五章 外伝
―クク視点
―メルカティス連合商業国―
その国で五本を争う食堂。
「ちょっと落ち着いてください!
代表が向かったところでどうするというのですか。
妹さんが心配なのは分かりますが、
トトさんもカカさんもご一緒なんです。
大丈夫ですよ。」
女性が必死に落ち着かせようとしていた…
「なにが大丈夫だと言うの!?
同じ町に住んでいて、貴族の対応で、
病気になった妹の様子を見に行けない間に国を出るなど、
納得がいくはずがないでしょう?
あの子は私にとって命より大事な宝物なのよ!?」
ククの声は貴族の対応で最愛の妹に会いに行けなかった事への後悔と、
その大事な妹が町を出て、名も知らない村へ向かったという事実に、
感情を抑える事が出来なくなっていた。
「きっと大丈夫ですよ。
伺ったお話では、
ガラムさんが推薦した村だとおっしゃっていました。
何でも似たような状態だった子供がわずかな期間で、
回復したというお話しです。
トトさんもそれを確認したから、
ココちゃんを呼ぶ事になったそうです。」
「それは知っています!
私が忙しくて家にいない間に、
遠くに……妹が遠くへ行くことが納得いかないの。
私はあの子が居なきゃ駄目なの。」
叫び続けるククのその目は真剣そのものだった。
「と言うわけで、私もその村へ向かいます。」
真剣な目でそう話すククに唖然とした支配人。
「なにを言ってるんですか!
春先の移動前でお客さんはまだまだ多いんですよ?
そんな中で、代表が国を、店を離れてどうするのですか!?」
「ココの近くに居られないのなら、
こんな食堂など無くなってしまえばいいわ!」
とんでもないことを話す代表の言葉を聞き、
唖然としてしまう支配人。
すぐに気を取り直して、引き留めようと必死になる。
「貴方はこの国にある食堂の半数を導く代表ですよ!?
しかもこの店は貴族に人気のある食堂で、その持ち主です。
そんな貴方が店を離れてどうするというのですか!」
驚きと焦燥が入り交じる中でも、
何とか引き留めようと声を大にした。
「貴族など妹と比べるまでもないわ。
一部は良い人も居るけど、しょせん人を見下す連中がほとんど。
私は料理が好きでやっていたけど、
妹と離れるくらいなら……」
妹さんが国を離れたことで、
いよいよ本気で店を潰しかねないと感じ取った支配人。
何とかならないかと思案する中、
ククが話しかけた。
「私はそのシエという村へ向かいます。
これは決定よ。
そこで貴方には私の管轄する五店の食堂を、
私が不在の間しっかり守って欲しいのです。
貴方は料理スキルも上がってきましたし、
食材を見る目も食材を使う器量も育ってます。
貴方がしっかり管理をすれば、
問題なく食堂を回せるでしょう?
今日から貴方がクク食堂と、その系列店の代表です。」
もう後に引けないと誘った女性はただその提案を受け入れた。
「……分かりました。
後の事はお任せください。
貴方が戻るまで私が守ってみせます。」
ククの考えが変わらないのは分かっていた支配人。
信頼し尊敬する人が、私が代表だと言う言葉を聞き、
感極まり、その提案を受け入れた。
何時戻るか分からない代表を、
戻ってくるまで守るという使命感を持って……
代理が決まってからは早かった。
その日で旅の支度を整え、
トルヴェール商会でシエ村の場所を聞き、
メルカティスからすぐに旅立った。
全力で走り続けた……
シエ村に向かう途中にある、
小さい村からローディスを経由して、
街道をそれた北に続く道をひた走る……
馬車で二週間の旅をわずか三日でシエ村へとたどり着いた。
到着した私が見たのは、
意外に立派な柵で囲まれた村だった。
南門に居る村の門番をしている人に話を聞き、
石工に父が居る事を聞いた。
石工へ行き話を聞くと、
ため池の為の水路を作っているらしい。
鍛冶馬鹿の父が水路……
ありえない。
手伝いで同行でもしているのだろうと思いつつ、
そのため池の場所を教えてもらった。
北東の門から出て柵沿いに歩くと倉庫があり、
その付近にあると聞いた。
ため池はすぐに見つかった。
結構大きく、私はこの規模には珍しいのでは?
そう思いつつも北に延びた水路を辿って走り出した。
走りながら「ココー!」
大きな声を上げながら反応がないか周りを警戒する。
ほんの少し走ると人影が見えた。
大人四人に子供二人。
近づくにつれ、一人は女の子の様に見えた。
(見つけた!)「ココー!」
私は見つけたという嬉しさから女の子へ走り寄った。
やっとココに会えた。
そう思った瞬間、
私とココの間に一人の女性が立ちはだかった。
「何ですの、貴方。」
目の前に立ちふさがった相手は冒険者だろう。
相応の圧が感じられた……
「何じゃないだろう。
いきなりソエルに向かって、
ただならぬ気配をまとって走ってきて。
そんなお前を近寄らせるわけがないだろう?」
そう答えた冒険者はかわいらしい帽子をかぶり、
目を細めて圧をかけてきた。
「貴方、私のじゃ……ソエル?」
私の望んだ名前ではなかった。
確認しようと視線を女の子に向けると、
明らかにココとは違う子供だった。
「ごめんなさい、人違いみたいでしたの。」
申し訳なくなった私は素直に謝った。
女の子を驚かせてしまった私を快く許してくれた。
その家族は凄く仲良さそうに見えて、少し羨ましかった。
ココが鍛冶で認められるほど、
父の期待が膨らみ、厳しくなっていった。
私は父に対して、思う所があった……
……
少し話を聞いて分かった事……
この男がミノリという名前だという事。
ココが今は元気に遊ぶほどに回復した事。
父と母がココも一緒に水路を掘っている事。
にわかには信じられなかった……
それでも男の目に嘘があるようには思えないし、
一緒に居た子たちもまた同じ。
「分かりましたわ。
私は先にココに会いに向かいます。
また後でご挨拶に伺いますわ。」
そう言って踵を返した。
今度こそココに会える。
その気持ちが数日の疲れを癒してくれる。
私は水路をたどり、南下する水路を辿った。
畑横を抜け、さらに進むと三人の人影を見つけた。
今度こそ間違いないココだ…
「ココ―!!!」
振り向いたココをしっかりと抱き上げ、
ただひたすら謝った。
「ごめんね、ココ。
貴方が大変な時に傍に居なくて。
でももう大丈夫よ。
今日からは私が傍にいて守ってあげるからね。」
ココを抱き上げ、しっかりと抱きしめる。
驚いて言葉を失ったトトとカカ
二人に気が付いて、ココを隠すようにして向き直す。
「父、母よ。何故私を待たずに移動した?
