六章 十二話 ロアの提案
朝目覚めると体がまだ少し怠かった。
翌日まで疲れが残るのはこの世界に来て初めてだった。
痛みはない…ただ倦怠感…
少し不快な目覚めになってしまったけど、
朝食時のルカ、ソエル、ココちゃんの笑顔で吹き飛んだ。
とくにココちゃんはどんどん元気になってきて、
その影響だろうか、元気なソエルが、
ますます元気になっている。
ルカ、ソエル、ココちゃんはお互いが支えあっている…
そんな気がしていた。
その後は昨日の事で質問ぜめだった。
私が肉を手際よく切り、
そして串に迷いなく刺して焼く様子を見て、
ククさんが興味を持ったようだ。
もしこの村で食堂を開いたら、
ぜひ一緒にどうと声をかけてくれた。
私はまだ考えられないと正直に答えた。
その言葉を聞き、「ゆっくりで良いのよ。」
と笑顔で返してくれるククさんに心で感謝した。
その日はロアさんと約束があるという事を皆に話して、
今日は私は別行動をとることを伝えた。
でもルカが一緒に行くと言って聞かなかった。
ガラムさんとの話もあると言っても聞き入れない……
こんなルカは初めて見た。
そしてサウロさんとマローネさんも驚きを隠せない様子だった。
サウロさんとマローネさんの「ルカも連れて行って…」
この言葉で私も了承した。
こうして私はルカとメリイと三人で向かう事になった。
そして私はロアさんの話を聞く為に集会所へと向かった。
集会所に向かう途中の広場は昨日の名残がまだ残っていた。
普段口にすることのないボアの肉。
その前で笑顔で楽しみ村の人たち。
目をつぶるとすぐにその光景が浮かぶほど、
楽しい時間だった。
串を喜んで口に運ぶ子供たち。
また作ってと腕にしがみつく子供たち。
自然と口角が上がっていた。
集会所の前にすでにロアさんが待っていた。
そして他にも数人の冒険者がいる。
鉄鎖の盾の人たちも居た。
私とルカはロアさんの案内で中に入る。
メリイは鉄鎖の盾の人たちと外で待つそうだ。
中の食堂スペースに居た一人の冒険者が、
私に視線を送っていたけど、
私は気に留めることなく奥へと進んだ。
そしてガラムさんの部屋の中へと入り、
ガラムさんとロアさんを含めた会話が始まった。
「ミノリさんは料理も出来たのですね。
昨日の肉を切る腕前と串刺しはお見事でした。
料理の経験がおありですか?」
ガラムさんの最初の会話は何気ないものから始まった……
「はい。
過去に経験があります。」
「想像以上に多彩ですね。
木吊り台の作成に、数々の遊具。
その上に料理まで出来るとは驚きました。」
「作成はこの国に来てからです。
たまたま私には少しの知識とスキルがあっただけです。
本職は料理の方ですよ。」
「それはまた驚きです。
ああ…それでメイズの話が出ていたのですね。
それならば納得です。」
「残念ながら一度目は失敗してしまいました。
次はしっかり育ってくれると良いんですけど。」
「期待していますよ。
そして新しいメイズを使った料理を楽しみにしています。」
「はい。」
暫く日常会話を挟んだ後、
ガラムさんが本題に入った。
「それでロアさん。
貴方が私に話していた件をお話しください。
貴方ほどの腕があれば私の力がなくても、
いくらでも協力者がいるとは思いますが……」
「はい。
ですが協力者に関しては私だけではどうにもなりません。
そしてその協力にはミノリさんの力が必須だと思っています。
単刀直入に言います。
ミノリさん。
貴方この村に孤児院を作りませんか?」
「は???」
急な言葉に変な声が出てしまった。
「貴方の事は聞いています。
ソエルという子を助け、
そしてドドさんのお子さんまで助けたそうですね。」
「それは事実ですが、私一人の力ではないですよ?」
「それはそうかもしれません。
ですが、貴方無しでは、
ここまで早く回復する事は無かったと思います。
実際この大陸には心を閉ざした子供が回復するには、
長い日数を要します。
長い場合は数年もそのままの事が当たり前なんです。」
一度間をあけて再び話を続けるロアさん。
「全員とは言いません。
貴方の出来る範囲で助けてほしい。
その為の孤児院の資金は私が出します。
貴方にはその孤児院の責任者になってほしいのです。
そして、その孤児院を作るためにガラムさん。
貴方のお力もお借りしたい。」
その言葉を聞き私の頭の中は真っ白になった。
昨日の記憶の混濁、
そしてソエルやココちゃんの様な子供たち。
それを私が責任をもって預かる事への不安で、
一杯になっていた。
私が黙っているとルカが急に声をかけてきた。
「おにいちゃんなら大丈夫だよ。
だっておにいちゃんが子供の事を大事にしているのは、
皆知ってるもん。
それにおにいちゃんが子供を助けるなら、
ボクも手伝う。
きっとソエルも手伝ってくれる。
おとうさんとおかあさんだって。」
その言葉は私の不安を少しづつ消していった……
「私からもお願いします。
私はこの事をお願いできるのは、
ミノリさんしかいないと思っています。
他の人ではいつか自分の利権の為に利用する可能性もあります。
ですが貴方なら安心できます。
自分の権利を子供の為に譲り、
自分の欲しいものより村の事を第一に考えた貴方なら……」
ガラムさんの言葉は私を応援してくれているように感じた。
「私もガラムさんと同じ考えです。
ただの孤児院ならどこにでもあります。
ですが、私が出資をして子供を託せると思うのは……
貴方しかいないと断言できます。
飛人であり、心から子供の為に怒り、
大事にしようと考えてた貴方だから。」
「おにいちゃん。」
そう言って私の手を握るルカの目には、
力強さを感じた。
ルカの目を見つめてそして勇気をもらった。
私は頷いた。
そしてその小さな温かい手を握り返した。
「分かりました。
正直どこまで出来るか分かりませんが、
出来る範囲でやってみようと思います。」
私の言葉を聞き声を上げるロアさんとガラムさん。
「ありがとうございます!」
「ありがとうミノリさん。」
二人の声が重なった。
「それで孤児院をやるとしても、
正直どうしたらいいか私には分かりません。」
「そこは私にお任せください。
ロアさんの話を聞き、父上にも了承を得ています。
近々この村に一番近い町、ローディスという町に、
トルヴェール商会の支店を作ります。
その後になりますが、
孤児院を作るための準備を始めます。
その為の国への報告なども我々の方で進めます。
貴方はこの村でその時をお待ちください。」
「私は冒険者ギルドに報告を通して、
話を進めます。
そして保護する子供を探していきます。
ただこの村の孤児院だけではどうしても間に合いません。
なのでローディスにも孤児院を作り、
そこはガラムさんの商会にお任せして、
一部の子供をお願いする形になると思います。
それこそ他の孤児院ではどうしようもなかった、
心に傷を負った子供を……」
その言葉は想像以上に重かった。
私は確かにこの世界の人たちより知識はある方だろう。
でも専門ではない。
そんな私がそこまで出来るのか……
それだけが懸念だった。
「大丈夫。
ボクもソエルもいる。
ココもきっと手伝ってくれるよ。
村の皆だって。」
「分かりました。」
こうして私のやるべきことは村の外へと広がることになった……




