六章 七話 交易市前日②
ルカが木材を大まかに削り、
それをソエルが形を整えて組み合わせていく。
二人は、三神を祀るための祠を作っていた。
釘を使わない木組みは何度も見てきたけれど、
これほど早く、そして正確に削って組み上げていくのは、
正直何度見ても驚くばかりだった…
こうして完成した祠は、
幅八十センチ、
奥行五十センチ、
高さ一メートルほど。
見た目こそ簡素かもしれない。
けれど、一生懸命に作られた、ルカとソエルの心がこもった祠だった。
組み上げながら、二人は小さく呟いていた。
「ミノリにいがありがとうございます」
「おにいちゃんに会わせてくれてありがとうございます」
その言葉を聞いた瞬間、胸がいっぱいになり、
目から涙が溢れそうになった。
「凄いな、ソエル。ルカもありがとう」
完成した祠を前に、ルカとソエルに感謝を伝えた。
「おにいちゃんが大事にしてるんだもんとうぜん!
それに作るのも楽しかったー。」と、ルカが笑顔で答えた。
ソエルも「ルカの言う通り。
私もミノリにいに会えてうれしいし、
ミノリにいがお世話になったならお礼は当然!」
笑顔で答えてくれた。
その言葉で我慢していた涙が流れ、
二人を抱きしめて「ありがとう……」
と心から感謝を伝えた。
こうして祠が出来たころ、外から馬車を引く音が聞こえてきた。
作業場に足を運んできたのはヨハンさんと、
力仕事で他の家を回っているはずのサウロさんだった。
作業場に顔を出したサウロさんが声をかけてきた。
「ミノリお疲れ。
丁度広場の方で出会ってな。
ついでに手伝おうと思いついてきた。
ルカとソエルも偉いぞー。」
そう言って二人の頭を撫でた。
二人もうれしそうだ。
「お久しぶりです、ミノリさま、ルカさま、ソエルさま。」
そう言って頭を下げた。
さま付けで呼ばれたルカとソエルは少しもじもじしながら、
「「おひさしぶりです、ヨハンさん。」」
でもしっかりとした挨拶をしてお辞儀を返した。
その様子を見たヨハンさんは笑顔を浮かべて、頷いていた。
そして、私に向かって話し始める。
「ミノリさま。
今回も何やら新しいものを作られたとか?
水場だけには留まらず、
新しい遊具を作られたそうですね。
まずは先にそちらを確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。今回は少し場所を取るのですが……」
そういって箱に詰めていた
交易用に作った振り子の付いた人形二体と
十本のピンと、石で作った球の入った箱を見せた。
「これはまた面白い形をしていますね。」
そう言って一本のピンを手に取り確認を始めた。
「中は空洞……そして玉ですか…
玉を当てて遊ぶものでしょうか?」
人形と玉とピンを見て、大体察した様子だった。
「そうです。
ピンを十本並べて、球を振り子を使って転がして、
ピンを倒した合計数を競う遊びですね。」
そう言って、子供ルールと大人ルールを説明する。
「これはまた面白そうなものを作りましたね。
そして遊びながら計算を覚える事にも使えそうです。
アニスさんには聞いてはいましたけど、
実物を見て話を聞くとまたその良さが一層伝わります。」
ヨハンさんの言葉には心からの賛辞を感じた。
「ありがとうございます。」
そう言って頭を下げた。
「この箱に入ったものは私共が引き取ってもよろしいのですよね?」
そう話すヨハンさんの目には、
商人としての真剣な目をしていた。
「もちろんです。そのために準備していました。
ただプレイヤー、人形の部分はその人の個性として、
好きな形にして遊ぶことになるので、
これだけは今回は間に合っていませんが…」
「いえいえ、十分です。
振り子の人形、プレイヤーですか。
それはある程度器用な人ならすぐ作れるでしょうし、
ピンと玉があればどこでも遊べる。
これは本当に素晴らしいですよ。
このピン倒しは先に届けさせてもよろしいでしょうか?
ガラン様とガラム様に先にお届けして、
アニス様に使い方など細かい部分を先に把握して頂きたいので。」
「もちろんです。」
「ありがとうございます。
では少し失礼します。」
そう言ってピンを箱に戻して馬車付近で待機している一人を呼び、
運ぶように指示を出した。
その箱を大事そうに受け取り、
足早にこの場を離れていった。
そして小箱や家具類を確認していくヨハンさん。
十数分、検品を行ったあと口を開いた。
「今回も素晴らしい品々です。
そしてこのシエ村印の付いた小箱や家具類。
既に人気が広まりつつありますよ。」
そういってソエルに視線を向け笑顔を浮かべた。
それを聞いたソエルは、飛び跳ねようとしたのか体が一瞬跳ねた。
けれど、急にピタッと動きを止め、
「ありがとう。私もうれしいです。」
と笑顔でヨハンさんにお礼を言っていた。
その様子を見た私は可愛いなと思って笑顔になったけど、
ヨハンさんも同じようで、笑顔を浮かべて頷いていた。
「では今回も素晴らしい品々をありがとうございました。
今度ともよろしくお願いします。」
「「こちらこそ、ありがとうございます。」」
私とサウロさんの声が重なった。
私たちを見ていたルカとソエルも同じように頭を下げて、
「「ありがとうございました。」」
と丁寧にお礼を言っている。
ヨハンさんは笑顔で子供たちにもお礼を伝えて、
私の方へと向き直った。
そして口を開く。
「ミノリさま。
明日、日が昇り切るまでに一度お一人で、
集会所へと足を運んでいただけますか?
ガラン様がお会いしたいとおっしゃっていまして。」
そういうヨハンさんは笑顔のままだ。
「ええ、もちろんかまいませんよ。
では明日お伺いしますね。」
私はその提案を快く受け入れた。
「ありがとうございます。
明日よろしくお願いします。
では皆様、私はこれで一度失礼します。
明日商品を受け取りに伺います。」
そう言って一礼して馬車に乗り込んで、
サウロ家の作業場を後にした。
「これで今回も安心できるな。」
そういうサウロさんには少し疲れが見えていた。
「やっぱり緊張しますか?」
私の素直な問い。
「そりゃそうだろう。
今まで大丈夫だったものがいつ不評になるか、
誰にも分らんからな……」
「それもそうですね……」
考えてみたらたまたまうまく行っているだけで、
いつ酷評を受けてもおかしくはないのか……
私は少し楽観しすぎだったのかもしれない。
このへんもしっかり学ばないといけないなと思った。
「お前は本当にわかりやすいな。
お前はそのままでいいんだよ。
難しく考えすぎるな。
お前は今のまま子供の為、村の為に考えていればいい。
他の事は俺たちに任せておけ。」
そういって私の頭をくしゃくしゃとするサウロさん。
その手は、中学の頃に亡くなった父を思わせた。
「はい……ありがとうございます。」
そう答えるだけで精いっぱいだった。
その日の夕食はヨハンさんの検品の時の様子と、
新しい遊具のピン倒しの高評価を受け、
いつも以上に賑やかな食卓になった。
本作をお読み頂き、ありがとうございます。
同日12時に外伝を投稿します。
外伝は読まなくても、
本編を読み進める分には何も問題ないと思います。
気が向いた方は読んでみてください。
気が向いた方に読んでいただけると嬉しいです。




