声をかけて
メリイと一緒に中に入る。
中ではアニスさんと手をつないだ二人と
セリアさんが会話をしていた。
何かを話した後、私に気が付いたセリアさんが
声をかけてきた。
セリア「お疲れ様です、ミノリさん。
ガラムさんがお待ちですよ。」
そういい案内してくれる。
その際に
「ルカくん。
ソエルちゃん。
今度私と一緒に遊びましょうね。」
と言っていた。
ルカとソエルも
「「うん」あそぶ!」
と嬉しそうに返していたのが可愛いなと思った。
案内された部屋で席に座り最初にガラムさんが話し始めた。
ガラム「前回は大変素晴らしい物を 譲渡頂きありがとうございました。
今回はその時の契約書をお持ちしたので、
ご確認をお願いします。」
アニス「では、私が確認して
ルカ君とミノリさんにお伝えしますね。」
そういって契約書を読み上げてくれた。
「まずはルカ君の肩たたきの権利の契約ですね。」
当商会は独占的な製作・販売権を有する。
ただし、シエ村内に限り自由な製作および交易品としての使用を認める。
当商会からの支払い内容
サウロ用
伐採斧
良質な鋸
ノミ(平・丸)
砥石
各一点ずつ
マローネ用
料理用ナイフ
鉄製鍋
裁縫針・糸のセット
丈夫な革のエプロン
作業用の手袋
各一点ずつ
ルカ用
小型の作業斧(サウロと一緒に使う前提)
子供用作業ナイフ
革の道具袋
子供用手袋
各一点ずつ
野菜の種
取引のときに在庫のあるものから五種類
今後の売り上げ次第で再度上記品をお渡し
「え?今の契約内容はあっていますか?
私の知る契約書とは違う気がしますが…」
アニス「ええ間違いないですよ。」
ガラム「それについては私の方から。
ルカさんの望まれたものは 家族を思う品々でした。
なので私の方で必要そうなものを
見繕って準備させて頂きました。
これは素晴らしい商品に対する誠意だと思って下さい。
また今後も取引を続けるうえで
売り上げに応じて
再度報酬をお出しする形にしました。
これは村の今後の発展を期待しての
先行投資だと思って下さい。」
「わかりました。
ありがとうございます。」
ルカ「おとうさんとおかあさん。
喜んでくれるかな?」
セリア「マローネならきっと喜んでくれるわよ。
もちろんサウロさんもね。」
そういってルカ君を笑顔で見つめている。
ルカくんもその言葉を聞き
すごく喜んでいる様子だった。
ソエル「良かったね、ルカ!」
ルカ「うん!」
ガラム「それではルカさん。
欲しい種を今おっしゃって頂けますか?
作業場へお持ちする際にまとめて
お届けいたします。」
ルカ「ニンジンがほしいです。
でも他に何が良いか分からない…」
セリア「他に好きなお野菜はないの?
マローネさんとかサウロさんの
好きな物でもいいんじゃない?」
ルカ「タマネギとキャベツが好き。」
セリア「そうね。私が知っているのもそれ位だわ…。」
ガラム「その三つなら在庫があったはずなので、
問題はありませんね。
あと二つはなんの種にしますか?」
ルカ「うーん…
ミノリおにいちゃん、メリイおねえちゃん。
何かない?」
メリイ「私はダイコンかな…」
ガラム「ダイコンの方も在庫がありますので
問題はありません。」
ミノリ「そうだね…
ガラムさんトウモロコシって知ってますか?」
ガラム「いえ…その名前は存じませんな。
どのような野菜でしょうか?」
「背の高い植物で茎の途中に実がついている。
粒がたくさん並ぶ手に取ると
少し硬い野菜ですね。」
ガラム「それはメイズかもしれないですね。
特徴は一致します。
ただ家畜用の餌としてしか使えないと聞いていますが…」
「そのメイズを育てるのに何か難しかったりしますか?」
ガラム「いえ比較的簡単らしいです。
狭い範囲で数も収穫しやすいそうですよ。」
「ではそれをお願いします。」
ガラム「本当によろしいのですか?」
「ええお願いします。」
ガラム「分かりました。
それでは、ルカさん。
ニンジン、キャベツ、タマネギ、ダイコン、メイズの
五種類でよろしいでしょうか?」
ルカ「はい。お願いします。
やったよ、ソエル。
ニンジン自分で育てられるよ?」
ソエル「うん!一緒に育てよう!」
嬉しそうに会話をしていた。
その様子にアニスさん、セリアさんは嬉しそうに見つめている。
ガラムさんも自分の判断に満足したのか 嬉しそうに頷いていた。
アニス「では次は木吊り台の契約書ですね。」
そう言って契約書の内容を読み上げてくれた。
セリア「木吊り台を当商会への権利の売却。
当商会の独占制作権と販売の権利の譲渡
当商会からの支払い内容
報酬:鉄塊 約五十キロ(5kg×10)
今後の売り上げ次第で 追加報酬あり。」
「五十キロ!?
