五章 十六話 寄り添う日
中に入ると床に寝そべっている子供たちと、
その様子を楽しそうに眺めているサウロさん達がいた。
それを見たトトさんは首をかしげながら、
子供たちの視線の先にあるピンに視線を固定した。
そして子供たちの前には三十センチほどの人形に、
紐を使った、簡単な振り子の装置になっていた。
そこに球を挟んで転がしている。
転がった先のピンに当たると「コーン!」
と、気持ちの良い音が響いていた。
「やったあ、五本倒れた!」
ルカが投球した球は右側に当たり、
五本を倒すことに成功していた。
「ルカ、全部倒しちゃえ!」
ソエルが元気な声で応援している。
「今のは惜しかった。」
そう言いながら、ココちゃんは倒れたピンを取り除いていた。
ピンをどけた後、私たちに気が付いたココちゃんが、声をかけた。
「父、遊びに来た。」
その言葉に視線が私たちに向いた。
「よく来てくれた、トトさん。
今丁度、子供たちがピン倒しで遊んでいるところだ。」
「いらっしゃい、トトさん。
ココちゃんの番は次ですよ。」
「トト、ココの番になったら一緒に応援するわよ。」
そう、声をかけた後、
ピンを並べるココちゃんに視線を向けた。
「父、ソエルの次は私。
よく見ている。」
そういって胸の前で両手を握りしめた。
トトさんに声をかけたココちゃんは笑顔を見せ、
トトさんの不安な気持ちとは裏腹に
ココちゃんのほうは、気にした様子は感じられなかった。
「どういう事じゃ……」
そうつぶやいたトトさんは困惑した表情で私に聞いてきた。
「考えすぎだったって事じゃないですか?
ココちゃんが言っていたのは、
あくまで嫌な物を作りたくないと言うだけで、
トトさんを嫌いだとは一言も言ってなかったはずですよ。」
「確かにそうじゃな……
ワシが考えすぎじゃったのか……」
そうつぶやくトトさんは、
納得したような、まだ腑に落ちないような、
複雑な表情だった。
「ココちゃんが笑顔で迎えているんです。
それで納得して下さい。
それ以上のことは、無いと思いますよ?」
私の言葉を聞きようやく納得したトトさんは、
「そうじゃな、ココが笑顔で元気で居るんじゃ。
ワシにとってそれは、この上ない喜びじゃよ‥…」
不安そうな顔が消え、ようやく元の調子に戻ったようだ。
「やったー!全部倒したー!」
ソエルは一投目で八本を倒し、
二投目で残り二本も倒したようだ。
大きな声を上げ、すぐに立ち上がり、
マローネさんに抱き着くソエル。
優しく抱きしめて、「すごいわよ、ソエルちゃん。」
と頭を撫でる、マローネさんも笑顔になっている。
「ソエル、うまい。
私も負けない。
父、母、見てる。」
目が真剣になった。
元気になったココちゃんを見ていて思った。
かなりの負けず嫌いだ。
気合を入れたココちゃんの手には、
三十センチほどの人形を持っている。
「カカ、あの人形の持っとるもんは、
ハンマーと平火箸かの?」
ココちゃんの人形が両手に持っているものに興味を示した。
「ええ。元気になっても鍛冶師の心は忘れてないんでしょうね。」
少し複雑そうな顔をしているカカさん。
カカさんの言葉を聞いてトトさんも複雑そうにしている。
複雑そうな二人に目を向け、
プレイヤーをセッティングするココちゃん。
(ん?一番ピンの正面ではなく、
少し右側に寄せてプレイヤーを置いた。
へー…
昨日の今日で角度に気が付くんだ。
凄いセンスで驚いた……)
「ほう……ルカやソエルの様に正面には置かんのか。
流石、ワシが子じゃ。叩く角度の大事さをよう覚えとる。」
トトさんの言葉を聞いて納得した。
強く叩ける角度とそうじゃない角度を理解しているんだ。
そういえば竹とんぼもうまく作っていたな……
ココちゃんが球をセットして、引き上げた。
そして狙いを定めて球を放す。
その球は右寄りから転がって、
先頭のピンと、そのすぐ後ろのピンの間に綺麗に転がっていき…
「コーン……」
見事な音とともにすべてのピンを倒した。
「うわあ、一回で全部倒したー!
ココ凄い!」
「ココすごーい。一回で全部倒すなんて!
初めての全部倒しはココかー。
負けちゃったー。」
どうやら初のストライクはココちゃんのようだ。
ココちゃんは無言で立ち上がり、
私の方を見て良い笑顔を見せてくれた。
「お見事。ココちゃん。
初の全倒しはココちゃんなんだね、おめでとう。」
私の言葉を聞き満足そうなココちゃんは、
次にトトさんとカカさんに顔を向けた。
その様子を眺めていたトトさんとカカさんも声をかけた。
「見事じゃ、ココ。」
「上手よ、ココ。おめでとう。」
トトさんは一言褒め、カカさんはほめながら両手を広げていた。
カカさんの両手に飛び込んだココちゃんは笑顔で「やった。」
と満足そうな笑顔を見せていた。
そしてカカさんから離れたココは、
トトさんの元へ歩いて、両手を広げた。
それを見たトトさんも、ココちゃんを抱き上げて、
「ようやった。」と頬を重ね合わせていた。
「父のおひげ、久しぶり……嬉しい。」
と呟いた。
その言葉を聞いたトトさんは涙ぐみながらも笑顔を作り、
「これからはココが頑張れば何度でもやってやるわい。」
ココちゃんの目を見つめながらそう言葉をかけた。
「うん。父、大好き。」
そういってトトさんに再び抱き着いた。
ココちゃんのその様子を見て、
トトさんを呼びに行って、よかったなと心からそう思った……




