六章 十話 交易市当日③
「何か御用でしょうか?」
声をかけてきた女性は白金色の長髪のエルフだった。
「急にごめんなさいね。
私の名前はロア。
貴方に聞きたい事があって声をかけたの。」
「私の名前はミノリと言います。
聞きたい事とは何でしょうか?」
「貴方がさっき広場で設置していた祠の事を聞きたいの。
とくに中に祀られている像の事。」
「像?それって、
イルミナ様、アルティオ様、レピエ様の事ですか?」
(やっぱり……)
「ええ、何故その神々の名前の像を祭ったのか気になったの。
この大陸で今。信仰されている神々は七柱。
そのどれにも貴方が言う名前はいないわ。
貴方はなぜその三柱の名前をつけたの?
しかもゼニスで信仰しているのは神ではなく、
確か聖女のはずよ。
聖女の後に聖女はいない……
それがこの国の教義でしょう?」
(失敗した。
そこまで深く考えていなかった…
どう言えば良いんだろうか…)
私がどう言おうか迷っていると、
ロアさんはふっと微笑み語り始めた。
「ごめんなさいね。
ちょっと意地悪してみたくなって…
許してちょうだい。
貴方、飛人でしょ?
それなら理解出来るわ。
それに……
そこはまだ教えてあげない。」
そう言って悪戯を考えた子供の様な顔をするロアさんは、
心から嬉しそうにしている。
「何ですかそれは……
まあ、貴方の言う通りです。
ただ今の私はシエ村のミノリです。
それ以上でもそれ以下でもないですよ?」
「そのシエ村のミノリさんは、
今後どうしようと思っているの?
正直に言うわ。
貴方はどこの国でも重宝されるような存在になりえるわ。
この村から出たほうがもっと楽しく、
もっと楽に生きられると思いますよ?」
「興味がないですね。
私はこの村が好きなんです。
平和でのどかで、好きな事も出来るし、
毎日が充実しています。
木を切ったり、
村の為に何かを作り、
子供が笑顔になれる事も考えて、何かを作る。
失敗も成功も含めて今の私は充実しています。
これ以上を望むものはないですよ。
私にはシエ村こそが私が欲しいものそのものですから。」
しばらく見つめた後目を細めてロアさんが話す。
「あなたの考えは素敵なことだわ。
でもね……
あなたは他にはない力を持っているでしょう?
それを人のために使おうとは思わないの?
村を出て助けたいとは思わない?」
「無理です。
どんな力を持っていようと、
全ての人を助ける事は出来ません。
私にどんな力があってもしょせん一人です。
一人で出来る事なんてたかが知れてます。
その事は私が一番よく知っています。」
「村を出る気はない?」
「はい。」
私は断言した。
「貴方は知らないでしょうけど、
この大陸には子を集め教育をする国がある。
それを利用して子供を国の為に良い様に使う国もある。
そこでは利用価値がないと捨てられる子供も居るわ。
その子たちを見捨てるの?」
その言葉を聞いた瞬間、私の心がどす黒いものに染まった。
「私に何が言いたい?
私がその国に行ったとしても何も出来ない。
私にはそんな力がない。
それでどうしろと?」
自分の無力を痛感し、その言葉を口にするたびに、
どんどん何かが消えるような気持ちになった。
「私に出来る事は子供の為に何かを作り、
便利な物を考える程度。
そんな私に何を望む?
何を期待している?
貴方の…言っているのは…夢物語だ……
それは私が……一番…理解……
私は……無力……」
何かがはじけた。
目を見開き慌てて声を上げる。
「落ち着きなさい!」
なんだろう、何かを使おうと思ったわけでも無いのに、
魔力が勝手に溢れてくる。
頭がぼーっとしてきた……
――
気が付くとロアさんの目が私を見下ろしていた。
気が付いて慌てて飛び上がる。
「失礼しました。
何か私がご迷惑をおかけしましたか?
魔力の使い方が不慣れで、
気を失ってたかもしれないです。」
前後の記憶がない。
生前にもよく経験した感覚だった。
気が付いたら記憶が途切れていて、
起きたばかりのような不思議な感覚が、
今まさに私の思考を包んでいた……
「気にしないで。
私も驚いたわ。
急に倒れるんだもの。
でも安心して。
貴方が何か失礼な事をしたわけじゃないわ。」
そういってほほ笑むロアさん。
「本当にすみません。」
申し訳ない気持ちで一杯だった。
「そんなことより、
もうすぐボア肉を使った宴会よ。
さあ、行きましょうか。」
佇まいを正し、私の手を引いて歩きだした。
私は、何事も軽く包み込むような、
心の広いロアさんの行動に救われた気がした。
本作をお読みいただき、ありがとうございます。
当日12時に外伝を投稿します。
普段は読まなくても良いよと毎回言っているのですが、
今回は少し人の受け取り方次第では変わるかもしれません。
もちろん読まなくても問題はないと思います。
気になったかたは是非読んで見て下さい。