そんなに多いのですか?」
アニス「ええ、間違いありません。
私も驚きました……。」
ガラム「それについてもご説明いたします。
木吊り台は、倉庫の使い方そのものを変える品です。
重い荷を積み替えることなく保管でき、
より多くの荷を効率よく保管できるようになります。
商人にとって、その価値は計り知れません。
その対価として、この契約内容は妥当だと判断しました。
そして今後も、公平な取引を続けていくため、
売り上げに応じた追加報酬も
お約束いたします。」
「そうですか……
ありがとうございます。」
アニス「その事でご相談があって、
私達も同席をお願いしました。」
セリア「ガラムさん。
その鉄について、ご相談があります。」
「セリアさん、待って下さい。
その件は私の考えが足りなかった事が原因です。
まずは私から説明させて下さい。」
ガラム「ミノリさんのですか?」
「ええ。
実は私の考えが甘く、
この村には鉄を加工する技術がない事に、
つい最近気付きました。
そのまま鉄をお渡し頂いても、
十分に活用できない可能性があります。
その事をまず、
ガラムさんへお伝えしたかったのです。」
ガラム「なるほど……
確かにそれは盲点でしたな。」
セリア「その件で私からお願いがあります。
まず二十キロは予定通り村へ納めていただき、
残り三十キロは一度お持ち帰りいただきたいのです。
その鉄を、木工・石工・布加工の職人
そして農作業で必要となる鉄製品へ加工、
あるいは交換していただけないでしょうか。」
「これは私の判断不足で、
ガラムさんにご負担をお掛けするお願いになります。
ですが今回は私個人への報酬ではなく、
村全体への報酬です。
私一人で決めるよりも、
村の状況をよくご存じのお二人に
相談させていただくのが一番だと思いました。
そのため、この場をお願いした次第です。」
その事を聞きミノリに対しての判断を
改めたガラム。
このミノリという男の発想は天才的
だが見通しの甘さがある。
だが、そこを反省し受け入れ
改善しようとする姿勢がある。
改めて感心するのだった。
ガラム「事情は分かりました。
ですが一つだけ訂正を。
私共の事はお気になさらずに。
貴方の作ったものはそれほどまでに素晴らしいと
思っております。
その為なら出来る限りは
そちらの望むものを準備いたしますよ。」
「ありがとうございます」
私が頭を下げるとセリアさんとアニスさんも
頭を下げてお礼を言った。
それを見たルカとソエルも頭を下げてお礼を言う。
メリイまでも頭を下げてお礼を言っていた。
私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
でも同じように、
お礼を言ってくれる皆に感謝していた。
それを見たガラムさんが笑いながら話す。
ガラム「良いですな。
村全体が家族のようで、
ほほえましく思います。
ミノリさん。
貴方が羨ましいですよ。
可愛い子供に素敵な女性が
貴方を支えてくれるのですから。」
「はい。ありがとうございます。」
そう答えるだけで精いっぱいだった…
ガラム「では三十キロは持ち帰り完成品を
お持ちしましょう。
今回は鉄を運ぶ事と木吊り台の完成品を
受け取るために一台馬車を増やしましたが
正解だったようです。」
そういって笑って、そのまま続けて話す。
ガラム「では南のメルカティスにつき次第
三十キロ分の代わりの製品を
お持ちするようにしましょう。
今回だけの特別便を準備して届けさせます。」
セリア「特別便ですか!?」
アニス「特別便ですか!?」
二人の声が驚きの声と共に重なる
ガラム「そうです。普段は南下する時のみ
シエ村によるようにしています。
今後も変える予定は今の所はありませんが、
今回は特別に…。」
「ありがとうございます。」
ガラム「その代わりと言っては何ですが…
竹とんぼの権利も絵文字板と同様に
是非譲って頂きたいのですが
如何でしょうか?」
「竹とんぼですか?」
竹とんぼの名前を聞いて
難しい話で退屈そうにしていた
ルカとソエルも反応を示した。
ガラム「そうです。
此方に来る途中でたまたま見かけました。
すごく楽しそうに子供が飛ばして必死に追いかける。
単純な作りながら、
材料も安価で量産できる。
竹とんぼも立派な交易品になりえますよ。
私はそう思っています。」
「ルカ、ソエル。
折角だから今交渉しようか。
二人が言っていた絵文字板と交換するものを
竹とんぼも一緒に交渉するんだよ。」
そう言って二人に問いかける。
それを聞いて思い出したのか、
二人で顔を見合わせてお互いがうなずく。
ガラム「ではルカさん、ソエルさん。
絵文字板と竹とんぼの契約をお願いしたいのですが、
如何でしょうか?」
ルカ「えっと…
冬に暖かくなれるような服が欲しいです。」
その言葉遣いにソエルも影響を受けたのか、
ソエルも同じように頑張って丁寧な言葉を使う様にしていた。
ソエル「家族みんなで、
暖かく過ごせるような洋服が欲しいです。」
ガラムさんはその言葉を聞いて、
大きくうなずき丁寧に答える。
ガラム「分かりました。
今後当商会へ権利を譲って頂けるのでしたら
家族と言わず村全員分の服をご用意しましょう。」
それを聞いて少し迷ったようなルカとソエルに
アニスさんが助け舟を出した。
アニス「大丈夫よ。ルカくん、ソエルちゃん。
他の家にも服が欲しいなら竹とんぼを
作るように私から伝えるから、
ルカくんとソエルちゃんは難しく考えなくて大丈夫よ。」
笑顔で伝えると二人とも安心したのか
笑顔に戻って元気に返事をした。
「「はい!お願いします」」
と元気に答えた。
ガラム「ありがとうございます。
今回の契約内容は次回契約書を作成して
契約を結びましょう。
その際はセリアさん、アニスさん。
御同席をお願いします。」
「「わかりました」」
ガラム「では、今回の臨時便で
冬服なども一緒に早めに運ぶように手配します。」
「「「ありがとうございます。」」」
私とセリアさんとアニスさんが同時にお礼を言った。
ガラム「今回も良い取引になりました。
此方こそありがとうございました。」
ガラムさんの部屋で皆が満足する
契約を結ぶことになった。




