六章 八話 交易市当日①
シエ村の交易市は、
トトさんたち家族にとって初めてだった。
その中でもココちゃんは、
シエ村には何があるのか、
どんなものを作っているのかと目を輝かせていた。
そんなトトさんたち家族を案内するため、
ルカとソエルとメリイも一緒に行動することになっている。
まずは全員で水場へ向かい、祠を設置する。
祠の設置には、
トトさんたち家族とルカ、ソエル、メリイも一緒に参加する予定だ。
そして、祠の設置が終わり、
守り神である三神を奉った後は、
私とトトさんたちは別行動になる。
私は一人で集会所へ向かい、
ルカたちはトトさんたち家族を案内することになっている。
台車にルカとソエルの作った祠と、
私が作った土台と台座を乗せて、
私が台車を引き、皆で広場へと向かった。
広場が見えると、交易市の活気が伝わってきた。
「ほう、なかなか壮観じゃのう。
街ほどの規模ではない。
じゃが…どの町よりも子は目を輝かせ、
男も女もみな楽しそうじゃ。」
「そうね。
普段は子供が遊ぶところしか見かけない広場に、
人が集まっているのを見るのは新鮮だわ。」
今まで、広場と言えば作業のない子供たちが遊ぶ場所だった。
そこに屋台のような物が並ぶ光景を見て、
トトさんとカカさんもどこか楽しそうに見えた。
子供たちも当然のように目を輝かせ、
普段は冷静なココちゃんもルカとソエル同様に、
笑顔を浮かべて、きょろきょろと可愛らしい動きを見せていた。
トトさんがココちゃんの様子を笑顔で見ていると、
ふとロクさんを見つけて話しかけた。
「ロク。
ワシらが作った球まで任せてしもうたのに、
気を遣わせてしもうたのう。」
申し訳なさそうに話すトトさん。
「何言ってるんだ、トトさん。
トトさん達は、シエ村の交易市は初めてなんだ。
ならその雰囲気を楽しむのも良いだろう?
せっかくココも元気になったんだ。
家族で楽しめ。」
ココちゃんを見てそう話すロクさん。
その顔は笑顔だった。
「ありがとう、ロクさん。」
ココちゃんのお礼を聞いたロクさんは、
ココちゃんの頭を撫でながら話した。
「トトさんはもうシエ村の一員だ。
これ位なんでもない。」
豪快に笑ったロクさんに、
カカさんとククさんもお礼を言っていた。
ロクさんと話した後、水場の横に台車を止め、
土台を置いて、その上に祠を乗せた。
そして祠に台座を設置した。
そして三神の像の一体を箱から手にした。
三神の像を見たトトさんが像を眺めながら私に聞いてきた。
「のうミノリ。
三神様の名前を教えてくれんかの?」
「あれ?言いませんでしたっけ?」
「お姿と名前を一致させたいんじゃよ。」
「ああ、そういう事ですか。
大柄なお姿がアルティオ様。
女神様がイルミナ様。
そして小柄なお方がレピエ様ですね。」
「そうか……」
三神の像を見つめそうつぶやいた。
三神の像の最後、
レピエ様を祀った時、
三神の像がかすかに光り、
そして静かに消えていった。
その瞬間、水場の水面に何かが落ちたように波紋が広がり、
淵にあたって消えていった……
そしてトトさんたちと一緒に祠に向かって祈りを捧げ、
その場で解散する事になった。
トトさんたちは暫く広場を見て回ると言っていた。
私は一人台車を作業場へ戻して、
集会所へ向かった。
集会所の外にはマローネさんとアニスさんがいた。
私は挨拶を交わして中へと入る。
中には冒険者四人が食堂でくつろいでいた。
受付で商会の人に声をかけると奥へと案内された。
ノックをして中に入るとガラムさんが笑顔で迎えてくれた。
そして私とガラムさんの契約の再確認の話が始まった。
交易品の受け渡しの確認。
そして新しい遊具であるピン倒しの契約。
対価の確認。
そのすべては、
アニスさんとセリアさんが指定したものでお願いします、
と伝えた。
そして三十分ほど契約の状況や、
今までの交易品の売れ行きなどの話をした。
そして一通りの確認が終わると、
ガラムさんがコホンと一息ついて話し出した。
「ミノリさん。
父上がお会いしたいという事で、
一度会って頂けますか?」
その顔は今までのほんわかとした雰囲気が消え、
真剣そのものだった。
「ええ、もちろんです。」
私は快く承諾して、
ガラムさんと一緒に部屋を移動する。
最奥の一番広い部屋。
今まではガラムさんが使っていた部屋へと案内された。
ガラムさんがノックをして部屋へと声をかける。
「商会長。ミノリ様をお連れしました。」
その声は普段のガラムさんとは違う声…
父親に話す雰囲気は一切感じられなかった……
「入れ。」
その一言を聞いただけで私の背筋が伸びた。
社長と話すときの様な緊張が走る……
部屋に入ると、作ったばかりの椅子に腰を掛け、
鋭い視線を向けていた。
「商会長。
この方が木吊り台を作り、その他、
竹トンボや耳帽子、絵文字板などを作った方です。」
一礼してそう説明していた。
(前世の記憶がある私には、
少しの罪悪感があるな……)
「初めまして。
ガラムさんにはいつもお世話になっています。
ミノリと言います。」
私は左胸に右手を添えて、礼をした。
