家族
マローネさん宅に戻った私たちは暫く
今日の広場の賑わいと
集会所での交渉の事で
話が弾んだ。
特にルカ君は種や農具や工具が手に入ることが
嬉しいのか終始上機嫌で話し続けている。
私自身もそれがうれしくて
お互いが笑顔で話題が弾んでいた。
先にマローネさんが帰宅した。
その後しばらくして、
サウロさんも帰ってきた。
皆で食事をとった後相談があると伝えて、
女の子の件を話すことにした。
「……という事情があり、
私はその子を引き取ろうかと思っています。
居候の身ですが
目の前の手の届く子供には、
出来るだけ手を差し伸べたい……
ですが、その子は女の子です。
私ではどこまで出来るか分かりません。
不安もあります。
出来ればマローネさんに、
その手伝いもしてほしいんです。
もちろん私も出来る限りの事はします。
ですのでどうかお許しを頂けないでしょうか?」
「何言ってるんだお前。」
と少し怒気を含んだ声で言ってきた。
そして続ける。
「お前はもう家族だ!何遠慮したように言ってる。
お前は俺の事を考えていつも手伝ってくれた。
ルカを息子の様に弟の様に接していただろ。
それなのに何を居候みたいな言い方しやがって。
お前がどう思おうが、お前は、もう家族だ。
お前はもう、この村の人間だ。」
「そうよ?
もう家族なんだから、
そんな他人行儀に言わないで。
そっちの方が寂しくなるわ……」
「ミノリおにいちゃんは、
ルカのおにいちゃんだよ!」
三人がそう言ってくれる。
自分だけがまだ外の人間と決めつけていた。
嬉しい感情と辛い感情が入りまじり、
涙が溢れる。
両手で顔を覆い
声を押し殺しながら
それでも涙は止まらなかった。
初めて理解する事が出来た……
私にはすでに欲しかったものが手の内にあった……
―
ルカ君が優しく頭をなで続けてくれている
落ち着いた私は涙をぬぐい、
改めてお願いする事にした。
「あの子を助けたいので家に招きたい。
その手伝いをお願いできますか?」
私はそう言って頭を下げた。
「当然だ!」
「もちろんよ」
とサウロさんとマローネさんの声が重なる
「ボクもてつだうよ」
感謝の気持ちを胸にただ頭を下げた。
そして明日の事を話し合った。
改めて家族と女の子の事で相談した。
受け入れる部屋は大きいと、
逆に不安かもしれない。
空き部屋を半分に板で区切って、
女の子の為の部屋にする。
明かりを取り入れるために窓枠も作る。
ルカ君とおそろいの
木組みのベッドも設置する。
など事細かな事を話し合った。
ルカ君のおそろいのベッドの意見は
皆で笑顔になりながら良い提案だ。
とサウロさんに頭を撫でられながら褒められていた。
―
そして翌日
朝の水くみを運び終えた私は、
一旦外に出て顔を洗い
すっきりした気持ちで背伸びをする。
そして空に向かって感謝を伝える。
「私に家族が出来ました……
守る世界が出来ました。
力に溺れずに家族と村の人たちへ、
少しでも恩返しをするために……」
そうつぶやき誓いを立てる。
久しぶりの女神のような美しい声が響く。
【幸福度ポイント】が上昇しました。
でも今の私は視界に移るポイントには
あまり興味を示さなかった。
私が見るのは家族と村の皆。
その為に人並みに体を張ること。
特別な事は何もない……
朝食を家族と取りながら
改めて今日する事を話し合って、
サウロさんはマットを
調達するため裁縫師宅へ。
マローネさんは木組みのベッドの調整。
ルカ君は私と一緒にお迎えに行くことになった。
見慣れた馬車が止まっているが、
今日は中に女の子が居なかった。
集会所の中に入ると室内の片隅に
女性冒険者と女の子が
食事をとっている所だった。
でも見る感じ女の子の方のお皿の料理は、
あまり減った様子はない。
女性は不安そうにしつつ話しかけていた。
私たちに気が付いた冒険者が、
目を細めてにらみつけてくる。
私はその視線を受け流し受付の場所へ向かう。
「ガラムさんと本日お会いするお約束をしていた、
ミノリといいます。こちらは家族のルカくん。
時間の指定まではしていなかったのですが、
今、お時間は大丈夫でしょうか」
私がそう伝えるとルカ君がなぜか手を握ってきた。
いつもの温かく安心する手。
優しく握り返し受付の帰りを待つ。
ガラム様がお待ちです。奥へどうぞ。
と奥へと案内してくれる。
ノックをしてガラム様、お連れしました。
と部屋の中に声をかけると、どうぞと入室を促した
入室するとガラムさんは笑顔で立ち上がり、
待っていてくれた。
お待ちしておりました。
と私達を先に席に着くように促してくれた。
ルカ君と一緒に席に着き、
昨日の契約の続きを話した。
次回訪れた際に、
羊皮紙の契約書を交わす。
ルカ君の、発明品の対価
本日。鉄の斧、桑、ナイフ、は本日1セット。
削るものと鍋は改めてマロニーさんに要望を聞いて
次回に残りの分をまとめて納品。
私の物々交換と発明品の対価
は次の交易の際に羊皮紙による契約後に
渡すという事で合意した。
そして私の方から口を開き今日の本題に入る。
