六章 十一話 交易市当日④
ロアさんの後について歩き、
広場へと向かっていた。
サウロ家の門を潜るといい匂いが漂っていた。
作業場においてある串の事を思い出し、
ロアさんに声をかける。
そして串と包丁を手に取り、
ふたたび広場に向かって歩き出した。
「ねえ、ミノリさん。
さっきはごめんなさいね。
貴方に危害を加えるつもりはなかったの。
でもどうしても……」
「気にしないで下さい。
私は自分の見える範囲でやるだけですから……
それに正直覚えていない部分が多いので。」
私は淡々と答える事が出来た。
再び沈黙の後、ロアが口を開いた。
「ミノリさん。
私たちは二日後に旅立つわ。
明日、もう一度会えないかしら。」
私はどうしようかと思った……
さっき何があったのかを覚えてはいない。
けれど、確実に良くないことが起きたのは分かる。
そしてルカが助けてくれた事も。
ひょっとしたらルカが怪我をした可能性もあった。
そう考えたら簡単に返事は出来なかった……
私がルカを傷つけたかもしれない……
それがずっと心の中で引っかかっていた。
私が返事をしないことで不安になったのか
ロアさんが口を開いた。
「勘違いしないで下さい。
先ほどの件ではないです。
いえ…少しは関係する事ですが……
一つ提案があり、お話ししたいと思いました。
それにはガラムさんの協力も仰ぐつもりです。
ガラムさんには私から説明をして、
一緒に私の考えのご相談をしようと思っています。」
「ガラムさんもですか……」
その時ふとトトさんに言われた事を思い出した。
ガラムさんを巻き込むという話を……
今後、今日のような状況になったとき、
外部の協力者は必要だと思った……
そして決意する。
「わかりました。」
「ありがとう、ミノリさん。
提案を受ける受けないは貴方の自由です。
ただ私の考えは規模が大きくなる可能性もあるので、
そこだけはお覚悟を…」
そう言ったロアさんの顔は真剣そのものだった。
「……はい。」
それしか返すことが出来なかった。
広場に着くとルカが私へと飛びついてきた。
私は無言でルカを抱きあげた。
暫くすると涙目のルカがか細い声で「大丈夫?」
と聞いてきた。
私は「ルカのおかげで大丈夫。ありがとう、ルカ。」
その言葉を聞いて涙があふれ私へ抱き着いた。
当初は不安そうに見守っていたサウロさんたちは、
私とルカの様子を見て安心したのか、
ただ無言でうなずき、見守ってくれていた。
ルカが落ち着くと「おにいちゃん。お肉いっぱいだよ。」
と涙をぬぐい元気にそう教えてくれた。
「それは楽しみだね。」
笑顔で話す私を見て、笑顔になり、
私の手を引いた……
私はルカに引かれる前にロアさんに感謝を伝えると、
笑顔で手を振ってくれた。
ガラムさんのところでは、ヨハンさんと商会の面々。
そして数人の冒険者が肉を切り分けて、
次々と鍋に入れていた。
そして鍋の横では石の上で薄く切られた肉を焼き上げていた。
私はガラムさんに肉を分けてもらい、
牛刀を使い四角く切り分けていく。
そして串に刺し鍋の横に並べていく。
ガラムさんは肉だけではなく塩まで提供をしてくれた。
いつものお礼と言っていたけど、
私の方こそ何か返さないといけないかなと思うほどの、
大量の肉だった。
その日の村人全員で食べる夕食は、
この世界に来て一番の盛り上がりと、
幸せで包まれていた。
――ロア視点
私はミノリさんに対しての申し訳なさを感じていた。
子供の過酷な現実と自分の無力さを理解している節があった。
その無力感からの暴走だろうと考えていた……
ミノリさんという男の魔力が暴走前と後で明らかに変質していた。
それこそ子供と大人程の差が……
今のミノリさんが暴走したら、
私の結界でも魔力が外に漏れた可能性もある。
そうなっていたらリーダーがすっ飛んできていたかもしれない。
そういう意味では予想外ではあるけど、
丁度良かったのかもしれない。
私が抑えられるうちに起きて……
今のミノリさんなら、簡単に暴走も起きないでしょう。
ミノリさんの暴走の原因が子供であることで、
子供を心の底から大事にしている人物だという事も理解した。
だから任せてみたいと思った。
今度は言葉に気を付けて、
しっかりと説得をしようと心に誓った。