私がどれだけ心配していたか知っていたはずよ?」
私の鋭い視線に言葉を飲んだトト。
それを見ていたココが声を上げた。
「父、母をせめないで。
私の事を大事にしてくれた。
父、大好き。
母、大好き。
クク大好き。
仲良くする……」
そういってククの頭を撫でるココは
どこか大人びて見えて、
でも愛らしさがますます増えて見えた。
「ココは武器を作るのを嫌がっていたみたいなのよ。
それをトトに話して、これからはココが好きな物を作る。
好きな事をやると決めたのよ。
貴方が心配する事はもうないと思うわ。」
そう言ってほほ笑むカカを見て、
再びココに視線を戻すと、
笑顔で頷いている。
詳しい話を聞いた私は驚いた。
他種より人は欲望を抱え込む種族だ。
それがココを最優先に考えて、
数日で心を開いたというの?
無言になった私にココが心配になったのか声をかけてきた。
「クク?
大丈夫?」
「ええ大丈夫よココ。
少し考えていただけ。」
暫くココを眺めた後話しかける。
「ねえ、ココ。
貴方はこれからどうするの?」
私の問いに首を傾げて話す。
「どうする?」
「ええ、メルカティスに戻るのかどうかよ。」
真剣な顔をしてココに問いかけた。
「父と母に従う……
でもルカもソエルも好き。
出来ればこの村に居たい……」
そう答えたココは寂しそうに、
でもはっきりと残りたいといった。
気持ちはわかる。
たった今着いた私でさえ、
心地が良いのだ。
数日過ごしこの村の良さを心で感じたんだろう。
「そう……
父よ……貴方はどう考える?」
目を細め、魔力の圧がつい漏れてしまった。
本気な問いだと悟ったトトは今の考えを正直に答えた。
「ワシは、この村に残ると決めた。」
その目は真剣そのものだ。
「ではメルカティスの工房はどうするの?
この村には工房があるようには見えない。
鍛冶を辞めるの?」
「やめん。
ただ村の中には鍛冶場は作らん。
村の外、もう少し西に進むと川がある。
そこに鍛冶場を作り、ワシはそこに住む。
鍛冶以外の作業も楽しい事をここ数日で経験した。
今後はワシも鍛冶だけではなく、
好きな事をすると決めた。
ココと同じようにのう。
のう、ココよ。」
「うん。」一言の返事。
それでも嬉しい気持ちと強い意思を感じた。
西に目を向け、村の方向へ目を向ける。
ココ次第では町に戻すつもりだった……
でも父もココも残る事をすでに心に決めたようだ。
母を見ると笑顔で見守ってくれている。
母も同意なんだろう……
「わかった。
なら私も残る。
私の居場所はココの隣。」
私は父、母、ココの話を聞き、
私自身もこの村に残ることを決めた。
「そうなると工房だけでは駄目だのう。
真剣に家を作ることも考えるか。
ニルスに相談でもしようかの……」
「ルカとソエルに会えないのは寂しい…」
家を作ると聞き、寂しそうにするココ。
会話を見守っていた母が声をかけた。
「大丈夫よココ。
お家は村の中に作る許可を貰えれば、
何時でもルカとソエルに会えるわよ。
許可をもらってお泊りに行っても良いし、
そんな寂しい事にはならないわよ。」
その言葉を聞きぱあっと笑顔になり、
「ほんとう?」と嬉しそうに聞いてきた。
「もちろんよ。
ねえトト?」
「うむ。
向こうが良ければいつでも泊りに行けばええ。
お前の好きにするといい。
後はワシらで何とかするさ。」
そういってココの頭を撫でる父を見て、
目を見開いた。
ココだけじゃない。
父までが同じ人とは思えないほど、
柔らかくなっている……
職人気質で頑固なだけだったのに。
私は今は見えない村の方向へ視線を向け、
この村は何なの……
と疑問を抱いていた。
その日は私も水路堀りに参加をして、
ココとのクリエイトに驚き、
父が笑顔で穴を掘る光景に驚き、
ココが小さい頃のように純粋に楽しんでいる。
そんな光景を目の当たりにして、
私の心も徐々に落ち着いていった……
本作をお読みいただきありがとうございます。
次から六章が始まります。
シエ村の日常を少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
本編のククとこの話のククの言葉使いがおかしいのはあえてそうしています。
普段は知らない方や、知り合ったばかりの相手には、
普段貴族を相手にするような言葉を使うようにしています。
逆にトトやカカやココには、
家族という事もあり、普段の話し方で接しています。