ヨハンさんが何度か見せてくれた形だ。
「ご丁寧に……
私はトルヴェール商会、商会長のガランだ。
この場では堅苦しくしなくても良い。
今日君を呼んだのは礼を言う為だ。」
笑顔でそう語るガランさんは人懐こい笑顔を見せてくれた。
ただ…その目は私を見極めようとする意志を感じた。
「お礼ですか。」
「うむ。
君が作った品々は我が商会へ多大な利益を生み出した。
いや…生み出し続けている。
君が作り我が商会へ権利を譲ってくれたおかげだ。ありがとう。」
そういって頭を下げた。
その様子を見たガラムさんも、無言でうなずいている。
「いえ此方こそ助けて頂いています。
それに私だけではないです。
ルカやソエル、サウロさんにマローネさん。
そしてこの村の人たちの頑張った結果です。
お礼なら皆にも言ってくれるとうれしいです。」
私の言葉を聞き目を丸め少しの間を置き、
静かに笑った……そして口を開く。
「いや、すまんな。
自分を持ち上げない人間を久しく見なかったものでな。
私に会う者は皆、
自分を売り込むのに必死になるんだがな。」
そう言い、再び笑った。
「そうなんですね。
でも、私は私です。」
「それはそうだ。
君は他の者が出来ない事をやり続けている。
そして今回作ったというピン倒し。
あれは面白い、私も気に入ったよ。
ヨハン等は子供の為に予約をしていたぞ。」
そう言って声を出して笑った。
「それは嬉しいですね。」
「私も孫の為に町に戻り次第、
早急に量産を始める予定だ。
……ただ質問がある。
なぜピン倒しの独占契約を無くした?
新しい商会へ売り込むためか?」
笑顔から瞬時に切り替わり、
真剣な目になった。
その言葉を聞きガラムさんの雰囲気も、
ピンと張りつめた。
私は気にせず答える。
「そんなつもりは一切ないですね。
ただ、プレイヤー…球を転がす人形ですが、
ピン倒しを遊ぶ人の趣向に合わせて、
好きなように作ってほしいと思っただけです。
球も同様です。
重さであったり模様であったり、
好きなように個性をもって楽しんでほしい。
ただそれだけです。
それにこれが一番重要ですが、
子供たちが自由に自分の好きなプレイヤーを使い、
楽しんでほしいんです。」
数秒間私の目を見て黙ってみていたガランさんは、
再び笑顔を浮かべ一言「そうか」と呟いた。
「では、プレイヤーや球以外はどうなんだ?」
「ピンは出来るだけ統一したほうが良いですね。
ピンの重さや大きさが変わってしまうと、
物によって倒れやすさに差が出てしまいますから。
球も同様で重さはそこまで重要ではないんですが、
大きさはそろえたほうが良いでしょう。
そういう面では簡単にまねをして作ったとしても、
遊戯として競技としても成立しないですからね。
なので無理に独占にしなくても、
自然に最初に作った物が基準になると思うので、
そこまで重要性もないと思っています。
どうしてもと言うのであれば反対はしませんが、
世に広がる速度は落ちてしまうと思います……」
「なるほどな……
ではピンだけは重さと大きさは規格を決め、
球は大きさを決めるという事か。
それでどこでも同じ条件で遊べると……」
「そうですね。
あとピンを並べて球を転がす台をレーンと言うんですが、
その規格も統一したほうが良いです。
ピンを並べる位置に印をつけて、
毎回、並べるピンの位置が同じになるようにします。」
「ふむ…距離や幅によって平等性がなくなるか。」
「そうです。
そして両側に壁を作り、その内側に溝を掘ります。
端へ転がってピンに当たらなかった球も、
奥や横から回収しやすくなります。
大きさは大分大きくなってしまいますが、
その方が商品としても価値が上がるかと。
一般向けは木材で質素に、
貴族向けには高級な仕様に…
それだけでも独占にするより、
世に広めたほうが良いとは思いませんか?」
私の言葉を黙って聞いていたガランさんが
大声で笑った。
それを見たガラムさんも緊張した面持ちがなくなり、
笑顔を浮かべていた。
「いや、面白い話を聞けた。
ピンと球だけではなくレーンという物まで考えていたか。
それなら確かに独占するより広める方を選んだほうが良いな。
ガラム、当初の予定通りに契約書を交わすように。」
「分かりました、商会長。」
「聞きたい事は聞くことが出来た。
時間を取らせてしまってすまないね、ミノリさん。」
「いえ、私の意思を尊重して頂きありがとうございます。」
「なに、私の方に一切の損はない。
寧ろ遊戯としては最高の収益が望めそうだ。
感謝する。」
そう言って手を差し出した。
私は「ありがとうございます。」とお礼を言い、
その手をしっかりと握り返した。
こうしてピン倒しの契約も無事に成立する事になり、
私は心から安心した。
(サウロさんたちにいい報告が出来るな)
ガラムさんの部屋に入る前の緊張はなくなり、
出る時には笑顔になれた。
本作をお読みいただき、ありがとうございます。
この後12時に外伝を投稿します。
外伝は読まなくても本文を読み進めるのに影響はないと思います。
より深く読みたい方は読んで見て下さい。