「馬車の女の子の事でお話があります。
私の家族は受け入れると言ってくれました。」
と話し始めるとルカ君が笑顔で
手をつないでくる。
心で感謝を言いながら話を続ける。
「今サウロさんとマローネさんは受け入れの為に、
部屋の準備をしてくれています。」
そう伝えると安心したのか息を吐きだし……
顔にわずかに笑みがこぼれる。
「そうですか。それは安心しました。
いえまだそうとは言えないですね……
一応昨日女の子には伝えたのですが、
反応が無かったので何とも言えないのですが。
仲良くなった冒険者は反対の様子でしたけど、
何も言わずに、聞いていた感じでしたね。」
そう伝えてきた。
私の家族はすでに受け入れる為の、
環境を整える準備を進めている事。
女の子の元へ行き、
直接話すことを伝えた。
ロビーに出ると食事中だった女の子と冒険者は、
すでに出た後だった。
恐らく馬車だろう……
私はルカ君と一緒に、ガラムさんの後に付いて行く。
私たちは馬車の手前で一旦待ち、
ガラムさんと冒険者が話している所を見ていた。
ルカ君は女の子が気になるのか馬車の方へ
視線が集中していた。
二、三やり取りをした後、
ガラムさんが声をかけた。
「どうぞこちらへ」
と馬車を指し示して移動を促した。
中の女の子をちゃんと見たのは初めてだ。
ルカ君は複雑そうに眺めている。
そして第一声をかけた
「はじめまして。ボクの名前はルカ。
きょうから、ボクのおうちが、きみのおうちだよ。」
笑顔で言った。
ルカ君を見つめていたけど、
すぐに視線を落とした。
あの目は見覚えがある。
そう思っていると何かを察したのか、
ルカ君が手を握ってくる。
視線をルカ君に落とすと笑顔を返してくれた。
いつもの温かい手。
落ち着きを取り戻した私は、
女の子へ声をかける。
「はじめまして。私の名前はミノリと言います。
今日から私たちの家へご招待したいのですが、
宜しいでしょうか?」
少女は無言で俯いたままだった。
肯定も否定もしない。
でもルカくんの声には反応を示していた。
まだ望みはあるはずだ……
そう一抹の希望だけを頼りに、
なおも話しかける。
「初めてのおうちだから心配だと思うけど、
ルカ君はもちろん、ルカ君のご両親も、
きみに危害を加えることは決してないから、
安心してほしい。
もちろん女性の冒険者も一緒に」
と問いかけた。
その発言に二人が反応を示す。
ガラム「な。ちょっと待って下さい、
流石に冒険者は困りますよ?」
冒険者「ちょっと待ちなさい。
私はこの子を預けるのも納得していないのよ?
出来るわけないじゃない!」
と私の発言に二人も反発してきた。
私はルカ君にちょっと待っててくれるかな?
と聞くとルカ君は女の子を見たままうん……
と答えてくれる。
私と大人二人で少し馬車から離れて話をつづけた。
「あの子の目を見ました。
原因は分かりません。
でも、あの目には見覚えがあります。
私も昔、似たような目をしていました。
だからこそ、一人にはしたくありません。
それに……貴方も一緒の方が
安心できるのではないでしょうか?」
女性冒険者
(男の顔は真剣そのもので、
嘘をついているようには見えない。
あの子の事を考えると旅を続け、
町の孤児院へ行くという理屈は分かる。
でも孤児院は常に子供達で溢れている。
そこで幸せになれるとは限らない。
孤児院は国や領主の管轄。
私は入り込めないし、
一緒に居ることも出来ない。
特に目的地の町は……
私が見守るという視点では、
この村に残るのが一番理想なのかもしれない。
だけど……
だからこそ簡単には信用出来ない。
この子の為に、
私が間違える訳にはいかない。)
―
それを聞いていたガラムさんは
(その冒険者は鋼鉄クラスの冒険者だ。
一か所に留まる事は決してない。
それに仲間がどう判断するかは分からないが、
あの子を拾ってからの本人の行動を見ると、
その提案を受ける可能性もある。
しかし鋼鉄クラス……
一人とは言え多少の影響はあるか?
しかしここで恩を売っておけば……
いずれ木吊り台以上の発明をする可能性のある人間に
恩を売る事が出来ればたとえ
我が商会以外の者たちが目を付けても、
優先的に取引することが可能かもしれん‥…)
二人はそれぞれ思考しているのか暫く佇んでいた。
ガラム「私の方は納得しました。
確かに町まで安全に到着したとしても、
そこで受け入れるかは不明の段階。
それを理由に今差し伸べられた手を
払うのは危険が伴います。
私の方は納得しました。
それに今回を逃せば、
我々が再びこの村へ来るのは早くても四か月後です。
それにルカ君のご両親は素晴らしい方々です。
ルカ君を見ればわかります。
きっと大切に育ててくれるでしょう。」
と女性冒険者へ遠回しに言い聞かせるように話した。
それを聞いてまた少し考え込んでいた冒険者が、
「理由は分かりました。
ですが、この男を信用する事は出来ません。
……なので私もこの村に残ります。
あの子を一人には出来ない。」




